朝の4時20分に起きる。最近は携帯電話の目覚ましをかけなくても、空が明るくなると起きられるようになった。とは言っても、この女満別湖畔キャンプ場は漁船が朝早くからエンジン音を響かせて走るので、うるさくて寝ていられないというのもある。テントを開けると空が晴れており、日の出が見られそうだったので、カメラを持ち出して桟橋に行って日の出前の網走湖の朝焼けを撮影する。
それよりもフロントバッグを調べていた時、フロントバッグの中が砂だらけになっていた事に気付いた。自転車が倒れて1/3ほど水に浸かったくらいで、何でこんなにもフロントバッグの中に砂が入ってくるのか不思議に思っていたが、それはどうやら波の影響で砂がフロントバッグの中に入ってきたという事がわかった。ところがよくよく自転車を調べると、フロントバッグの中だけでなく、シフトレバーの中も砂まみれになっていたのだ。私は恐る恐るシフトレバーを動かしてみたが、シフトレバーは砂を噛んでいてまったく動かない。もちろん変速もしない。しまった、これでは変速できないからシングルギアになってしまう。変速なしでも美幌のヤマト運輸まで走って荷物を預けて、それから女満別空港まで走る事は可能だろうけど、さすがに美幌峠まで走る事はできないだろう。 私は何とかシフトレバーが動くようにならないかと、シフトレバーにボトルの水をかけて砂を洗い落とした。しかし砂はシフトレバーの細部まで入り込んでおり、おまけに砂が油分まで含んでしまったので容易に水では流れ落ちず、何杯もボトルの水をかけて砂を洗い落とした。その甲斐あって、ようやくシフトレバーは動くようになってきたが、下手すると両手でシフトレバーを操作しなければならない程で、とても快適なシフト操作は望めない。私はどうにかシフトレバーが復活しないかと、ドライバまで持ち出してシフトレバーを分解しながら、とにかく砂を洗い落とした。そしてどうにか違和感は残るが片手でシフトレバーが操作できるくらいまでは改善した。よかった、これなら美幌峠くらいは往復できそうだ。計画を断念せずに済みそうだ。 私はシフトレバーに水をかけながら、この水没事件が起きたのが北海道自転車ツーリングの最終日でよかったとつくづく思ってしまった。これが初日だったりしたら、残りの2000km近くをずっと操作性の悪いシフトレバーと格闘しなければならなかったのだ。これを教訓に、自転車を止める時には倒れても問題ない場所に止めるように、今以上に心がける事にしよう。
撤収作業は早くに終わってしまったので、北海道を18日間走り続けた自転車を簡単に確認した。雨が少なかったおかげでチェーンやギアまわりはそれほど汚れていない。しかし3日と9日に雨の中、峠を下った為に、特に後輪のブレーキシューは、かなりすり減って危険な状態だ。これは家に帰ったらシューを交換する必要があるだろう。 すべての準備が完了し、6時55分に女満別湖畔キャンプ場を出発。駅前のコンビニに立ち寄っておにぎりと牛乳を購入し店の前で食べる。そして7時5分にコンビニを出発し国道39号線を美幌目指して南下した。途中、ソロのチャリダーとすれ違った。海岸線でもないこの道でチャリダーと出会うのは珍しい。今日は若干の向かい風だったが、8時に美幌に到着すればいいので余裕だ。フラットでまっすぐな直線の続く国道39号線を、シフトレバーの調子を確かめながらのんびりと走った。
8時5分にヤマト運輸の営業所を出発。それからは国道243号線を走る。サイドバッグを外した事で明らかに自転車が軽くなり、走りやすくなった。15kgの荷物を外しただけで、まったく別の乗り物のように操作性や加速が楽になった。2年前の最終日に美幌峠に登った時は、8時30分に営業所を出発していたので、今日は2年前よりも30分早い。心配していたリアのシフトレバーも変速が少し硬くてジャリジャリと砂を噛んでいる感触があるくらいで、変速そのものは無事に行う事ができた。
美幌峠への登りは急坂の直線道路が続くので、登りながら後ろを振り返ると、遠くに山並みが見えて美しかったので、自転車を止めて撮影する。さらに自転車を走らせ美幌峠の頂上まで残り1kmになると、登り傾斜が緩やかになり、急に見晴らしがよくなった。この美幌峠の周辺は、はげ山で木が生えていないので、遠くまで見渡せてとても見晴らしがいい。私は美幌峠の頂上付近の道端に自転車を止めると、そこかしこで写真を撮影した。
