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トラップ一家物語  ストーリー詳細

第1話 私、修道女志願です
 1936年のオーストリア。2才にして母親を肺炎で亡くしたマリア・クッチャラは父親がエンジニアで外国を点々とする為、親類に預けられて過ごしていました。5年後に父親は帰国し、それから2年間は父親と一緒に暮していましたが、2年後のマリアが9才の時に父親も亡くなってしまい、マリアはそれから15才まで親類の家に預けられ不幸な境遇を過ごしていました。マリアは中学校を卒業すると自分一人で生きていく為、家出同然でセンメリンクの観光地に行き、ホテルで掃除係をしたり、お金持ちのテニスの審判をしたりしてお金を稼ぎます。そしてマリアは先生になりたくて奨学金でウィーンの国立高等師範学校に入りました。18才で師範学校を卒業すると、寮の仲間と卒業旅行でアルプスの尾根でキャンプに出かけますが、アルプスの夕陽は燃えるような美しさで、その光景を見たマリアは、突然シスターになろうと決意するのでした。
 アルプスの山からそのままザルツブルグの駅に降り立ったマリアは一番厳しい修道院を探します。それがノンベルク修道院だと知ったマリアはノンベルク修道院の門を叩いたのです。マリアは修道女になりたかったのですが、対応したノンベルク修道院の院長に勘違いされてスープのほどこしをされてしまいます。マリアはシスターとなって神の為に働く事を院長に伝えました。院長は神に祈ると、マリアを神がお選びになるかどうかわかる日までマリアをノンベルク修道院にあずかる事にすると言うのです。マリアは大喜びでした。
 修道女の衣装に着替えたマリアは鏡で自分の姿を見ようとしますが、修道院には鏡はありません。修道院では鏡を見る必要がなかったのです。外を見ると雨が降って来そうなので洗濯物を取り込もうとベッドの足にロープをくくりつけると3階の窓からロープを伝って地上まで降りて洗濯物を片づけ、再びロープをよじ登りますが、ロープをくくりつけたベッドの足が折れてしまい、マリアは地面まで落ちてしまいます。その光景を見ていたドローレンス修練長はマリアを夕食抜きにするのでした。マリアは鉛筆の芯を折って罰を受けたラファエラとお友達になります。マリアはアルプスの山が見たくてラファエラを誘って教会の塔のてっぺんに登ります。塔に登るのは規則で禁じられており、ラファエラは気が進みませんでしたがマリアはどうしてもウンテンスベルクの山が見たかったのです。マリアは美しいアルプスの山を見て自分がシスターになろうと決意した時の事を思い出すのでした。しかし塔に登っていたところをドローレンス修練長に見つかりマリアは罰を受けてしまいます。その後もマリアは寝坊や口笛を吹く、階段の手すりを滑り降りる、階段を1段飛ばしで駆け上がる、屋根に登るなどの悪さを繰り返し、とうとうマリアはドローレンス修練長にノンベルク修道院から出て行くように言われてしまいます。しかしマリアにはノンベルク修道院を追い出されると行くあてがありません。マリアは親類の家を家出して師範学校の寮に入り、今ではその師範学校も卒業してしまったのです。マリアは行くあてもないまま「さようなら、ノンベルク」と言うと、涙を流してノンベルク修道院を後にするのでした。
第2話 シスターとしての未来
 マリアがノンベルク修道院を後にしようとしたその時、ラファエラがマリアを迎えに来ました。マリアには行くあてがない事を知った院長はマリアを再びノンベルク修道院にとどまらせる事にしてくれたのです。マリアは大喜びでした。  毎日の務めやしきたりに従う事も神との約束を守るのだと思うとマリアは辛いというよりむしろ楽しみます。修道院の家族に見守られマリアはまもなく実習の機会を与えられたのでした。ノンベルク小学校の先生として教壇に立ったマリアは聖書の時間だというのにギターを持ちだし、生徒たちを集めてみんなで歌を歌い始めます。しかしその光景をシスターローラに見つかってしまいマリアは怒られてしまいます。でもマリアは子供たちと仲良くなる事ができ、とても嬉しい気持ちになるのでした。
 院長に呼び出されたマリアはゲオルク・フォン・トラップという男爵の家に家庭教師としてマリアを派遣すると院長から言われます。7人の子供を持つトラップ男爵は2年前に妻を亡くし、病気が治ったばかりの子供が学校に行けるようになる来年6月までの9ヶ月間だけ家庭教師をしてもらえないかと言うのです。マリアはせっかく学校の子供たちと仲良くなれたのにノンベルク修道院を離れる事には反対でした。しかし院長からマリアが家庭教師として派遣されるのは神の御心だと諭され9ヶ月間だけトラップ男爵の家に家庭教師として行く事を決心しました。出発はすぐでした。マリアは院長からアイゲンまでの片道のバス代だけ貰うと、ずいぶん昔に流行したと思われる古着を与えられ、仲良しだったラファエラにもお別れさせてもらえずにノンベルク修道院をあとにしたのです。マリアを乗せたバスはザルツブルグを出発しました。
第3話 艦長と7人の子供たち
 バスの窓からノンベルク修道院がだんだん小さくなるのを見続けながら、マリアは「9ヶ月なんってあっという間よ」とつぶやきます。トラップ男爵は潜水艦の艦長でオーストリアの英雄でした。しかしマリアはトラップ男爵の家に雇われる家庭教師はマリアが26人目で、誰一人として2ヶ月と続かなかったという話を聞いて不安になります。マリアはトラップ男爵がどんな人なのかとても気になりました。潜水艦の艦長で英雄、きっと毛深くて髭モジャで年もとっているに違いないと思い込みます。
 トラップ男爵の家に着いたマリアはびっくりしてしまいました。そこはまるでお城のような立派な屋敷だったのです。執事のハンスに案内されマリアはトラップ男爵と会い7人の子供を紹介してもらいます。一番上の長男ルーペルトは中学3年生、2番目の長女ヘートヴィッヒも女学校の1年生、3番目の次男ヴェルナーは小学校の4年生、4番目の次女マリアは8才、5番目の三女ヨハンナは小学校の1年生、6番目の四女マルティナは5才、最後の五女アガーテはまだ3才です。でもマリアにはこの子供たちが何か企んでいるように思われました。マリアが面倒を見る事になったのは、同じマリアという名前の8才の少女でした。小さいマリアは2年前に猩紅熱にかかりそれ以来心臓が弱くなり、今も風邪を引いて寝込んでいます。お医者様にも学校には行かない方がいいと言われ、トラップ男爵は小さいマリアの為に家庭教師を呼んだのでした。マリアは自分の部屋に案内されます。そこは大きな部屋が3つもあり、おまけにバスルームまで付いているという豪華さで大喜びするのでした。
