朝3時30分に目覚めるが、昨日寝たのが遅かったので、もう一眠りする。次に目覚めたのは4時20分、ちょうど起きる頃だ。テントのファスナーを開けると、昨日一緒に飲んだYさんがバイクで朝焼けのオンネトー湖を撮影に出かけるところだった。昨日Yさんが言っていた事は本当だったんだと実感する。私も5時には出発したかったので慌てて撤収する。5時に出発したかったのには訳がある。今日は阿寒湖の東にある標高747mの永山峠を越えなければならないが、暑くなってからでは峠を登れないので、8時までには双岳台のある永山峠に到着したかったのだ。朝食に昨日、足寄の町のコンビニで買ったおにぎりを1つ食べて5時には準備完了。出発する時、ちょうどYさんが戻ってきたところだったので、挨拶して出発する。Yさんにはずいぶん世話になったものだ。
苦労して坂を登り、昨日入った野中温泉別館の横を通り過ぎると、あとは下り坂だ。ここは急な下りの直線が3km近く続いているので、ノンブレーキで一気に急降下。もう自転車が分解するのではないかというほどスピードを出し、スピードメーターを見ると60km/hを越えていた。野中温泉別館から標高200mほど下ったところで、ようやく国道241号線に合流。ところがこの国道241号線を阿寒湖に向かって走ると、いきなり登り坂が続く。200mも下ってから再び登りを登らされると、水平に道をつけてくれと言いたくなってしまう。
国道241号線を走っていた時、後方から車の近づく音が聞こえてきたので、バックミラーで確認しようとするが、なぜか確認できない。おかしいなと思ってよく見ると、何とバックミラーがないのだ。折れたと言うより根元から取れたといった感じだ。昨日の走りをよくよく思い出してみると、オンネトー湖へのダートの途中で休憩しようと自転車を止めた時に自転車を倒してしまっていた。おそらくその時バックミラーが取れてしまったのだと思うが、今さらどうしようもないのでバックミラーは断念する。それでも車が後方から近づくたびに、あるはずのないバックミラーを見てしまう癖が抜けず悩まされた。
阿寒湖畔に入ってから気になっていたのだが、国道241号線を走っていると、弟子屈まで何kmという標識を見かけるようになった。私は弟子屈という地名はもちろんの事、それがどこにあるのかも知らなかった。そこでツーリングマップルで調べると、どうやら摩周の町を弟子屈と言うらしい。全然知らなかった。 2度目の朝食を済ませてコンビニを出発すると、すぐにアイヌコタンが見えてきた。ここはアイヌ古式舞踏が見られるらしいのだが、まだ7時にもなっていないので、開いているはずがない。そのまま素通りして国道241号線を東に進む。この国道241号線から阿寒湖を撮ろうと考えていたが、国道241号線沿いには展望台はもちろんの事、国道241号線から阿寒湖すら見えなかった。阿寒湖を離れ国道240号線の分岐を過ぎると、一気に急坂の登りが始まる。今日3回目の登りだ。阿寒湖畔の標高が430mくらいだから、ここから標高で300m以上登らなければならない。時間はまだ7時だったが太陽の日差しはきつく、気温もずいぶん上がってきている。何としても8時までには永山峠頂上の双岳台に到着したいところだ。
登りながらあたりを見渡すと、普通は峠を越える時、できるだけ低い場所に道を付けるものだが、どうもこの峠は無理に高い場所に道をつけているような気がしてきた。もっと低い場所に道を付ければこんな峠など必要ないのにと思っていたが、眺めの良い場所に道をつけたかったのだろうか。それとももしかしたらグルグルまわっていたのでそのように見えただけかもしれない。 暑さと戦いながら坂を登り続け、8時過ぎにようやく双湖台に到着。ここには大型バスが何台も止めれるほどのパーキングがあったが、まだ時間が早い事もあって観光客は誰もいない。トイレもあったので、私はさっそくトイレに行って頭から水を被る。冷たくていい気持ちだ。ここの水も飲めませんと書かれていたが、水浴びするだけなら問題ないだろう。
双湖台の展望台からはパンケトーとペンケトーという名の湖が見える。アイヌ語でパンケトーは「上の湖」、ペンケトーは「下の湖」を意味するらしい。双湖台から見るとパンケトーはほんのわずかしか見えないが、ペンケトーは北海道の形に見える事で有名で、確かに今日はよく晴れている事もあって北海道の形に見えた。 彼の自転車はどこかで見た事があると思っていたら、ランドギアのロードで泥よけが付いていた。これはLG5400だ。私もこの自転車は購入の候補に入れていたが、結局やめてしまった記憶がある。でもロードもしくはランドナーで泥よけが付いている自転車は数えるほどしかないから、選択肢は少なくなってしまうのだろう。 彼の自転車にはずいぶん大きな鍋が積まれていたので、何でこんなに大きな鍋を積んでいるのか尋ねると、彼はこれから弟子屈経由で裏摩周展望台の北にある神の子池に行き、大学のサークルの待ち合わせ場所にしているJR緑駅に行くらしい。