夜中の2時頃、雨の音で目覚めた。入口のフライシートを大きく開けていたので、雨が入らないようにこれをしっかりと閉めて、再び雨音の中眠る。次に目覚めたのは朝の4時だった。しかし相変わらず雨は降り続いている。これでは起きてもテントの撤収ができそうになかったので、雨が止むまで寝る事にした。しかし5時には完全に目が覚めてしまった。雨はずっと本降りが続いている。あてにならない天気予報によると、8時頃まで止みそうにないようだ。仕方がないのでテントの中でメールを書いたり、旅の日記を書いたりして時間をつぶす。 6時頃までテントの中でダラダラとしていたが、やる事もなくなり、雨も止みそうになかったので、6時から再び寝る事にした。7時に目覚めると雨が少し小降りになっていたので、ようやく起きだす事にした。昨夜の計画では雨が降ったら始発の7時のバスでカムイワッカ湯の滝に行こうなんって考えていたが、よく考えたら現地が雨だと、きっと行動する気にならないだろう。テントを出ると昨日のランドナーに乗ったおじさんは既に出発したようで、テントは跡形もなく消えていた。私も真面目に走る時は雨が降っていても6時には出発するが、今日はあまり走る気にならないし、それよりもカムイワッカ湯の滝に行きたかったので、ついついのんびりしてしまったようだ。
それからも小雨が降ったり止んだりを繰り返し、その中を縫ってテントを撤収したので、撤収作業は遅々として進まなかった。雨が止んだ時を見計らってキャンプ場横の夕陽台に景色を見に行ったが、あいにくの雨雲できれいな景色を見る事はできなかった。一度でいいからここから晴れた景色が見たいものだ。 キャンプ場を出発した時には8時40分になっていた。昨日苦労して登った急坂を下りコンビニに行く。今朝の朝食をラーメンにしたので、パンやおにぎり、トマト、ヨーグルトなどが残っており、袋ラーメンだけ購入する。
見晴橋で写真を撮っていると、下の方でこれから登坂開始しようとしているチャリダーの集団が目に入った。10人くらいはいるだろうか。これから知床峠を自転車で越えようという仲間を見た事に嬉しく思ってしまった。 さらに坂を登るとブユニ岬の標識が見えてきた。実は私はブユニ岬がどれの事を差すのかよくわかっていない。ほとんどの人は先程私が写真撮影した見晴橋をブユニ岬だと思っているようだが、正確にはこの見晴橋は岬の先端ではない。私は岬の先端に何か展望台でもあるのではないかと思っているのだが、真相は謎のままだ。
やがて標高160mの知床自然センターに到着。ここから先は駐車場に自転車を止めて、シャトルバスに乗り換える。知床自然センターから知床五湖までは自転車も通行可能だが、知床五湖まで行ってしまうとカムイワッカ湯の滝までのシャトルバスに乗る事ができない。カムイワッカ湯の滝に行くには知床自然センターからシャトルバスに乗るしかないのだ。 自転車を降りて手荷物を仕度する時、カムイワッカ湯の滝に入るべきかどうしようか悩んだ。もちろん温泉に入りに行くのが目的ではあるのだが、観光客だらけの所で裸になって温泉に入るのはいくら何でも恥ずかしい。そこでせっかく持って来ていた水着をどうしようかと考えたのだ。そこで切符売場にいた受付のお姉さんに、温泉に入れますかと尋ねたところ、湯温は30℃しかないのでとても寒いとの事だった。これを聞いて私は温泉に入るのは断念し、足湯だけ浸かりに行く事にした。 シャトルバスはすぐに出発するとの事だったので、裏手の駐車場に行くと、シャトルバスが待っていた。しかしシャトルバスはほとんど満席で、補助椅子を使わないと座れないほどだった。私はカムイワッカ湯の滝までの道がどんな道なのかよく見たかっただけに、窓側の席に座れなかった事を残念に思った。 9時40分にシャトルバスは知床自然センターを出発。森に囲まれた山道をクネクネとバスは走り続け、見晴らしの良い場所に出たと思ったら、そこから一気に急降下した。かなりアップダウンのある道を走ると、やがて知床五湖に到着した。先に知床五湖を見学しようかとも考えたが、メインの目的はカムイワッカ湯の滝だったので、このままバスに乗ってカムイワッカ湯の滝まで行く事にした。 知床五湖からは完全なダートの林道となる。すれ違いもできないような細いダートだったので、前から車が来たらどうするのだろうと思っていたら、この道は完全に交通規制されており、通るバスはわかっているので、中間地点のすれ違いポイントで、前からやってるバスを待って、それから出発した。