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北海道自転車ツーリング12日目
浜小清水〜標津〜羅臼 −1年ぶりの羅臼−
2004年08月14日

12日目の走行地図

 いつも通り4時20分に起きる。フレトイ展望台を見るとちょうど日の出を迎えたばかりのようで、展望台の白い四角錐の部分だけが太陽の光を浴びていたので、すぐに展望台に行って写真を撮る。少し雲が出ていたが、きれいな写真が撮れた。展望台から戻り朝食を食べようとするが、よく考えたら昨日スーパーに行った時、夕食の事ばかり考えていたので、今日の朝食の事をまったく考えていなかった。ラーメンを自炊してもいいのだが、なぜかこのキャンプ場では自炊する気にはなれず、携行食のクッキーだけで朝食を済ませてしまう。クッキーは10日ほど前に購入し、封を開けたままずっとフロントバッグに入れていたので、完全に湿っていた。
撮影日時:2004/08/14 04:43:06 シャッター速度:1/60 絞り:F4.5 焦点距離:38mm
浜小清水前浜キャンプ場の展望台から見た日の出
右に見えるのは遠音別岳
撮影日時:2004/08/14 04:44:18 シャッター速度:1/180 絞り:F6.7 焦点距離:114mm
オホーツク海から昇る
日の出はきれいだ
撮影日時:2004/08/14 04:56:56 シャッター速度:1/45 絞り:F4.0 焦点距離:38mm
浜小清水前浜キャンプ場の全景
 チリのチャリダーも私と同じ頃に起きてきたので挨拶する。彼は炊事場でお湯を沸かし、朝食にカップラーメンを食べていた。彼は今日、網走を越えて北見の方向に行くらしいが、最終的に彼がどこに行くのかはついにわからなかった。なぜなら彼は北海道の地名が難しくて覚えられず、地名はこちらから言わないとなかなか正しい地名が出てこないのだ。まあ日本人でも北海道の地名は難しいのだから仕方がないのだろう。
 5時30分に出発しようとしたところ、昨日の東北学院大学のチャリダーの1人がトイレに起きてきたついでに見送りに来てくれた。彼らは今日、最後の打ち上げをして、明日以降は各自自由行動で旅するらしい。またどこかで出逢うかもしれない。キャンプ場を出発する時、チリのチャリダーにも挨拶しに行った。すると彼は「Good Luck!」と言って親指を立てて私の幸運を祈ってくれている。私も「Good Luck!」と言って彼と同様にするが、何って国際的なんだと思わずにはいられなかった。
 キャンプ場を出発し自転車を走らせると、すぐにスピードメーターの調子が悪い事に気付いた。どうもセンサーの取り付けネジが緩んでいるようだ。どうにか即席で修理するが、その後も何度か調子が悪くなり、その度に自転車を止める事になる。斜里までの国道244号線は海こそ見えないがフラットな直線で走りやすい道だ。天気は曇りだったが進行方向の東の空は晴れており、知床連山が美しく見える。1時間で20kmちょっと走って斜里の町に到着。国道沿いのコンビニに飛び込んで弁当を買い、店の前で食べる。そろそろデジカメの電池もなくなりかけていたのでコンビニでリチウム電池を探すが、こんな北海道の僻地にそんな電池は売っているはずはない。本当にバッテリーが残り少なくなっていたので、仕方なくパナソニックのオキシライド乾電池を購入する。私のデジカメはアルカリ電池でも使えるが、本当に非常用で十数枚しか撮れない。フラッシュを使おうものなら3〜4枚しか撮れないのだ。それに比べるとパナソニックのオキシライド乾電池はアルカリ電池を越えたという事だったので、アルカリ電池の2倍近くの値段がしたが、試しに買ってみる事にした。
撮影日時:2004/08/14 05:46:46 シャッター速度:1/125 絞り:F5.6 焦点距離:114mm
標津まで72km
羅臼はさらに40km以上先だ
撮影日時:2004/08/14 06:20:28 シャッター速度:1/1000 絞り:F8.0 焦点距離:38mm
朝早くは曇っていたが
だんだんと雲の切れ目から
日が差しはじめる