最終的に大学のサークルで走る事になるが、その時にみんなで使用する荷物を分担して持っているそうだ。私は今日は摩周湖南東の多和平のキャンプ場で泊まろうと思っていたので、弟子屈までは彼と同じ道を走る事になりそうだ。30分ほど彼と話し込み、私は出発しようと考えたが、彼はもう少し休憩していくと言うので、私は再度トイレで頭から水を被り、水浴び用の水をボトルに詰めると先に出発した。 双湖台が峠の頂上かと思っていたが、実際には双湖台からも登りは続き、標高70mほど登ってようやく双岳台のある標高747mの永山峠頂上に到着。しかし双岳台はそれほど眺めも良くなく、またマナーを知らない人がここでキャンプでもしたのか、空き缶が多数転がり、焚き火の跡まで残っている。いかにもここで宴会した後、一切の後片づけをせずに立ち去ったようで嫌気がさしてしまい、そのまま通過する。
ワインディングロードを標高500mほど下ると、やがて道は水平になり、今までの山道から一気に視界が開け、いつも通りの大平原を走る真っ直ぐな直線となる。坂を下りきったところで水浴びしながら休憩していると、さっき双湖台で出会ったチャリダーが追いついてきたので手を上げて挨拶する。そこから先は10数kmの長い直線だ。もちろん日陰はないが、まだ9時過ぎで時間は十分あったので、のんびりと景色を楽しみながら弟子屈までの国道241号線を走る。今日は南から風が吹いているが、東に向かって走っているので横風だ。何より嬉しかったのは、双岳台から下ると気温が若干下がったように感じた事だ。これは天気予報の管区が帯広支庁から釧路支庁に入った為だろうか。いよいよ涼しくなると思うと嬉しくなってきた。
1人残された私は、この道の駅でこれから先どうするか考える。まだ時間は11時。ここから多和平まで10kmちょっとなので、このまま出発しても12時には着いてしまう。そうなると4日連続で午前中しか走らない事になる。私は北海道に自転車で走りに来たのだ。キャンプ場でゆっくりする為に北海道に来たのではない。そう考えるともう少し走りたいと思うようになってきた。しかし太陽は燦々と照りつけ、さっきまでは涼しいと思っていたが、今はもう暑く、気温は30度に近づいている。このままでは午後には30度を越える事は明らかだ。どうしようかと散々悩みながら道の駅の木陰で、ずっと入れ代わりやって来るライダーを見ていた。彼らも暑そうだったが、道の駅で休憩すると元気に走り去っていく。そう言えば東北学院大学のチャリダー達もこの暑さの中、走っているはずだ。彼らに暑くても走るのかと聞いたら、10分走って5分休憩を繰り返して走るという事だった。これなら例え暑くても私にだってできそうだ。しかも都合のいい事に少し雲が出てきたようで、太陽が雲に隠れてしまった。そう考えると、ここから多和平まで走るのではなく、どこかに寄り道しようと考え、ツーリングマップルを見て手近な観光地を探すと、近くに摩周湖と屈斜路湖があるではないか。摩周湖はかなり坂を登らなければならないようだったので断念し、屈斜路湖に行く事にした。屈斜路湖ならほとんどアップダウンはなさそうだし、キャンプ場も多いので、暑くて走れないようなら屈斜路湖のキャンプ場で泊まれば良い。それよりも屈斜路湖の和琴半島には和琴温泉露天風呂という無料の混浴露天温泉があったので、入れるようなら入ってこようと考えたのだ。 この3日間、午前中で走るのを止めてしまい空しい思いがつのっていたが、今日は違う。屈斜路湖まで走るという大きな目的に嬉しくなり、2時間休憩した12時に道の駅「摩周温泉」を出発すると、一目散に国道243号線を北西に向かって走り始めた。気分が乗っており、南からの風が吹いていた事もあり、かなりのハイスピードで自転車を飛ばす。午後からこんなに自転車を走らせたのは初めてではないだろうか。屈斜路湖の外れの道道52号線との分岐の交差点に、ガソリンスタンドを改装した野菜の直販所があった。立ち寄ってトマトを買おうかと考えたが、帰りに買う事にしてそのまま通り過ぎる。和琴半島までの20km弱を45分ほどで走り、13時前に和琴半島先端に到着。タオルを持って和琴温泉露天風呂に行くが、温泉では水着を着た家族連れが3組ほどいて、子供達は温泉をプール代わりにして遊んでおり、とても水着なしで温泉に入れるような雰囲気ではなく、泣く泣く屈斜路湖の写真だけ撮って来た道を引き返す。やはり無料の混浴露天風呂は水着がないと入れないのだと改めて実感する。
