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北海道自転車ツーリング 9日目
然別峡〜トマム〜かなやま湖 −謎の街トマム−
2010年08月14日

9日目の走行地図

9日目の速度グラフ
速度
9日目の高度グラフ
高度

 目覚めると4時20分だった。昨夜は一度も目覚めることなくぐっすりと寝ることができた。しかもジャージーの上下を着てシュラフにくるまって寝たおかげか、寒くなかったのがありがたい。とりあえずテントの中で着替えを済ませてテントを開けると、空は曇ってはいないがここは山間のキャンプ場なので朝日を見ることはできそうになかった。
 私は昨夜の間にシイシカリベツ川の水かさが減って鹿の湯が入浴可能になっているのではないかと期待を込めて偵察に行くが、大きい方の湯船は相変わらず川の水が入り込んでおり入浴できそうにない。上側にある小さい夫婦の湯は入浴可能だが、昨日入ったし先客もいたので入浴は断念して撤収作業に取りかかる。隣にテントを張ったライダーの話では川の水が引いただけではダメで、湯船の水を全部抜いて湯船に堆積した土砂を掻き出し、それから温泉を溜めることになるので丸一日はかかるとのことだった。
 朝食は昨日の残りご飯でおじやを作って食べる。昨日洗濯した服を自転車に干したままにしていたが、昨夜の露付きでまったく乾いていなかった。さすがに今朝も寒くて濡れたままの服を着る気にはなれなかったので、昨日走りながら干して乾かしたサイクリングジャージーを着た。今日もおそらく雨は降らないだろうから、昨日洗濯してまだ乾いていないサイクリングジャージーは再び走りながら荷台で干すことにしよう。
撮影日時:2010/08/14 04:33:03 シャッター速度:1/6 絞り:F4.0 焦点距離:34mm
鹿の湯には相変わらず川の水があふれていた
撮影日時:2010/08/14 05:28:12 シャッター速度:1/100 絞り:F5.6 焦点距離:24mm
然別峡野営場はテントであふれていた
 5時過ぎに朝食を終えテントの撤収に取りかかった時、せっかく無料の温泉がある場所に泊まっているのだから、どうしても温泉に入りたくなりタオルだけ持って鹿の湯に向かった。鹿の湯に着くと小さな浴槽に髪の長い人がいたので、女の人かと思ってドキッとしたが、よく見ると若い男の人だった。しかしそれ以上に驚いたのは、その人が背中に入れ墨、いやタトゥーをしていたことだ。私はどうしようかと悩んだが、思い切って声をかけると、案外気さくな人で一緒に入浴させてもらう。ちょっと熱かったがとても気持ちのよい朝風呂だった。
 鹿の湯を堪能して5時30分から撤収開始。テントは露付きで完全に濡れており撤収には時間がかかったが、それでもどうにか6時10分には撤収完了。昨日お酒をごちそうになった山屋の人に挨拶して、キャンプ場を出発する。山屋の人は私が狩勝峠に行くと言うと、瓜膜から狩勝峠へとショートカットする道道593号線と道道713号線を教えてくれた。このコースだと私が走ろうとしている鹿追と新得を経由するコースに比べて8km以上の短縮となるが、その分、狩勝峠麓までの丘越えの登りの合計が予定では130mのところを、紹介されたコースだと200m以上も登らなければならなくなるので、素直に鹿追と新得を経由する事にする。
 6時20分に然別峡野営場を出発。ここは羅臼温泉野営場と並んでライダーに人気のキャンプ場と聞いていたが、その一端を垣間見たような気がした。キャンプ場からの道は林道然別峡線、下りのダートから始まる。下りなので走るのは楽だが、砂利の浮いたダートなのでハンドル裁きは慎重さが要求される。そしていよいよ急勾配の登り区間だ。私はこのカーブの連続する急勾配の区間だけは無理せずに押して歩こうと考えていたので、その通り実践する。しかし自転車を押す必要があったのは100mくらいの区間だけで、それ以外は自転車に乗って登ることができた。