 コンビニの駐車場で、これから国道334号線を走ってウトロに行って知床峠を越えて羅臼に行くか、それとも国道244号線を走って根北峠を越えて羅臼に行くか悩む。どちらのコースを走っても明日は今日と違う道を走るので、早い話が海別岳と遠音別岳を時計まわりにまわるか反時計回りにまわるかの違いだけだ。しかし私はどうしても晴れた知床峠を見たかった。天気予報では今日は曇りのち晴れ、明日は晴れのち曇りだ。前方に見える羅臼岳を見ると山頂付近が曇っている。それに今日ウトロに行って知床峠を越えると、知床峠越えは昼頃の暑い時間帯になる。しかし今日、根北峠を越えて羅臼に行き明日知床峠を越えると、朝早い涼しい時間帯に知床峠を越える事になる。その方が走りやすそうだったので、今日は国道244号線で根北峠を越えて羅臼に行き、明日の朝から知床峠越えする事にした。ただし、知床峠越えのコースは昨年走った時には羅臼まで90kmほどしかなかったのに対し、根北峠越えのコースは羅臼までツーリングマップルによると130kmほどあり、ずいぶん遠回りになる。今日は頑張らなければならないだろう。
撮影日時:2004/08/14 07:01:23 シャッター速度:1/180 絞り:F8.0 焦点距離:107mm
斜里の町まで走ったが
標津まではまだまだ
さらに羅臼はそのもっと先だ
撮影日時:2004/08/14 07:41:03 シャッター速度:1/125 絞り:F4.7 焦点距離:114mm
道端に咲く花を見ながら
緩やかな登りを軽快に走る
 国道334号線と分岐し国道244号線を南東に走る。最初の直線区間は緩やかな登りが続く。このあたりから空が晴れて晴れ間が見えはじめた。ところが空を見ると晴れ間はわずかな部分だけで、私の周囲100mだけが晴れているような状況だった。私は何とかこの直射日光の当たる暑い領域から逃れようと頑張って自転車を走らせるが、どうも自転車のスピードと雲のスピードがシンクロしているようで、いつまでたっても日陰に入れない。仕方なくしばらく休憩して日陰に入るのを待つ事にした。しかし暑くなりはじめる9時までには峠を登りたいので、あまりゆっくりはしていられない。
 国道244号線の斜里から先の直線部分は緩やかな登りで、直線区間が終り山道に入っても傾斜はそれほど急ではなく、しかも時間が早いので太陽が低くて日陰が多く、気温も低いので走りやすい。途中の道端に大きなコンクリート製の崩れかかったアーチ橋がありびっくりする。これは旧国鉄の根北線の廃線跡で、第一幾品川橋梁と言うらしい。この橋は旧国鉄根北線の為に昭和14年に着工完成した10連アーチ橋で、全長147m、高さ20mあり、当時のコンクリート建築技術を伝える建造物として、また戦時下の過酷な労働を伝える歴史遺産として貴重なものらしい。根北線は昭和32年に斜里〜越川間が開通したが、第一幾品川橋梁までは線路が伸びる事はなく、その根北線も昭和45年に廃線となり、第一幾品川橋梁は建築以来、一度も使われる事なく廃線となったそうだ。こんな橋を間近で見ていると何となく物悲しさと言うか、時代の移り変わりを感じてしまう。
撮影日時:2004/08/14 07:44:44 シャッター速度:1/180 絞り:F6.7 焦点距離:55mm
旧国鉄の根北線の廃線跡にある第一幾品川橋梁
 この第一幾品川橋梁から少し走ると越川温泉がある。この温泉は無人の温泉で、ドラム缶を改造した料金箱に管理費200円を入れて入浴するようになっているらしい。この温泉は質素な作りの割には贅沢にも掛け流しの温泉で、地元でも人気があるそうだ。私も入りたかったが、まだまだ先を急ぐ旅だったので、そのまま通過する。
 楽な登りを続けていたが、根北峠の頂上まであと4〜5kmに迫った頃から傾斜が急になり、さらに道のまわりに木が少なくなって日陰がなくなり暑さとの戦いになる。頂上に着いたら久しぶりに思いっきり水浴びするぞと心に決めて、必死になって急坂を登り、どうにか9時前に標高490mの根北峠の頂上にたどり着く事ができた。この根北峠を登るのにずいぶん体力を消耗してしまったので、頂上で頭から水をかぶりながらゆっくりと休憩する。しかし暑いのは登っていた時だけで、休憩するとすぐに涼しくなり、逆に寒くなって水浴びした事を後悔してしまう。頂上ではライダーが何人か通り過ぎて行ったので、ここまで登ったんだと自慢するかのように手を上げて挨拶するとライダーもそれに応えてくれるからありがたい。