行きと違って帰りは逆風、しかも雲が晴れて再び太陽が顔を出し、気温はどんどん上昇する。天気予報で確かめると、現在の気温は30度だ。行きは元気に走っていたが、帰りはもうヘロヘロだった。行きは道の駅から一度も休憩する事なく和琴半島までの20kmの道のりを走り続けたが、帰りは2回も休憩し、そのたびに水浴びをしている。しかしこの国道243号線にも日陰がなく、休憩しても日差しからは逃れられない。それにいくら水浴びしても涼しいのは一時的なものであって、すぐに暑くなる。そのたびに自転車を止めて水浴びするのが面倒になってきた。よく考えたら自転車用のヘルメットは通気性を良くする為にヘルメットに穴がいくつも開いている。自転車で走りながら、この穴から水を垂らせば自転車を止める事なく水浴びができるのではないかと考えた私は、さっそくこれを実践してみた。これがなかなか気持ちいい。走りながら水浴びできるなんって最高だ。それからも私は走りながら何度もヘルメットの穴からボトルの水を垂らし、水浴びを繰り返す。そのうちに前からライダーがやって来て、こちらに手を振っている。私も手を振り返そうとしたが、あいにく右手にはボトルを持ったままだ。仕方なくボトルを持ったまま右手を上げるが、それはまるでライダーと乾杯しているかのようだった。 暑さと逆風に苦しみながら14時30分頃、ようやく国道243号線を弟子屈の町まで戻って来た。しかし目的の多和平までは、ここからさらに20km弱走らなければならない。道道52号線と合流した直後にコンビニがあったが、JR摩周駅はまだ先だしコンビニくらい、この先にもあるだろうと思って通り過ぎたが、国道243号線にはいくら走ってもコンビニどころか商店すらなく、結局この日は夕食の買い出しをする事ができなかった。 弟子屈の町を抜け、国道243号線を東に走るが、ここも日陰がまったくない。おまけにこの道は登りが延々と続き、暑くてたまらない。日陰があったら休憩しようと考えていたが、その日陰がまったくないのだ。ようやく見つけた日陰で頭から水を被り、倒れ込むように休憩する。もうこの時点で完全に疲れ切ってしまい、しばらくは自転車で走ろうという気すらおきなかった。 木陰で走り過ぎていく車を眺めつつ30分ほど休憩していると、だんだんと元気がわいてきたので、再び出発する事にした。途中でスノーシェルターがあり、ようやく日陰だと思って喜びながらトンネルに突入するが、スノーシェルターの中は太陽の熱で蒸風呂状態となっており、慌てて通り過ぎる。ツーリングマップルではわからなかったが、弟子屈の町から国道243号線を東に進むと150mの高さの丘、というより峠があり、この暑さの中の峠越えは非常に苦しめられた。 やっとの思いで峠を頂上まで登り、一気に下る。と思っていたが、下りは少なかった。ところが再び目の前に丘が見えてきた。30mくらいの高さの丘だったが、もう疲れ切っていたのでうんざりしていたら、幸いな事に多和平へ続く道道1040号線は丘の手前にあり、何とか丘を越えずに済む事ができた。道道1040号線に入ると、あたりの景色は徐々に広がり、まるで開陽台のようになってきた。多和平も開陽台と同様に360度展望だから、きっとまわりより高い土地にあるに違いない。するとこの先には登り坂が待っているはずだ。そう考えるとゾッとしたが、展望を楽しむ為には仕方がない。
駐車場にあるトイレでいつものように頭から水を被り、少し元気を取り戻したところで受付を探すがレストハウスがあるだけで受付はどこにも見つからない。一応レストハウスの中まで入ってみるが、受付とも何とも書いていない。近くにいたライダーに聞いてみるが、そのライダーも知らないようで、夕方になったらお金を集めに来るのではないかと言う。まあ先にテントを張っておけばいいやという事で、フリーサイトへ自転車を乗り入れる。後で知った話だが、このレストハウス「グリーンヒル多和」が多和平キャンプ場の受付で、ここでお金を払わないといけなかったらしいが、結局気付かずに泊まってしまった。 フリーサイトはバイク乗り入れ禁止だったので、バイクのライダーはほとんどが駐車場に近い下の方にテントを張っているが、自転車はそのまま上まで行けるので、炊事場に近い上の方の眺めの良い場所にテントを張る。これまでのキャンプ場と違ってこのキャンプ場は高台で風が強かったので、風に対するテントの断面積が最少になるようにテントの向きを慎重に決め、張り綱をしっかりと張る。テントを張り、荷物を中に入れてマットを膨らませている時、テントの中にハサミ虫がいるのを見つけた。よくよくテントの中を調べると3匹ほどいる。これは一昨日の糠平のキャンプ場からついてきたやつに違いない。テントから出しただけでは再び自転車に取り付きそうな気がしたので、3匹とも潰してゴミ箱行きにしておく。
20時から旅の日記を書き始め、22時過ぎにようやく書き終える。今夜は特に冷え込みそうだったので、初日以来、久しぶりに上にジャージを着て寝る事にした。それでも不安だったので、シュラフのドローコードを引いて暖気を逃がさないように寝る。やはり涼しい道東に近づいた証拠だろう。寝る直前にテントから夜空を見上げると、満天の星空だった。天の川も余裕で見えたので、これはもしかしたら流れ星が見えるかもしれないと期待して10分ほど空を見上げていたが、結局、流れ星を見る事はできなかった。暖かくして22時30分に寝る。
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