 子供たちだけで集まって何やら相談していました。それは家庭教師はお父さんのいる前では優しくして、お父さんのいないところでは命令ばかりするので子供たちは家庭教師が嫌いになっていたのです。そして今度の家庭教師もきっとそうに違いないだろうから、みんなで追い返そうと企んでいたのです。食事の時間、マリアは小さいマリアが食堂に降りて来ないのが気になります。小さいマリアは具合が悪いので1人で部屋で食事すると言うのです。マリアは小さいマリアを食堂に連れだそうと部屋に行くと、小さいマリアは出された食事には手をつけず、すべて流しに捨てていたのです。マリアは小さいマリアに「1人で食べてもおいしくないでしょ。家族はね一緒に食事するから家族なの。同じ家に住んでいながら別々に食べるなんって一番いけないのよ。家族の心が離れてしまうわ。食べたくなければ食べなくてもいいの、何でもいいから食卓を囲むのよ」と言って説得します。ところがマリアの後ろで家政婦長のマチルダ夫人が恐い顔をして立っていたのです。
第4話 26人目の家庭教師
 食べたくなければ食べなくてもいいという言葉をマチルダ夫人に聞かれてしまい、マリアは厳しく怒られてしまいます。マリアは「人を裁く前になぜそうしたのか訳を知る事が大切だと思います」と言って反論するのでした。それを聞いていたメイドのミミーやコックのローズィはマリアの勇気に感激してしまうのでした。マチルダ夫人はマリアをやめさせるようにトラップ男爵に提案します。しかしトラップ男爵はマリアなら子供たちの閉じた心を開いてくれるのではないかと密かに期待していたのでした。その夜、マリアの事をすっかりと気に入ったローズィに夕食をご馳走になりながら、マリアは小さいマリアが毎日ほとんど何も食べていないと聞かされます。マリアは小さいマリアがなぜ食べたくないのか、この世に生きていたくないのではないかと不安に思うのでした。
 翌日、マリアはトラップ家の農園の世話をしているフランツからトラップ男爵の奥さんの事を聞きました。奥さんは2年前、猩紅熱にかかり高い熱を出したのです。その猩紅熱が小さいマリアにも移り、奥さんは亡くなってマリアは一命を取り留めたものの、それ以来心臓が弱くなって病気がちになったと言うのです。そしてフランツはマリアに小さいマリアの家庭教師役を頑張ってくれよと励ますのでした。
 朝の食事の時、トラップ男爵はマリアにトラップ家にやって来た家庭教師の話をしました。これまでにやって来た家庭教師は合わせて25人、しかも誰一人として2ヶ月と続かなかったのです。「あなたにはもう少し長くここにいて頂きたい」と言うトラップ男爵に対し、マリアは「大丈夫です。どんな事があるにせよ私は9ヶ月います。9ヶ月たったら私は修道院に戻ります」と言うのでした。
第5話 マリアは騒ぎの張本人
 しかしその言葉を聞いてヘートヴィッヒは「マリアのいないところで決めるなんっておかしいわ」と言って反論します。ヘートヴィッヒは家庭教師が大嫌いなのでした。でも子供たちが学校に行っている間に、マリアは小さいマリアの為に色々と面倒を見、そして小さいマリアはマリアが両親を小さい時に亡くした事を知るとマリアと小さいマリアはとても仲良しになります。小さいマリアは亡くなったお母さんの事がとても恋しくていつも沈み込んでいましたが、マリアも自分と同じように小さい時にお母さんを亡くしたと知って共感を覚えたのでした。
第6話 迷子とはらぺこ騒動
 小さいマリアを庭に連れだしたマリアはマチルダ夫人から再び怒られてしまいます。マチルダ夫人は小さいマリアの心臓が悪いので外に出さないように言っておいたのですが、食事にも降りて来ないような小さいマリアが庭を散歩したいと言いだしたので、マリアが連れて行ったのです。しかしマチルダ夫人はマリアは小さいマリアの勉強だけを見ればいい、それ以外の事は自分の許可を得るようにと厳しく言って小さいマリアを家の中に連れ戻し、さらに小さいマリア以外の子供とは挨拶以外の言葉を交わしてはならないと言うのでした。
 昼食時にヴェルナーが学校から帰ってきました。ところがヴェルナーは一緒に帰って来るはずのヨハンナを途中で置き去りにして帰って来たのです。マリアは朝も昼も食べていないのにマチルダ夫人の制止を振り切るとヨハンナを探しに出かけ、ようやく見つけ出したのです。それを知ったトラップ男爵はヨハンナには学校までの道のりが長すぎると考え、マリアを小さなマリアの家庭教師にするだけでなく、ヨハンナの家庭教師も受け持ってもらう事に決めました。子供たちに親身になった尽くすマリアの姿に小さなマリアやヨハンナはとてもマリアを好きになってしまうのでした。ヴェルナーもヨハンナの面倒を見なくて済むと大喜びです。ルーペルトもヨハンナが望むのならそうした方がいいと言ってくれます。しかしヘートヴィッヒだけは反対でした。これまでの25人の家庭教師がそうであったように、26人目のマリアだってトラップ男爵の前ではいい顔をして子供たちには冷たくあしらうインチキ家庭教師に違いないと思い込んでいたのです。
第7話 大人は信じられない
 マリアはミミーとローズィに、これまで来た25人の家庭教師について尋ねました。それは2年前にお母さんが亡くなってから7人の子供に、それぞれ1人づつの家庭教師を付けたのが始まりでした。ところがその7人の家庭教師は競争を始めたのです。自分が一番よく思われたくて、トラップ男爵やマチルダ夫人の見ている前で自分の教え子に自分を誉めさせたのです。それを聞いたマリアは子供たちが家庭教師の争いの道具に使われたと知って、とても不憫に思うのでした。
 7人の子供たちが集まってマリアについて話し合います。ヘートヴィッヒは家庭教師が大嫌いでしたが、他の6人はマリアの事を気に入っていました。そしてルーペルトは例えマリアを追い出したとしても、また新しい家庭教師がやってくる、その家庭教師がマリアよりもいい人とは限らないと言ってヘートヴィッヒを説得します。そこへマリアがやって来ました。マリアは自分の生い立ちをみんなに語りました。2才で母親が亡くなり9才で父親もなくなった事。それから親類の家に預けられたが中学を卒業すると1人で生きていく為に働き、そして奨学金で師範学校に入った事などを話します。それを聞いたヘートヴィッヒは、確かにマリアは今までの家庭教師とは違うと感じるのでした。
第8話 礼儀作法が大事です!?
 日曜日の礼拝の帰りにマリアは7人の子供たちと一緒にトラップ家の広い庭を散歩します。あまりの広さにマリアは「こんなに広いと色んな事して遊べるわね」と言うと、子供たちは庭で遊んではいけないとマチルダ夫人が言っていたと言います。庭で遊ぶと服が汚れてしまいますが、子供たちは上等でない服を持っていなかったのです。マチルダ夫人にとってこの庭は静かに散歩する為にあるのでした。さっそくマリアはマチルダ夫人に子供たちに汚れてもいい服を買ってあげて庭で遊んでもいいようにと交渉しますが、聞き入れられませんでした。マリアは仕方なく部屋に子供たちを集めるとギターを弾いて子供たちと一緒に歌を歌うのでした。
第9話 トラップ男爵の婚約者?
