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小公女セーラ  ストーリー詳細

第1話 ミンチン女子学院
 1885年のイギリスのロンドンにあるミンチン女子学院にバローという名の弁護士が訪れていました。バローはラルフ・クルーというインドの大金持が一人娘のセーラをロンドンにて留学させる為に雇った弁護士でした。バロー弁護士はミンチン院長にセーラの為に特別寄宿生待遇としてだけでなく専用の馬車や専任メイドまで用意させるのでした。セーラは4歳の時にお母さんを亡くし10歳になるまでインドのボンベイで暮していましたが、お父さんのラルフはセーラがロンドンで勉強した方が幸せになると考えてミンチン女子学院に留学させる事にしたのでした。インドからスエズ運河を通って船でやってきたセーラとラルフは一足遅れてミンチン女子学院を訪れます。セーラは初めてミンチン院長を見た時、なぜか冷たい印象を受けたのでした。そしてセーラは生徒達の勉強風景を見学した後、部屋に案内されます。部屋は2間続きの豪華で立派な特別寄宿生室でしたが、ラルフはセーラの為のドレスをダース単位で購入したり大量の本を持ち込んでおり、備え付けのタンスや棚だけでは入りきらず、衣装戸棚や本棚を自前で追加するのでした。
 セーラの専用の馬車が到着しました。馬はセーラの望み通り真っ白な子馬のポニーでした。しかし雇った御者がケガをしてしまい、その子供のピーターと名乗る少年が御者をしてやって来ただけでなく、御者として自分を雇ってほしいと言うのです。ミンチン院長は猛反対しましたが、セーラの希望でピーターをセーラ専用の馬車の御者として雇う事にしました。セーラはさっそくポニーにジャンプと名前を付けます。ピーターは大喜びでセーラとラルフを馬車に乗せロンドンの町を案内するのでした。馬車の上でセーラはお父さんに「私、一生懸命勉強してインドに帰ったらお母様の代わりに晩餐会のおもてなしが立派にできるようになるつもりよ」と言うのでした。お父様はインドに帰ってしまいます。セーラは遠いインドにたつお父様を心配させないよう、じっと悲しさを耐えていました。お父様と一緒にいられるのはもう明日までしかないのです。
第2話 エミリー人形
 お父様がインドへ帰る日の朝、セーラはお父様にお願いしてセントポール寺院に礼拝に行きました。お父様と一緒にいられる時間はあと僅か、セーラはその悲しみを隠す為に、お父様に話し続けていました。セーラはエミリーという名の人形を探していました。エミリーとはセーラが名づけた人形ですが、エミリーは金髪が肩までかかっており、目は灰色がかった青色で、口はほんの少し開いていてセーラが話しかけるとじっと聞いてくれるような、まるで生きてるように見える人形をセーラは探していたのです。しかしロンドンの街中を探してもそんな人形は見つかりませんでした。セーラがふと洋服屋さんの前を通りかかった時、洋服屋の看板人形を見つけました。セーラにとってこの看板人形がエミリーだったのです。お父様はさっそく洋服屋のご主人に看板人形を売ってもらえないかと交渉しますが、洋服屋のご主人は売り物ではないと言って断ってしまいます。しかしセーラが熱心に洋服屋のご主人を説得した為、とうとう店の看板であるフランス人形をセーラに譲るのでした。
 ミンチン院長の妹でミンチン女子学院の先生をしているアメリアはセーラの持ち込んだ衣類を見てたいそう羨ましがりました。フランス製のペチコートにマレーシアのレースの下着、スイス製の刺繍のハンカチに絹の靴下。セーラはいずれもダース単位で持ち込んでいたのです。アメリアは自分は絹の靴下一足すら持っていないと言って嘆くのです。それを聞いていたミンチン院長は言いました。「セーラは父親によって甘やかされすぎて育っています。甘やかされて育った子供はとても扱いにくいものです。わがままで何でも自分の思う通りにならないと気がすまない、そういう社会性のない子は寄宿学校に不向きです。でも私はセーラがこの学院に来てくれた事を喜んでいます。言うまでもなくそれはこの学院の経営の安定に結びつくからです。アメリア、セーラを当分特別扱いにします。バロー弁護士が何度も言っていたようにセーラは父親に溺愛されています。もしセーラが父親にこんな学校は嫌いだと手紙を出したら、父親はここをやめさせて他に代わらせるでしょう。そうさせてはならないのです。」
 雪の降る寒い晩にお父様はインドに帰って行きます。セーラはお父さんの前で泣きたくないからと言ってお見送りにも行かず部屋にこもっていました。しかしお父さんを乗せた馬車が出発するとセーラの目から思わず涙が流れました。それを知っていたのは天国にいるお母様とエミリーだけだったのです。
第3話 はじめての授業
 お父様がインドに帰ってしまった次の日からセーラのミンチン女子学院での生活が始まりまた。ミンチン女子学院では一般の生徒は4人部屋で寝起きし、食事はみんなで食堂で食べます。しかし専任メイドのマリエットの提案でセーラは2間もある豪華な特別寄宿生室で、マリエットに給仕してもらって食事を食べるのでした。しかしミンチン院長は食事は他の生徒達と一緒に食堂で食べるように言いつけたので、セーラはそれ以降みんなと食堂で食事をするようになりました。ミンチン院長は授業の前にセーラを部屋に呼び「セーラさん、お父様はあなたが立派なレディーになってインドに帰って来るのを大変楽しみにしてらっしゃいましたね。その為にはこの学院の伝統や規則を守ってもらわねばなりません。礼儀は正しく、外出には私の許可が必要です。廊下を走ってはなりません。食事の不満はもってのほかです。」と言うのです。セーラは部屋を出ると思わずため息をついてしまいました。
 最初の授業はフランス語の授業でした。セーラは教科書を開いてみて困り果てたのです。ミンチン院長は「あなたくらいの年齢ならフランス語がわからなくても、ごく当たり前ですよ」と言って慰めてくれるのですが、セーラはそんな事で困っているのではないとミンチン院長にうまく言う事ができませんでした。フランス語の先生のデュファルジュ先生がやって来ました。デュファルジュ先生はミンチン院長からセーラがフランス語を毛嫌いしていると聞いて残念に思っていると言うのです。それを聞いたセーラは流暢なフランス語でこう言ったのです。「私の母はフランス人です。私はフランス語で育ちました。ですからこの教科書では私にはやさしすぎる… そう言いたかったのですがうまく言えませんでした。」その言葉をデュファルジュ先生が英語に訳すと、ミンチン院長はセーラに侮辱されたと思ってセーラを怒鳴ると出て行ってしまったのです。ミンチン院長はセーラを自分の手で徹底的にしつけなおす必要があると考えたのでした。
第4話 親友アーメンガード
 フランス語のできないアーメンガードラビニアたちがバカにするのをとがめたセーラはラビニアたちに目をつけられてしまいます。しかしそんな事には目もくれずセーラはアーメンガードに親切にするのでした。セーラはアーメンガードを自分の部屋に招待して、もてなしてくれたのです。アーメンガードはセーラの事がとっても好きになりました。今日はアーメンガードのおば様のイライザの誕生日でした。アーメンガードはセーラと一緒にミンチン院長に無断でピーターの操る馬車に乗ってイライザおばさんの家を訪れます。そしてイライザおばさんの家で楽しい一時を過ごしたアーメンガードとセーラはミンチン学院に急いで戻りました。しかし無断で外出した事がミンチン院長にバレてしまいアーメンガードはミンチン院長からひどく怒られて鞭で叩かれそうになってしまいます。しかしセーラがアーメンガードをかばった為、さすがのミンチン院長もセーラを鞭で叩く事はできず、怒りでいっぱいになりながらもアーメンガードとセーラを見逃すのでした。その夜セーラはさっそくインドのお父様に手紙を書くのでした。「アーメンガードはとても素晴らしい親友です。お父様も今度彼女に会ったらきっとそう思うに違いありません」と…
