昨夜もよく眠れず、1時間おきに目が覚めていたような気がする。気がついたら5時10分だった。少し寝坊したので慌てて起き出す。テントを開けると昨日に続いて今朝も深い霧で、太陽が幻想的に出ていたので写真を撮る。今朝は昨日以上に露付きがひどく、自転車はびしょびしょに濡れており、せっかく干していた洗濯物も干した時以上に濡れていた。朝食にラーメンを自炊して食べる。太陽が顔を出していたので露付きで濡れたテントを干している間に、昨夜のチャリダーと話をする。彼は今日札幌の自宅に帰るそうだが、まだどの道を通るかは決めかねているようだった。おそらく中山峠を越えるか、支笏湖経由になることだろう。
しばらくテントを日光に当てて乾かしていたが、もう乾きそうになかったのでテントを撤収する。朝早いうちは霧が出ていたが出発する頃には晴れていたので、日焼け止めをしっかり塗り、6時30分にキャンプ場を出発する。キャンプ場のすぐ近くに道の駅「名水の郷きょうごく」があり、ここの羊蹄ふきだし湧水が有名だったので行ってみることにした。駐車場に自転車を止めて200mほど歩くと羊蹄ふきだし湧水に到着。何とまあ雰囲気の良い場所で、朝早いこともあって観光客は誰もおらず、静かな木立の中の小川のせせらぎといった場所で、私のお気に入りの場所となってしまった。
道道478号線は最初のうちアップダウンが激しい。そこを乗り切れば、あとは左手に羊蹄山を見ながら緩やかな下りが続くようになる。羊蹄山は頂上まできれいに見えていたので自転車を交えて羊蹄山の写真を撮った。せっかく赤外線レリーズを持ってきていたので、ここでも羊蹄山をバックに自分撮りに挑戦する。なかなかいい感じだ。しかし真横から撮った写真を見ると、自分のポジションはかなりの前傾姿勢で、ツーリングと言うよりはロードのポジションに近い。シートとハンドルの落差が10cmもあるのだから当然と言えば当然だ。もう少し上体を起こしてのんびり走った方が景色もよく見えるのだが、普段の走行スタイルがこれなので、そう簡単には変えられない。
私はここで悩んだ。今日は積丹半島を回るべきか、それとも蘭越と岩内経由でニセコ五色温泉に行くべきか。しかし積丹半島を回ると、ここからあと130kmも走らなければならないが、神威岬での観光時間などを考えていたら、キャンプ場到着は19時頃になりそうだ。さすがにそんなに走ってられないので、今日は計画を変更して、ニセコ、蘭越、岩内を経由してニセコパノラマラインを走り、五色温泉まで行く事にした。
倶知安からニセコまでの国道5号線は行程の2/3までがアップダウンの多い登り基調で、残りの1/3はニセコに向かって下る感じだった。それでも涼しいしまだ朝早いこともあって元気に走り、8時10分にニセコに到着。道の駅「ニセコビュープラザ」があったが、特に用はなかったのでそのまま通過する。 出発から25km走ったところにニセコ町宮田ビューポイントパーキングがあったので8時20分から休憩する。せっかくだからここで2回目の食事とばかりに、昨日の中山峠で買ったあげいもの残りとヨーグルトを食べる。ここは羊蹄山のビュースポットらしかったが、残念ながら羊蹄山は雲に隠れてほとんど見えなかった。 少し休憩して8時30分にパーキングを出発。カメ作戦としては2時間で25kmの、ちょうどのタイミングだ。それからも国道5号線を蘭越に向かって走るが、ニセコから昆布までは川を3つ横切る。そのたびに丘越えとなるのでアップダウンが多く、走るのに苦労する。このあたりを走る頃から所々雲の切れ間からニセコアンヌプリが見えるようになり、自転車を止めて写真を撮影する。
道道267号線を走り続けてようやく日本海に出た。今回始めて見る海で、しかもこれが最後となるだろう。私はしっかりと海を目に焼き付け、潮の香りをかいでおく。磯谷橋で尻別川を越えると10時30分に道の駅「シェルプラザ・港」に到着。この道の駅の隣には貝の館があった。この貝の館は4年前にここに来た時にも、貝とお話しがしたくて入ろうと考えたが、あいにく開館時間まで1時間もあったので断念していた。しかし今日は既に開館しているし貝とお話ししてみたかったので、4年来の念願かなって貝の館に入ることにした。