 トラップ男爵には再婚を考えている女の人がいました。ベルベデーレ伯爵の御令嬢イヴォンヌ姫です。ベルベデーレ伯爵は自分の娘をトラップ男爵と結婚させようと、明日イヴォンヌ姫をトラップ家に送り込んで来る事になりました。その当時トラップ男爵は経営するベガ船舶会社の経営に行き詰まり、銀行からの融資も断られてお金に困っていました。それを知っていたマチルダ夫人はイヴォンヌ姫と結婚すればベルベデーレ伯爵からの援助が期待できると結婚を薦めますが、トラップ男爵はそんな理由で結婚する事には反対でした。そして何よりイヴォンヌ姫の事は子供たちにはまだ何も話していなかったのです。
 その夜トラップ男爵は子供たちを集めると、イヴォンヌ姫の事を話します。もしかしたら自分たちのお母さんになるかもしれないと… しかしヘートヴィッヒは反対でした。この家に自分たちのお母さんであるアガタ以外のお母さんが来る事が我慢ならなかったのです。そして他の子供たちも同じように考えていたのでした。
 翌日イヴォンヌ姫が大量の荷物と共にやってきました。イヴォンヌ姫はしばらくここで暮す事になるのです。しかしイヴォンヌ姫は子供の事などまったくおかまいなしでした。子供たちもイヴォンヌ姫の気にさわるような事ばかりして追い出そうとします。マリアの提案でトラップ男爵とイヴォンヌ姫、そして子供たちでザルツブルグの町を見物に出かけますが、イヴォンヌ姫は子供たちと離れて2人だけで食事がしたいと言いだすのでした。しかし子供たちがいてはそれも叶わないと悟ったイヴォンヌ姫は、翌日荷物をまとめるとウィーンに帰ってしまいます。イヴォンヌ姫は帰り際、トラップ男爵に「今度はあなただけでウィーンに来て下さらない」と言うのでした。
第10話 ミシンとヴァイオリン
 マリアがトラップ家に家庭教師として来てから半月が過ぎました。半月で100シリングものお給金をもらったマリアはミシンを借りて自分で服を作ろうと考えます。ミミーに案内してもらってミシンを取りに物置に行ったマリアは、そこでホコリをかぶっていたヴァイオリンを見つけます。しかしヴァイオリンは弦が傷んでいてそのままでは弾けませんでした。マリアは小さいマリアにヴァイオリンを教えようと考え、町に出かけて服の材料を買い、ヴァイオリンの弦を直してきました。ところがヴァイオリンを見たトラップ男爵は、そのヴァイオリンは妻が子供のころ愛用していた物で、妻の想い出が多すぎると言ってマリアからヴァイオリンを取り上げてしまうのです。マリアはいつもお母さんの事を思い出して沈み込んでいる小さいマリアが少しでも打ち込めるものが見つかればと思ってヴァイオリンを習わせようと考えたと言って抗議しますが聞き入れられませんでした。
 夜になってマリアは借りたミシンで自分の服を作り始めます。それを小さいマリアとヨハンナが横で見ています。ところがまたもトラップ男爵がやってきてこう言うのです。「フロイライン・マリア、あなたは私がしまい込んだ妻の想い出をみんな引っ張り出してしまうんですね。ヴァイオリンの次はそのミシンですか。そのミシンは妻が父親から送られたものです、結婚のお祝いにね。人が忘れようと努めているのに、それを思い出させるような事はしないで頂きたい」「トラップ男爵! そんな風に忘れようとするより、時々思い出してあげる方が亡くなった人も幸せなんじゃありませんか。大切な人を亡くせば辛いのは決まってますけど、だからと言ってその人の想い出を物置に押し込めてしまうのはどうかと思います。奥様の事を一緒に話す方がマリアも1人でメソメソしなくなるのではないでしょうか」マリアの言葉にトラップ男爵は無言で部屋を出て行ってしまうのでした。小さいマリアはお父さんの部屋に行くとお母さんのヴァイオリンを弾きたいとお願いします。トラップ男爵は考えた末にヴァイオリンを取り出して、今は亡き妻の好きだったモーツァルトを1曲弾くと、マリアにヴァイオリンを渡すのでした。
第11話 どろんこ遊びは最高!
 子供たちが庭で遊べないのを不憫に思ったマリアはトラップ男爵に子供たちが庭で遊べるように遊び着を買ってあげるように提案します。しかしトラップ男爵は無言で部屋を出て行ってしまいます。トラップ男爵はマリアの考えに半分は賛成でした。男の子たちはもっと外で思いっきり遊ぶべきだと考えていたのです。しかし残りの半分は小さいマリアの事が気になっていたのです。小さいマリアは体が弱いので外で遊ぶ事ができません。他の子供たちが外で遊んでいるのに自分だけ遊べないのでは小さいマリアがかわいそうだと言うのです。それを察した小さいマリアは牧場で運動会を開き、自分は競技しない代わりに実行委員長になって競技を考えると言います。トラップ男爵もこの考えには賛成でした。そしてトラップ男爵は店に買物に出かけると子供たちの為に運動靴を買ってプレゼントするのでした。
 日曜日に子供たちだけでなく大人やトラップ家の雇い人まで参加して運動会は盛大に開かれました。マリアはみんなが楽しめた事を心から喜びます。そしてマリアはトラップ男爵からありがとうとお礼を言われるのでした。
第12話 マリア風チョコレートケーキ
 トラップ男爵が旅行で不在の時、マチルダ夫人の妹のアグネスが急病で倒れてしまいマチルダ夫人はお見舞いでウィーンまで泊まりがけで出かける事になりました。マチルダ夫人が出かけると、ハンスやミミー、ローズィまでもが鬼のいぬ間に遊びに出かけてしまい、屋敷には子供たちとマリアとメイドのクラリーネだけが残されました。マリアは子供たちと庭で昼食を取ると、子供たちと一緒にケーキを焼いてみんなで食べるのでした。
第13話 ドン・キホーテの初恋
 学校でフェンシングの対抗試合が近づいてきたのでトラップ男爵はルーペルトにフェンシングを教えますが、なかなか上達しません。そんな時、ヘートヴィッヒの知り合いのナスターシャがおじいさまのいるロシアに来週帰ってしまう事になりました。オーストリアではドイツの勢力がしだいに拡大し、ロシア人が居辛くなったのです。ヘートヴィッヒはナスターシャの為に送別会を開く事にしました。ルーペルトはナスターシャの事が好きだったのですが、ナスターシャにはアントンという恋人がおり、送別会にはアントンも参加する事になりました。
 送別会の日、アントンはナスターシャの為にバレリーナのオルゴールをプレゼントしました。ルーペルトもナスターシャに手作りの木彫りの騎士の像をプレゼントしようとしていましたが、バレリーナのオルゴールがとても素晴らしいものだったので、ルーペルトにはプレゼントをあげる事ができませんでした。アントンはプレゼントにラブレターを入れていたのですが、そうとは知らないナスターシャはラブレターなどよこして来る男の人は嫌いと言われてしまい、慌ててしまいます。そしてみんなが外に出かけている間にアントンはラブレターを回収しようとしてバレリーナの腕を折ってしまいました。そこへルーペルトがやって来て、オルゴールを手にした時みんなが戻ってきて腕が折れている事が発覚し、現場に居合わせたルーペルトが腕を折った犯人に疑われてしまうのでした。
第14話 オルゴールの秘密
 ルーペルトの必死の弁明にナスターシャはルーペルトが壊したのではないと信じてくれますが、アントンは信じようとせず、2人は言い争いになってフェンシングで決着をつける事になりました。アントンはフェンシングがとてもうまく、ルーペルトは散々に打ち負かされてしまいますがルーペルトはアントンから何とか1本取り、アントンは怒って帰ってしまいます。とても気まずい送別会になってしまいましたがナスターシャのお別れの日、アントンは駅まで来るとナスターシャにバレリーナの腕を折ったのは自分だと正直に告白するのでした。
第15話 マルティナと熊のニコラ
 マルティナは熊のぬいぐるみのニコラにココアを飲ませようとしてニコラを汚してしまいます。クラリーネやマリアがニコラを洗おうとしますが、マルティナはニコラを手放そうとはしません。マチルダ夫人の誕生日が明日だと知ったマリアは、マチルダ夫人を驚かせようとみんなで合唱する事にし、その練習の為に子供たちみんなでマチルダ夫人に気付かれないように林の中で練習します。ところがマルティナは練習を抜け出すと小川に行ってニコラを洗いますが、誤ってニコラを小川に流してしまい、それを取ろうとして自分も小川に落ちてしまいます。マルティナは小川で溺れていたところをマリアに助けられますが、家に戻ってからマリアはマチルダ夫人に、なぜマルティナやアガーテまで連れ出したのかと厳しくとがめられます。そしてマルティナは熱を出し、医者のボルトマン先生は翌朝までに熱が下がらなければ肺炎だと言います。それを聞いたトラップ男爵はマリアに「あなたを信頼しすぎたようだ」と言うのでした。