しかし津別峠だけは峠を越えるのに標高750m、さらに展望台まで標高947mまで登らなければならない。藻琴峠は標高648mで展望台が標高725m、美幌峠は標高493mで展望台が標高525mなので津別峠は他の峠に比べて標高が高い上に、峠を越えてもその先は津別なので、そこから先の行き先が限られており、なかなか行く機会も限られている。今度機会があれば津別峠とチミケップ湖を組み合わせてチャレンジしてみよう。
2年前に比べて記録が落ちているのは、2年前は強い追い風だったので、風のおかげで記録が伸びた為と思われる。単にスピード記録を求めるだけなら下り坂でも思いっきりペダルを回せばもっとスピードは出るだろうけど、これ以上スピードを出すと危険すぎるのと、ペダルを回さずにどれだけ走れるかという記録にも挑戦しているので、私にはこれがちょうどよい。 美幌峠を下まで下り、後は温泉に浸かってのんびりするだけなので、国道243号線を気楽に自転車で走った。このあたりは若干の下りが多いし、何より自転車が軽くて走りやすい。そして11時25分には美幌の町に戻ってきた。行きは美幌の町から美幌峠の頂上まで115分かかったが、帰りは55分で帰ってきた。そして再び国道39号線に入り、11時40分にはびほろ温泉後楽園に到着した。 玄関脇に自転車を止め、着替え等の支度をして温泉に入る。ところが受け付けで370円払って中に入ると、この温泉では今年の6月から経費削減の為、シャンプーと石鹸を置かないようになったと書かれていた。私はこの温泉には昔からシャンプーと石鹸が置いてあるのを知っていたから、手持ちのシャンプーと石鹸は宅急便で送り返したというのに、こんな事なら持ってくればよかったと後悔する。しかし今さらどうしようもないので、そのままシャンプーも石鹸もなしで温泉に入った。よく考えたらシャンプーと石鹸は受け付けでも売っているのだから買っておけばよかった。 この温泉は露天風呂からの眺めがよいので私のお気に入りの温泉だ。特に今年から視力矯正手術をしたおかげで、メガネがなくても遠くまでよく見る事ができ、露天風呂からの眺めを堪能することができた。やはり露天風呂は塀などに囲まれておらず、開放的なのがいい。その点、このびほろ温泉後楽園は、特別何が見えるというわけではないが、塀がなくて遙か遠くの山並みを見渡す事ができるのでとてもよい。 露天風呂で景色を見ながらのんびりと時間を過ごし、12時20分には温泉からあがって休憩室でナタデココのジュースを飲みながら旅の日記を書く。ここの休憩室には、既に過去の遺物になってしまったナタデココのジュースが売っているので、毎年のようについつい買って飲んでしまう。いつもだったらこのびほろ温泉後楽園ではフライトまでの時間が少なくてあわただしく過ごすところだが、今日は比較的時間もあって、のんびりできるのがありがたい。 今日は自転車で走る合間の休憩中にも旅の日記を書いていたので、20分もあれば旅の日記を書き終わってしまった。休憩室でやる事もなくなってしまったので、12時40分にはびほろ温泉後楽園を出発し女満別空港へと国道39号線を、汗をかかないようにゆっくりと自転車を走らせた。今日の天気予報は晴れ後曇りとの事だったが、温泉を出ると空は半分曇りとなり太陽も隠れていた。
玄関まで戻ると今度は輪行袋を担いで空港の中に入り、チェックインを済ませて自転車を預ける。いつものように自転車はX線検査機に入らないので、輪行袋の中身を目視でチェックしてもらう。今回はフロントバッグを外れないようにしてしまったので、フロントバッグの中身も全部取り出して見てもらうしかないと覚悟していたが、係りのお姉さんはロクにフロンドバッグの中身も見ないでOKとなってしまった。担当者によってずいぶん対応が違うものだ。 自転車を預けて身軽になると、13時50分からいつものレストランピリカに行って食事をする。注文したメニューはいつものようにエスカロップだが、今日は最終日という事で何かアルコールでも飲もうと考えた。何を飲もうかと悩み、網走ビールにしようかと考えたが、結局銅のマグカップに入ったビールを飲む事にした。 エスカロップの前に、先にビールだけが出てきた。銅のマグカップでビールを飲むのは初めてだ。最初はどんなものかと不安だったが、熱伝導率のよい銅なので冷たいビールを入れるとマグカップもキンキンに冷えており、何だかビールがおいしく感じる。銅は熱伝導率が高いのですぐに周りの熱を吸収して保冷効果は低いだろうと思っていたが、そうではないのかもしれない。ビールの冷たさがいつまでも持続していてとてもよかった。私もこんな銅製のマグカップが欲しくなってしまった。