第5話 泣き虫ロッティ
 ロッティはミンチン女子学院で一番の年少だったので、何をやっても動作が遅く、いつも代表生徒であるラビニアから怒られていました。そしてそんな時にはセーラがかばっていました。いつも日曜日の朝、ミンチン女子学院の生徒は並んで教会に礼拝に行きます。町の人々はセーラを見ると美しくて気品があってまるでどこかの国のプリンセスのようだと口々に噂しました。礼拝から戻った後の昼食で食事のマナーが悪いと怒られたロッティは家に帰りたいと言ってミンチン女子学院を出て行ってします。セーラは馬車でロンドンの街中を探し回りますが見つかりません。あきらめてミンチン女子学院に戻ると近くの木の影にロッティは隠れていたのです。ミンチン院長によってロッティはミンチン女子学院に連れ戻されてしまいますが、ロッティは泣き続けて手がつけられません。ロッティにはお母さんがいませんでした。それを知ったセーラは「私もママがいないのよ、私がロッティと同じ4歳の時に天国に召されたの」と言ってロッティを励まし、セーラは自分がロッティのお母さんになってあげると言うのでした。その夜ロッティはセーラと一緒に眠るのでした。
第6話 灰かぶりベッキー
 ある日、ベッキーという名の1人の田舎娘がミンチン女子学院を訪れます。ベッキーはアッシュフィールド村からミンチン女子学院でメイドとして働く為に遥々ロンドンまでやって来たのでした。その日からベッキーはメイド頭のモーリーとコックのジェームスにこき使われます。モーリーはベッキーが来たおかげで自分の仕事が楽になったと喜び、その分ベッキーを働かせるのでした。ベッキーの仕事は石炭運び、水汲み、食事の支度、皿洗い、教室や生徒の部屋の掃除、洗濯、買い物と、朝の5時から夜中の12時までまったく休む暇もありません。しかもベッキーは田舎から出て来たばかりで何をやっても失敗ばかり、その度にモーリーやジェームスから怒鳴られるのでした。そんなベッキーを見ていたセーラは自分と年が幾つも違わないベッキーがこき使われるのが可哀想でならなかったのでした。
第7話 代表生徒
 日曜日、礼拝に行く為にミンチン女子学院の生徒達は並んで待っていました。ミンチン女子学院では代表生徒であるラビニアが列の先頭を歩き、その後を年の若い者から順に並んで歩くしきたりになっていました。しかしミンチン院長はラビニアに列の一番後ろに付くように言い、さらにセーラに列の一番先頭を歩くように言ったのです。今日は礼拝堂に市長夫人を始め偉い人達がたくさん来る事になっているのでミンチン院長はプリンセスのように見えるセーラを見せびらかす為に代表生徒の代役にしたのです。しかしラビニアには悔しくて仕方ありませんでした。今まで自分が代表生徒だったのにそれをセーラが奪ったのですから… ミンチン院長のもくろみ通り市長夫人たちはセーラの気品に溢れた立派な態度に感心し、午後からミンチン女子学院の授業を見学に来る事になりました。アーメンガードたちはセーラが市長夫人から誉められた事を口々に喜び祝いますが、ラビニアには我慢なりませんでした。そればかりか授業の前にミンチン院長はラビニアの座っていた体表生徒の座席をセーラと入れ換えさせたのです。ラビニアにはショックでしたがミンチン院長には逆らえません。そしてミンチン院長はみんなの前で言うのです。「そうです。今日からこの学院の代表生徒はセーラさんにしました」と… 市長夫人たちが見学した授業は歴史の授業でした。授業に先立って代表生徒になったばかりのセーラが市長夫人たちにフランス語で挨拶します。それは流暢なフランス語で市長夫人たちは驚き、すっかりとセーラに感心するのでした。ミンチン院長は市のお偉方に学院の教育方針が認められ、これで援助金が増えると大喜びです。そしてミンチン院長はセーラに今日1日自由な時間を与えるのでした。
 セーラはみんなで学院の前の広場でポニーのジャンプと遊びます。いじめられっ子のアーメンガードはもちろんの事、メイドのベッキーとでさえも、誰とでも分け隔てなく親切にするセーラは今では学院の人気者で、みんなセーラと楽しく遊んでいます。ラビニアは今まで代表生徒だった事もあってみんなの前で威張ったりもしましたが、今ではラビニアのもとにいるのはジェシーガードルードの2人だけで、他はみんなラビニアのもとを離れセーラと仲良くなっています。ラビニアはそんなセーラを心の底から憎むのでした。そしてラビニアはまち針を持つとジャンプに近づき、みんなに気付かれないようにそっとまち針をジャンプに刺したのです。ジャンプは驚いて暴走しますが、ピーターが何とか取り押さえました。そしてラビニアはセーラに向かって「代表生徒になったくせにこんな危険な遊びにみんなを誘うなんってどうかと思うわ、私だったら絶対にしなかったわね」と言うのです。セーラはラビニアがジャンプに何をしたのかわかりませんでした。でもセーラが代表生徒にされた事でラビニアが前よりセーラを憎みだした事はセーラには痛いほどわかっていました。
第8話 親切なお嬢様
 セーラはメイドとして働いているベッキーにお友達になろうと声をかけましたが、ベッキーは「お嬢様方とは口をきいてはいけない事になっていますので」と申し訳なさそうに言うと行ってしまったのです。セーラはマリエットにベッキーの様子について尋ねました。するとマリエットはベッキーはセーラには想像もつかないほど辛い仕事をしていると言うのです。朝は暗いうちから起きて水汲みから表の掃除、それがすむとお嬢様方の朝食の支度の手伝いと後片づけ、今度は石炭を運んだり暖炉の掃除、それから一般の生徒さんたちの洗濯からアイロンがけに靴磨き、お嬢様方の夕食の後片づけが終わって自分の屋根裏部屋に帰れるのは夜中の12時を過ぎていると言うのです。セーラはベッキーの事がずっと気にかかっていたのでした。
 ベッキーはモーリーに怒鳴られるだけでなく、ラビニアからアイロンのかけ方が悪い、靴の磨き方がなっていないと言って罵声を浴びせられ、台所でこっそりと1人で泣くのでした。マリエットがミンチン院長のお使いで外出する事になったのでベッキーがセーラの部屋の掃除をする事になりました。ベッキーは初めて入ったセーラの部屋を見てあまりの豪華さに驚いてしまいます。宮殿の一室と見間違うほどの立派な家具や装飾品、ふかふかのベッド、そしてクローゼットの中には入りきらないほどの素敵なドレスが並んでいるのです。ベッキーはセーラがいないのをいい事に、そのドレスを胸に当てて踊りだすのでした。そしてエミリーを抱いて揺り椅子に揺られていると、いつの間にか眠ってしまったのです。授業を終えたセーラが部屋に戻って来ると、掃除しかけの部屋にベッキーが揺り椅子に揺られて眠っています。それを見たセーラはベッキーをそのまま寝かしておいてあげるのでした。しばらくして気付いたベッキーはセーラに謝ると慌てて帰ろうとしますが、セーラはベッキーを呼び止めると、せっかくお客様が来ていただいたのだからと言ってベッキーが食べた事もないようなおいしいお菓子を差し出してベッキーをもてなすのです。しかしベッキーには遊んでいる暇はありませんでした。台所に慌てて戻ろうとするベッキーに向かってセーラは「これから毎日お仕事が終わったら来て下さらない」と言ってお菓子を包んで渡すのでした。ベッキーはこんなに親切にして下さるお嬢様がいる事を知って涙が出そうになるほど嬉しくなるのでした。気の毒なベッキー「でもあんなに喜んでくれている」セーラはそう思うと、やっとベッキーと話し合えた事で胸の中が暖かくなるのを感じていました。