 マリアは夜中に川の下流を探し回ってニコラを探し当て、そして一晩中神に祈り続けました。翌朝マルティナの熱は下がりました。しかしマリアは責任を感じ、また家庭教師としての仕事に自信を失い、朝早くにトラップ家を出るとノンベルク修道院に帰ってしまったのです。小さいマリアはそれを聞くと大きなショックを受けてしまうのでした。
第16話 マリア先生がいない家
 自分に一言も話さずに出ていってしまうなんって… マリア先生はそんな人ではないと信じているのですが、いつ帰ってくるかもわかりません。小さいマリアにとってマリアは今ではお母さん以上の存在になっていたのです。小さいマリアはノンベルク修道院に電話しようとしますが、ノンベルク修道院には電話はありません。そこで小さいマリアはヨハンナと一緒に内緒でノンベルク修道院まで出かけるのでした。小さいマリアとヨハンナはようやくノンベルク修道院にたどり着きましたが、そこでも会う事は認められず、2人はドローレンス修練長にマリアに渡してとニコラを預けると帰ってしまいます。そしてノンベルク修道院の門を出たところでトラップ男爵に出会うのでした。
 マチルダ夫人の誕生日祝いが開かれました。子供たちはマリアと一緒に練習した歌を歌いますが、マリアがトラップ家を出ていった事もあって元気がありません。するとそこへマリアが帰ってきたのです。マリアはノンベルク修道院で元気を取り戻し、再びトラップ家にやってきて子供たちと一緒に合唱してマチルダ夫人の誕生日を祝うのでした。
第17話 傷ついた子鹿
 ヴェルナーがキツツキの穴を見ようと木登りしてズボンを破ってしまいました。トラップ男爵は子供が木登りする事に理解を示しますが、マチルダ夫人は男爵の子供にあるまじき行為だと決め付けてしまいます。そしてマチルダ夫人はトラップ男爵に貴族の家庭のしつけを知らないと注意するのでした。ヴェルナーは男爵の子供なんかやめたいと言って泣きながら家を飛び出してしまいます。ところがヴェルナーは森の中で足をケガした子鹿を見つけました。ヴェルナーとそれを知ったマリアはトラップ家の離れの小屋の中で子鹿のケガが治るまでトラップ男爵には内緒で世話をする事にしました。ところが世話しているところをマチルダ夫人に見つかってしまいマリアはマチルダ夫人からひどく怒られてしまうのでした。
第18話 生きとし生けるもの
 しかしトラップ男爵は理解を示し小さいマリアやヨハンナにも子鹿を見せるように提案するのです。トラップ男爵は子鹿のケガが治ったら野生に帰すように言いますがヴェルナーは手放そうとしません。しかしトラップ男爵は野生の子鹿を人間が育てては野生に帰す事はできなくなる、野生で生まれた子鹿は野生で暮すのがもっとも幸せだと説得し、ヴェルナーは子鹿を鹿の仲間たちのいる所で放すのでした。
第19話 イヴォンヌ姫のお土産
 ベルベデーレ伯爵と娘のイヴォンヌ姫がトラップ男爵の家に来る事になりました。いっこうにトラップ男爵とイヴォンヌ姫との進展が進まないのに業を煮やしたベルベデーレ伯爵はトラップ男爵とイヴォンヌ姫の婚約式を行いにやって来るのです。本来、男爵であるトラップ男爵の方が伯爵家にうかがうものですが、イヴォンヌ姫はもちろんの事、ベルベデーレ伯爵もトラップ男爵の事を気に入っており、伯爵自らが男爵家におもむく事になったのです。それを聞いたマリアはマチルダ夫人に説得されトラップ男爵とイヴォンヌ姫の婚約がうまくいくようにと考えるのでした。しかし子供たちは相変わらずイヴォンヌ姫がお母さんになる事には反対でした。伯爵がやって来る当日、伯爵は風邪をひきイヴォンヌ姫1人でやってきました。そしてトラップ男爵をウィーンに連れて帰るまで帰れないと言うのです。
 マチルダ夫人に入れ知恵されたイヴォンヌ姫は今回は子供たちのご機嫌を取ろうと子供たち一人一人にお土産を持って来る事を忘れませんでした。子供たちは喜びましたがヘートヴィッヒと小さいマリアだけは喜びませんでした。イヴォンヌ姫が物で自分たちを釣ろうとしていると言うのです。それを知ったマリアはイヴォンヌ姫に、なぜトラップ男爵と結婚するのかを子供たちに対等に話をしてほしいとお願いします。しかしイヴォンヌ姫はマリアのお願いをまったく相手にしません。ところがしつこく食い下がるマリアを振り払おうとしてイヴォンヌ姫は階段で足を踏み外し、2人は階段から転げ落ちてしまったのです。
第20話 それぞれの人生
 イヴォンヌ姫は足を捻挫しただけだったのですが、マリアは頭を打っており脳震とうで立ち上がる事すらできません。2人は病院に運び込まれ、しばらく入院する事になりました。その夜、トラップ男爵は自分がイヴォンヌ姫と結婚する事が子供たちにとって本当に幸せかどうかを自分自身に尋ねるのでした。
 翌日、トラップ男爵と子供たち、そしてマチルダ夫人はイヴォンヌ姫とマリアをお見舞いに行きます。イヴォンヌ姫を見舞うと子供たちはイヴォンヌ姫とトラップ男爵を2人っきりにしてマリアを見舞います。イヴォンヌ姫はそこでトラップ男爵に結婚しても子供たちの母親になる気はない、子供たちはマリアに任せて私と一緒にウィーンに行きましょうと言って結婚を迫ります。トラップ男爵はせめてあと3年待ってほしいと答えるのでした。
 子供たちが帰った後、病院でマリアとイヴォンヌ姫は話し合います。イヴォンヌ姫は「子供たちから見れば父親や母親の再婚相手は許せない存在ですもの、特に女の子にとって…」と言います。イヴォンヌ姫も幼い時に母親を亡くし、再婚相手の義母が許せなかったのです。しかしマリアは言います。「でも、人を嫌いになりたい人はいません。イヴォンヌ様は子供たちに嫌われると先にお決めになって、御自分が子供たちを好きになる事を避けていらっしゃいます」「それは… 自分が相手を好きになっても、相手から好かれなければ傷つきますもの…」「当然です、そうやって避けている間に子供たちはイヴォンヌ様に好かれていないのを感じてしまうのです」「でも自分だけ傷ついて終わってしまったら?」「そりゃあ傷つく事だったあります。電気製品のように保証付きの人生はありませんから」しかしイヴォンヌ姫はマリアを生意気な家庭教師と決めつけてしまうのでした。
第21話 トラップ男爵の決断
 マリアはマチルダ夫人からイヴォンヌ姫が子供たちとなつけないのはマリアが子供たちと親しくしすぎるからだと言って、マリアと子供たちの距離を遠ざけようとします。この頃にはマリアは子供たちとすっかり仲良しになり、あれだけ家庭教師嫌いだったヘートヴィッヒですらマリアの事が好きになっていたのです。マリアは何とかしてトラップ男爵とイヴォンヌ姫を婚約させる為、どんな協力も惜しまないと誓い、あれだけ親切で子供たちの事を思っていたマリアもイヴォンヌ姫の為に子供たちに冷たく当たるようになります。小さいマリアはあれだけ大好きだったマリアに冷たくされた事がショックで泣き出してしまいます。ところがその光景を見ていたイヴォンヌ姫は自分が子供たちと仲良くなる為にあなたが子供たちに冷たくする必要はないと言って部屋を出て行ってしまいます。マリアは小さいマリアに冷たくした事を謝ると、2人で抱き合って喜ぶのでした。
 イヴォンヌ姫は子供たちの部屋に行って話をします。イヴォンヌ姫はトラップ男爵と結婚しても子供たちの母親になる気はなく、無理しない程度にお付き合いしたいと言うのです。ヘートヴィッヒはお父様はお母様以外の女の人と結婚してはいけないと言いますが、イヴォンヌ姫はトラップ男爵の人生は子供が決めるものではなく御自分で決めるものだと言うのでした。
 イヴォンヌ姫は明日ウィーンに帰る事になりました。イヴォンヌ姫は自分との結婚についての結論を早く出してほしいとせがみます。トラップ男爵はイヴォンヌ姫との結婚を望んでいないわけではありませんでしたが、子供たちの事を考えると結婚するべきかどうか答えを出せないでいたのでした。しかしとうとうトラップ男爵は明日答えを出すと宣言します。イヴォンヌ姫は喜びながら自分がトラップ男爵と結婚しようと決めたのはトラップ男爵をアガタが選んだからだと言うのでした。
 トラップ男爵はイヴォンヌ姫との結婚についてマリアに相談しました。マリアは自分は来年の6月にはノンベルク修道院に帰ってしまうので、子供たちの為にそれまでに新しいお母さんが見つかってほしいと言います。それを聞いてトラップ男爵は決心しました。  トラップ男爵は子供たちを集めると2つの重大な発表をしました。1つ目はマチルダ夫人が来年の6月でトラップ男爵の屋敷の家政婦長をやめてウィーンの名門女学院でお作法の講師として働く事になったと告げました。そして2つ目はトラップ男爵はイヴォンヌ姫と婚約すると発表したのです。それを聞いた小さいマリアはショックで倒れてしまいました。
第22話 一人で生きてゆけるの?