今日で18日間の北海道自転車ツーリングは終わりを迎えるが、8日目から集め始めたカルピスサワーの貸し切り温泉のプレゼントキャンペーンのシールを携帯電話に貼っていったら、今日で8枚のシールがたまり、携帯電話の表面はシールだらけになってしまった。ところでこの貸し切り温泉のプレゼントキャンペーン、確かにシールを集めてハガキに貼って応募すればいいのだが、後日カルピスのホームページを見ると、このシールではなくて、このシールの下に張ってあるもう一枚のシールを貼って応募する事になっていた。つまり私が集めていたシールはまったく無意味だったのだ。しかしその事はカルピスサワーの缶には書いてないし、ホームページを見ないとわからないようになっており、私が間違えたのも無理はなかった。 旅の日記を20分ほど書いていたが、温泉の休憩室で書いていた事もあり20分ほどで書き終えてしまった。そこでレストランを出て、今度は展望デッキに行く事にした。私は過去5回ほど女満別空港を利用しているが、展望デッキには一度も行った事がない。3年前に一度、展望デッキに行こうとした事があったが、その時は有料だったのと、雨が降っていたので断念していた。しかし今日は晴れているし、フライトまであと1時間以上もあったので、展望デッキで飛行機でも眺める事にした。 幸いな事に展望デッキは無料になっており、誰でも自由に出入りできるようになっていた。展望デッキに行くと家族連れが何人かいるだけで、がらんとしている。私は飛行機の写真を撮ろうとフェンスの前に陣取るが、こんなローカル空港で頻繁に飛行機の離発着などあるはずもなく、時々、想い出したようにやって来る飛行機を撮りながら、その合間の暇をもてあました。 飛行機の写真を撮りながらも、一つ心配な事があった。それは私の乗るはずの飛行機がやって来ない事だ。15時45分フライトのはずなのに、30分前の15時15分になってもやって来ない。いったいどうしたのだろうと不安になってしまう。一般的には出発の15分前までにセキュリティチェックを受けなければならないので、15時30分には戻らなければならないが、まだ折り返しの飛行機が飛んで来ない状態では、それもないだろうと考えて、しばらく展望台で飛行機を待った。すると関西空港からの飛行機は遅れていて、私の乗る折り返しの出発便も5分遅れになるとの放送があったので少し安心する。
セキュリティチェックはなぜか大混雑していたが、何とか無事に通り抜け、搭乗待合室に入る。15時50分出発との事だったが、実際には搭乗が始まったのが15時50分からで、出発は16時ちょうど、離陸したのは16時10分と、定刻を15分遅れていた。 私にとって今回のフライトには特別な意味があった。それは今年、海外出張を繰り返したおかげで、全日空のプラチナポイントがたくさん獲得できた。そこで一気にプラチナポイントを獲得しようとシンガポール航空で関西空港からシンガポール経由でスイスのチューリッヒまで0泊3日、現地滞在時間4時間という弾丸で、39時間飛行機に乗るという暴挙もしたおかげで。このフライトをもってプラチナポイントが5万を越え、全日空、およびスターアライアンスの上級会員になる資格を得たのだ。 女満別空港にはラウンジがないからあまり意味はないが、これが千歳空港や関西空港、伊丹空港だったら全日空を使う限りラウンジは使い放題だし、優先搭乗や、荷物を預けるとプライオリティタグを付けてくれて真っ先に出てくるようになるありがたいサービスだ。次回の北海道自転車ツーリンクで飛行機を使う時には上級会員だが、自転車の入った大きな輪行袋を抱えて優先チェックインカウンターに行ったら追い返されそうな気がする。 16時10分に飛行機は女満別空港を離陸。今回も南向きの離陸となったので、屈斜路湖や摩周湖が見えるかと思ったが、離陸するとすぐに右に旋回してしまい、今回も残念ながら屈斜路湖や摩周湖を見る事はできなかった。