 1.3kmの林道然別峡線のダートが終わると、今度は道道1088号線の舗装路の下りが延々と始まる。最初のうちはシイシカリベツ川に沿ったワインディングロードをブレーキを使いながら駆け抜ける。そのうちに直線道路に入り、道道85号線に入る頃にはペダルをいっさい回さなくても時速25kmを維持できる、ほど良い下りの状態が延々と10kmほど続きとても楽な走りだった。
撮影日時:2010/08/14 06:14:53 シャッター速度:1/80 絞り:F6.3 焦点距離:34mm
林道然別峡線入口
撮影日時:2010/08/14 06:56:32 シャッター速度:1/160 絞り:F8.0 焦点距離:112mm
道道85号線の直線道路を下る
「森のキッチンかわい」の横を通り抜けた時、ライダーたちがテントを張っているのが見えた。昨日ここで休憩した時、テントサイトは建物の裏にあるのだと思い込んでいたが、実際には表側にあるようだ。白樺の木立がほどよくあって、なかなかいいキャンプ場のようにも見えたが、何となくここのキャンプ場は人の家の庭先でキャンプを張っているようで落ち着かないような気がする。
 この道道85号線の直線道路の区間で写真を撮ろうとするが、またもやレンズの結露でいい写真が撮れなかった。然別峡は標高が高くて寒かったが、ここまで降りてくると標高が低くて一気に気温が上がってきたので、結露が発生したようだ。昨年まではカメラを入れたウエストバッグを腰に巻いていたのでカメラも外気温に近い温度に維持されていたが、今年からカメラを入れたウエストバッグをフロントバッグに入れるようになると、フロントバッグがクーラーバッグの代わりになるようでカメラの温度がなかなか変わらず、冷たいままのカメラを暖かい外に取り出すと一気に結露してしまうというわけだ。こればかりは時間をかけて温度変化させるしかないが、残念な事に北海道自転車ツーリングの最中にそんな余裕はない。
 瓜幕から国道274号線に入ってからも、傾斜こそ緩やかになったものの下りの楽な走りは続いた。昨日に続いて今日も快晴とは言わないが、青空が見えている。然別峡は携帯の電波が入らないので今日の天気予報を知らなかったのだが、この様子だと今日は晴れのようだ。嬉しいことだが暑くなりそうなのが怖い。
 下りばかりの楽な道を30km走って鹿追に7時30分に到着。途中で写真を撮りながらでも1時間20分で30km走ったのだから、いかに下りが多かったかという事がわかる。鹿追のコンビニでキャンプ場のゴミを捨てようとしたところ、このコンビニにはゴミ箱が設置されていなかった。あまりのショックに冷凍したペットボトルを買い忘れてしまい、牛乳と明日の朝食用に袋入りのラーメンだけ買って店の前で昨日買ったおにぎりを食べながら牛乳を飲む。よく考えたらゴミ箱がないのだったら店の前で食べる意味はまったくなかった。まあ今日のゴミは空のペットボトルと袋ゴミが少々なので重量的には捨てなくてもぜんぜん問題ない。
 このコンビニの目の前には道の駅「しかおい」があり、その道の駅の横には神田日勝記念館が併設されている。かつて6年前に羅臼温泉野営場で元チャリダーのおじさんから話を聞いたところでは、この神田日勝記念館なら屋根の下にテントを張れると言っていたが、まさにそんな感じの場所だった。さすがにあのおじさんはよく知っていた。
 7時40分に鹿追町のコンビニを出発。ここからは国道274号線を離れて道道133号線に入る。ここからが大変だ。十勝平野は平野と言われているが実際には平野ではない。十勝川に向けて何本もの支流が十勝平野の中を走っているが、これらの支流を横切る度に何十mものアップダウンを越えなければならないのだ。この支流に沿って走る道はアップダウンも少ないが、支流を何本も横切って走る道はそれだけアップダウンも激しいのだ。