撮影日時:2004/08/14 08:46:51 シャッター速度:1/125 絞り:F6.7 焦点距離:55mm
根北峠の頂上で記念撮影
撮影日時:2004/08/14 09:10:40 シャッター速度:1/750 絞り:F4.7 焦点距離:114mm
根北峠から標津までは
下りだけでなく登りもある
登りはまるで空に向かって走るようだ
 根北峠からの下りは、これまた急坂の下りだった。私はてっきり根北峠から海まで30kmほど、ずっと下りばかりだろうと思っていたが、下りだったのは最初の4kmちょっとだけで、あとはアップダウンのある山道だった。もちろん標高490mの高さから海まで降りて来るのだから下りの方が多いが、それでも峠を登り切った後に再び登りがあるとうんざりするものだ。
 しかしそれも金山温泉を過ぎ山道の部分を抜けると緩やかな下りの直線になり、追い風という事もあって久しぶりにフロントギアはアウターの56Tのギアを有効に利用して35km/hの巡航速度で走り続ける。やがて森を抜け視界が広がると、そこには大平原が待っていた。見渡す限りの大平原と、どこまでも続く直線道路。これぞ北海道といった感じだ。国道244号線を東に走っていると、開陽台の標識が見えて来た。そうか、ここから20kmも南に走れば2日前に訪れた開陽台なんだ。何だか道東を西へ東へと行ったり来たりしているような気がする。だが今日は開陽台に行っている時間はないので、そのまま国道244号線を東に走り続ける。
撮影日時:2004/08/14 09:44:20 シャッター速度:1/750 絞り:F4.7 焦点距離:114mm
草原を走る自転車
バックに見えるのは羅臼岳
撮影日時:2004/08/14 09:48:44 シャッター速度:1/750 絞り:F4.7 焦点距離:114mm
大平原を海に向かって走る
 国道244号線で海まで出るのではなく、道道931号線を走って標津町をショートカットする事にした。国道244号線から道道931号線で古多糖まで走り、そこから東に走って国道335号線に出る。この道は昨年も走った道だ。ところが道道931号線に入ったあたりでツーリングマップルの掲載されている区間距離表示がおかしい事に気付いた。どうも国道244号線の根北峠から標津町までの距離が20kmほど長く表示されているようで、羅臼まで130kmあると思っていたが、実際には110km程度で済みそうだという事がわかった。2日目の時もそうだったが、ツーリングマップルの区間距離はあてにならない事を実感する。
 古多糖を過ぎ、国道335号線まで出た私はびっくりした。海の色が真っ青なのだ。緑の木々の間から見える真っ青な海、そしてその奥に見える国後島。昨年ここを走った時は雨が降っていた事もあって青いとは思わなかったが、今日は天気も晴れているし、青い空と青い海に国後島が鮮やかに輝いている。素晴らしい景色に、自転車を止めてしばらく見とれてしまうほどだった。すると前方からソロのチャリダーがやってきた。どこまで行くのかを尋ねると根室までと言う。既に10時を過ぎており、この時間から根室まで行けるのかと思ったが、昨年、私もここから20kmほど先の尾岱沼青少年旅行村キャンプ場を10時過ぎに出発し、15時前には根室キャンプ場に到着しているので、それほど無茶なスケジュールではない。おそらく彼は16時頃には根室キャンプ場に到着する事だろう。
撮影日時:2004/08/14 09:52:48 シャッター速度:1/350 絞り:F6.7 焦点距離:55mm
羅臼まであと42km
よく晴れた天気の中美しい景色を
見ながら自転車を走らせる
撮影日時:2004/08/14 11:05:39 シャッター速度:1/250 絞り:F8.0 焦点距離:75mm
看板には「返せ北方領土
