昨夜は11時に寝た。しかし寝たことは寝たが変な夢にうなされて熟睡できなかった。何度も目覚めたが夢の中で時計を見る気力もなかったのである程度は寝ていたのだろう。目覚めると4時だった。二度寝しようと思ったが寝られなかったので4時20分に起きることにした。 外は晴れていて朝日が出そうだったので写真を撮っておく。テントは露付きで完全に濡れていた。テントを張った場所がトイレや炊事場のある場所からずいぶん離れていたので自転車に乗ってトイレまで行く。こういう時に自転車は便利だ。朝食の支度をしながら撤収の準備をする。今日の朝食は昨日多めに炊いて残しておいたご飯でおじやを作る。
撤収はのんびりしながらでも5時30分には終わったが、濡れたテントで撤収したくなかったのでテントだけは張ったままにしておいた。太陽が出ていたので何とか乾かないものかとしばらく待っていたが、乾きそうもなかったのでテントも濡れたまま撤収した。出発間際にトイレとボトルへの給水に行くとチャリダーが二人このキャンプ場に泊まっているのを見かけた。そのうちの一人がテントの外で撤収準備を進めていたので挨拶する。 この付近の国道229号線、通称ソーランラインにおいて瀬棚のせたな青少年旅行村キャンプ場から泊村の盃野営場までの130kmの間にはこの浜中海岸野営場だけがまともなキャンプ場として存在する。だから海岸線沿いに北海道を一周するチャリダーの多くはこのキャンプ場を利用するのだろう。もちろん島牧付近の海岸線沿いには江ノ島海岸キャンプ場や大平海岸キャンプ場、本目海岸キャンプ場などのキャンプ場が存在するが、これらのキャンプ場はシーズン中にはテントを張るスペースがないほど混雑するのと自転車の持ち込みができないのでチャリダーにはお勧めしない。 6時20分に浜中海岸野営場を出発すると昨日と同様に3km迂回して国道229号線に戻る。近くのコンビニでいつものバナナと飲むヨーグルトを買おうとしたが、あいにくこの店には4本1房セットのバナナがあるだけで1本バラ売りのバナナが置いていなかった。店員に聞いても1本バラ売りのバナナは売り切れたのではなく元々扱っていないと言う。店によって取り扱う品目が違うようだ。仕方なくパンと牛乳を買って店の前で食べる。
途中全長125mの種前トンネルを越えるが、このあたりの道は2005年に走った時、路肩が荒れていて走りにくかった。それは昨年走ったときも同様に感じたが今年も同じだった。どうもアスファルトが荒れていて走りにくい。きっとトラックやダンプが多くて道路を補修してもすぐに荒れてしまうのだろう。今日は晴れているが国道の東側に山があるので道路上は山陰の日陰となっている。おかげで暑くなくていいのだが写真映りは悪そうだ。 日本海沿いの道を走り続けて全長481mの能津登トンネルを越え尻別川にかかる磯谷橋を渡れば道の駅シェルプラザ・港だ。キャンプ場を出発してからここまで21km走ってきたのでパンを食べて7時40分から少し休憩する。この道の駅の隣には貝の館があるが、ここは9時からしか開館しないし5年前にも訪れたことがあったのでパスする。
7時50分に道の駅を出発し強い横風の中を走る。今回の北海道自転車ツーリングから自転車のホイールをディープリムに変えたことで横風には弱くなった。普段の通勤時でさえ横風を受けると従来のホイール以上によろめくのだ。こんなホイールでこの台風の接近する風の中を走れるのだろうかと心配したが、いざ走ってみるとツーリング仕様の自転車ではそれほど横風に弱くなっている印象は受けなかった。おそらくフロントバッグの重さが直進安定性に寄与しているのだろう。 道の駅を過ぎて日本海沿いの国道229号線を走るといよいよトンネルの連続が始まる。全長640mの磯谷トンネルに続いて全長2754mの刀掛トンネル、全長638mのカスぺトンネル、全長1048mの弁慶トンネル、全長3570mの雷電トンネル、全長137mの敷島内トンネル、全長273mの鳴神トンネルと大小のトンネルが連続する。岩内までだけで10km近くのトンネルがあり、これだけでもヘッドライトの電池が消耗してしまいそうだ。