 この道道133号線も例外ではなく、鹿追から屈足までの6kmの間に60mの登りと90mの下りがある。これは何とか朝一番のパワーで乗り切って屈足の町に入る。道道75号線に入ると気づかぬうちにいつの間にか新清橋で十勝川を越えていた。十勝川は大きな川なのでどんな橋なのか期待していたが、橋の存在に気付かなかったとは不思議だ。この屈足の町にはコンビニがあったのだが、これが本日最後のコンビニになるとはその時は気づかずそのまま通過してしまった。
 屈足から新得の間にも70mのアップとダウンがある。私は丘を登り切った場所にあったバス停で8時35分から20分ばかり休憩し、旅の日記を書いた。今日は既に出発から45km走っておりここまでハイペースだ。朝から荷台で干していたサイクリングジャージーは完全に乾いてしまったので洗濯物を交換し、自転車用のパンツと靴下を干しながら走ることにする。
撮影日時:2010/08/14 08:03:42 シャッター速度:1/125 絞り:F8.0 焦点距離:24mm
屈足の手前の丘の上から
撮影日時:2010/08/14 09:05:21 シャッター速度:1/160 絞り:F8.0 焦点距離:32mm
新得のSL広場にあった蒸気機関車
 8時55分に休憩を終えて出発。それから少し丘の上の登りを走っていると、突然ママチャリに後ろから抜かれた。ママチャリと言うよりは外装6段変速くらいの付いた軽快車と言うべきか。抜かれたのは悔しいが、登り坂では重さの差が大きすぎ、追いつくことはできなかった。丘の上から急な傾斜を下り、9時10分に新得の町に到着した。国道38号線と合流したところにSL広場があったので写真を撮っておく。  私はこの新得の町にコンビニがあると思っていた。しかし国道38号線に入ってもコンビニは見つからない。ツーリングマップルをよく見ると確かに新得にはコンビニのマークがない。それどころか今日走るコースにはこの先コンビニがまったくないのだ。コンビニだけではない、水を補給できる場所すらほとんどない事に気づいた。狩勝峠の頂上にある狩勝峠パーキングエリアで給水することにしよう。
 わずかに上り勾配の国道38号線を北に走り続け9時30分に狩勝峠の入り口にあるパーキングエリアに到着。ここはツーリングマップルには記載されていなかったが広い駐車場と大きな屋根、そしてトイレと水道を備えたパーキングだった。今日はキャンプ場から一度も給水できておらず、かつ狩勝峠の登りを控えて暑くてたまらなかったのでボトルの水を満タンにし、そしてタオルとアームカバーをボトボトに濡らして峠の登りに備えて暑さ対策しておく。
 さあ、ここからが狩勝峠だ。この峠は傾斜は比較的緩やかで同じ調子の登りが延々と続く。交通量は多いが路肩が広いので走りやすい。しかも今何合目を走っているかの標識があるのでチャリダーにはとても登りやすい峠だった。太陽は顔を出しており、かつ気温も30度近くあったのでかなり暑かったが、暑くて登れないというほどではない。
撮影日時:2010/08/14 09:12:06 シャッター速度:1/200 絞り:F8.0 焦点距離:136mm
今日は富良野までは行かないがそれ以上走る予定だ
撮影日時:2010/08/14 10:00:06 シャッター速度:1/100 絞り:F8.0 焦点距離:29mm
狩勝峠の5合目を登る
 追い越し車線のある区間では、まるで競争でもしているかのように多くの車はアクセル全開の猛スピードで登っていく。ところがこれを察知したのか警戒中の白バイやパトカーを何台も見かけた。パトカーは問題ないが、白バイに追い越されたときにライダーと同様に手を挙げそうになってしまった。バイクの音とバックミラーに映る姿だけではライダーなのか白バイなのかを見分けることは極めて難しい。結局白バイに手は挙げなかったが、もし挙げていたら白バイも手を挙げてくれただろうか?