まるで単線を走るローカル電車のようだった。 バスから外を確認しようとするが、窓側の席ではないのに加えて、外は雨と霧、そしてバスの熱気で窓が曇り、おそらくオホーツク海を見下ろす景色のよい場所を走っているようには思われたが、ほとんど外をうかがう事はできなかった。しかしそんな中でも、かなり狭くてクネクネと曲がりくねったダートの林道を走っている事だけはわかった。3年前に和琴半島湖畔のキャンプ場で知り合ったチャリダーはカムイワッカ湯の滝まで自転車で行ったと言っていたが、よくこんな道を自転車で走ったものだと感心してしまった。 カムイワッカ湯の滝まであと100mほどに迫った時、乗客の一人が「熊だっ!」と叫んだ。偶然にも私も同じ方向を見ており、確かに熊らしき物体が動いているのは見えた。しかし見えたのが谷を挟んだ向かい側の斜面の上で、バスからの距離が100m以上離れていたし、霧が濃くておまけにバスの窓も曇っていたので、それが熊なのかを確かめる事もできないまま、その物体は森の中に消えていった。
私はこのカムイワッカ湯の滝に、わらじをレンタルしてくれる業者が来ているものと思っていたが、そんな業者はまったく来ていない。しかも温泉に浸かれる一の滝まで行くには、水のない所は滑って危ないので、靴のまま水の中を歩けと自然保護監視員のおじさんは言うのだ。そんな事をしたら靴の中までびしょびしょにぬれてしまい、また靴の中まで乾かすのに苦労するではないか。私は裸足で歩こうかと考えたが、それも岩場で危ないからダメだと言われた。 私はどうしようかと考えたが、せっかくここまで来たのだし、せめて一の滝までは行っておこうと、靴のまま川の中をさかのぼる事にした。ただし靴の中まで濡れてもすぐに乾くように、靴の中敷を取り外し、靴下も脱いで靴を履き、そのまま川の中に入っていった。このカムイワッカ湯の滝は温泉が硫黄でかなりの酸性の為コケが生育せず、川の中の方が滑らないそうだが、確かに川の中を歩く分には滑りそうな気配はなかった。しかも川の流れは早いが川が浅いので、ゴアテックスの靴を履いていると靴の中まで濡らす事なく一の滝までたどり着く事ができた。
足湯に浸かっている頃、バス停の方で爆竹の音が連続して何発も聞こえてきた。近くにいた自然保護監視員のおじさんに何があったのかを尋ねると、近くに熊が出没したのではないかと言う。するとやはり先程バスの中から見た物体は熊だったのかもしれない。 一の滝から上は立ち入り禁止になっていたので、仕方なく引き返す。来る時はどうにか靴の中を濡らさずに登る事ができたが、下りの方が川の中を歩くのが難しく、結局靴の中まで濡らしてしまった。しかし中敷も靴下も外しているので、タオルで靴の中の水分を拭き取れば、早く乾いてくれるだろう。 バス停まで戻ると自然保護監視員の人達が、先程バスから熊を目撃したと思われる付近を、しきりに注視して爆竹を投げている。やはりバスから見た物体は熊だったようだ。あの時見たのが本物の熊だったのなら、写真を撮っておけばよかったと後悔してしまった。
行きに乗ったバスはカムイワッカ湯の滝までの間、録音テープが観光案内をしてくれていた。ところがこのバスには添乗員が乗っており、録音テープではなく添乗員が観光案内してくれるようで楽しみにしていた。ところがいざバスが走り始めると、添乗員は少しだけ乗客に話をした後、すぐに案内を止めてしまい、その後、知床五湖に到着するまで一言も言葉を発する事はなかった。この添乗員は何の為にバスに乗り込んでいるのだろうと考えながら、こんな事なら録音テープの観光案内を聞いていた方が良かったと思ってしまった。
この展望台の周囲には笹の生えた原野が広がるだけなので、視界を遮るものが少なく景色が良い。これは今から40年前まで行われていた放牧の跡地だそうだ。知床五湖のあるイワウベツ台地一帯では、大正、昭和と2回にわたって開拓が試みられたが、いずれも失敗に終り、入植した農家は全戸離農した。しかしこの頃、知床は国立公園に指定されたり、知床旅情のの大ヒットにより開拓跡地が不動産業者に買収され始めた。そこで乱開発を恐れた当時の斜里町長が、不動産業者に買収された開拓跡地を再び買い戻し自然を復元する為、全国の5万人近くの賛同する人々からの寄付を受けて知床100平方メートル運動として活動し、保全対象地の97%まで買い戻す事ができたそうだ。知床100平方メートル運動は100平方メートル運動の森・トラストへと引き継がれ、原生林の再生、生物相の復元、人と森の交流を目指し、現在でも一口5000円から寄付を受け付けているそうだ。