 トラップ男爵は婚約を申し込む為、ベルベデーレ伯爵の屋敷に向かいました。ヘートヴィッヒと小さいマリアは何とか婚約をやめさせようとしますが、いい手が見つかりません。とうとうヘートヴィッヒは家出してしまいました。ところがおじいさまのホワイトヘッド男爵の家に行こうと駅に行きますが、ハンドバックを奪われてしまいヘートヴィッヒは無一文になってしまいます。ヘートヴィッヒは行くあてもなく町をさまよっているとトーマスという少年に出会いました。トーマスはヘートヴィッヒを家に招くと食事を提供します。しかしマリアは突然体調を崩してしまいました。トーマスがノンベルク小学校に通っていた事を知ったヘートヴィッヒはトーマスにマリアを呼んできてくれるようにお願いします。トーマスはノンベルク小学校に行くとラファエラを連れて駅に向かいマリアを探し出します。そしてマリアはトーマスの家にヘートヴィッヒを迎えに行きます。ヘートヴィッヒの体調が悪くなったのは大人の女性になったからでした。そしてヘートヴィッヒはマリアに説得され家に帰るのでした。
第23話 天使への願い事
 クリスマスが近づきマリアと子供たちは小さいマリアの部屋で月桂冠を作ります。月桂冠が完成したところで、どの部屋に飾ろうかとみんなで悩んでいました。マリアはトラップ男爵に「これは本来居間に吊るすものですが、この家には居間がないような気がするので…」と言います。トラップ男爵は「あるでしょう、居間なら」と言いますが、ヘートヴィッヒは「一緒に過ごせる家族のいない居間なんって名前だけじゃない」と言って部屋を出て行ってしまいます。ルーペルトの提案でみんなで集まって月桂冠を作った小さいマリアの部屋に吊るす事にしました。そしてトラップ男爵はマリアに「この家でみんなが集まる場所というのは、結局あなたのいる場所です」と言うのでした。月桂冠は小さいマリアの部屋に吊るされ、クリスマスまでの4回の日曜日ごとにロウソクに1本ずつ火を灯し月桂冠の下でクリスマス・キャロルを歌います。そして子供たちはイエス様に秘密の願い事を書き、窓際に置いて眠るのでした。トラップ男爵はマリアのおかげで子供たちがこれほどまでに明るくなった事を嬉しく思い、マリアと巡り合わせて下さった事を神に感謝するのでした。
 マチルダ夫人はマリアを呼び出すとマリアに出て行けと言います。マリアがいるとトラップ男爵とイヴォンヌ姫の婚約に差し障りがあるからと言うのですが、マリアは納得できません。そして子供たちもマリアにこの家に居続けてほしいと反抗し、トラップ男爵もまたマリアに居続けてほしいと思うのでした。
第24話 クリスマス・キャロル
 イヴォンヌ姫がトラップ男爵をベルベデーレ伯爵の別荘に鹿狩りに招待しました。しかし別荘はハンガリーにあり、1日や2日では帰って来られません。マチルダ夫人はトラップ男爵にぜひとも別荘に行ってイヴォンヌ姫との仲を深めてもらおうとしますが、トラップ男爵は子供たちの事を考えると決断できませんでした。そしてトラップ男爵はマリアにどうすればいいのかを尋ねたのです。マリアは来年のクリスマスには新しい家族が1人増える事になるのだから、今の家族で過ごすクリスマスは今年が最後になる。だからトラップ男爵はこの家でクリスマスを過ごすべきだと言います。トラップ男爵もその考えに同意し、イヴォンヌ姫のお誘いを断る事にしました。マチルダ夫人はマリアの存在がイヴォンヌ姫と子供たちの仲良くなれない理由ではないかと考え始め、トラップ男爵にマリアをやめさせるように提言します。しかしトラップ男爵は妻のアガタが亡くなって以来、子供たちには辛いクリスマスを過ごさせてきたが、今年はマリアがいるおかげで楽しいクリスマスが過ごせそうだと言うのでした。
 クリスマスを前にしてマリアの提案で子供たちには内緒で居間に大きな樅の木のクリスマスツリーを飾る事にしました。マリアとトラップ男爵が夜遅くまで一緒にツリーの飾りつけを行っているうちに、トラップ男爵はマリアの明るくはつらつとした人柄に引かれ始めます。そしてクリスマスの日、マリアとトラップ男爵は子供たちと一緒に楽しくクリスマスを祝うのでした。
第25話 白銀のアルプスにて
 年が明け、再びイヴォンヌ姫からベルベデーレ伯爵の別荘にお誘いがありました。今度はアルプスの別荘に子供たちやマリアも一緒に招待されたのです。子供たちはマリアと一緒に行けるのと、アルプスの山でスキーができるので大喜びでした。別荘に着いてもイヴォンヌ姫はまだ来ていません。イヴォンヌ姫は別荘に来る途中のクラーゲンフルトの叔母の家で風邪をひいて寝込んでしまっていたのでした。子供たちはアルプスの山でスキーをして楽しみます。ところがルーペルトはなぜか元気がありませんでした。ルーペルトは学校で冬休みの間に自分の進路を決めてくるように言われていたのです。ルーペルトはマリアに相談しましたが、マリアはそういった大切な事はまずお父さんに相談するべきだと言います。ルーペルトはお父さんに相談しますがトラップ男爵は人の役に立つ仕事をしなさいと言います。トラップ男爵はその夜ルーペルトの進路についてマリアに意見を求めるのでした。
第26話 オレンジと花の苗
 トラップ男爵はイヴォンヌ姫のお見舞いに子供たちの誰か1人を連れて行こうとしますがヘートヴィッヒや小さいマリアは反対でした。お見舞いに行くと婚約を認めるような気がしたからです。マリアはイヴォンヌ姫が子供たちのお母さんになるのだと子供たちを説得しますが、小さいマリアはマリアがノンベルク修道院に帰りたいから自分たちにイヴォンヌ姫を押しつけたがっているのだと言って泣き出してしまいます。結局トラップ男爵1人がお見舞いに行く事になりました。イヴォンヌ姫はトラップ男爵の見舞いをたいそう喜び、そして結婚して子供たちは学校の寄宿舎に預けて2人だけで生活したいと言います。しかしトラップ男爵はきっぱりと子供たちを手放す気はないと言うのでした。
第27話 昨日・今日・明日
 マリアは復活祭までの40日間、肉を食べない事にしました。そして余った時間を利用して刺繍を作り、ノンベルク修道院に寄付すると言うのです。それを聞いた子供たちもマリアを見習って何かを始めようと考えました。小さいマリアとヨハンナはいつもより30分早起きしてアイゲンの教会にお祈りに行く事にしました。そしてマリアの子供の頃の苦労話を聞いたトラップ男爵も、自分も何かやってみようという気持ちになり40日間禁煙する事にしたのでした。
第28話 いたずらアガーテ
 イヴォンヌ姫が突然トラップ家にやってきました。トラップ男爵を驚かせようと靴を脱いで忍び足で屋敷に入りトラップ男爵を驚かせたのですが、脱いだ靴をアガーテがいたずらしてしまい、靴はボロボロになってしまいます。イヴォンヌ姫はトラップ男爵に結婚したら子供たちのお母さんになれるように努力してみると言います。そして乳母を雇って叱り役をしてもらい、自分は叱らないで慰め役にまわると言うのです。それを聞いてトラップ男爵やマリアも顔をしかめてしまいました。アガーテはハサミを取り出すと食堂のテーブルクロスやカーテンを切っていたずらします。マリアはアガーテのお尻をぶって叱りますが、イヴォンヌ姫はアガーテをかばい、アガーテはすっかりとイヴォンヌ姫になついてしまいました。ところが食事の時、イヴォンヌ姫の隣に座ったアガーテは肉を手でつかむとイヴォンヌ姫に食べさせようとするのです。顔をそむけるイヴォンヌ姫に、なおも肉を差し出し、アガーテはイヴォンヌ姫のドレスの上に肉を落としてしまいます。イヴォンヌ姫は怒って車に飛び乗ると帰ってしまいました。