シートベルト着用のランプが点灯している最中にも、前の席の初老のおじさんはカメラでパシャパシャと外の景色をずっと撮影していた。音から察するに一眼レフカメラの音だった。デジタルやフィルムにかかわらずシートベルト着用のランプ点灯中は撮影禁止のはずだ。露出計も付いていないような50年近く前の一眼レフカメラであれば、電気は使っていないから問題ないかもしれないが、今時そんなカメラを使っている人はほとんどいないから、きっと航空法違反だろう。 美幌の町を過ぎるとすぐに雲が出てきてしまい、地表が見えなくなってしまった。私は外を見るのを断念して旅の日記を書いた。そのうちに十勝平野の北の端をかすめるように飛んだ。先程の温泉とレストランで旅の日記を書いていた事もあって、すぐに書く事がなくなってしまったので、私はこれまでの旅を振り返る事にした。 今回の北海道自転車ツーリングでは最初の1〜3日の3日間は雨ばかりで、次の4〜7日の4日間は晴れ、次の8日は曇り、次の9日は雨、次の10〜12日の3日間は曇り、次の13日は雨、14〜16日の3日は曇り、17〜18日は晴れだ。最初の3日間は辛かったが、あとは気象庁の天気予報よりも雨は降らずに助かった。
今回は偶然の出逢いもあった。2日目の上富良野のキャンプ場で出逢ったドイツ人のチャリダーが私のHPをとても参考にしてくれていた事。いきなり私のHPをノートPCで見せられた時にはびっくりしてしまった。さらにそのドイツ人に17日の常呂で偶然にばったりと出逢った。これだけ広い北海道で出逢えるとは、すごい偶然に違いない。 今回の自転車のトラブルで大きかったのは、やはり最終日のリアのシフトレバーが砂まみれになって変速できなくなった事だろう。こればかりは帰宅後シフトレバーをオーバーホールするしかなさそうだ。ちなみに帰宅後、シフトレバーを分解して洗剤の中で清掃したら、無事元のように動作するようになった。また、3日目と9日目に雨の峠を下った為、ブレーキシューをずいぶんすり減らしてしまった。これはブレーキシューを交換するしかない。帰ってから自転車を徹底的に整備しないと乗れそうにない。 体の方は晴れの日が少なかったせいか、思ったほど日焼けしなかった。温泉で感染した水虫がひどいのと、いつものように右足の小指が痛いくらいだ。今回の北海道自転車ツーリングではダートを走って豊似湖、チミケップ湖、シュンクシタカラ湖に行くつもりでいたが、結局行ったのは豊似湖だけで、ダートはほとんど走らなかった。こんな事ならもう少し細いタイヤを履いてくればよかった。その代わりに今回はよく走った。18日間で1986kmは記録ではないだろうか。でも来年からはもう少し期間を短くしようと思う。 飛行機は雲の上を飛び続け、鳥取上空でようやく地表が見えるようになったが、もやが濃くてほとんど何も見えない。そのまま中国地方を縦断し岡山に抜け、備前市上空を通過する。この頃から高度が下がった事もあり、ようやく地表の様子が見えるようになり、岡山の長島や鴻島、曽島が見えるようになってきた。やがて四国上空に出ると、進路をさらに左に変えて淡路島の東岸沿いをかすめるように飛ぶ。私はいつもこのあたりから夕陽の照り返しを受けて金色に輝く鳴門大橋を撮りたいと思っていたが、今日は出発時刻が送れて、夕陽というよりは既に夕暮れになっており、しかももやが濃くて鳴門大橋は撮影できるような状態ではなかった。 鳴門大橋を過ぎると右に旋回して神戸空港の南をかすめ、大阪湾に沿ってさら右に旋回する。私は関西空港に着陸する時、いつも自分の勤める会社の新しい工場の横を飛ぶので、どの程度完成したかを確かめるのが好きだった。半年ほど前に飛んだ時には、まだクレーンや杭打ちの機械が数え切れないほど並んでいたが、今日見てみると杭打ちの機械はなく、もうすでに工場の外観は完成していた。あとは内装と設備の導入だけだろう。 やがて飛行機は高度を下げ、海が近くに見えるようになってきた。そしてギアダウンして、飛行機は滑るように関西国際空港に着陸した。今回の北海道自転車ツーリングはかなり長く感じてしまったので、次回からは少し期間を短くしてチャレンジするかもしれない。長い時間走るほど行くべき場所が減ってしまったのかもしれない。それもまた1年後の事だろう。
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