さらに弁慶トンネルと雷電トンネルの間にパーキングがあったので8時20分から5分だけパンを食べながら休憩する。それからも長いトンネルを走り続けようやくトンネル群を抜けると前方に北海道電力泊原子力発電所が見えてきたので場所を見つけて自転車と共に撮影する。この泊原発は福島第一原発の影響で2012年5月から停止したまま再稼働の目処が立っていない。 岩内の町の手前でジョーシンのトラックを見かけた。ジョーシンと言えば関西の家電販売店だ。なぜこんな辺鄙な場所にジョーシンのトラックが走っているのだろうと不思議に思っていたが、帰宅後に調べてみると北海道にもジョーシンが存在し、北広島市と岩内町に店舗があったのだ。その岩内にあるジョーシンのトラックを見かけたのだろう。ジョーシンと言えば阪神タイガースを応援することで知られているが、岩内のジョーシンも北海道ファイターズではなく阪神タイガースを応援しているのだろうか?
岩内の町の出口にセイコーマートがあったので少し早いが昼食がてらに立ち寄った。バナナと飲むゼリーを購入し店の前で食べた。今日はトーマル峠を越える予定だが、その峠までにはまだコンビニがあるので、峠を越えるための食材はそこで買うことにしよう。ただ立ち寄ったのがセイコーマートだったので凍らせたペットボトルがない。今日も暑くなりそうだったのでぜひとも凍らせたペットボトルがほしい。早くセイコーマートでも凍らせたペットボトルを取り扱ってもらえないだろうか。
ローソンから少し走ると原子力PRセンターとまりん館が見えてきた。ここは原子力発電に対する理解を深め、原子力発電に親しみをもってもうらうことを目的に建設された施設だ。実物大の原子炉容器や蒸気発生器の内部の模型や中央制御室もあって大人でも楽しめるが、何より魅力的なのは温水プールが無料で利用できることにある。しかしまだまだ先を急ぐ旅なので見学はパスし写真だけ撮っておく。 とまりん館を過ぎると全長1443mのほりかっぷトンネルがある。このトンネルの出口に北海道電力泊原子力発電所の入口があるが、残念な事に施設そのものを見ることはできない。それどころか原発は稼働もしていないのに出入口は警戒厳重で警備員と幾重もの鉄柵があった。周りを山で囲まれたこの場所はまるでナバロンの要塞のようだ。 泊原発を過ぎるとすぐに全長107mの茶津トンネルがある。このトンネルを抜けるとアップダウンが始まる。泊村の国道229号線は海岸線沿いを走っているのだがアップダウンが多く茶津トンネルを抜けてからも20mの丘と30mの丘が続き、その後も10m程度の丘がいくつも待ち構えている。
そんなアップダウンの途中にセイコーマートがあったので立ち寄る。今日はトーマル峠を越えて余市までコンビニはなさそうだったので峠を越える分の食料を買い込んでおく。バナナは4本1房のは売っていたが1本バラ売りのは売っていなかった。私はバナナは断念しようかと考えたがどうせ4本買ってもすぐに食べ尽くしてしまうだろうと考え、4本1房のバナナを購入した。バナナは1本だけならそれほど感じないが、4本を手にするとかなりの重さを感じる。こんな重量物を積んで峠を越えたくないので早めに食べきることにして、そのうちの1本だけを店の前で食べた。 今日は見えるコンビニにすべて立ち寄っているような気がする。買い食いばかりしているとなかなか前に進まない。買い食いするようになった原因の1つは支払いを現金ではなくEdy払いにしたことだろう。