 一定の勾配の続く国道38号線の狩勝峠を3合目、5合目と順調に標高を上げていく。登り始めた時は完全な晴れだったが登っている最中から少しずつ雲が出だして、雲による晴れと日陰が半分ずつくらいになった。狩勝峠を1時間ほど登り続けて10時30分から6合目の先のにある車の通らない旧道の日陰で10分ほど休憩し旅の日記を書く。昨日に続いて今日もかなり暑く、麓のパーキングで水浴びできていなければかなり苦しい登りになったことだろう。
 狩勝峠は6合目までは登坂車線があり自転車も快適に走れる。そして8合目までは路肩も広かったが、8合目から先は覆道が始まると同時に路肩が一気に狭くなり走りにくくなった。一つ目の全長166mの狩勝峠第二覆道は車の流れが途切れた隙にどうにか走り抜ける事ができた。二つ目の全長903mの狩勝峠覆道は歩道があったのでこの歩道に入るが、覆道の中の歩道は半分近くが舗装されておらず、覆道の中の急な登りのダートを走ることになり、しかもそれがかなり長い距離を走らさせられたので、さすがに嫌になってしまった。
撮影日時:2010/08/14 10:58:26 シャッター速度:1/100 絞り:F8.0 焦点距離:35mm
ようやく狩勝峠の頂上に到着
撮影日時:2010/08/14 11:04:39 シャッター速度:1/400 絞り:F8.0 焦点距離:24mm
狩勝峠頂上から見た景色
 しかしこの長い狩勝峠覆道を抜けると、9合目の標識を見ないままいきなり標高644mの狩勝峠の頂上に11時ちょうどに到着。道端に自転車を止めると早速狩勝峠展望台に登って写真を撮る。今日はよく晴れており眺めがいい。ここ狩勝峠からの眺めは日本新八景に選ばれているそうだが、私に言わせれば同じ十勝平野を見渡す展望台でも狩勝峠よりもナイタイ高原牧場からの眺めの方が3倍はいいだろう。
撮影日時:2010/08/14 11:01:19 シャッター速度:1/400 絞り:F8.0 焦点距離:24mm
狩勝峠の展望台から見たパノラマ。頂上はよく晴れていた
 展望台から十勝平野のパノラマ写真を撮影した後富良野側に峠を下ろうとしたが、よく考えたらこの先もコンビニがなく、かつ手持ちの食料もパンしか残っていなかったので狩勝峠パーキングエリアにあった食堂「天望閣あくつ」に入って昼食を食べることにした。何を食べようか悩んだが、せっかく十勝平野に来て豚丼を食べないのはもったいない気がしたので豚丼を注文する。こういった観光地の料理に期待してはいけないが、まずまずの味だった。もちろんぱんちょうなど帯広の人気店で食べた方がおいしいことはわかっているが。
撮影日時:2010/08/14 11:28:12 シャッター速度:1/400 絞り:F8.0 焦点距離:24mm
天望閣あくつ
撮影日時:2010/08/14 11:13:24 シャッター速度:1/50 絞り:F8.0 焦点距離:56mm
帯広名物豚丼を食べる
 豚丼を食べ終えた後も食堂でしばらく旅の日記を書きながら休憩し11時30分に狩勝峠を出発する。狩勝峠の富良野側の長い下りを延々と下っていった。狩勝峠の帯広側の登りは同じ勾配で淡々と登っていったが、富良野側の下りは勾配に変化があった。私は最近こうした下りではブレーキをかけてスピードをセーブするようにしているが、おかげで前後ともブレーキのシューがずいぶんすり減ってしまった。
 狩勝峠から国道38号線の下りばかりを10kmほど下ると、11時50分にトマムへ向かう道道1117号線との分岐に到着した。ここでこのまま国道38号線を下ってかなやま湖に向かうかトマムと占冠経由でかなやま湖に向かうか考えた。このままかなやま湖に向かってもあと20km弱しかないのでキャンプ場に13時には着いてしまうだろう。昨日もあまり走っていないし今日はもう少し走りたい気分だったので、直接かなやま湖に向かわずトマムと占冠経由であと65kmほど走ることにした。
撮影日時:2010/08/14 11:41:17 シャッター速度:1/100 絞り:F8.0 焦点距離:38mm
国道38号線の下りを走る
撮影日時:2010/08/14 12:50:16 シャッター速度:1/200 絞り:F8.0 焦点距離:136mm