知床五湖には流れ込む川もないのに湖水の水が枯れる事はない。これは知床五湖付近のイワウベツ台地が羅臼岳が活発な火山活動をしていた頃、流れ出た溶岩からできた事に起因するそうだ。この台地の表面には壊れた溶岩からできた水を通しやすい層が乗っているので、その下の水を通さない溶岩との境を地下水が流れるようになり、この地下水が窪地で沸き出してできたのが知床五湖だそうだ。
狭い遊歩道なので追い抜く事もできず、二湖まで遅い集団に付き合わされてしまった。どうにか二湖に到着したが、二湖から先は通行止となっており、残念ながら二湖はわずかの部分しか見えなかった。やはりこの知床五湖は晴れた日の五湖までまわれる日に来たいものだ。
せっかく窓際の席に座ったので、走るバスの車内から何枚か写真を撮ったが、あいにくの小雨と霧で、まともな写真は1枚もなかった。そして12時15分に知床自然センターに戻ってきた。2時間30分のバスの旅だった。あいにくの小雨と霧で写真映りは良くなかったが、まあ行った甲斐はあっただろう。 朝食にラーメンを食べて以来、何も食べていなかったので、自転車の所に戻った時には腹ぺこになっていた。そこで昨日買ったヨーグルトとトマト、そしてパンを昼食として知床自然センターの駐車場で食べる。食事中にチャリダーが一人、知床峠に登っていくのが見えた。道路から離れた場所で食事していたので声をかける事はできなかったが、これから知床峠に自転車で登ろうなどという強者を見ると嬉しくなってしまう。 食事を終えて12時30分から自分も知床峠に挑む。幸いな事に雨も降っておらず、気温も低い事もあって走りやすい。しかしどうもギアを低いところまで落として走らないと登れない。私の記憶で4年前にウトロ側から知床峠に登った時、前22T、後21Tのギア比はおよそ1で登り切ったはずだ。ところが今年はギア比1どころか、前24T、後30Tの、ギア比0.8にしないと登れないのだ。荷物の重さも4年前より確実に軽くなっているはずだし、これはこの4年間で体力が低下したあかしではないかと心配になってきた。 国道334号線の知床峠をしばらく登ると290m地点の標識が見えてきた。しかし先程昼食がてらに休憩したばかりだったので、写真だけ撮影して休憩せずに出発する。さらに10分ほど走ると、370m地点の標識が見えてきた。標高160mの知床自然センターまで先に登っていたとはいえ、これで知床峠の半分登った事になる。ここでも撮影と水分補給するが、まだまだ元気だったので休憩なしで登り続けた。
10分休憩して13時30分に出発。ここからは霧がだんだんと深くなってきたので、シートポストに装着したリアのフラッシングライトを点滅させる。最初フラッシングライトはスイッチを入れても動かなかったが、電池切れだろうと思ってそのままスイッチを入れっぱなしにしていたらいつの間にか点滅していた。 さらに登り続けると、ますます霧が深くなってきた。前方からライダーが来ても、なかなか手を上げてもらえなくなってきた。おそらく彼らはチャリダーの存在など気付かず、気付いた時にはすれ違った後になっているのだろう。チャリダーはライダーの存在に音で気付くが、ライダーは目で見る以外にチャリダーの存在を確認できないのだから、霧になれば確認できなくなるのは当然だ。 前方からのライダーがチャリダーに気付かずに手を上げてくれなくても、それほど問題ではないが、後方から接近する車がチャリダーに気付かないと大変だ。リアのフラッシングライトを点滅させているとはいえ、こんなのは気休めでしかないので、追突されないように可能な限り道路の端によって走る。