昨年もそうだったがANAのマイルを1:1で無制限にEdyに交換できるキャンペーンを実施していたのでその時に3万マイルを3万円分のEdyに交換し、北海道自転車ツーリングで日々のコンビニでの買い物に有効に活用していた。これでマイルは使い切ったはずだったが、この1年間のフライトとカードの使用で再び3万マイル貯まってしまったので、今年も実施していた交換レート優遇キャンペーンで3万円分Edyに交換して北海道自転車ツーリングに乗り込んだ。おかげで今年もコンビニで小銭を気にしなくてよい小金持ち状態だ。私の場合ANAのクレジットカードを使っているのとスターアライアンスの飛行機に乗ることが多いので、どうやら年間で30000マイル程度貯まるようだ。しかしこれのおかげでコンビニを見つけるとすぐに買い食いするようになってしまった。 国道229号線を走るとやがてアップダウンはなくなり兜トンネルの手前に兜千畳敷岩があった。ここはホッケやカレイの有名な釣り場所で休日ともなれば多くの釣客で賑わう場所だが、さすがに今日のような台風が迫っているような状況では釣客は一人もいなかった。
この弁天島の山側には盃温泉街がありその奥に無料の盃野営場がある。昨夜の段階ではこのキャンプ場で台風をやり過ごすか、もしくは余市まで行くか悩んでいた。しかし今日はここまで60kmしか走っておらず時間もまだ11時過ぎでここにテントを張ったら時間を持て余してしまう。それに風は少し強いが天候は薄日の陽が差しており差し迫った状況にないことから先に進むことにした。 弁天島を過ぎると全長1142mの茂岩トンネルがある。このトンネルは緩やかな登りだがこのトンネルには広い歩道があったので歩道をのんびりと走る。私は弁天島で休憩するつもりだったが休憩を忘れていたので、このトンネルの出口の歩道で休憩し先程コンビニで買ったバナナの2本目を食べた。後で調べたら2005年にここを走った時にもこのトンネルの出口で休憩していた。
この入江の上にかけられた橋の上からは旧道がよく見えた。旧道は狭くて曲がりくねっていてそれでいてアップダウンが激しい。9年前にこの旧道をアップダウンに苦しみながら走っていたのだと思うと感慨深くなってしまった。今は旧道は閉鎖され道も荒れ放題となっているが、機会があれば走ってみたいものだ。 尾根内大橋を過ぎると急坂を下り11時40分に神恵内の町に入る。ここで国道229号線を外れてトーマル峠を越えるべく道道998号線に入る。全長283メートルの神恵内トンネルを抜けるとしばらくは平坦な道が続く。しかし2km程走ってリフレッシュプラザ・温泉998の付近から道道998号線は緩やかな登り勾配となっていく。温泉から1kmほど走ったところにパーキングがあった。ここはまだ標高50m程度とほとんど登っていないが、この先休憩できる場所がなさそうだったのでここで3本目のバナナを食べて休憩しておく。
12時5分にパーキングを出発し道道998号線を登り始める。このトーマル峠は不思議な峠でトーマル川の谷間に沿って標高を上げていくのだが、その勾配は一般的な幹線道路のように一定ではなく勾配がきつかったり緩やかだったりと変化に富んでいた。そして全長455mの清川トンネルを抜ける。ここまでで標高100mくらいでまだ勾配もそれほどきつくはない。 まだ緩やかな登りを走っていた時、道端に車が止まっていた。中に人が乗っていたので何だろうと思いつつ追い抜いたが、しばらくするとその車が私を追い抜き、追い抜いた先でUターンするとすれ違いざまに初老の夫婦連れが私に「この先は峠できついよ」と言ってきた。私は「知ってますよ、だから登りに来たんです」と返すと不思議そうな顔をして「頑張ってね」と言って走り去っていった。きっとあの人達には荷物満載の自転車でこんな険しい峠を越えようという私の行動が理解できなかったに違いない。 清川トンネルを抜けると一気に傾斜は急になり、それ以降は峠の頂上まで平均勾配6%が続く。