前方の島は国後島」と書いてある。
 国道335号線は昨年も逆方向に走った事があり、その時には羅臼峠以外はそれほどアップダウンのない道だと思っていたが、いざ今年走ってみると傾斜は急ではないものの予想以上にアップダウンが多く、また太陽の日差しを浴びながら暑さに苦しむ。昨年、雨の中をこんなに苦しんで走ったっけと思いながらも、それでも右側には常に国後島が間近に見えているし、前方には羅臼岳が見え、さすがにツーリングマップルのお薦めルートになっているなと納得しながら、とても景色の良い中を走る事ができた。
 ただ1つ気になったのは、マイカーで来ている観光客のマナーだ。というのは景色を見ながら制限速度に満たないようなスピードでゆっくり走るドライバーが、後ろの車の迷惑も省みずに何十台も車を数珠繋ぎに引き連れながらゆっくりと走っている光景を何度も見かけた。景色を見ながらのんびり走るのはいいが、制限速度以下で走る場合は、後ろに車がついたら自分が止まってでも先に行かせるのがマナーというものだ。景色は良いが見通しの良い道を30〜40km/hで走らなければならない後続の数十台の車が気の毒に思えてならなかった。
 国道335号線を北に走ると、やがて峰浜パーキングに到着した。このパーキングは知床連山景観地となっており、知床連山が鮮やかに見える。昨年もここから写真を撮ったが、雨降りだった昨年とは景色が大きく異なっており、今年はとても美しく見えた。これほどまでに違うのだったら、わざわざ知床にまで足を延ばした甲斐があったというものだ。これだったら明後日に行くサロマ湖も昨年は雨続きで景色は良くなかったが、今年は期待できるかもしれない。
撮影日時:2004/08/14 11:04:39 シャッター速度:1/350 絞り:F5.6 焦点距離:38mm
峰浜パーキングエリアから
知床連山を撮影
今年は晴れていたので
きれいに見えた
撮影日時:2003/08/11 09:00:18 シャッター速度:1/180 絞り:F6.7 焦点距離:60mm
こちらは昨年同じ場所から
撮影した写真
晴れと雨ではこれほどまでに違う
 羅臼峠の幌萌オンコ公園を今年は素通りして坂を下ると、あとは平坦な道だ。この調子だったら12時には国設羅臼温泉野営場に着いてしまうだろう。羅臼まであと5kmのところにコンビニがあったので立ち寄る事にした。今日は暑かったので、コンビニでソフトクリームを買って店の前で食べるが、予想以上に量が多く、もう少しでお腹を壊してしまうところだった。コンビニには昨日、東北学院大学のチャリダー達に薦められたガラナエールの500mlのペットボトルが売られていたので、騙されたつもりで購入して飲むが、本当に騙された思いだった。
 コンビニを出発してしばらく走ると、やがて羅臼の町に入った。羅臼の町から見る羅臼岳はとても美しく、今日、知床峠に登っておいた方がよかったかなと、ふとそんな思いが脳裏をよぎったが、ここ10日ほどずっと晴ればかりなので、明日も晴れるだろうと明日に期待する。それにしても羅臼岳を見ると羅臼に来たなと実感してしまう。今年こそは昨年お世話になったおじさんにお礼ができると思うと、嬉しくて仕方がなかった。羅臼の町から国設羅臼温泉野営場までは、昨年も登った事があり、その時はそれほど苦しんだ覚えがなかったが、今年は急な傾斜と強烈な逆風、そして暑さの為にとても苦しむ事となった。よく考えたら昨年、羅臼の町からキャンプ場まで登った時には荷物をテントに置いて空荷の状態で登ったので苦しまなかったが、今年はフル装備の状態だからだという事がわかった。ギアを一番軽くして標高100mほど登り、13時にようやく国設羅臼温泉野営場に到着した。
撮影日時:2004/08/14 12:42:34 シャッター速度:1/250 絞り:F6.7 焦点距離:67mm
羅臼の町から見た羅臼岳
こんなにきれいに羅臼岳を見たのは初めてだ