第9話 インドからの手紙
 セーラは何かになったつもりになるのが得意でした。そして本を読むとその物語の主人公になったつもりになるのです。セーラがみんなに本を読んで聞かせていると、またもやラビニアが意地悪しにやって来ました。そしてラビニアはセーラをかばおうとするロッティに向かって「あんたのお母さんはもう帰って来ないのよ」と言うとロッティを突き飛ばしたのです。セーラは「私、今あなたにどれだけ怒りを…」と言って立ち上がります。ラビニアは「何よ、私をぶつ気? やるならやってごらんなさいよ」と挑発しますが、セーラは心の中でラビニアをぶったつもりになって許してあげるのでした。しかしセーラは代表生徒としてみんなが仲良くするように、またラビニアと仲直りする為、セーラの部屋でお茶のパーティーをしようと提案します。みんなを呼んでパーティーを行いますが、ラビニアだけが来ないのを気にかけたセーラがラビニアを呼びに行こうとするとラビニアがやって来ました。そしてラビニアは部屋に入るなりこう言ったのです。「私、このパーティーのお客に来たわけじゃないわ。あなたに本当の事を教えに来てあげたのよ。あなたがなぜ私に代わって代表生徒になれたかって事よ。よくって、あなたが代表生徒になれたのはあなたが私より優れているからでも何でもないの。あなたがお金持ちの娘だからよ、だからあの欲張りなミンチン院長が…」そう言ったところでアメリアがインドからお父様の手紙を持って入って来ました。手紙にはお父様がインドでお友達の方と新しい仕事を始めダイヤモンド鉱山を発見したと書かれていたのです。みんなはお父様がダイヤモンド王となりセーラはダイヤモンドプリンセスになると言って大喜びです。ラビニアはそれを聞くと怒って帰ってしまいました。ミンチン院長はセーラがダイヤモンド王の後継ぎになると聞いて大喜びでした。これで学院も有望な後援者に恵まれたと思ったのでした。
 ベッキーは仕事で失敗するたびにモーリーに怒られ、罰として食事を抜かれるのでいつもお腹を空かせていました。ある日、夜遅くに仕事を終わって屋根裏部屋へ行こうとした時、セーラが呼び止めて部屋の中へ招き入れたのです。そしてセーラはベッキーの為に買って来たミートパイを差し出したのです。ベッキーは涙が出るほど嬉しく思いました。屋根裏部屋に住んでいるベッキー、お父様のダイヤモンド鉱山の事で騒がれているセーラ、生まれた時の偶然でしかないその運命を思ってセーラの心は深い悲しみに沈んでいました。
第10話 二つのプレゼント
 ダイヤモンド鉱山の話しが本当かどうか疑問に思ったミンチン院長はバロー弁護士を訪ねダイヤモンド鉱山の話を聞きます。するとやはりセーラのお父様は世界でも有数のダイヤモンド鉱山の持ち主になったと言うのです。学院に帰って来たミンチン院長は笑いが止まりませんでした。なんせ有望な後援者、ダイヤモンドプリンセスを生徒に持ったのですから… もうすぐセーラの11歳の誕生日でした。ミンチン院長はダイヤモンドプリンセスとなったセーラの為に誕生日パーティーを開こうと計画し、生徒たちにセーラの為にプレゼントを用意するように言います。そして自分は先行投資としてセーラに高級な服をプレゼントする事にしました。ミンチン院長はセーラと一緒にセーラの紹介で洋服屋に行きました。そこはセーラがエミリーを譲ってもらった店でした。ミンチン院長は洋服屋の主人にセーラはダイヤモンドプリンセスだからと言って一番高級な服をプレゼントするのでした。ミンチン院長は帰ってから「セーラさん、私がプレゼントした事をお父様に手紙でお知らせしておくのですよ」とお父様に恩を売っておく事も忘れませんでした。
 セーラの誕生日を知ったベッキーは何かプレゼントしようと考えますがベッキーはプレゼントできるような物は何もありません。考えあぐねた末、ベッキーは自分が普段使っている肩掛けの目立たないところを切り取ってセーラの為に針刺しを作ったのです。その肩当てはベッキーが働きに出る時にベッキーのおばあさんがベッキーの体を心配して自分の使っていた肩掛けをベッキーの肩にかけて出発を見送った想い出の品でした。ベッキーは針刺しを紙に包むと名前も書かずにエミリーの膝の上にそっと置いてきたのです。部屋に戻って来たセーラはエミリーの膝の上に置いてある紙包みに気付いて開けてみました。それはかわいらしい針刺しでした。プレゼントには送り主の名前も書かれていませんでしたが、セーラには誰がこれをプレゼントしてくれたかすぐにわかりました。セーラはベッキーの仕事が終わって屋根裏部屋に上がってくるのを待って部屋に招き入れます。セーラはベッキーの気持ちが嬉しくてベッキーに抱きついて泣いてしまいました。ミンチン院長が買ってくれた洋服も嬉しかったのですが、セーラにはベッキーのこのプレゼントの方が何倍も嬉しかったのです。
第11話 プリンセスの誕生日
 セーラの誕生日、パーティーは盛大に開かれようとしていました。セーラの着たドレスはミンチン院長のプレゼントしてくれた素敵なドレスで、セーラはまるで本物のプリンセスのようでした。セーラはベッキーとピーターをパーティーに参加させてもらえるようにミンチン院長にお願いします。ミンチン院長のお許しが出たのでベッキーもペーターもパーティーに参加する事になりました。ミンチン院長はパーティーの挨拶としてこう言います。「みなさん、今日はセーラさんの素晴らしいお誕生日です。みなさんが名付けたようにセーラさんはダイヤモンドプリンセスとして将来お父様のダイヤモンド鉱山の後継ぎとなられる方です。その莫大な財産はいつかきっと社会に役立つ立派な事、例えば学校や教育の為に使われる事と思います。なぜならそれがセーラさんの美しい務めだからです。そのようなセーラさんをお友達に持てた事を感謝しなければなりません。ではセーラさんに心を込めてお祝いの言葉を送る事にしましょう。セーラさんお誕生日おめでとう。」
 パーティーが始まった直後、バロー弁護士がミンチン女子学院を訪れました。別室に通されたバロー弁護士はミンチン院長とアメリアに何とダイヤモンド鉱山などどこにもなかった事を告げたのです。セーラのお父様のラルフはダイヤ1つ出ないボロ鉱山に全財産を投資して破産し、さらに悪い事にインドの奥地で熱病の為、死んでしまったと言うのです。それを聞くとミンチン院長はショックのあまりに倒れてしまいました。気がついたミンチン院長は「アメリア、セーラに教えてやるのです、父親が死んで一文なしになった事を。あの娘は今、私の買った服を着て私が大金をかけた誕生パーティーでタダで飲み食いをしているのですよ。あの子にすべてを教えてこの学院から叩き出してやるのです!」と言ってセーラの所に行きます。そしてパーティー会場に入るとミンチン院長はセーラに向かって言ったのです。「パーティーはたった今、終わりにします。セーラ、あなたの父親の事で話す事があります。死んだのです。あなたの父親はインドの奥地で熱病にかかって死んだのです。それにあなたの父親のダイヤモンド鉱山は、とんだボロ鉱山だったのです。あなたの父親はあなたに1ペニーの財産も残さずに死んでしまったのですよ。あなたはもうダイヤモンドプリンセスではありません。この学院から出ていくんです!」セーラは悲しさと悔しさで泣きながら自分の部屋に駆け出し、部屋に閉じこもってしまいます。お父様が亡くなった… セーラはそんな事信じられない、いえ信じたくありませんでした。でもそれは事実だったのです。セーラはエミリーを抱きながら泣き続けました。生徒たちもみんな泣きました、でもラビニアだけはほくそ笑んでいたのです。
第12話 屋根裏の暗い部屋