このトーマル峠には他にも大きな特徴がある。それはシェルターの多さだ。八番の沢シェルターに始まり大曲シェルター、千寿シェルター、熊追シェルター、大雪崩覆道、熊見覆道、乙部沢シェルター、当丸覆道、両古美シェルター、スノーシェルターと当丸峠の頂上までに何と10個ものシェルターを抜けなければならないのだ。シェルターはトンネルほど暗くないのでそれほど怖くはないが、それでも路肩が狭いので嬉しいものではない。 もともとこの道道998号線は国道229号線の一部であったが1986年に国道229号線は積丹町を経由する現在のルートとなり、このトーマル峠は国道から道道に格下げとなった。しかしこの道道998号線は北海道電力泊原子力発電所で事故が発生した場合の避難道路という役割があり、冬期でも通行できるよう多数のシェルターが設けられたそうだ。 私は峠を登る場合、だいたい標高200m毎に休憩していたが、足と言うかお尻の調子もあまり良くなかったので、このトーマル峠では標高100m毎に休憩することにした。最初の八番の沢シェルターの入口付近で標高200mとなったので12時30分から10分だけ休憩しパンを食べた。このあたりからローソンで買った凍らせたペットボトルがちょうどいい飲み頃になっていたのでおいしく頂く。単にボトルの水だけだとついついゴクゴクと飲んであっという間に水を飲みきってしまうが、凍らせたペットボトルだと水を節約できるのが嬉しい。 休憩を終えて八番の沢シェルターに入るが、このシェルターの内部は登り勾配が10%ほどあり、ギアを一番下まで下げなければならないほど急だった。しかもシェルターの中なので風はなく汗だくになってしまった。トーマル峠は勾配に変化があるとは言え10%はさすがにきつかった。 とにかく標高100m毎に休憩だと自分に言い聞かせて頑張って登る。20分ほど登れば2番目の大曲シェルターと3番目の千寿シェルターの中間付近で標高300m地点だ。ここではさっきパンを食べたばかりだったのでチョコレートだけ食べてすぐに出発する。
そこからさらに20分登って7番目の乙部沢シェルターの出口で標高500mとなり13時50分から10分休憩しパンを食べる。どうやら私の今日のペースだと標高100mを20分登って10分休憩というインターバルが良さそうだ。いつもだったら標高200mを40分登って10分休憩というパターンだが、今日に限っては時間的余裕もあるし100m単位の方がいい。 さらに20分登ると10番目のスノーシェルターの中に脇道がある。これはトーマル峠展望台に続く道だ。とりあえず私は展望台目指して脇道に入っていった。この脇道が先程の八番の沢シェルター同様に勾配がかなりきつかったが、勾配のきつかった区間は100mほどだけだったので何とかパワーで乗り切った。 距離にして200mほど登ると14時10分に当丸峠展望台に到着した。ここはシェルターの上に広がる展望台で階段を降りればシェルターの上に降りるようにできていた。この周囲は神恵内2000年の森公園があり両古美山と当丸山の樹海や断崖を見渡すことができた。私は苦労してトーマル峠を越えてきた自分へのご褒美としてこの眺めをしばらく楽しみながら休憩した。
心配した足の違和感も峠に入るとそれほど気にならなくなり、痛むことなく頂上まで登ることができた。また幸いなことに今日はここまでまだ雨は降っておらず、どうにかレインスーツを着ることなくトーマル峠を制覇することができた。これはありがたかった。 14時20分に当丸峠展望台を出発しシェルターに戻って少し登ると標高609mのトーマル峠頂上だ。頂上といってもスノーシェルターの中なので周囲は何も見えない。ここからは緩やかな下りが続く。峠の頂上から続くスノーシェルターは一度も外に出ることのないまま全長215mの六志内トンネルに入り、さらに外に出ることのないままトーマル峠覆道に入る。