 この国設羅臼温泉野営場はライダー、チャリダーに人気のキャンプ場で、しかもお盆休みの真っ最中だったのでテントを張るスペースがないほど込んでいるかと思ったが、まだ時間が早い事もあって思ったほどは込んでおらず、キャンプ場の下の方の空いていたスペースに自転車を止めると、長期滞在者が多くテントを張っている上の方に登って行った。ブルーのシートの張られたテントをいくつか見てまわったが、昨年お世話になったおじさんの姿はない。近くにいた長期滞在のおじさんに尋ねると「石川県から来た人なら今、鮭のバイトに行ってるから16〜17時にならないと帰って来ない」との事だった。このおじさんは私が自転車でやって来たのを見ており、チャリダーという事でとても親切にしてくれた。やはりこのあたりの長期滞在者の人はチャリダーをよく見かけており、彼らがどれだけ苦労して走っているかをよく知っているだけに、チャリダーに対しては一目置いてくれているようだ。これが家族連れの親父が話しかけても相手にされなかったかもしれない。
 私が昨年お世話になったおじさんが、その石川から来たおじさんかどうかわからなかったが、昨年のおじさんはバイクで日本海側をゆっくり北上して来たと言っていたし、他に似たような人もいなかったので、そのおじさんが帰って来るまで下で待つ事にした。この長期滞在者のおじさんと話している時、左手の甲に何か虫が止まったが、おじさんと話している最中だったので、よく見ないまま右手で払い落とそうとしたところ、左手の甲を刺されてしまった。何に刺されたのかよく見ていなかったが、おそらくアブかハチだったと思われ、手の甲が腫れてきてしまった。ただ、痛みはそれほどなかったし、塗り薬も持っていなかったのでそのまま放置する事にする。
 とりあえず自転車のところに戻りテントを張る。ところが木の下にグランドシートを広げた瞬間、木の上に止まっていたカラスが糞をして、それが見事に直撃。どうやらこの木にはカラスの巣があるようで、今後も糞の被害を受けそうだったので、グランドシートを炊事場で洗って糞を落とし、少し離れた場所にテントを張る。テントを張った直後に野生の鹿がキャンプ場まで餌を食べにきているのが目に入った。相変わらず知床の鹿は人間をそれほど恐れていなかったが、こちらに来る気配はなかったので写真撮影は断念する。
 テントを張ったら今度は温泉だ。このキャンプ場には無料の露天温泉「熊の湯」がある。この露天風呂は周囲に遮蔽物が一切なく、小川のせせらぎを聞きながら森林浴を楽しめるという素晴らしい露天風呂だ。それも無料で地元の有志が掃除などの運営をしているという。本当に頭の下がる思いだ。無料の温泉は水着を着た家族連れの遊び場となる事が多いが、ここは規則が厳しく、そんな水着を着て温泉につかるようなマナーの悪い観光客は追い出されてしまう。それが私には嬉しいというものだ。熊の湯に行くと先客が3人ほどいたが、込んでいるというほどではない。少し熱い湯に肩までゆっくりとつかり汗を流す。この熊の湯は一応、洗い場はあるが1つしかなく、おまけに狭いので石鹸が湯船に入ってしまいそうだったので、体を洗うのは断念し、つかるだけにしておく。この熊の湯では小川のせせらぎや鳥の鳴き声を聞きながら熱いお湯につかって森林浴をするのが本当の楽しみなのかもしれない。
 温泉から上がると、今度は洗濯だ。4日前につるいキャンプ場で洗濯して以来だから、もう着替えがなくなっていた。いつものようにスーパーのビニール袋に服と洗剤を入れ、炊事場でジャブジャブと洗い、よく絞って自転車に干す。もう手慣れたものだ。洗濯が終った頃、隣のテントの住人が帰ってきた。隣のテントは熟年夫婦のライダーで、奥さんが話好きな人だったので、北海道のキャンプ場や観光地、そして自転車の話をする。話しの中で、なぜバイクではなく自転車で苦労して峠に登るのかという話題になった。もちろんそれは峠に登った時の達成感を味わう為だ。例えば山の頂上までロープーウェイがあったとして、ロープーウェイで何の苦労もなく頂上まで行った時に見る景色と、ふもとから苦労して登り、やっと頂上に着いた時に見る景色とでは、同じ景色であっても感じ方はまったく違う。自転車とバイクでも峠を登る時は似たようなものだろうと、そんな話を30分ばかりしていた。家族連れは嫌いだが、キャンプ好きな熟年夫婦はチャリダーの事をよく知っているだけに好きだ。