トマムまであと少し
 トマムへの道道1117号線と道道136号線は国道38号線との分岐から標高差で130mほどの登りが続くが、比較的傾斜が緩やかなので自転車でも登りやすい。途中荷物を持たないサイクリスト3人に挨拶されて追い抜かれた。やはり荷物が重いと坂を登るのは大変だ。トマムへの登りの最高到達点、標高550m地点と思われる場所で道端の木陰を探し出し、12時30分から20分ほどだけ休憩し旅の日記を書いた。
 12時50分に出発。ここからはいよいよ念願のトマムだ。私は北海道を自転車で色々と旅してきたが、トマムだけは来たことがなかった。そもそもトマム周辺にはキャンプ場もないし自転車で走るコースではない。私の思い描くトマムのイメージは、ニセコや斜里近くの清里のような一大リゾート地だと思っていた。そのイメージと合致するかどうか、実際にこの目で確かめてみようと考えたのだ。
 道東自動車道のトマムインター近くにちょっとした集落があった。トマム小学校まであったのでここが町の中心部かとも思ったが、それにしても寂れている。これではトマムの町の人口は100人に満たないだろう。しかしJRトマム駅はここから5kmほど西にある。きっとここが町の中心部に違いない。そう考えた私はトマムの町を探索すべくさらに自転車を走らせた。
 このトマムインターからトマム駅までの5kmの間、人家をほとんど見ることはなく、本当にトマムの町は存在するのだろうかとさえ思い始めた。しかし前方に何やら六本木レジデンスのような高層ビルが山の間から見え隠れしている。あそこがトマムの中心部に違いない。いよいよトマムの駅が近づくと、道路沿いに格納庫付きのヘリポートまで見えてきた。観光地にこうしたヘリポートが存在するなど聞いたことがない。どんなにお偉いさんがここに来るのかと思ってしまった。
撮影日時:2010/08/14 13:02:39 シャッター速度:1/100 絞り:F8.0 焦点距離:24mm
トマムにあった格納庫付きのヘリポート
撮影日時:2010/08/14 13:04:43 シャッター速度:1/80 絞り:F8.0 焦点距離:24mm
何もなかったJRトマム駅
 ところがいざトマムの駅に来たが、トマムの駅周辺には駅舎があるだけで何もない。店はもちろんのこと、人家さえ存在しないのだ。存在するものと言えば駅舎と、駅舎から延びる屋根付きの高架の歩道だけだ。もしかしたらトマムの中心地は高架の歩道が延びる、あの山の麓にあるのではないかと考えた。しかしそちらに目を凝らしても、あの高層マンションさえ見えない。結局森の城壁で囲まれたトマムの町に足を踏み入れることはできず、私はそのまま道道136号線を下り始めた。
 いったいトマムの城壁に囲まれたあの中には何があるというのか? 永遠の都バビロンなのか? 地上の楽園シャングリラなのか? それとも桃源郷か? ここに来る前、私にとってトマムは謎の街だった。そしてこうしてここに来た今、トマムはさらに謎の街となってしまった。
 トマムから先の道道136号線はトマム川やJR石勝線、道東自動車道沿いに走る。トマムから占冠まで30kmの距離を標高差で200m下るので、基本的に下り基調で走るのが楽だ。トマム川は先日からの大雨で水かさを増し、川岸の木々までなぎ倒して流れており見ていて飽きない。ツーリングマップルによると、この道の途中に「泣く木」と言うのがあるらしい。しかしその周辺に来てもどこにあるのかよくわからない。標識に気をつけながら走っていたら、道沿いに生えた大きな木に標識があり、ようやく発見することができた。
 不思議な泣く木とは道路工事の妨げになる為、何度かこの楡の木を切り倒そうとしたが、のこぎりの刃をあてるとうめくような泣き声が聞こえてくる為、どうしても切ることができなかったと言われる。以来、次のような物語が生まれた。猟場のことで争いを続けていた日高と十勝のアイヌ、日高アイヌの若者と十勝アイヌの酋長の娘は許されぬ愛に手を取り合いカムイの棲むトマムに安息を求めましたが若者はとらわれの身となりました。やがて隙を突いて逃げ出した若者が待ち合わせの場所で見たものは、この楡の木の傍らで力尽きて倒れている娘の姿でした。今では恋しい若者を慕う娘の魂が、この楡の木に宿っていると伝えられている。