このトーマル峠の頂上付近はシェルターとトンネル含めて1.8kmも連続しておりあまり景色を楽しめない。 このあたりのシェルターはペダルを回したりブレーキをかけたりする必要のない程度の緩やかな下りが続く。私はこの下りを下りながら1つ気付いた。それは今回私の自転車はハブをXTRからデュラエースに変更したが、明らかにラチェット音が大きくなった。それがシェルターという閉鎖された空間でより一層大きく響いた。このラチェット音というのも自転車を走らせる上で雰囲気を高めるものだと思う。XTRはラチェット音が小さくて少し寂しかったがデュラエースはそれなりに音がするのがいい。
この展望覆道を抜けるともうシェルターやトンネルはなくなるが下り勾配は一気に急になり平均勾配6%の急坂が道道569号線との交差点まで距離にして約9km、標高差で500mほど続く。ここまで急カーブの連続するワインディングロードが続きブレーキをかけながら時速30km以上スピードを上げないようにブレーキをかけつつ下る。 下りでブレーキをかけ続けるとブレーキシューがすり減ってしまうが、今日は曇り後雨の天気予報にもかかわらずここまでまだ雨が降っていなかったのでブレーキシューが減らなくて助かった。下りでスピードを上げると飛躍的に事故率が増えてしまうので特に峠の下りでのスピードの上げ過ぎは厳禁だ。 道道569号線との交差点から道道998号線は古平川に沿って緩やかな下りを軽快に6km程走り15時10分に古平の町に到着した。この頃から後輪のタイヤがおかしく感じた。どうも後輪のタイヤが横滑りしているようだ。後輪がパンクしているのだろうか? 出発からここまで98km走った。距離的には短いが今日は標高609mのトーマル峠を越えてきたので今日はこのあたりで終わりとしたい。そこでこの近辺のキャンプ場を探してみた。まずここから2kmほどの距離に古平家族旅行村がある。しかしここは区画が分けられたファミリー向けのキャンプ場でライダーやチャリダーが行くキャンプ場ではなく、かつ自転車でも1泊1500円と北海道にしては高い。また台風を考えた時、キャンプ場にケビンはあるが1泊1万円とビジネスホテルより高いので論外だろう。 次にこの古平家族旅行村の下の歌棄海水浴場にも無料のキャンプ場があるので行ってみることにした。国道229号線沿いにある歌棄海水浴場は砂浜のキャンプ場でかつ国道沿いなのでおそらく車の音がうるさいだろう。キャンプ場に行くと驚いたことにこの台風が接近する中、海水浴場には砂浜にテントを張ってキャンプしている人が多数いた。これを見た時、私は自分が心配しすぎているだけでキャンプしても問題ないのではないかという気がしてきた。しかしこの歌棄海水浴場ではキャンプしたいとは思わない。 そこで国道229号線を東に15km走った所にある余市のモイレ浜中海水浴場に予定通り行くことにした。ここは2007年にも泊まったことのある無料のキャンプ場だ。ここも海水浴場なのでサイトは砂浜であまり好きにはなれないがまったく話にならないわけではない。私は明日以降のことも考えてモイレ浜中海水浴場に行くことにした。もしここがダメなら余市の道の駅「スペース・アップルよいち」に行って泊まることができないか様子を見ることにしよう。 全長169mの古平トンネルを抜けるとすぐに全長2051mの沖歌トンネルだ。このトンネルは内部が明るくて、かつ歩道が広かったことから歩道を走る。このトンネルを走っているとき自転車のライトが暗いことに気付いた。どうやら今日一日で20kmを越えるトンネルを走ってきたので電池が切れたようだ。幸いにもこのトンネルは照明があり明るかったのでライトを消灯して走る事にした。 沖歌トンネルを抜けると道路防災記念広場がある。