撮影日時:2004/08/14 14:44:58 シャッター速度:1/180 絞り:F5.6 焦点距離:38mm
国設羅臼温泉野営場のキャンプ風景
洗濯後、自転車はこのように物干しになる
 16時30分頃、干していた洗濯物も乾いたので取り込み、おじさんがバイトから戻ってきていないかを見に行った。すると戻ってきてはいたが、残念な事にその人は私が昨年お世話になったおじさんではなかった。私が断念して戻ろうとすると、そのバイトから戻ってきたばかりのおじさんは先程の人から聞いたのか、私がチャリダーだという事を知っており、「まあ座れや」と言って椅子を差し出してきた。どうやらそのおじさんもチャリダーで、自転車旅行の話をしたかったらしい。私も断る理由はないので喜んでおじさんの誘いを受ける事にした。おじさんはチャリダーとしてのキャリアも長く、北海道の道や峠、観光地をよく知っていたのには驚かされた。中でも驚いたのが、野宿できる場所の情報だ。おじさんは自転車で旅をする時、必ず屋根のある場所にテントを張るというが、北海道にそうそう屋根の下にテントを張れる場所があるとは思えなかったが、おじさんは北海道のすべての町の屋根の下にテントを張れる場所を知っているかのようによく知っていた。もちろん橋の下とかもあるが、多くは公園の東屋だった。おじさんは自転車で日本一周する時などは、15時頃には走るのをやめて今夜の寝場所を探すそうで、その寝場所を探すのを繰り返すうちに、屋根の下にテントを張れる場所を見つける嗅覚と言うか直感が養われたとの事だった。私などは全然ダメだ。せいぜい稚内の北防波堤ドームの下にテントを張れる事くらいしか知らない。
 また、おじさんは自転車をタダで手に入れ、タダでパーツをグレードアップしているという。いったいどうやっているのかを尋ねると、粗大ゴミの収集所に行くと、自転車はゴロゴロと転がっているし、その中で気に入った部品があれば外して持って帰って来るそうだ。もちろんゴミだから誰も文句は言わないし、この方法でタイヤやブレーキシューなど、いくつも予備のパーツを持っていると言っていた。確かに北海道では自転車屋が少なく、自転車が壊れてしまった時には自転車屋を探すよりも、粗大ゴミの集積場から使えそうな自転車のパーツを探して来る方が早いのかもしれない。
 明日、知床峠を越えると言うと、おじさんは羅臼側から登った方が楽だと言う。ウトロ側は中程度の傾斜が延々と続き、羅臼側は急な傾斜で一気に登るからウトロ側から登る方が楽かと思っていたが、どうやら違うらしい。というのは羅臼側から登った場合、急な傾斜はこの国設羅臼温泉野営場前あたりと、もう少し先に1ヶ所あるだけで、あとはそれほど急な坂ではなく、しかも傾斜がほとんどなくなって平地になる場所もいくつかあり、そこで息抜きができるから楽だと言うのだ。確かにウトロ側から登ると一定の傾斜で登りの直線が延々と続くから景色が代わり映えせず、苦しかった覚えがあった。羅臼側から登るともっと苦しむと思っていたが、おじさんの話を聞くとちょっと信じられなかったものの、それでも羅臼側からの方が楽だと聞くと嬉しかった。
 おじさんから聞いた話の中で一番有益だったのは、クッチャロ湖と国道238号線の間に自転車道があるという情報だった。私も昨年、クッチャロ湖の横を走った時、国道238号線からはクッチャロ湖を見る事ができず、残念に思ったものだったが、この自転車道は自然に溢れた素晴らしい自転車道だそうで、私はぜひとも走ってみたいと思わずにはいられなかった。後日、地図で調べると、確かにおじさんの言っていた自転車道は存在し、ポロ湖の1kmほど南から浜頓別までの20kmほど、北オホーツクサイクリングロードという名の自転車道が国道238号に併走していた。おじさんとは1時間近く話をし、そろそろ暗くなって来たので私も食事の準備の為、おじさんと別れて自分のテントに戻る。結局、昨年お世話になったおじさんに出逢う事はできなかったが、あらたにチャリダーのおじさんと楽しい話ができた事で私の心は晴れやかだった。