撮影日時:2010/08/14 13:33:40 シャッター速度:1/50 絞り:F8.0 焦点距離:24mm
トマム川沿いに道道136号線を走る
撮影日時:2010/08/14 13:41:15 シャッター速度:1/80 絞り:F8.0 焦点距離:24mm
不思議な泣く木
 それからも晴れた強い日差しの中、道道136号線を走り続け、全長417mの占冠トンネルと、全長1230mの第二占冠トンネルを越える。トンネルの中は太陽からの日差しを避けられるだけでなく、中はひんやりとしていて気持ちがいい。チャリダーにとってトンネルは大敵だが、車が通らないのであればトンネルは涼しくてありがたい。
 道道136号線を走り14時20分に国道237号線に合流。占冠の町には出ず、ここから北上を開始する。ここまでの走行距離は115km、かなやま湖まであと25kmくらいだからキャンプ場には17時前には到着するだろう。国道237号線に入ってからすぐにソロのチャリダーと遭遇し、手を振って挨拶する。4サイドにサイドバッグを搭載し私よりもずいぶん重そうだった。
 ここから先は標高502mの金山峠を越えなければならない。この峠の手前にパーキングがあったのを覚えていたので、そこで休憩しようと緩やかなアップダウンの続く国道237号線を走り続けた。休憩なしで2時間も走り続けたので、そろそろ疲労もたまっていたが、どうにか頑張って走って14時50分に金山峠手前のパーキングに到着。20分だけ旅の日記を書きながらパンを食べて休憩する。
撮影日時:2010/08/14 13:54:50 シャッター速度:1/60 絞り:F8.0 焦点距離:56mm
トマム川は台風のせいで濁流となっていた
撮影日時:2010/08/14 15:02:13 シャッター速度:1/40 絞り:F8.0 焦点距離:24mm
夕暮れ迫るパーキングで休憩
 休憩を終え15時10分から金山峠を登り始める。このパーキングから金山峠の頂上までは標高差が少なく、このパーキングで休憩すると頂上までは一気に登れてしまうことを昨年の経験から知っていたが、まさにその通りで金山峠の頂上にある全長455mの金山トンネルまで一気に登ってしまう。
 金山トンネルを越えると残りはほとんど下りだけで金山まで下ってしまうので楽なものだ。金山に15時40分に到着。金山からは国道237号線から道道465号線に入る。この道道465号線に入った直後はいいが、3kmほど走ると金山ダムに登るため、シェルターの中の急な登り坂が待っている。覆道だけでも嫌なのに、まして勾配10%を越えていそうな急坂とあって疲れた体にとどめを刺す。私は急坂を自転車で登るのは断念し、シェルター内で自転車を降りて自転車を押して登った。
 1つ目の金山シェルターを越えたところから金山ダムに行くことができる。昨年も金山ダムを訪れていた私は、ぜひともダムの管理事務所からかなやま湖を眺めたいと思っていた。こういった北海道の施設は通常16時で終了することが多いが、私が金山ダムに到着したのが16時ちょうど。もう終了しているかと思ったが、うれしいことにここは17時まで営業していた。
撮影日時:2010/08/14 16:08:09 シャッター速度:1/125 絞り:F8.0 焦点距離:24mm
金山ダムの堤頂の上を走る
撮影日時:2010/08/14 15:59:19 シャッター速度:1/160 絞り:F8.0 焦点距離:42mm
金山ダム管理事務所の屋上から見たかなやま湖
 金山ダム管理事務所の一階には湖・ダム・ふれあいホールがあり、金山ダムについての説明がパネルやビデオで展示されていた。昨年ここに来た時は管理事務所の中には入らず外からかなやま湖の写真だけ撮影していたが、今年は湖・ダム・ふれあいホールの中に入って見学する。
 内部はたいした資料はなかったが、かなやま湖のできる前の町の様子や、金山ダムの役割などがパネルやビデオで展示されていた。そして高倉健主演の映画「鉄道員(ぽっぽや)」の宣伝もされていた。これはここから近くにあるJR幾寅駅、通称幌舞駅を舞台にした映画なので宣伝しているのだろう。