第29話 妻になる人、母になる人
 アガーテがイヴォンヌ姫を怒らせたので子供たちは大喜びでした。子供たちはマリアがずっといてくれたら新しいお母さんなんかいらないと言います。でもマリアは6月になったらノンベルク修道院に帰ってしまいます。その6月まであとわずかに迫っていたのでした。
 イヴォンヌ姫は後悔していました。子供のしでかした事に怒って家を飛び出してしまうなんって、きっとトラップ男爵に気難しくて気位の高い女だと思われたに違いないと考え思わず泣いてしまいます。そしてイヴォンヌ姫はトラップ男爵を電話で呼び出し2人だけで話をするのでした。
 マリアは考えた末、約束の6月まであと1ヶ月ありますが、家庭教師の仕事をやめてノンベルク修道院へ帰ろうと決心します。何だか自分がいるとイヴォンヌ姫と子供たちが仲良くなるのを邪魔しているような気がしたからです。子供たちには話さずにマチルダ夫人に話すとマチルダ夫人は大賛成で、さっそくイヴォンヌ姫とトラップ男爵に報告に行きます。それを聞いたイヴォンヌ姫も賛成でした。しかしトラップ男爵は「とんでもありません! 大人だけの都合でやめてしまうなんって… 見損ないました、フロイライン・マリア」と声を荒げて反対します。それを聞いたイヴォンヌ姫はトラップ男爵を連れ出すとマリアの事が好きなのねと問い詰めます。トラップ男爵もそれを認めた為、イヴォンヌ姫は怒って帰ってしまうのでした。
第30話 結婚してくれますね!?
 イヴォンヌ姫はトラップ男爵との婚約を破棄すると、3才年下の英国貴族の男性とすかさず婚約してしまいました。マチルダ夫人はその新聞記事を見てはため息をつくのでした。
 マリアがトラップ男爵の家にいるのも、あと10日となってしまいます。マリアはトラップ家を出て行くにあたって大掃除をしようとしますが、子供たちもトラップ男爵もマリアとの別れは辛いので、少しでも一緒にいようと大掃除を手伝います。そしてマリアがいない時に子供たちはマリアがノンベルク修道院に帰らなくてすむ方法を考え出しました。それはトラップ男爵がマリアと結婚すればいいと言うのです。子供たちはこの考えに大賛成でした。マリアだったら自分たちのお母さんとして認める事ができたのです。トラップ男爵はそれを聞いてびっくりしてしまいました。そしてトラップ男爵は子供たちにマリアの事が好きだと言いますが、はたしてマリアはトラップ男爵の事が好きかどうかわかりません。子供たちはマリアからお父さんの事が好きだと聞き出すとそれをトラップ男爵に報告します。トラップ男爵はマリアが結婚を承知してくれたものだと勘違いして、マリアに結婚を承諾してくれてありがとうとお礼を言います。しかしマリアにとっては子供たちにトラップ男爵の事が好きかと聞かれたので好きと答えただけの事で、結婚などまったく考えた事がなかったのです。そればかりかマリアはノンベルク修道院から家庭教師として派遣されたシスターであり、結婚など認められるはずがなかったのです。マリアは頭を抱えて考え込んでしまうのでした。
第31話 神様の思し召し
 トラップ男爵がマリアに求婚した事を知ったマチルダ夫人は断固反対します。マチルダ夫人はトラップ男爵とマリアは身分や年齢が違いすぎると言います。さらに貴族の結婚は好きかどうかではなく貴族として相応しいかどうかだと言うと、トラップ男爵はマリアと結婚する為に貴族をやめると言いだしたのです。トラップ男爵は自分にとっても子供たちにとってもマリアはなくてはならない人になっていたのです。そしてトラップ男爵は子供たちに「お前たちは決して身分だの階級だので人を見てはいけない」と言って、マチルダ夫人に「子供たちに間違った事を教えないでほしい」と言うのでした。マチルダ夫人はマリアに求婚を断るように詰め寄りますが、子供たちはマリアにお母さんになってほしいとせがみます。マリアは自分がこんなに必要とされているのだと思うと、嬉しくて泣いてしまいます。しかしマリアは神に預けた身だから自分の一存では決められないと言ってノンベルク修道院に一度戻って院長に相談する事にしました。
 マリアはノンベルク修道院に戻ってきました。トラップ家を出た時はトラップ男爵と結婚するつもりだったのですが、ノンベルク修道院に戻りラファエラから暖かく歓迎されると、マリアはノンベルク修道院こそが自分の家だという気がしてきたのです。そしてマリアは自分がノンベルク修道院に来て神に捧げる身である事を思い出したのです。マリアは院長にシスターとして再びノンベルク修道院で働くと言いますが、院長にトラップ男爵と7人の子供たちの事はどうするのかと問われ、わからないと答えるマリアに「あなたの心は既に決まっているようです、あなたが納得のいくまで祈りなさい」と言うのでした。その頃トラップ家でも子供たちはマリアが自分たちのお母さんになってくれますようにと神に祈り続け、トラップ男爵は玄関に椅子を持ちだしてマリアの帰りを待ち続けるのでした。
 マリアが祈り続けているとドローレンス修練長がやってきて「この神の家だけが神がいらっしゃる所ではありませんよ。あなたがどこにいようと神はいつもあなたのすぐそばにいらっしゃるのです。あなたが求めさえすれば… 修道院を出るからと言って神の国から追放されるわけではありません。神があなたを必要としているように8人の人達があなたを必要としているのでしょ。あなたがノンベルク修道院に来てトラップ男爵のもとに派遣されたのも、すべて母のいない7人の子供たちとトラップ男爵をあなたに巡り合わせる為に神がなさった思し召しのような気がします」と言ってマリアがトラップ男爵と結婚する事を祝福してくれたのでした。
 マリアは決心してトラップ家に戻ってきました。マリアが屋敷の玄関から入ると、玄関にはトラップ男爵が一晩中待ち続けていたのです。マリアは嬉しさのあまり泣きながらトラップ男爵と抱き合うのでした。
第32話 七月の花嫁
 マチルダ夫人はトラップ男爵とマリアとの結婚には断固反対でした。トラップ男爵は世間の悪評を吹き飛ばす為、亡くなったアガタの両親にマリアとの再婚を認めてもらうようにお願いに出かけ、しばらく屋敷には戻らず地中海でヨットに乗って暮す事にしました。その間、トラップ家をマチルダ夫人とマリアの2人で支えます。ルーペルトは高校への進学の為、入学試験を受けに行きます。数日後アガタの両親はマリアとの再婚を認めてくれたばかりか、マリアにウェディングドレスをプレゼントしてくれたのです。20日ほどしてトラップ男爵は屋敷に戻り、今度はマリアがノンベルク修道院に10日間、黙想に行きます。マチルダ夫人とクラリーネはマリアの結婚にあわせてトラップ家をやめてウィーンに帰る事にしたのでした。
 7月のある日、とうとうトラップ男爵とマリアの結婚式がノンベルク修道院で行われました。マリアはシスターの仲間たちに祝福されます。マチルダ夫人はマリアに腕時計をプレゼントしてトラップ家の子供たちをお願いしてウィーンに帰ってしまいました。
第33話 本当の家族
 結婚式の翌日、トラップ男爵とマリアと子供たちは新婚旅行で近くの湖に日帰りで出かけます。トラップ男爵とマリアは今までお違いの事を“トラップ艦長”“フロイライン・マリア”と呼びあっていましたが、結婚してからはおかしいという事になり、これからは“ゲオルク”“マリア”と呼ぶ事にし、子供たちもマリアの事を“マリアお母さん”と呼ぶ事にしました。