 バロー弁護士はミンチン院長に「私は死んだラルフのロンドンでの代理人ですぞ、残された財産、つまりあの娘の持ち物全部を処分する手続きが必要なのです。私は破産したラルフに莫大な投資をしておった、つまり私は債権者としてラルフの財産、あの子の持ち物を没収する法律上の権利がある」と言ってセーラの部屋に入っていきます。バロー弁護士はセーラに向かって言いました。「私は死んだお前の父親に大金を貸しておったのだ、そこでその貸し金の代わりにお前の持ち物全部を引き上げさせてもらう事に決めたのだよ」そしてバロー弁護士は部屋の中を物色しながら「たかが子供にこんな高そうな本ばかり買い与えるとは、親馬鹿にも程があるってもんですよまったく。それにこの贅沢な勉強机。こんな贅沢な服をたくさん作りおって、このドレス、まったく子供のものとは思えない! ではミンチン院長、家具類は明日引き取りに来させますからな、それまで一切手を触れさせぬよう願いますぞ。もちろんご承知の事とは思いますがカーテンや絨毯も含みますからな。それからねセーラ忘れんように、今日からここの物は一切お前の物ではなくなったから」と言って部屋を出て行ったのです。
 バロー弁護士とミンチン院長の話は続きます。「ほぉ〜 あの娘を追い出そうと…」「当然です、他にどんな方法があるというのです、バローさん」「いやしかし、私の知る限りあの娘には身寄りもないし、さしずめあなたが引き取る以外にありませんぞ」「どうして私が、あなたは自分の損害だけ穴埋めして、あの厄介娘を私に押しつける気ですか?」「私なら追い出すなどまずい事は致しません、父親が破産して死んで一文なしになった子供を追い出したなどと噂がたったら、この学院の評判はがた落ちですぞ。悪い事は言わん、あの娘を置いてやって働かた方が得です。利口な子供のようだし、今に元くらい取れるでしょう」「よくあなたにそんな口が…」バロー弁護士はそう言うとオウムのポナパルトとポニーのジャンプを引き連れて帰って行きました。アメリアはミンチン院長に「お姉様、セーラさんの持ち物まで押さえるなんって、バロー弁護士は何ってひどい事を…」と言うとミンチン院長は「あの家具は私達がもっと早く押さえるべきでした。そうすればこの学院が受けた損失を少しでも取り戻せたのです。昔、生徒が置いていった服がありましたね、その中で一番ボロの服と靴を探しておいで。まだわからないの、あの娘は私が誕生祝いに買ってやった高い服をまだずうずうしく着ているのですよ」と言うのでした。
 セーラは院長室に呼び出されました。もうこの学院から追い出されると思っていたセーラはエミリー人形とお父様お母様の写真を持つと亡くなったお父様の為に喪章として黒いリボンを付けて部屋を出ていったのです。院長室でセーラはミンチン院長からこの学院においてやると言われ大喜びします。しかしそれは今までのように生徒としてこの学院にいるのではなく、ベッキーと同じようにメイドとして台所で働かせると言うのです。そしてミンチン院長は「私が買った服を脱いでこの服と靴に着替えるのです」と言うと薄汚い服と靴をセーラの足元に投げつけたのです。それは昔お金が払えなくなってこの学院を追い出された生徒が残していった深緑色の服と靴でした。素敵なドレスからその服に着替えたセーラはまるでどこかの乞食のように見えました。ミンチン院長は生徒の前で「セーラ・クルーはこの学院で引き取ってやる事にしました。ただし、台所で働くメイドとしてです。みなさんもそのつもりで」と言ってセーラを部屋に戻すのでした。しかし今までのセーラの部屋はもう入る事すらできず、新しいセーラの部屋は屋根裏部屋のベッキーの部屋の隣に決まっていたのです。屋根裏部屋に続く暗くて薄汚い階段を1人で上って行くセーラ。自分の屋根裏部屋はクモの巣が張り巡らされ、床には埃が積もり、ガラクタが積み上げられていました。
第13話 つらい仕事の日
 「エミリー、今夜からここが私たちのお部屋よ」そう言うと暗くみすぼらしい部屋を見回しながらセーラはため息をつきました。「もう私の机もエミリーのいつも座っていた揺り椅子もないのね」今朝までの幸せなセーラはどこにもなく、ここにいるのは汚い服を着たみすぼらしいセーラでした。セーラはベッドに腰かけるとエミリー人形を抱きしめ泣き出してしまうのでした。
 夜が来ました。明かりのない屋根裏部屋は真っ暗です。すると仕事を終えたベッキーが泣きながらセーラの部屋を訪れました。ベッキーはセーラの事が可哀想で一日中泣いていたのです。ところが逆にセーラがベッキーを励まし慰めるのでした。ベッキーは「どんな事が起こったってお嬢様はプリンセス様なんです。誰がどう言ったって私だけはそう決めてるんです。私、明日から毎朝お嬢様のお世話に参ります」と言って自分の部屋に帰っていきました。セーラはベッキーの親切が嬉しくてたまらなかったのです。でもセーラはロッティやアーメンガードとお友達でいられなくなってしまった事をとても悲しく感じるのでした。セーラはせめて心だけは気高いプリンセスのままでいようと決めていました。
 朝がやって来ました。ベッキーはセーラの部屋の掃除に来ましたが、セーラは自分ですると言います。セーラは今まで自分で掃除などした事もなかったのですが、これからは何でも自分でやらなければならないと考えていたのです。そして授業の始まりを知らせる鐘が鳴りました。セーラはもうこの鐘の音も自分には関係ないと思うと悲しくなってしまいました。セーラはミンチン院長の所に行く為に屋根裏部屋から降りていきます。途中で昨日までセーラの部屋だった部屋をのぞいてみると、そこは家財道具がすべて持ち去られガランとした部屋に変わっていたのです。セーラはマリエットに出会いました。マリエットはセーラの世話をする必要がなくなったので首になったのです。マリエットだけではありません、ピーターも首になってしまったのです。セーラは自分の為にマリエットが首になった事を詫びました。マリエットはセーラの事が悲しくて2人で抱き合って泣くのでした。
 ミンチン院長はセーラをモーリーとジェームスのもとに連れていき「この子は今日から台所のメイドとして使う事にしました。遠慮はいりません、ベッキーと同じように厳しく使うように」と言います。セーラはメイドとしてこき使われる事になったのでした。セーラが教室の掃除に向かおうとするところをラビニアたちに見つかってしまいます。セーラはメイドに成り下がった自分の哀れな姿を昨日までの友達に見せたくなかったのですが、ラビニアはみんなを呼んで来てセーラの姿を見せびらかすのでした。セーラは勉強をしたかったので授業の後、教室で1人で勉強させてもらえないかとミンチン院長にお願いしますが、ミンチン院長はとんでもないと断ったばかりか、セーラに他の生徒たちと口をきいてはいけないと言いつけたのです。セーラは独りぼっちになっても勉強を続けるつもりでいました。自分の心を支え続ける為に…
第14話 深夜のお客さま
 セーラは食堂で生徒たちの給仕もさせられます。パンを配膳していたセーラはラビニアの食器にパンを置こうとした時、ラビニアにわざと腕を払われパンを床に落としてしまいました。ラビニアはセーラをなじります。ラビニアは騒ぎを聞いて駆けつけたミンチン院長に「セーラが私のパンをわざと床に落としたのです」と言いミンチン院長はセーラを頭ごなしに怒るのでした。それを見ていたロッティやアーメンガードは昨日までの友人がメイドとしてミンチン院長に怒られる姿を見て、いたたまれない思いをするのでした。さらにセーラが教室の掃除をしているとラビニアが入って来てセーラが磨いたばかりの机の上をわざと汚して「汚れてる」と言ってセーラをなじります。そしてラビニアは代表生徒の席に座って「この席、誰の席だったか覚えてる? 今は私の席。これで私とあなたがどれだけ差がついたかよくわかったでしょ」と言うのでした。そんなセーラを見ていたアーメンガードはセーラに話しかけます。しかしセーラは他の生徒と口をきいてはいけないとミンチン院長に厳しく言われていた事もあり「これ以上私に話しかけない方がいいわ」と言ってさっさと行ってしまいます。アーメンガードは悲しくて泣いてしまいました。親友だったセーラがメイドになってしまって自分とは口もきいてくれないのです。アーメンガードは泣き続けました。