貝の館には他にも普段見慣れている貝から世界の珍しい貝まで約1500種5000点の標本があり、貝の分類や進化の歴史などがパネルで説明していて楽しめる。貝は地球上で10〜12万種類もいるそうで、その種別をなかま分けする事はなかなか難しいそうだ。その中でも私の興味を引いたのは、巻き貝の巻き方だ。巻き貝は右巻きが多いそうだが左巻きの種類もいたり、まれに逆巻きの貝もいるそうだ。この巻き貝の巻き方は卵が細胞分裂する時にずれる方向で決まるそうだ。他にも囲碁の白石はハマグリの貝殻から作られるそうだが、これも知らなかった。 この貝の館には珍しい貝も数多く展示されており、収集家憧れの日本三名宝と呼ばれているオトメダカラ、ニッポンダカラ、テラマチダカラ、日本三美螺と呼ばれているバンザイラ、ジュセイラ、ショウジョウラ、強い真珠光沢を持つギンタカハマガイ、ヘリトリアワビ、リュウオウスガイなど、見ていてうっとりするような美しい貝が数多く展示されていた。私はそんな貝の館で30分ほど貝とお話ししていた。
国道229号線の日本海沿いはトンネルが続く。私が走るわずか18kmの区間も例外ではなく、全長640mの磯谷トンネルに始まり、全長2754mの刀掛トンネル、全長638mのカスペトンネル、全長3570mの雷電トンネル、全長146mの敷島内トンネル、全長273mの鳴神トンネルと、全走行距離の4割ほどがトンネルだった。私はこの時の為にLEDライトを用意していたので迷わず点灯。十分な明るさがあり、従来までのHIDライトはもう必要ないことを実感する。
コンビニを出ると、町中の信号ばかりの国道を抜けて道の駅「いわない」に行く。この道の駅はトイレが駐車場から離れた場所にあるので何だか変だ。道の駅から離れたトイレでボトルに水を給水し、これからの山越えに備える。ついでに10分ばかり休憩して旅の日記を書き、12時40分に道の駅を出発する。 どの道を走れば道道66号線、通称ニセコパノラマラインに出られるのかわからなかったが、道の駅の前の道をまっすぐに南下すれば無事に道道66号線に出ることができた。ここからはひたすら登りだ。晴れてきたこともあって坂を登ると汗が噴き出してくる。それでもパノラマラインというだけあって眺めは良いので、写真を撮りながら自転車を走らせる。ここでも自分撮りに挑戦したが、もう暑くてへばりそうだった。
私は少し焦りだした。もう自分撮りなどしている余裕はない。汗だくになりながらも必死になって自転車を走らせ続けた。太陽は雲に隠れたり顔を出したりと気まぐれだったが、太陽が顔を出している間は、暑くて汗が噴き出し、水をガブガブ飲み続けて、このままではとても頂上まで水が持たないような気がした。しかしいったん太陽が雲に隠れると気温が下がって走りやすくなり、汗もほとんどかかずに登ることができた。 14時10分に標高500m登ったところで休憩。ここでおなかが空いてきたので岩内のコンビニで買ったおにぎりを食べる。少し力が付いた感じだ。水はまだ半分は残っているし、この調子ならあと1時間30分程度で頂上に到着することだろう。 こんな苦しい時に励みになるのはライダーとの挨拶だ。私はバイクが近づいてくると、ここぞとばかりに手を挙げて挨拶すると、ほとんどのライダーは手を挙げて返してくれるのでうれしい。このニセコパノラマラインは猛スピードで駆け抜けていくライダーが時々いるが、そんな人達はあまり挨拶を返してくれないし、ましてスピードを出しすぎているのでハンドルから手を離すこともできないのだろう。 昨日もそうだったが、どうも私の腕時計の高度計は調子が悪いらしく、標高300mくらいまでは正しい標高を表示するのだが、標高500mを越えると、どうも高度が低く表示されるようなのだ。どんなにがんばって登っても高度計の表示では登ったことになっておらず、あてにならないのでそのうちに見るのもやめてしまった。しかしあとどれだけ登らなければならないかいつでも把握できるように、地図上で現在地を見失わないように気をつけながら走った。 さらに登り続けて15時10分頃、標高700m付近に滝のような水の湧き出ている場所があった。さすがにエキノコックスが怖いのでこの水を飲むことはできないが、せめて乾いてしまったタオルとアームカバーを濡らして涼しむ。しかし自然の滝の割にはあまり冷たくなかった。