 管理事務所の屋上は展望台になっている。私は湖・ダム・ふれあいホールから屋上に上がったが、この展望台からの眺めは思ったほど良くなかった。正直言うとダムの上から撮影するか、もしくは金山ダム展望台から見た方がきれいな写真が撮れそうだ。それでもダム周辺やダムの一番上から写真を撮ったりする。
撮影日時:2010/08/14 16:04:00 シャッター速度:1/80 絞り:F8.0 焦点距離:24mm
金山ダム管理事務所
撮影日時:2010/08/14 16:01:22 シャッター速度:1/20 絞り:F8.0 焦点距離:24mm
湖・ダム・ふれあいホールの内部
 湖・ダム・ふれあいホールや展望台からの眺めを楽しんだ後、管理事務所を出て再び金山ダムの堤頂を走る。堤頂の上で写真を撮った後、金山ダムを後にして道道465号線に戻り2つ目の急坂のシェルターを越える。2つ目の覆道は金山ダム管理所で休憩したばかりだったので、自転車に乗ったままパワーで乗り切る。そしてシェルターを出たところにある金山ダム展望台に向かった。
 この金山ダム展望台は一般にはほとんど知られていない展望台ではあるが、なぜか一番上の展望台の駐車場にはキャンピングカーがエンジンをかけっぱなしで止まっていた。かなやま湖と金山ダムを見るならこの金山ダム展望台から見るのが一番きれいに見えると思う。昨年も来たことがあったが、その時はあいにくの曇り空だった。しかし今年は晴れているのでぜひとも晴れたかなやま湖と金山ダムが見たかったのだ。私はこの金山ダム展望台でパンを食べ写真を撮り思う存分満喫した。
撮影日時:2010/08/14 16:05:26 シャッター速度:1/80 絞り:F8.0 焦点距離:38mm
金山ダム、山の中腹に見えるのが金山ダム展望台
撮影日時:2010/08/14 16:24:06 シャッター速度:1/60 絞り:F8.0 焦点距離:24mm
金山ダム展望台からの眺め
 金山ダム展望台からかなやま湖畔キャンプ場までは5kmほどだ。この距離ならもう着いたも同然なのだが、道道465号線は湖畔沿いの道の割にはアップダウンもあり、なかなか自転車が前に進まない。この道道465号線のかなやま湖畔沿いの道には所々にパーキングと展望所があるのだが、そのほとんどが木が生い茂ってかなやま湖が見えなくなっているのが残念だ。おそらくパーキングを作った時には眺めがよかったのだろうけど、その後、木が生長して視界が遮られたのだろう。
 16時50分にようやくかなやま湖畔キャンプ場に到着。キャンプ場に着いてびっくりした。これまでに見たこともないほどのファミリーテントでサイトが埋まっているのだ。ざっと見ただけで200〜300張りはあるだろうか。このキャンプ場は広大なことで知られているが、その広大なキャンプ場がファミリーテントでびっしりと埋まっていたのにはびっくりした。しかしサイトの下の湖畔の方は駐車場からの距離が遠いこともあって比較的すいていたので、湖畔まで降りていつものステージの横にテントを張る。残念ながらステージ横の木立の下は家族連れに占拠されていたのであきらめるしかない。
 テントを張っていると一人のおじいさんと目があったので挨拶すると話しかけてきた。自転車を始めたいそうだがもう80歳を過ぎているので今から始めるのは難しいだろうと自分で言っていた。年を取っても自転車で日本1周する人は実在するが、さすがに80歳を越えると厳しいかもしれない。
 テントを設営し17時40分から、温泉に行くか食事を先にするかを決めるため、管理棟に温泉の営業時間を聞きに行く。温泉は21時まで営業しているとのことだったが、遅く行かずに先に行った方がいいと言う。これだけのキャンパーが夜になってから温泉に一斉に行っていたら大混雑は明白だ。そこで食事は後にして先に温泉に行くことにした。先に温泉に行くと温泉の休憩室で長時間旅の日記を書いていたら、夕食の支度を真っ暗な中でしなければなるのが問題だが、それも仕方がないだろう。