 セーラが夜遅くまで慣れない仕事で働いて疲れ切って屋根裏部屋に戻って来ると屋根裏部屋に明かりがともっていました。不思議に思ってセーラが扉を開けると、そこにはアーメンガードが来ていたのです。セーラはアーメンガードと一緒に話し合いました。アーメンガードは口もきいてくれなくなったセーラにもう一度お友達になってほしいとお願いするのです。それを聞いたセーラは自分が間違っていたと言って2人で抱き合って友情を確かめあうのでした。セーラはこんな事になって一つだけ強くわかりました。辛い目にあうと初めて人の気持ちがわかるようになると…
第15話 街の子ピーター
 セーラは市場へ野菜の買い出しに行く事になりました。モーリーから全部で2シリング8ペンスの買い物に3シリングのお金を渡され、お釣りを落としたら承知しないよと言われたセーラはベッキーの心配をよそに1人で市場へ買い物に出かけるのでした。市場に着いたセーラはお金を確認していたその時、後ろから子供達に突き飛ばされお金を奪われてしまったのです。セーラの手元には1シリングしか残っていません。買い物をする前からお金をなくしてしまったセーラは途方に暮れてしまいます。しかしそこでセーラはピーターと偶然出会ったのです。ピーターは市場で働いていたのでした。わけを聞いたピーターはセーラの為に何とタダで野菜を仕入れて来たのです。セーラは大喜びでした。そしてセーラはピーターにこれからも友達でいてほしいと言うのでした。「もしもピーターに会えなかったら私はどうなっていたでしょう? モーリーさんは許してくれたでしょうか? ピーター本当にありがとう。決して今日の事を忘れないわ」セーラはそう思わずにはいられませんでした。
第16話 ロッティの冒険
 ロッティが本をなくして泣いていたので思わず声をかけてしまったセーラはミンチン院長から呼び出されます。「セーラ、用事のない限り生徒たちと親しく口をきく事は許しません。今のあなたはこの学院では生徒ではないのです。そういう者があたしの生徒に口出ししたらこの学院としてのけじめがつきません。いったい誰のおかげで食べる物や住む部屋を与えてもらってると思っているのですか。そのへんの事をよく考えて今後あまりでしゃばらないように気をつけなさい」とセーラに言います。それを聞いていたアメリアは少し厳しすぎるのではないかと言いますが、ミンチン院長は余計な情けをかけることはあの子の為にはならないと言って聞く耳を持ちません。でもロッティにはなぜセーラが自分と口をきいてくれなくなったのか理解できませんでした。
 夜中、勉強が遅れないようにセーラが屋根裏部屋で1人で勉強しているとねずみが出て来ました。セーラはびっくりしましたがねずみとお友達になろうとするのでした。そこへロッティがやって来ます。ロッティはセーラに会いたくて1人で屋根裏部屋に来たのでした。2人はねずみにメルと名前を付けてかわいがります。その夜ロッティはセーラと一緒に屋根裏部屋で眠るのでした。かわいいロッティ、ロッティが訪ねて来てくれたおかげでセーラは勇気づけられるのでした。
第17話 小さな友メルの家族
 ある日セーラが仕事を終えて屋根裏部屋へ戻る時、ゴミ箱に捨てておいた生徒の食べ残したパンを隠して持って行こうとしたのをモーリーに見つかってしまいます。セーラはメルの一家にあげる為にパンクズを持っていたのですが、それを話しても信じてもらえず逆に自分で食べるつもりだったと思われてしまいます。モーリーに「かつてのプリンセス様も地に堕ちたものだ、ねずみにやると嘘までついて」と言われセーラは泣きながら駆け出し、屋根裏部屋に戻るのでした。そしてセーラは涙を流してお父様の写真に向かって話しかけるのでした。「わかったわお父様、こんな事でくじけちやダメだって、そうおっしゃりたいのね。もう大丈夫よ、だから心配しないで」と…
 セーラはパンクズを取り上げられてしまいましたが、ベッキーがパングズを持ってきてくれたおかげで、セーラはメルの一家に餌をあげる事ができました。ちょうどセーラがメルの一家に話しかけながら餌をあげている時に、アーメンガードがやってきました。アーメンガードはセーラの部屋から話し声が聞こえる事に不審を抱きセーラに尋ね、ネズミに話しかけていたと聞いたアーメンガードは恐くてベッドに飛び込んで頭からふとんをかぶってしまいます。しかしセーラに説得され、しだいにネズミに慣れるようになり、今度屋根裏部屋に来る時はパングズを持って来ると約束するのでした。
 朝の食事で他の生徒が残したパンを持って帰ろうとしたアーメンガードはミンチン院長に見つかってしまいました。しかしアーメンガードはなぜそんな事をしたのか誰にも話そうとはせず、お仕置きとして昼食抜きにされてしまいます。それを知ったセーラはアーメンガードがメルの為に残り物のパンを持って帰ろうとした事に気付き、アーメンガードのところに行って「ごめんなさい、私の為にあなたに辛い思いをさせてしまって。泣かないでアーメンガード、みんなが帰って来ないうちに早く食べてちょうだい」と言ってセーラはピーターから貰ったリンゴを差し出すのでした。セーラは今日ほどアーメンガードの事をかけがえのない友達だと思ったことはありませんでした。そしてセーラは仕事の辛い事も忘れて働き続けるのでした。
第18話 悲しいメイポール祭
 セーラとベッキーは朝早くから働き続けました。仕事は辛かったのですが2人は仲良く働いていたのでいくらか救われる思いでした。でも2人ともお腹が空くのだけは我慢できませんでした。今日は5月の朝露の日です。イギリスでは今日一日だけ魔法の朝露が降りて、それを浴びると1年間美人でいられると言うのです。それを聞いたセーラも朝露を浴びたいと思いますが、セーラにはそんな暇はありませんでした。今日はメイポール祭といって5月のお祝いをするのです。祭りの準備でセーラとベッキーは忙しくて、てんてこ舞いでした。モーリーから市場で買い物をするように言われたセーラは何か食べてからではいけないかとモーリーに聞きます。朝から2人は働きづめで昨日から何も食べていないのでした。しかしモーリーは食べる時間がないのはお前たちの仕事が遅いからだと言って何も食べさせないまま市場に行かせてしまいます。市場で買い物を済ませたセーラは重い荷物を抱えて家路に急ぎました。しかし昨日から何も食べていないセーラはお腹が空いて倒れそうになりながらフラフラと歩きます。それを見ていたドナルドというお金持ちの家に住む小さな少年はセーラが可哀想な野菜売りの少女だと思い込んでセーラにお金を渡そうとします。セーラは断りましたがドナルドは「君みたいな可哀想な人には親切にしてあげるようにってママに教わったんだ」と言ってセーラにむりやり6ペンス銀貨を渡すのでした。セーラはショックでした。自分がとうとう他人からお金を恵んでもらうようになってしまったのだと… そして窓に映る自分の姿を見て自分がみずぼらしい女の子に見えているのだという事に気付いたのです。セーラはとうとう道の真ん中で倒れてしまいました。そしてカゴからこぼれだした野菜を拾うセーラの目からは涙が溢れて来たのです。屋根裏部屋に戻ったセーラの胸は深い悲しみに張り裂けそうでした。そうです、昔のセーラが今のセーラに変わってしまった運命の悲しみが胸の中に突きあげてきたのです。セーラはお父様の写真を抱きしめると泣き続けるのでした。