 マリアたちが家に戻るとルーペルトの入学試験の合格を知らせる通知が来ていました。みんなは喜びましたが、突然電話が鳴り、ランメル銀行が破産した事を知らせてきました。トラップ男爵は両親がランメル夫人に助けられた事があったので、ランメル夫人の経営するランメル銀行の経営が行き詰まったと聞いて全財産を預けてランメル夫人を助けていたのですが、銀行が破産してしまったので預金はすべて失われ、無一文になってしまったのです。トラップ男爵はランメル夫人を助けたのは間違いだったと言って後悔します。ところがマリアは困った人を助ける為にお金を使ったのだから間違ってはいないと言うのです。トラップ男爵は屋敷は売らなくていいが、食費と4人の使用人に払うお金がないと言います。マリアは働いて稼げばいいのよと言って、さっそく仕事探しを始めるのでした。
 トラップ男爵はお金持ちの友人たちに借金を申し込みに行きますが、トラップ男爵が無一文になったとわかった途端に断られてしまいます。しかし庭師のフランツはトラップ男爵がお金に困っている事を知ると今までため続けたお金を惜しげもなくトラップ男爵に提供して援助するのでした。
 マリアは仕事を探してきました。カトリック大学の学生や教授が下宿を探しており、トラップ家の余った部屋で下宿屋を始めようと言うのです。トラップ男爵も子供たちも大賛成でした。ルーペルトは学校に行くのをやめると言い出します。入学試験には合格したのですが、学校で勉強するのにはお金がかかります。ルーペルトは家にお金がないのを心配したのでした。しかしマリアは、かつてマリアがそうだったように自分が学校で学ぶ費用を自分で働いて稼ぐように薦めます。ルーペルトもその意見に賛成し、自分で働いて学校に行く事にしました。
 トラップ家は下宿屋として改造する事にし、1階と2階を下宿屋として礼拝堂まで作り、3階を家族の住む部屋にする事にしました。ルーペルトは屋敷を出て学校の寄宿舎に住み、本屋の店員として働きます。トラップ男爵は無一文になって初めて家族の大切さと本当の豊かさを知るのでした。
第34話 ファミリー合唱団誕生
 下宿屋として新しい生活が始まりました。子供たちも下宿屋の掃除や洗濯などを手伝います。トラップ家にはお金がなく、今雇っている4人の使用人も数を減らす必要があります。トラップ男爵は行くあてのある人は遠慮なくやめてもらいたいと言いますが、不景気な世の中でどこも就職先は見つからず、誰も名乗りを上げませんでした。しかしメイドのミミーは毎朝牛乳を運んでくるカールという青年から結婚を申し込まれていました。ミミーはトラップ家に自分がいなくても子供たちだけで掃除や洗濯ができると考えトラップ家をやめてチロルの村にお嫁に行く事にするのでした。
 マリアと子供たちは神父のバスナーさんと一緒に庭で歌の練習をしていると、有名なオペラ歌手のロッテ・レーマンさんが下宿に住まわせてほしいとやって来ました。レーマンさんはマリアたちの歌を聞くととても感心し、歌のコンクールに出場してほしいと依頼します。トラップ男爵は反対でしたがレーマンさんはコンクールの審査員をしており、家族が楽しく歌うところをぜひとも観客に見てもらいたいと言って説得します。バスナーさんもマリアも子供たちも賛成したのでトラップ一家家族合唱団として音楽祭に出場したのでした。
第35話 歌声は風にのって
 トラップ一家の歌はとても評判がよく、ザルツブルグのラジオ局から出演依頼が来ました。トラップ男爵は子供たちに歌を歌わせて出演料を取る事には反対でした。ところがマチルダ夫人から手紙が来て、子供たちのおばあさんであるホワイトヘッド夫人の具合が悪いと知らせてきたのです。トラップ男爵は子供たちを連れてウィーンまでお見舞いに行こうとしますが、そのお金がありません。そこでラジオに出演しておばあさんに歌声を聞いてもらおうと考えたのです。トラップ男爵もこの考えには賛成でした。トラップ一家の歌はオーストリア中に流れ、オーストリア共和国大統領のクルト・フォン・シュスヒニッヒもまたラジオから流れてくる子供たちの歌声をとても気に入り、大統領主催のパーティーで歌ってほしいと電話をかけて来たのです。子供たちは大統領が直接電話するはずがないと言って信じませんでしたが、それから1週間後に大統領主催のウィーン・フィル・ハーモニー管弦楽団のパーティーの正式な招待状がトラップ家に届いたのです。
 トラップ一家は大統領主催のパーティーでウィーン・フィル・ハーモニー管弦楽団の伴奏のもとで合唱し、大統領はたいそう御満悦でした。パーティーの後、トラップ男爵とマリアは大統領とクライネンホールの支配人に呼び出され、トラップ一家にクライネンホールで演奏会を開いてもらいたいと提案します。しかしトラップ男爵は家族をお金を稼ぐ演奏家にはしたくないと言ってきっぱりと断ってしまいます。それを聞いていた大統領はオーストリアはドイツのヒトラーがオーストリアへの観光を禁止してしまったので、観光で生計を立てている国民は精神的には経済的にも大きな打撃を受けており、そういった人々にオーストリアの美しい歌を聞かせて生きる勇気を与えてやりたいと説得し、トラップ男爵はようやく演奏会を開く事を認めるのでした。
 トラップ一家は演奏会でウィーンを訪れたついでに、具合の悪かったホワイトヘッド夫人を訪れ、おばあさんと久しぶりの再会を喜ぶのでした。
第36話 ナチス侵攻
 大統領の推薦でクライネンホールでトラップ一家の演奏会が開かれる事になりました。トラップ一家の前にアメリカの有名な歌手マリアン・アンダーソンのコンサートが開かれておりホールは観客でいっぱいです。子供たちはとても緊張しましたが、演奏会は何とか無事に終える事ができ、観客たちもとても喜びました。演奏会が終わった後、トラップ一家は楽屋で新聞記者に写真を写してもらいます。そしてアメリカの新聞記者ワグナー氏がトラップ一家合唱団にアメリカ演奏旅行をしてもらいと言いますが、トラップ男爵は音楽を生活の手段にするつもりはなく、音楽は生活の楽しみにとっておきたいと言って断ります。ワグナー氏はもし気が変わったらここへ連絡してくれと言って名刺を渡して帰っていきました。
 トラップ男爵とマリア、そして7人の子供たちが静かな暮しをしていた1938年3月11日。突然ドイツ軍がオーストリアに進攻して来たのです。オーストリアはヒトラーの手によってドイツに併合されてしまいました。このザルツブルクにもドイツ軍はやって来ました。トラップ一家では祖国を奪い取ったナチスを歓迎しませんでしたが、執事のハンス1人は胸に鍵十字のワッペンを付けて1人で乾杯し、ナチスを歓迎するのでした。
第37話 あたらしいご挨拶
 ハンスはトラップ男爵に玄関に飾ってあるオーストリア国旗を目立たない場所にしまった方がいいのではないかと提案しますが、トラップ男爵は断固として拒否します。トラップ男爵はこの地球が続く限りオーストリアはなくなる事はないと言い切りますが、ヒトラーはオーストリアをドイツに併合すると、オーストリア国歌を歌っただけで死刑にする法律を作ったのです。トラップ男爵はナチスが嫌いでヒトラーの悪口を言いますが、それを聞いたハンスはそれを他人に聞かれたら家族がどうなるかわかりませんよと脅かすのでした。