 自転車を走らせてかなやま湖保養センターに行きロビーでお金を払って温泉に向かう。そうでなくても狭い脱衣所はこの時間から大混雑で、中に入っても8ヶ所しかない洗い場はいつも満員状態だった。ここの温泉は脱衣所は狭いし、露天風呂もないし、湯船はまずまず広いが1つしかないし、洗い場は8ヶ所しかないが、400円という良心的価格でシャンプーと石鹸が用意されているのがありがたい。
 18時10分から休憩室で旅の日記を書くが、例によって大広間を休憩場所として使っていいのかどうかがわからない。そこでロビーの従業員に了解を取って大広間を休憩室として使わせてもらう。ここの休憩室はテーブルが用意されていないので、旅の日記を書いていてもテントの中で書いているのと大差ないような気がする。
 休憩室には誰も入ってこなかったので、旅の日記を書きながらテレビで名探偵コナンを見ていた。旅の日記はまだまだぜんぜん書き終わっていないが、あまり暗くなるとテントに戻れなくなるので、19時ちょうどに旅の日記を切り上げてテントに戻る。既にテント周辺は真っ暗だったので、今回の北海道自転車ツーリングで初めてヘッドライトを付けながらの炊事となった。
撮影日時:2010/08/14 19:04:31 シャッター速度:1/10 絞り:F4.5 焦点距離:24mm
かなやま湖畔キャンプ場のキャンプ風景
撮影日時:2010/08/14 19:24:29 シャッター速度:30 絞り:F8.0 焦点距離:27mm
かなやま湖畔キャンプ場の夜景
 今日の夕食は中華丼とアサリの味噌汁。最近コンビニに寄る機会が減ってしまい。トマトやヨーグルトが買えないのが問題だ。ただし寝酒は昨日買って飲まずにいたのが残っていたので問題はない。昨日は寝酒を買っていたが、山屋さんからお酒をごちそうになっていたので寝酒を飲まなかったのだ。
 今回も炊飯にはちょっと失敗してしまい、なんだか水っぽいご飯となってしまった。ご飯がおいしくないと食が進まない。これまで炊飯に失敗することなどほとんどなかったのに今年は急に失敗が多くなった。おそらくご飯を火にかけている間、火の番をせずに旅の日記を書いているのが原因だろう。
 19時40分には後片づけまで終わり、それから真っ暗な中で洗濯を済ませ20時からテントにこもって旅の日記を書いた。今日も書くことが多くて、書き終わった時には23時になっていた。今日はお盆休みの週末と言うこともあって、ファミリーが非常に多いが、中にはキャンプ場を格安で飲んで騒げる場所だと勘違いしている人たちもおり、23時を過ぎてもまだ大騒ぎしている。困った人たちだ。そんな人たちを後目に23時30分に就寝する。

走行データ
走行距離   143.1km
走行時間   8時間20分
ペダリング数   17900回
平均時速   17.1km/h
最大速度   43.3km/h
平均ペダリング数   36rpm
総走行距離   1055.1km
天候   晴れ
最高気温/最低気温   31℃/18℃

食事
朝食   おじや
昼食   豚丼
夕食   中華丼、アサリの味噌汁

出費
朝(コンビニ)   牛乳、ラーメン   134円
昼(天望閣)   豚丼   850円
キャンプ場   かなやま湖畔キャンプ場   600円
温泉   かなやま湖保養センター   400円
合計   1984円

キャンプ場
名称   かなやま湖畔キャンプ場
場所   道道465号線のかなやま湖畔沿い
  北緯43度09分29秒、東経142度29分33秒
費用   600円
設備   東屋、トイレ、炊事場
風呂   隣にかなやま湖畔保養センターあり
ゴミ   ゴミ箱あり
行きやすさ   かなやま湖畔沿いに道道465号線を走ればすぐにわかる
乗り入れ   不可
特徴   かなやま湖畔にある巨大なキャンプ場
  比較的整備されており、芝生もまずまず
  湖のそばにはテントを張れないが、広大な芝生と
  ほどよい木立があって優良なキャンプ場の見本のよう
  運搬時も含めて車とバイクの乗り入れができないので
  どうしても入り口付近にテントが固まる傾向があるが
  自転車で奥まで乗り付ければテントは張り放題だ
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