第19話 インドからの叫び声
 ある日ミンチン学院に手紙が届きました。生徒たちは親元から届いた手紙に大喜びです。セーラは自分に手紙が届く事がないのを知っていました。そしてラビニアはセーラに「お気の毒ねぇ〜 誰からも手紙が来ないなんって。無理よねぇ〜 誰も身内がいないんですもの」と言って笑って去って行くのです。セーラは悲しくなってしまいました。ところがそこへミンチン院長がやって来てセーラにインドから手紙が来ていると言うのです。セーラは飛び上がらんばかりに喜びました。ところがミンチン院長から手渡された手紙の束はセーラがお父様に出した手紙だったのです。そうです、お父様が亡くなった後、セーラの出したお父様への手紙はインドをさまよってイギリスまで送り返されて来たのでした。それを知ったセーラは手紙の束を抱きしめると泣きながら走り出してしまいました。セーラはお父様が亡くなった事も知らないで、ずっと手紙を出し続けていたのです。そのお父様に読んでもらえなかった手紙を抱きしめてセーラは泣き続けるのでした。
 セーラは買い物に出たついでにバロー弁護士を訪ねました。セーラはお父様の最後の様子を詳しく知りたかったのです。バロー弁護士が言うにはお父様の昔の親友にだまされて全財産を親友のボロ鉱山につぎ込み破産してしまった。そしてお父様はダイヤの一つでも見つけようとボロ鉱山に入って熱病にかかってしまい、たった3日で死んだと言うのでした。しかしそれ以上の事はバロー弁護士は知らなかったし知ろうともしません。その事を知ったピーターはインドの警察署に手紙を出せばいいとセーラに提案します。セーラは手紙を出すお金がないと言ってあきらめますが、ピーターは訳を話して神父さんに紙と封筒を貰うとセーラに手紙を書かせ、港でインド行きの船を探します。そうです、ピーターはインド行きの船の船員にインドまで運んでもらおうと考えたのでした。しかしインドへ行く船はなかなか見つかりません。2人で必死に探してあきらめかけたその時、ようやくインド行きの船を見つけ、事情を話してインドのボンベイの警察署に届けてもらえるようお願いしたのです。船員は快く引き受けてくれました。
 セーラはもしお父様が亡くなったという知らせが間違いだったら、セーラがミンチン女子学院を出るとお父様はセーラがどこにいるかわからなくなってしまう。それを考えるとセーラはどんな辛い思いをしてもあの学院を出てはいけないと自分に言い聞かせて今まで我慢して働いてきました。でもこれからはもう1つあの学院で我慢していく心の支えができたのです。インドの警察からお父様の事を知らせてくれる手紙が届くまであの学院にいなければならない。せめてそう思う事でセーラはどんな苦しさにも耐えていく事ができると考えたのでした。セーラは買い物が遅くなった事をモーリーに怒鳴られ夕食を食べさせてもらえませんでした。でもセーラはとっても希望に燃えていました。自分の書いた手紙が今インドに向かっている、そう思うとセーラの胸の中に希望の光が輝き始めたのです。
第20話 謎の特別室生徒
 ある日ベッキーが磨いたラビニアの靴をラビニアのところに持って行くと「何よこの磨き方は!」と言って靴をベッキーに投げつけるのです。そしてベッキーに「他の人に磨かせなさい」と言うのでした。ベッキーは泣きながら靴を抱えて台所に戻って来ます。それを知ったセーラは自分で磨いてラビニアに届けようとします。ベッキーはセーラが届けるとラビニアに意地悪されるだけだといってとめますが、セーラは「心配しないでベッキー、私そういう事に少しずつ慣れようとしているの、いえ、慣れていかなければここにいる事はできないのだって決心したの」と言うと靴を抱えてラビニアに靴を届けに行きました。ラビニアはセーラから靴を奪い取るとセーラに靴を履かせなさいと命令したのです。セーラはラビニアの前にひざまづき靴を履かせるのでした。台所に戻ったセーラはベッキーに言います。「安心してベッキー、意地悪って本当はしているその人も決していい気持ちじゃないのよ。ラビニアもきっといつかその事に気がつくはず…」
 セーラが以前使っていた特別寄宿生室を誰かが使う事になり、セーラとベッキーが掃除する事になりました。生徒たちはそれを見ると新しい特別寄宿生が来ると噂します。セーラはどんな生徒が来るのか楽しみでした。そしていい人が来てほしいと祈るのでした。しかし特別寄宿生室を使うのは、あのラビニアだったのです。ラビニアのお父さんの経営する油田が大当たりしたのでラビニアの希望どうり特別寄宿生室で生活する事になったのです。ベッキーは「お嬢様がよりにもよってあのラビニアの為に働かなければならないなんって」と言って悔しがります。ところがラビニアにそそのかされていたラビニアのお母さんは、なんと専用メイドとしてセーラを雇いたいと言うのです。さすがのミンチン院長もそれには顔をしかめ、本人に聞いて下さいと言うのでした。ラビニアのお父さんがセーラに尋ねると、セーラはしばらく考えた末「お引き受けいたします。もしラビニアさんが以前のクラスメイトを専属のメイドにしたいと考えておられるのでしたら」と答えたのです。その言葉にミンチン院長から事情を聞いたラビニアのお父さんはラビニアのほっぺたを思いっきり叩くと「ラビニア、私は昔のお前のクラスメイトにもう少しで恥知らずな頼み事をしてしまうところだったぞ。院長先生、娘に専用メイドをつける必要はありません」と言うのでした。ラビニアに対するセーラの答え方は決して素直とは言えませんでした。でもラビニアの企みを避けるにはあのように言うしかセーラには方法がなかったのです。
第21話 涙の中の悲しみ
 自分の部屋を掃除するのが汚いとベッキーをなじったラビニアはベッキーに代わってセーラを呼んで来なさいと言います。ベッキーは泣きながら台所に戻って来ました。事情を知ったセーラは「メイドとして働くのは私の仕事ですもの」と言ってラビニアの部屋に行きます。そしてセーラはラビニアたちの目の前で掃除を始めました。しかし意地悪なラビニアたちは掃除しているセーラの目の前に次々とお菓子の食べクズなどを落としていくのです。セーラは悔しさをかみしめながら黙ってもくもくと掃除を続けました。しかしセーラはラビニアを睨みつけると「お掃除はあなた達のいない時にしておきます」と言いました。ラビニアは怒ってミンチン院長にセーラが掃除をしないと告げ口に言ってしまいます。セーラはミンチン院長から呼び出され「特別寄宿生のラビニアさんに反抗するような真似は今後一切許しません」と怒鳴られてしまいます。不条理な言い分にミンチン院長を睨み返したセーラはさらに怒られて、ミンチン院長はモーリーとジェームスを呼び出すと、セーラは反抗的なところがあるからもっと厳しくするようにと2人に言いつけるのです。セーラの事でミンチン院長に怒られたモーリーとジェームスは今まで以上にセーラに厳しく当たるようになるのでした。セーラは意地悪されたり軽蔑された時、お父様の事を想い出します。今のセーラにはそれしか耐える方法がないからでした。