この先にある豊浜トンネルでは1996年に20名が亡くなった大規模な崩落事故があり、この道路防災記念広場は豊浜トンネル崩落事故による慰霊碑を祭る為に作られた場所だ。ここからはセタカムイ岩が見えたことから立ち寄って自転車と共にセタカムイ岩を撮影する。この公園にはパーキングやトイレがありここでキャンプする気になればできるのだが、まだ時間も早いことから先を急ぐ。 セタカムイ岩には伝説があり、昔ラルマキという村の若い猟師が、一匹の犬を飼っていた。猟師は、犬を可愛がり犬も主人によくなついていた。ある時、海が久しぶりになぎになり、漁師は仲間と共に沖へ漁に出た。犬はいつものように海辺で主人の帰りを待っていた。ところが朝は穏やかであった海が何時のまにか波が高くなり、日暮れとともに暴風雨となってしまった。村人は海辺でかがり火を焚いて無事を祈った。やがて難を逃れた漁師が浜に帰って来たが、犬の主人はついに帰って来なかった。暴風雨は何日もつづいたが、犬は海辺で待っていた。そしてある夜、悲しげな犬の遠吠えが何時までも聞こえていたと言う。翌朝、暴風雨は止んだが、海辺に犬の姿は無く岬に犬の遠吠えした形の岩が忽然とそそり立っていた。人々はその岩を「セタカムイ」(犬の神様)と呼ぶようになった。
豊浜トンネルを抜けると今度は全長1321mの滝の澗トンネルが続く。この滝の澗トンネルを抜けたところからローソク岩が見えたのでちょっと立ち寄って写真撮影する。続いて全長910mのワッカケトンネルだ。かつて2005年にここを走った時にはワッカケトンネルは大型車両がすれ違いできないほど狭くて怖い思いをしていたが、2009年に新しいトンネルを内陸側に掘り直し広いトンネルに生まれ変わった。 このワッカケトンネルを抜けると旧道の脇道に立ち寄ってみた。ここには恵比寿岩・大黒岩があるのだ。私は海沿いの道に自転車を乗り付けて恵比寿岩と大黒岩をバックに自転車の写真を撮ろうとしたが観光客の車が路駐していて撮影できそうになかった。私はその観光客の車の横に自転車を横付けして車越しに撮影しようとしたら慌てて車をどけてくれた。この恵比寿岩・大黒岩はその姿が七福神の恵比寿様と大黒様に似ている事からその名が付いた。
出足平峠の頂上には全長372mの梅川トンネルがある。ここも2005年に走った時にはトンネルが狭くて怖い思いをしていたが、このトンネルも2012年に新しいトンネルが掘られて走りやすくなった。それでも車の流れが途切れるのを待ってトンネルに突入した。 梅川トンネルを抜けると急な下りが続き、3km程走れば余市の町だ。余市の町ではどこかでテントを張れる場所がないかをキョロキョロしながら走り続けた。するとモイレ浜中海水浴場のすぐ手前にコンビニができていた。2007年にここに泊まった時にはこんなコンビニなかったのにと思いながらも先にキャンプ場の様子を見に行くことにした。 すると驚いたことにキャンプ場入口にライダーハウス岡本というライダーハウスがあった。しかもその入口にはチャリダーの自転車が2台止まっていた。ありがたい、これで台風をやり過ごす選択肢が増えた。モイレ浜中海水浴場でテント泊か道の駅の軒先で野宿かライダーハウスか。 17時10分にモイレ浜中海水浴場に到着。キャンプ場には家族連れのテントが10近く張ってありどうやらキャンプできそうな雰囲気だ。私はこのキャンプ場でテントを張るとすればどこがいいだろうと自転車を止めて歩いて確かめてみた。さすがに今夜は台風が来襲するのでテントは少なく、広いキャンプ場は好きな場所にテントが張り放題で悩む必要はなさそうだ。 モイレ浜中海水浴場の偵察を済ませて次に道の駅の偵察に行くことにした。ところが自転車を走らせ初めてすぐに後輪がパンクしていることに気付いた。古平に着いた頃から後輪の空気が抜けている気がしていたがやはりパンクだったようだ。これから台風が来襲するというのについていない。