神仙沼を過ぎると傾斜が緩やかになって走りやすくなった。それと同時に視界が開けて景色が急に良くなってきた。きっと森林限界を越えて木がなくなった為だろう。私は疲れきっていたが、さすがにこれだけの景色を見ては写真を撮らないわけにはいかず、カメラを取り出して写真を撮った。そしてようやく15時35分にチセヌプリ峠の頂上、標高832m地点に到着した。頂上を示す標識は何もなく少し寂しかったが、少し下ったところからの景色は最高だった。
頂上からずいぶん下って標高610m地点まで下ったところで道道58号線、通称倶知安ニセコ線に入る。ここからは今日の宿泊先であるニセコ野営場まで190mの登りだ。道道58号線に入ったのが15時50分なので、到着は16時30分といったところだろう。道道58号線に入るといきなり急な登りが続く。ここからの景色も素晴らしいのだが、すでに陽は傾いて逆光だったのと、少し霞んでいて写真に撮っても何も写らないだろうと考え、写真を撮ることはしなかった。
私は受付を済ませるとキャンプサイトの上段まで自転車を押して登り、すぐにテントを設営。今日はキャンプ場への到着が遅くなったのと、温泉は21時まで営業していたので、先に食事にして後からゆっくり温泉に浸かって休憩室で旅の日記を書こうと思っていたので、先に炊事にするべく米を水に浸す。キャンプ場に到着してショックなことに気付いた。GPSの電源が切れていたのだ。今朝電池を入れ替えたばかりなので2日は持つはずだったのに1日さえ持たないとは、さすが100均で買った電池は違う。もう100均で電池を買うのはやめよう。ちゃんとした電池なら確実に2日は持ちこたえてくれるはずなのに… このキャンプ場はまわりにイワオヌプリが見えたりするので景色が美しく、自転車とテントを交えて写真を撮ったりしながら、17時10分から炊飯を開始する。明日の朝はおじやにしようと思っていたので、ご飯を1.5号炊き、半分残して明日の朝食べるつもりだ。今日の夕食は牛丼とわかめの味噌汁とカップサラダ。まだ沈まない太陽の光を浴びながら夕食を食べ、食べ終わった頃に夕陽がニトヌプリの山間に沈みそうだったので写真を撮る。
この五色温泉展望風呂の露天風呂は展望台から丸見えだが、その分だけ露天風呂からの景色もよく私のお気に入りの温泉なのだ。欠点はカランのお湯が水になることくらいだが、そんな事はどうでもよい。私は露天風呂に長時間浸かって、夕陽に染まりゆくイワオヌプリを眺め続けた。時間があればからまつの湯にも行こうかと思ったが、結局展望風呂からの眺めだけ堪能して、他の風呂に行く事はなかった。 展望風呂を出ると、今度は休憩室で旅の日記を書く事にした。しかし休憩室の案内がなく、どこが休憩室なのかわからない。3年前に来た時には確かに休憩室があったはずだと考え、従業員に休憩室の場所を尋ねると、案内してくれた。そこはロビーから風呂に行く途中の廊下に面した部屋なので、他の日帰り入浴客が頻繁に横を通るのだが、休憩室の案内がなかったので、誰もここが休憩室だとは気付かず、ずっと私一人で旅の日記を書き続けた。 今日もツーリングの合間の休憩時間中にあまり旅の日記は書けていなかったが、今日は既に食事も済ませていたし、あとはテントに入って寝るだけだったので、18時30分からジュースを飲みながらのんびりと休憩室で旅の日記を書き続けた。1時間30分ほど旅の日記を書き続け、ようやく書き終わったので20時にテントに戻る。 テントに戻るとそれまで着ていた服を炊事場で洗濯し、自転車に干しておく。既に露付きで自転車やテントは濡れていたので、きっと朝までには乾かないだろう。しかしこれだけ汗をかくと洗濯せずに同じ服を着るわけにもいかず、朝、服が乾いていなくても着れないわけではないし、どうせ自転車で10分も走れば乾いてしまうのだから、毎日洗濯するに越したことはない。