 セーラは買い物から帰って来た時、じゃがいもを買って来なかったとジェームスから怒られます。でもジェームスさんから受け取ったリストの中にはじゃがいもは入っていなかったとセーラは言いますが、ジェームスは昼食もまだ食べていないセーラを再び買い物に行かせるのでした。雨の中を傘もささずに市場を目指して歩きますが。市場は雨でみんな閉店していました。セーラはまだ開いている店を探して遠くの市場まで歩きますが、途中で靴の先がぱっくりと割れてしまいます。セーラは裸足で雨の中を店を探して歩き続けますが店はなかなか見つかりません。裸足で歩き続けた為、靴下はボロボロに破れて穴が開いてしまいます。ようやく見つけた店でじゃがいもを買って帰りますが、持って帰ったじゃがいもは芽が出てとても食べられる物ではなく、再びジェームスに怒鳴られるのでした。仕事が終わった後、セーラは雨でずぶ濡れになり靴下もボロボロに破れてしまった姿で、体を引きずるように屋根裏部屋に戻ると、お父様の写真に向かって「お父様、私くじけません。どんな事があっても我慢していきます」と言うのでした。
第22話 屋根裏のパーティ
 買い出しに行った時、セーラはピーターの紹介で破れた靴をタダで直してもらいます。でもその為に買い物から帰るのが遅くなってしまいモーリーからひどく怒られてしまいます。セーラは昼食もまだ食べていませんでしたが、昼食に加えて夕食まで抜きにされてしまうのでした。セーラはお腹が空いて力が出ず、屋根裏部屋への階段を上るのも一苦労でした。その夜アーメンガードとロッティは屋根裏部屋に来てセーラと一緒に楽しい一時を過ごします。ところが食事を食べさせてもらえなかったセーラの為にこっそりとミートパイを焼いて屋根裏部屋に持って行こうとしたベッキーはミンチン院長に見つかってしまいひどく叩かれ怒られてしまいます。このミートパイを誰の所に運ぼうとしていたのか尋ねられたベッキーは自分が食べる為だと言い張ってセーラをかばうのでした。ベッキーも無事開放され屋根裏部屋に4人集まります。アーメンガードはセーラたちがひどくお腹を空かせている事に気付き、お菓子を持ってくる事にしました。そして屋根裏部屋で4人でパーティーを開く事になりました。セーラは飾りつけをして、そしてここは屋根裏部屋ではなくベルサイユ宮殿なのよと言って、セーラお得意の“つもり”になるのでした。自分達は王宮の侍女でテーブルの上には王宮の特別に焼かせたステーキ。お料理の乗せてあるお皿は金でできている。そして床にはふかふかな絨毯が敷き詰められている。天井にはシャンデリア、ここは宴会の大広間なのよ。セーラがそう言ってみんなをその気にさせていたその時、突然ミンチン院長が屋根裏部屋に入って来たのです。ラビニアがミンチン院長に告げ口したのです。セーラはミンチン院長からひどく怒られ、パーティーは中止させられ、明日の朝も昼も夜も食事を抜きにすると言って出ていくのでした。
 1人暗い薄汚れた屋根裏部屋に残されたセーラのもとにメルがやって来ました。セーラは「ごめんなさいメル、あなたの家族も招待するつもりだったけどパーティーはこの通り消えてしまったのよ」と言って謝ります。「炉は赤々と燃えている事にする。テーブルの上には暖かい晩の食事の支度ができている。それから美しい柔らかいベッドで、毛布と大きなふかふかしたまくらがある。それから、それから…」そう言ってエミリーを抱きしめると固いベッドで横になって涙を流すのでした。
第23話 親切なパン屋さん
 数日後、セーラは食べ物をねだって出てきたメルの家族に「ごめんなさいメル、私、あなた達にあげるパンクズ一つ持って来てあげられないの」と言って謝ります。セーラは屋根裏部屋でのパーティーが見つかって以来ずっと、セーラもベッキーも食事を満足に食べさせてもらえなかったのです。セーラもベッキーもお腹が空いて声が満足に出なくなっていました。セーラがバケツに入った水を持ってフラフラと階段を上っていると、ラビニアがわざとぶつかりバケツは宙を舞って、そばを通りかかったミンチン院長は水を頭から被ったのです。モーリーは「よりにもよって院長先生に水をかけるとは何って事するんだよ」とカンカンに怒ってセーラを突き飛ばすと「当分お前にはまともな食事はやれないから、そのつもりでおいで」と言うのでした。
 セーラはここ数日ほとんど満足に食事を食べさせてもらっていません。その日セーラは手紙を出すお使いで雨の中を出かけて行きました。セーラはレストランの前を通りかかった時、店の中でおいしそうに食事をしている親子連れを見て思わずのぞき込んでしまいます。しかし我に返ったセーラは慌ててその場を離れ「いけないわ、少しくらいお腹が空いたくらいで我慢できないようでは、天国のお父さんに笑われてしまう」と考えるのでした。しかしいくら我慢しようとしても頭の中は食べ物の事で一杯でした。もしも私に銅貨1枚あったら焼きたてのブドウパンが買えるのにと思ったその時、セーラはパン屋の前の道に4ペンス銀貨が落ちているのを見つけたのです。セーラは銀貨を拾うと思わずそのお金でパンを買いそうになりました。しかし「いけないわ、これは誰かが落としたものなのよ、それを黙って使っては…」とつぶやくとパン屋に入って行き、パン屋の女将さんに「店の前にお金が落ちていました。店のお客さんが落とした物ではないかと思って。落とした方がお困りになっているのではないかと…」と言ってお金を届けたのです。女将さんは「それはあんたのものだよ、その4ペンス銀貨があんたに拾ってほしくてそこに落ちていたんだよ。あんたお腹が空いているんだろ、構わないからそのお金で何か買っておあがり、うちのパンでよかったらおまけしてあげるよ」と言ってくれましたが、セーラは何も買わずに店を出ると教会へ向かいました。そして司祭様に「どうしても落とした人が見つからないから教会に寄付します」と言うのです。ところが司祭様は「落とされた人はわかっている、それはきっと神様だよ。神様があなたのような心の美しい方にお授けになったのじゃ。神様に遠慮は無用じゃ。それで何か買ってお食べなさい。それが一番神様が喜んで下さる事じゃよ」と言ってくれたのです。司祭様にそう言われたセーラはパンを買おうとパン屋に戻ると1人の少女がパン屋をのぞき込んでいました。それはセーラよりもみずぼらしい姿をしたアンヌという名前の少女でした。セーラにお腹が空いてるのと聞かれたアンヌは今日も昨日も何も食べていないと答えるのです。それを聞いたセーラはアンヌが自分よりお腹を空かしていると考え、パン屋で4ペンス分のブドウパンを買うと袋から1つだけ取り出し、残りをすべてアンヌに渡して帰ってしまいます。それを見ていたパン屋の女将さんは「自分だってお腹が空いているだろうに、まったく天使みたいな子だよ」と言うのでした。
 その夜セーラは持ち帰った1つのブドウパンをベッキーとメルの家族とで分けて食べます。セーラはとても満たされて思いでした。例え僅かなパンでもアンヌやベッキー、メルの家族と分けあえた事でセーラのお腹は十分に満足だったのです。
第24話 エミリーの運命