もう道の駅の偵察は断念し、このモイレ浜中海水浴場にテントを張ってパンク修理することにした。その前にすぐ近くのコンビニに行きヨーグルトだけ購入する。 できるだけ物陰の風の影響を受けにくそうな場所を選んでテントを設営するが、所詮吹きさらしの海水浴場では大差ないだろう。地面が砂浜なのでペグの刺さりが悪く抜けそうになるのが困った。17時40分にテントの設営が完了すると同時に雨が降り始めた。これからパンク修理をしなければならないのについていない。でも今日の天気予報では曇り後雨と言っていたのにここまで雨が降らなかっただけでもよしとすべきだろう。 17時40分から今回の北海道自転車ツーリングでは初めてレインスーツを着てパンク修理を始めた。後輪がパンクしていたのでまずはリアキャリアからサイドバッグを外し後輪も外す。その外した後輪からタイヤを外してチューブを引き出す。そしてチューブに空気を入れて空気の漏れる音がする場所を探すがパンクしている場所がなかなかわからない。そこでチューブを炊事場に持ち込んで水道の水を流しながら空気の漏れている場所を探した。これもずいぶん時間がかかったがどうにかパンクしている場所を見つけ出すことができた。 パンクしている場所がわかれば後はその場所をヤスリでやすってパッチを貼り付けるだけだ。忘れてはいけないのがチューブがパンクしている場所のタイヤ側をチェックしておくこと。そうでないとせっかくパンク修理してもすぐにまたパンクしてしまう。しかしタイヤ側には何も刺さっていなかった。 パンク修理している最中に突然二人組のチャリダーに声をかけられた。どうやら彼らは隣のライダーハウス岡本に泊まっているチャリダーのようで、さすがにこんな台風の日にキャンプ場でテントを張っている私に無謀だと思ったのか「キャンプ場のすぐ隣にライダーハウスがありますよ」と私に声をかけてくれた。私もライダーハウスの存在には気付いていたがパンクしたことで気が動転してこの砂浜にテントを張ってしまった。しかし今さらテントを撤収してライダーハウスに逃げ込む気にもならなかったので彼らの誘いを断った。すると彼らはパンク修理している私の姿を見て「何か手伝えることはありますか」と聞いてくれたが、パンク修理くらいは一人でできるのでこれも大丈夫ですと断ってしまった。しかし彼らのこうした親切はとても嬉しく、台風来襲直前のパンク修理で気がせいていた私の心の一服の清涼剤となった。 私は彼らに明日はどうするのかを聞いてみた。すると彼らは明日以降北に向かって稚内まで行くという。でも明日天気が荒れるようならもう一泊するかもしれないと言っていた。私ものんびりしたかったが、今回の北海道自転車ツーリングは予備日なしの強行軍だったのでそれも難しいだろう。 彼らが去って行った後、私もパンク修理を済ませタイヤとサイドバッグを取り付けて1時間で作業完了した。後で気付いたのだがこのモイレ浜中海水浴場ではテントの写真もパンク修理中の写真も取り忘れていた。台風来襲直前の雨の中のパンク修理だったこともあり焦りから写真撮影どころではなかったのだ。 これからどうしようかと考えた。このままテントに入って食事の準備をしてもいいのだが、今日は雨が降っていて自炊したくなかったのと温泉で汗を流し休憩室で台風情報を入手したかったので18時40分から温泉に行くことにした。 温泉はキャンプ場から500mほど離れたところにある宇宙の湯 余市川温泉に自転車で行くことにした。雨が降っていたのでこの旅初めてのレインスーツを着ての走行だ。この温泉は日本人初の宇宙飛行士である毛利衛氏の生まれた実家でもあり、それゆえに温泉の屋根には巨大なスペースシャトルが載っているのだ。この温泉は観光地の温泉施設と言うよりは地元の銭湯に近く420円と安価な割にはシャンプーとボディーソープまでついている。 この温泉は露天風呂があるとされている。しかし実際に行ってみると露天風呂と言っても壁に囲まれた小さなスペースで、おまけに露天風呂と言いながら屋根まで付いているので露天風呂といった感じはしない。その代わりに面白いのはこの内湯の湯船が一般的な温泉の湯船と違って異常に深いので、知らずに入ると溺れそうになる。少なくとも湯船の底にお尻を付けると頭のてっぺんまでお湯に沈んでいることだろう。