670mの標識がある事を知っていたので、そこで休憩を取ろうと考えていたが、なかなか見えて来ない。そのうちに後方からすごいペースで1人のチャリダーに追い抜かれた。彼の荷物は私と同程度だったが、それにもかかわらず坂とは思えないくらいのハイペースで追い抜かれたので、私は唖然として霧の中に消えていく彼を見ているしかなかった。 結局、670mの標識を見つける事のできないまま、14時ちょうどに頂上に到着してしまった。知床自然センターから1時間30分で登ってしまった。ウトロから標高160mの知床自然センターまでは20分で登っていたので、休憩を含めて1時間50分で走った事になる。4年前は休憩込みで同じコースを2時間30分もかかっていたので、相当にペースが早かったのだろう。4年前に比べて軽いギアを使っていたが、これはパワーがなくなって軽いギアを必要としたのではなく、単にケイデンスが増えたので軽いギアでクルクルとペダルをまわしていたという事だろう。
羅臼町立林間広場キャンプ場は温泉こそないが、隣に羅臼国後展望塔があり、朝日が素晴らしいらしい。温泉をとって羅臼温泉野営場にするか、眺めをとって羅臼町立林間広場キャンプ場するか難しい選択だが、今日は天気もよくないし私は予定通り羅臼温泉野営場に泊まる予定だ。 頂上で知床峠の石碑の記念写真を撮り、さらに晴れていれば後方に羅臼岳が見えているはずの場所でも撮影する。霧で眺めも悪かったので、休憩もほどほどに今度は羅臼側へと下り始めた。すると下り始めた途端に太陽が顔を出し、羅臼岳の頂上まで見えてきた。まさかこの天候で羅臼岳の頂上が見えるとは夢にも思わなかったので、私は嬉しくなって自転車を止めて羅臼岳の写真を撮り続けた。
見返り峠を過ぎると下りが続く。しかし今日は気温が低く、登っている時はまだ涼しくてよかったが、下りになると逆に寒くて、ブレーキを持つ手がかじかんで、ブレーキ操作が上手くできないほどだった。ブレーキ自体は3日前に日の出岬で調整していたので問題なくよく効いたし、下りは雨降りではないので、ブレーキシューが磨り減る事もないだろう。
テントを張り終えると洗濯を行う。昨日洗濯しなかったので、今日は2日分をまとめて洗濯だ。いつものようにスーパーのピニール袋に洗濯物と洗剤を入れ、炊事場でジャブジャブと洗う。そしてよく絞って自転車を物干し代わりに洗濯物を干していく。しかし今日はあいにくの曇りだったので、洗濯物はほとんど乾かないだろう。 洗濯が終ると今度は熊の湯に入りに行く事にした。このキャンプ場には隣に無料の温泉「熊の湯」がある。この無料の温泉があるからこそ、このキャンプ場はライダーやチャリダーに絶大な人気があるのだ。ところが熊の湯に行くと人が多くて順番待ちの一歩手前状態だった。キャンプ場に来ている人は少ないから、きっと地元の人か通りすがりの人だろう。 どうにか湯船に浸かるが、相変わらず熊の湯は熱い。熱い温泉に慣れた私でさえも2〜3分浸かっているのが限界だ。無料の温泉なので訪れる人が多く、ぬるくしていたらいつまでも温泉に浸かっている人がいるから、長く浸かっていられないように熱くしているのではないかと思えるほどだ。さすがにこの熊の湯では洗い場が1つしかなく、しかも人が多かったので体を洗うのは遠慮し、温泉に浸かるだけ浸かって出てきた。 温泉から戻るとテントに戻る前に管理棟に行き受付を済ませる。あまりにテントの数が少なかったので尋ねると、今年はお盆休みが前半に集中していたので、後半は人が少ないとの事だった。それでも10〜15日の6日間で合計1200人が、この羅臼温泉野営場に宿泊したとの事で、人気の高さをうかがわせた。平均1日200人だから、きっと通路まで一杯だったのだろう。それにしても1日ズレただけで、これほどまでに人が減ってしまうものかと驚いてしまった。
彼と話をしていると、俺もチャリダーだったと、さらに山手側のテントから一人のおじさんがやって来た。そのおじさんの顔と声に覚えがあったので、もしかして石川県から来た人ですかと尋ねると、石川県にいた事もあると言う。でも私は確信した。このおじさんは3年前に私に北オホーツクサイクリングードを教えてくれたおじさんに違いないと。その事をおじさんに尋ねると、確かにその通りだった。私はおじさんに紹介された北オホーツクサイクリングロードを2年前と今年の2回も走ったが、素晴らしく良かったとおじさんに言うと、すごく喜んでくれた。さすがにおじさんは3年前の事は覚えていないようだったが、私が3年前におじさんから屋根付きのタダでテントを張れる場所を聞いたと言うと、その続きを教えてくれた。 おじさんから3年前に聞いていたのは、浜小清水と網走、そして稚内の北防波堤ドームの場所は聞いていた。