 自分のテントまで戻ると向かいにソロのライダーがテントを張っていたのでさっそく話しかける。彼は1450ccのでっかいハーレーのライダーで、バイクが大きいだけに荷物も多かった。彼も自炊だったので夕食を共にする。私はカレーと味噌汁だけの粗末な夕食だったが、彼は一人旅にしては多すぎるほどの食材を持ってきており、酒やつまみをご馳走になる。
 彼はハーレーのドッドッドッドッというエンジン音にひかれて新車のハーレーを240万円で買ったそうだが、新型のハーレーは音が軽やかに変わっており、古いハーレーの方が良かったと言っていた。1450ccのエンジンだと転けたら1人では起こせないでしょと言うと2日前に2回も転倒したそうだ。かなり大きなジャリの転がる河原の道を走っていてジャリに乗り上げて転倒してしまい、1人では起こせなくなったとか。ハーレーにはそういう時の為にロードサービスがあるそうで、さっそくロードサービスに電話したが、広い北海道ではロードサービスが来るまでに2時間近くかかるとの事。そのうちに観光客の車がやって来たので、運転手に頼んで起こしてもらったが、その道から引き返す途中に再び転けてしまい、再びロードサービスを待っていると、先程助けてもらった車が引き返してきたので再び助けてもらったそうだ。しかし2回も転けた事でバイクには多数の傷がついてしまい、せっかく今の新型のハーレーを売って旧型のハーレーを買おうとしていたのに、これでは高くで売れないと言って嘆いていた。
 彼は新宿の駅の近くの月13万円のワンルームに住み、他にも月5万円の駐車場と、さらにハーレーの駐車場も月2万円すると言う。普通のサラリーマンが20万円も家賃や駐車場代を払えるはずがないと思い職業を聞いてみると、法に反するような職業ではないものの、あまり公にできないような職業の経営者だった。と言うより、私にとってそんな職業がある事自体、知らなかった。それでも法人税を払いたくないから1年毎に会社名を変えて税金を逃れ、同業社といざこざが起きるとヤクザに仲裁を頼んだりするような危ない仕事だった。キャンプ場では普段の生活では絶対に出逢えないような人種の人々と話ができるが、今日のライダーの話はこれまでの中で私の興味をそそる最大のものだった。
 彼は夕食を共にして3時間ほど話をし、21時過ぎにお開きにする。ずいぶんお酒をご馳走になり、自分のテントに戻る時には真っ直ぐに歩けないほどになっていた。通路を挟んで向かいのテントではどこかのグループであろうか、10人くらいの大人が大騒ぎしていたが、酒の勢いの方が強く、旅の日記を簡単に書くと22時には就寝する。シュラフに潜って横になった瞬間、眠りに陥った。

走行データ
走行距離   107.4km
走行時間   5時間29分
ペダリング数   11600回
平均時速   19.0km/h
最大速度   59.3km/h
平均ペダリング数   43rpm
積算上昇高度   約1000m
総走行距離   1170.9km
天候   晴れ
最高気温/最低気温   22℃/18℃

食事
朝食   弁当(コンビニ)
昼食   おにぎり(コンビニ)
夕食   カレー(自炊)

出費
朝(コンビニ)   弁当、おにぎり、パン、牛乳、クッキー、電池   1419円
昼(コンビニ)   アイス、ジュース、ポカリ   340円
合計   1759円

キャンプ場
名称   国設羅臼温泉野営場
場所   羅臼の町から知床峠方面に約3km
  北緯44度1分59秒、東経145度9分18秒
費用   無料
設備   トイレ、炊事場、温泉
風呂   隣に無料の温泉「熊の湯」あり
ゴミ   ゴミ箱あり
行きやすさ   国道沿いだが標識は小さい
乗り入れ   テントまで車、バイクの乗り入れ不可
特徴   ライダー、チャリダーのメッカ
  無料の露天風呂があり、汗を流せる
  シーズンはライダーやチャリダーが大集結し
  現地で知り合った人達の楽しい宴が繰り広げられる
  早目に行かないとテントを張る場所がなくなってしまう
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