何を食べようか悩んだ末、生姜焼き定食を食べることにした。しかし自動販売機で食券を買おうにも生姜焼き定食のボタンがなくどうすればいいのかわからない。店員に確認したところ「季節の定食」を押してくれとのことだったのでその通りにしたが、これではわからないぞ。 注文してから料理が出てくるまでに20分ほど待たされたがその間ガラナがなかったのでCCレモンを飲みながらポメラで旅の日記を書き続けた。19時30分には料理も出てきて生姜焼き定食をおいしく頂く。この休憩室には先程声をかけてきたチャリダーらしき人がいた。声をかけようかと思ったが二人組のはずが一人しかいなかったので間違いだろうと思って声はかけなかった。この休憩室のテレビで台風情報を入手しようと考えていたが、あいにくテレビのリモコンが電池切れなのかチャンネルを変えることができず結局台風情報を見ることはできなかった。 20時に温泉を出る。外は雨が降っていたが風はそれほど強くなかった。テントに戻るとちょっとびっくりした。私がこの砂浜にテントを張った時、10張り近くのテントがあった。しかし今見るとその数が明らかに減っていた。さすがに台風が接近する中キャンプするのが怖くなって逃げ出したのだろうか。ざっと見ると広い砂浜に自分も含めて5つくらいしかテントは見当たらなかった。 テントが雨風に対して問題ないか再度確認した後、レインスーツを脱いでテントに潜り込む。さあこれからここで台風を乗り切るのだ。テントに入るとすぐにウイスキーのCCレモン割りを作って飲んだ。しばらくラジオの台風情報を聞きつつ旅の日記を書いていたが次第に雨と風が激しくなってきた。私はこんな雨風の中で自炊しなくて本当によかったと思ってしまった。 ラジオの天気予報では台風11号は今日6時に高知県安芸市付近に上陸しそのまま四国を北上して瀬戸内海を抜け、10時に兵庫県赤穂市付近に再上陸し日本海に抜け、21時現在能登半島の北170kmの海上を時速50kmで北北東に進んでおり、中心気圧975ヘクトパスカル、中心付近の最大風速30m/s、最大瞬間風速40m/s、中心から半径110キロ以内が風速25m/s以上の暴風域だそうだ。さらにここ余市には大雨・波浪警報と洪水・強風・雷注意報が出ていた。あまりにも警報や注意報が多くてラジオで読み上げられても覚えきれないほどだった。 そして明日の天気予報は暴風雨で夕方には曇りになるとのことだった。明日は峠もなく江別か南幌のキャンプ場まで100km弱を走るだけなので朝早いうちに雨風が激しければ出発を遅らせても問題ないが、それでも10時頃までには出発したい。今日の積算上昇高度は800mほどと昨日ほどは登らなかったが、今日はトンネルばかり23個、総延長21.6kmも走った。おかげでライトの電池が切れてしまった。 21時を過ぎると雨と風はますます激しさを増してきた。もう暴風雨と言っても過言ではない状態だ。風は東北東から吹いておりその方向には風を遮る物がなかったことから突風が吹く度にテントは揺さぶられた。こんな嵐の日は寝るに限ると考え、もう一杯だけウイスキーのCCレモン割りを作って一気に飲み、旅の日記も書かずにラジオを付けたまま寝ることにした。目が覚めたら嵐が止んでいて台風一過の晴れ間が見えてくれたらどんなに嬉しいことだろうか。
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