3年前にそれを聞いた時には半信半疑だったが、この3年間に浜小清水と網走の屋根付きのテントを張れる場所を、おじさんの言っていた通りの場所に見つけ、おじさんの言っている内容の正しさを身をもって知っていたのだ。私は基本的に野宿はせずにキャンプ場に泊まるタイプだが、雨が降った時には、屋根があるなら野宿もいとわないので、この際おじさんから北海道中のタダでテントを張れる屋根付きの場所を聞き出し、それをツーリングマップルに書き込んでいった。 おじさんも私に信頼されているのを嬉しく思ったのか、私に色々と教えてくれた。このキャンプ場は1日200円の有料だが、おじさんはこのキャンプ場にタダで住み付いていた。おじさんいわく、このキャンプ場は国設で、国から補助金が出ているのだから、キャンパーがお金を払う必要はないと言う。勝手な理論ではあるが、わからないでもない。さらにおじさんは北海道中に自転車道を張り巡らせよとか、チャリダーが日本一周するのを支援する為、チャリダーが県庁所在地に到着する度に1000円支給するなどという、とんでもない案を議員に直訴していると言っていたが、どこまで本当かはわからなかった。しかしこのおじさんがただのホームレスではなく、チャリダー経験の長い人だという事はよくわかった。 おじさんと1時間ほど話し込んでいたので、炊事の開始は17時20分からになってしまった。今日はコンビニに寄らなかったので、夕食はカレーと味噌汁のみ。17時35分には御飯が炊き上がったが、米を蒸らしている最中に、再び先程のおじさんが話しかけてきた。おじさんは私の自転車を見ながら、パーツについて色々と話をしてきた。おじさんの話を聞く限り、ただのホームレスではなく、自転車にも詳しい事がうかがえた。しかしおじさんと30分ばかり話し込んでいたので、結局食事にありつけたのは18時10分になってからだった。
私はどうしようかと考えた。この問題を解決するにはACアダプタを購入してハードディスクのバッテリーに充電するか、それともコンパクトフラッシュのメモリーをあと2GBほど購入するか、撮影データをRAWからJPEGに切換えてメモリーの消費量を減らすしかない。しかしJPEGよりもRAWの方がはるかにきれいに撮影できるし、美しい景色を撮影する為に北海道を自転車で走っているのだから、JEPGに切換える事はしたくない。メモリーカードを追加で購入するのは高いので、ACアダプタを買った方が良さそうに思われたが、果たしてこの北海道のド田舎に、プラグ形状と電圧のマッチしたACアダプタが売っているのだろうか? この近辺だと中標津が一番大きな町なので、明日は中標津まで行ってACアダプタを求めてホームセンターか電気屋を探すとしよう。ただACアダプタを購入するまではJPEGで撮影してメモリーの消費量を減らすしかなさそうだ。 さらにメガネのネジも緩んおり、今にもレンズがフレームから外れて落ちそうになっていた。どうにかしなければならないが、ここには当然精密ドライバなどない。それもありあわせの部材で対処するしかなく、今自分が持っている荷物を確認すると、財布の中に磁気タイプの献血カードがあったので、これを使ってネジを締める。普段家の中にいる時は、専用の工具を使って対処するが、荷物の限られた北海道自転車ツーリングでは、まるでアポロ13号の映画のような、ありあわせの部材で対処する必要がある。 19時から旅の日記を書き、書き終わった時には21時40分になっていた。明日は中標津の町でホームセンターに行こうと考えていたので、携帯電話でインターネットにアクセスして、ホームセンターを確認しておく。どうやら町の中心部あたりにホームセンターるっく中標津店という名のホームセンターがありそうだったので、住所を控えておく。明日はそこでACアダプタとシェーバーを購入する事にしよう。 昨日はあれだけ暑かったのに、今日は一変して20℃くらい気温が下がって寒くなったのだから北海道の天候は不思議だ。しかも今日はかなり冷え込みそうな雰囲気なので、暖かくして寝ないと絶対に風邪を引いてしまいそうだ。ジャージーをしっかり着込み、シュラフのドローコードを首まで閉めて22時には就寝する。今日は人も少なく静かなキャンプ場なので、よく眠れそうだ。
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