テントに入って旅の日記を書いていたら、ポメラの電池も切れてきた。カタログスペックでは単四電地2本で20時間持つはずだったが、まだ10時間ほどしか使っていない。さすが100均で買った電池は違う。この調子だと旅の後半はGPSとポメラの電池を毎日のようにコンビニで買わないといけなくなるだろう。 明日以降の天気予報を確かめると、10〜12日は曇り時々晴れだが、13日だけ曇り時々雨になっていた。13日と言えば富良野から美瑛に行くあたりだが、雨だと美瑛に行っても仕方がないので、コースを変更してどこかで時間をつぶすか。まあどうせこんな先の天気予報など当たるはずもないが。 そう言えば、自転車で旅をしているとマイカーの観光客から時々話しかけられるのだが、決まって先週までは雨ばっかりだったけど、今週は晴れてよかったねと言われる。確かに天気予報を見ていると北海道は先週まで雨ばかりだったが、今週から晴ればかりになっている。これが先週北海道に来ていたら目も当てられないところだが、今週でよかった。それほど気温が高いわけでもないし、この夏はとても走りやすい気候と言えるだろう。 今日も昨日に続いてニセコパノラマラインを830mと、ニセコ野営場まで190mの合わせて1020mも登ってしまった。前半の倶知安や蘭越あたりのアップダウンも含めると、おそらく1300mは登ったことだろう。昨日に続いてよくまあこれだけ登坂できるものだと感心してしまう。それに今日は80km走破した後で13時から1020mの登りに挑戦したのだからたいしたものだ。それにしても岩内から五色温泉までの30kmはハードだった。30km走るのに3時間20分もかかってしまった。もう二度とこんな強行スケジュールは実行したくない。もう少し余裕を持って行動したいものだ。 一つ嬉しかったのは、昨日に続いて今日もこれだけ登ったのに、今日はお尻が痛くならなかったことだ。早くもお尻がサドルに慣れてしまったようで一安心だ。しかしこのサドルを使って地元で3000km以上走っているはずなのだが… ニセコパノラマラインは景色も素晴らしく、走りがいのある道だ。チャリダーにもお勧めできる道なので、どうせだったら岩内に比較的近い盃野営場あたりに宿泊し、そこから朝一番にニセコパノラマラインを登ることをお勧めする。そうすれば晴れてさえいれば涼しい時間帯に眺めのいい景色を見ながら元気よく走れるはずだ。 今日は水をよく飲んだ。京極の羊蹄吹き出し湧水がおいしかったのもあって、岩内までに1リットルほど飲み、さらにニセコパノラマラインでも岩内で給水した水を1リットルほど飲んでいる。この他にコンビニで飲む牛乳や温泉の休憩室で飲むジュースを含めると3リットルは飲んでいることになる。その割にはあまりトイレに行かなかったので、そのほとんどは汗となって流れたのだろう。 このキャンプ場も21時を過ぎると急に静かになり、世界中で生きているのが自分一人ではないかという錯覚に陥る。今日は晴れているので天体観測でもしようかと思ったが、残念なことにこのキャンプ場では明かりが煌々と照らされているので晴れているのだが星はあまり見えなかった。このキャンプ場も昨日に続いてワンセグの電波は入らなかったし、旅の日記は温泉の休憩室で書き終えていたので21時を過ぎるとやることもなくなってしまった。しばらく明日の予定を考えていたが、明日は3年前と同じく洞爺湖まで行くだけなので深く考える必要もなく、22時にはシュラフに潜り込んで就寝することにした。このキャンプ場は標高が高いのでとても寒く、着れるものはすべて着込んで寝ないと風邪を引いてしまいそうだ。
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