 子供たちは学校に行ってびっくりしてしまいます。学校にはナチスの鍵十字の旗が掲げられ、先生は全員代わっていました。そして今日から挨拶は「ハイル・ヒトラー」になったと言って生徒に練習させるのです。トラップ男爵は子供たちが学校でそんな挨拶をさせられているのかと思うと怒りが込み上げてくるのでした。子供たちも他の生徒たちの手前もあって、手だけ上げて声は出さないようにしていましたが、ナチスの言いなりになるのは嫌な事だったのです。次の日、ヨハンナは学校で挨拶しないところを先生に見つかってしまい、なぜ挨拶しないのかと先生に問われたヨハンナは、その挨拶はお父さんが嫌いだからと言ってしまい、保護者であるマリアが学校に呼び出されてしまいます。マリアは校長先生からしつけはもっと厳しくした方がいいと言われますが、マリアは子供たちは自分の考えをしっかりと持っていると言い返すのでした。その夜、マリアとトラップ男爵は自分たちの考えを子供たちの前で言わない方がいいと語るのでした。子供たちは何とか「ハイル・ヒトラー」と言わないですむ方法を相談し、ヴェルナーの提案で挨拶の時には「アヒルこけた」と言う事にしたのでした。
第38話 ハンスの秘密
 突然ドイツの秘密国家警察がトラップ家を訪ねて来ました。近いうちにヒトラーがザルツブルグに来るから全住民は鍵十字の旗を掲げなければならないと言うのです。トラップ男爵は旗を買うお金がないと言って追い返しますが、すぐに戻ってくると大きな鍵十字の旗を渡すのでした。
 マリアは過労で倒れてしまいます。フランツはすぐにボルトマン先生を呼びに行きますが、ボルトマン先生はいませんでした。ボルトマン先生はナチスに連行されていたのです。仕方なくトラップ男爵とマリアは汽車に乗ってミュンヘンまで行って別の先生の診察を受けました。マリアは疲労で腎臓が悪くなっており、おまけに妊娠していると言うのです。トラップ男爵とマリアは大喜びしました。ところが先生は妊娠すると子供が負担となってますます腎臓が悪化し、奥さんの命まで危険になるから子供は断念した方が良いと言います。マリアは子供をおろす事には絶対反対で、どんな事があっても子供を生もうと決心するのでした。トラップ男爵とマリアは病院からの帰り、ミュンヘンのレストランに入りますが、何とそこにはヒトラーが来ていたのです。2人は恐くなって店を出ていくのでした。
 ザルツブルクに戻って来たトラップ男爵とマリアは屋敷を見てびっくりしてしまいます。屋敷には何と鍵十字の旗が掲げられていたのです。トラップ男爵は慌てて旗を引きずり下ろしますが、そこへハンスがやって来て、国家秘密警察の人に旗を掲げる代わりにトラップ男爵を反逆者として連絡しないでくれと頼んでいたと言うのです。トラップ男爵はナチスがそんな約束を守るはずがないと言いますが、ハンスは自分だけは違うと言って鍵十字のワッペンを見せました。そうです、ハンスはナチ党の党員だったのです。それを聞いてマリアは再び倒れてしまうのでした。
第39話 誇りと信念
 トラップ男爵はハンスを首にしようとしますが、ハンスは自分がいるおかげでトラップ一家が無事に過ごせているのだと言って出て行こうとはしません。トラップ男爵は懐からナイフを取り出すとハンスの持っていた鍵十字の旗を真っ二つに裂いてしまうのでした。
 子供たちはハンスの前では話しもできなくなってしまいました。そればかりかどこで盗み聞きされているかわからないので、満足に話もできません。そのうちにヒトラーからトラップ男爵に手紙が来ました。それはかつてオーストリア海軍の潜水艦の艦長だったトラップ男爵に、ドイツ軍の誇るUボートの司令官にならないかというものでした。トラップ男爵は喜びましたがナチスに協力する気はありませんでした。トラップ男爵はヒトラーからの手紙を握りつぶして屑かごに捨てると、返事も帰さずに数日を過ごしていました。そこへ再び国家秘密警察がやって来てミュンヘンでヒトラーの誕生日の式典が行われ、そこでトラップ一家合唱団に歌を歌うように伝えたのです。拒否することは許されませんでした。しかしマリアや子供たちはヒトラーの誕生日の式典に参加すれば、きっとドイツの国歌を歌わされ、おまけに「ハイル・ヒトラー」と言わせられると考え、行く事には反対でした。
 トラップ男爵は旗を掲げるのを断り、Uボートの司令官を断り、これで3度断る事になると考えます。このままこの家で暮す為には正しくないと思う者に従わなければならないと考えますが、トラップ男爵には自分の意志に背く事はできませんでした。トラップ男爵は一度誇りと信念を失ったら二度と取り戻す事はできないと考え、オーストリアから亡命する事を決意したのです。
第40話 さようならわが祖国
 亡命の計画は、まず汽車で寄宿舎に入っているルーペルトと合流し、チロルの村のミミーを訪ねる。そしてアルプス越えでイタリアに入り、そこからスイスに行くというものでした。トラップ一家はハンスに気付かれないようにハイキングに出かけると偽って必要最小限の荷物をまとめると朝早くに家を出ていきます。バスナー牧師も亡命に参加しますが、ハイキングに一緒に行くと怪しまれる為、あらかじめ教会に泊まり込んでもらい駅で合流する事にしました。フランツにはルーペルトに伝える伝令役を頼みましたが、ローズィにはナチスに見つかった時に計画を知っていると捕まってしまうので内緒にしたままでした。しかし見送りに玄関まで来てくれたローズィに子供たちは泣きながら別れを告げ、ローズィも事態を悟るのでした。トラップ一家はバス停で偶然ハンスに出会ってしまいます。ハンスはトラップ一家がハイキングに行く事は聞いていましたが、小さいマリアがお母さんの形見であるヴァイオリンを持っている事を不審に思います。そこへフランツがやって来ますが、ハンスがいる手前、ルーペルトに伝えた事を報告する事ができません。とうとうバスがやって来ました。バスに乗り込むトラップ男爵に対しフランツは「艦長殿、出港準備完了!」と報告するのでした。
 トラップ一家はザルツブルクの駅から汽車に乗り込み、マリアは汽車の窓から見えるノンベルク修道院に心の中で別れを告げます。ルーペルトは1人バスで駅に向かっていたのですが、途中事故に遭ってしまいバスは動きません。ルーペルトは走って駅に向かいますが駅に着いた時には汽車は出た後でした。ルーペルトが来ないのでトラップ男爵は1人駅に残ってルーペルトの到着を待ち、マリアと子供たちは先にチロルの村のミミーの家に向かったのです。トラップ男爵とルーペルトは無事に合流し、マリアたちに遅れてミミーの家に到着します。ところが汽車の中で国境が閉鎖されるという噂を耳にし、その日のうちに国境を越える事にしました。車の手配がつかず、トラップ男爵たちはミミーの旦那のカールの手助けを借りて霊柩車でイタリアへ向かいます。途中、国境の検問でドイツ軍に尋問されますが、霊柩車にはバスナー牧師も乗っていたのでうまく切り抜ける事ができ、イタリアに入る事ができました。そして汽車でイタリアからスイスに逃れた頃に国境封鎖のニュースを聞いたのでした。
 アメリカの新聞記者ワグナー氏はトラップ一家合唱団がアメリカに亡命して新天地で生活できるようにと船の切符と当面の生活費を送ってくれたので、トラップ一家はアメリカに亡命する事を決意しました。そして船に乗って大西洋を渡りアメリカのニューヨークで新しい生活が始まるのでした。
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