 その日はラビニアの誕生日でした。ミンチン女子学院ではラビニアの誕生日を祝ってパーティーが開かれる事になりました。ところがラビニアはセーラにパーティーの衣装に着替えるのを手伝えと命令します。セーラは「あなたはどうしても私を自分の為に働かせたいのね。それほど私を憎んでいるの、そんなに私をいじめたいの」と言い返します。しかしラビニアは笑いながら「私があなたを憎むですって、あなたがプリンセスみたいに扱われていた頃は少しは憎いと思ったかもしれないわ。でもあなたは今はメイドよ、そして私は特別室の代表生徒。なぜあなたを憎む必要があるの? あなたは私の為に働く立場になっただけよ」と言って着替えを手伝わせるのでした。そしてパーティーが始まります。ラビニアはパーティーの会場に入る時にセーラに手を取るように命令します。ラビニアはセーラを自分の侍女として会場に入ろうとしたのです。セーラも仕方なく言われるまま手を取って会場に入っていきました。それを見ていたデュファルジュ先生は顔を曇らせるのでした。そして打ちひしがれて会場を出ていこうとするセーラを見てラビニアはみんなの前で「セーラをぜひこのパーティーに参加させて下さい。セーラはついこの間まで私達のクラスメイトでした。きっとこのパーティーにも出たかったに違いありません。私、可哀想なセーラを昔どおり仲間に入れてあげたいのです。セーラはぜひ私の誕生日祝いをさせてほしいと言ってくれたのです。ありがとうセーラ。でもプレゼントの事なら無理しなくていいのよ。あなたのいらなくなった物でも喜んでお受け取りするから気にしなくていいのよ。例えばあの古い人形でもね」と言ったのです。ラビニアがエミリーを欲しがっていると知ったセーラはショックでした。エミリーは自分があれだけかわいがって来た人形で、お父様の最後の想い出だったのです。そしてお父様が亡くなった時でさえエミリーを手放そうとはしなかったのです。でもラビニアから要求されると渡さないわけにはいきません。セーラがこの学院で働いていくにはラビニアに逆らう事はできない事をセーラはよく知っていたからです。セーラはエミリーを抱きしめるとエミリーに許してと言って泣き続けるのでした。セーラはエミリーに最後のお別れをするとエミリーを抱いてラビニアのところに向かいます。なかなか手渡そうとしないセーラを見てラビニアは「ケチケチしないでさっさと渡しなさい、せっかくだから貰っといてあげるわ」と言ってセーラの手からエミリーを取り上げたのです。しかし他の生徒たちもセーラの味方をして口々にエミリーをセーラに返した方がいいと言われ、ラビニアは怒ってエミリーを投げて返したのです。その様子を見ていたデュファルジュ先生は市場に買物に行くセーラと一緒に町を歩きながら「どんな事があっても希望を捨ててはいかんよ、このフランス語の教科書をあげよう。毎日勉強を続けるんだよ」と言ってくれたのです。デュファルジュ先生はセーラを忘れてはいなかったのです。先生の親切はセーラに明るい光を投げかけたのでした。
第25話 一日だけのシンデレラ
 ある日、市長夫人が再びミンチン女子学院を訪れる事になりました。ところが市長夫人はセーラの流暢なフランス語をとても気に入っており、セーラに会う事をとても楽しみにしているのです。ミンチン院長はとても困りました。セーラは今はこの学院の生徒ではないのです。しかし本当の事を話すと援助の話しはなくなってしまうと考えたミンチン院長は、セーラに市長夫人の見学の時間だけ代表生徒の代役をさせる事にしました。セーラはアーメンガードの服を借り、代表生徒の席に座ります。そしてデュファルジュ先生と市長夫人たちが入って来ました。デュファルジュ先生はセーラを指名し教科書の12ページを朗読するように言います。そして教科書を見ながら朗読しようとするセーラに向かって教科書を見ずに朗読するように言ったのです。セーラはデュファルジュ先生から貰った教科書を毎晩勉強していたので教科書を見なくても市長夫人たちの前で見事なフランス語で暗唱してみせたのです。市長夫人たちは大変な驚きようでした。授業の後、市長夫人はミンチン院長との話し会いの場で「あのセーラさんに年少組のフランス語の先生をしてもらってはいかがでしょう」と言います。ミンチン院長は不本意ではありましたが市長夫人の心証を悪くしない為に、セーラをフランス語の先生にする事を決意したのでした。ミンチン院長は怒りを抑えつつセーラにその事を伝えます。しかしフランス語の先生になったからといってセーラの身分が変わったり、台所の仕事が減ったりする事はありませんでした。明日からロッティたちにフランス語が教えられる。私に再び教室で勉強できるようにして下さったのはデュファルジュ先生に違いないとセーラは思っていました。
第26話 年少組の小さな先生
 フランス語の先生の仕事が始まったからといってセーラの仕事が減ったわけではありません。しかしセーラにとっては年少組の子供たちにフランス語を教えられるだけで幸せでした。セーラはロッティなどの年少組とフランス語のできないアーメンガードの先生をします。セーラの授業はとても楽しく、みんなはめきめきとフランス語を覚えていきました。セーラが先生をしている間、セーラの台所仕事はすべてベッキーがする事になりましたが、ベッキーにはお嬢様が再び教室で勉強できるようになった事が嬉しくてたまりませんでした。ミンチン院長はセーラの先生にフランス語だけでなく他の科目も仕込んでこの学院の先生にして、他の先生を雇う出費を抑えようと考えていました。それを知ったアメリアは一生タダ働きさせられるセーラを不憫に思ってしまうのでした。
 セーラは授業の合間に子供たちにせがまれ、アルフレッド大王の話をしていました。アルフレッド大王はバイキングとの戦いに敗れ、王様の身分を隠してわずかな部下を連れて再び敵と戦う機会を待っていました。そして牛飼いのおばさんの家で休ませてもらっていた時、アルフレッド大王は炉端の焼き菓子を見ておくように牛飼いのおばさんから言われたのです。牛飼いのおばさんはアルフレッド大王が通りかかりの猟師だと思い込んでいました。しかしアルフレッド大王は焼き菓子の事をすっかりと忘れて夢中で話し込み、焼き菓子を焦がして牛飼いのおばさんに引っぱたかれてしまったのです。そこまで話したところでミンチン院長がやって来て、セーラを引っぱたいたのです。ミンチン院長はセーラが勉強を教えず子供たちと遊んでいると思い込んでいました。そこへデュファルジュ先生がやってきて、セーラは見事に先生をやっていた、そして授業の合間に子供たちの心をつかむ為に話をするのはよくある事、さらにミンチン院長がセーラを引っぱたいたのは、アルフレッド大王を引っぱたいた牛飼いのおばさんと同じだと言うのです。デュファルジュ先生の「牛飼いのおばさんも、もし相手が身分の高い大王だと知っていれば殴りかかったりせんかったはずじゃったろう。それと同様、もしセーラ君が大金持の娘じゃったらあなたはセーラ君を叩いたりしたでしょうか? いいや、そうはされなかったはずじゃ」という言葉にミンチン院長は言い返す事ができませんでした。
 セーラの授業は何とか終わり、セーラは再び台所仕事に戻ります。デュファルジュ先生は帰り際「力を落とさんで頑張るんじゃ。必ず良い運が巡ってくる」とセーラに語りかけて帰っていきました。セーラは自分をかばった事でデュファルジュ先生に悪い事が起こりはしないかと心配でした。
第27話 デュワルジュ先生の帰国
 ある日セーラはラビニアたちから手紙をフランス語に翻訳するように頼まれます。それはデュファルジュ先生が出した宿題で、フランス語で両親に手紙を書くという宿題だったのです。セーラは宿題は自分でやるものと言って断ろうとしますが、セーラはむりやり引き受けさせられるのでした。仕方なくセーラは手紙の翻訳をしてラビニアたちに渡します。そしてフランス語の授業でデュファルジュ先生はラビニアたちに自分で書いたフランス語の手紙を読むように言います。しかしセーラに書いてもらった為、自分では読む事ができませんでした。デュファルジュ先生は「今度の宿題をセーラ君に頼む時は読み方も習っておくようにしたまえ」とラビニアたちに言うのでした。ラビニアは他の生徒の前で恥をかかされた事を根に持ち、ミンチン院長にデュファルジュ先生を首にしなければ自分がこの学園をやめると言ったのです。特別寄宿生であるラビニアにこの学園をやめられると有望な後援者を失う事になると判断したミンチン院長は、デュファルジュ先生を首にしてしまいました。デュファルジュ先生はセーラが買い物に出かけていたので、ベッキーに「もうニ度と会う事はなかろうが元気で頑張ってくれるように」とセーラに伝えてくれるよう言い残してこの学院を去っていったのです。買い物から帰って来たセーラはそれを知るとデュファルジュ先生を追いかけました。セーラは走ってデュファルジュ先生の家まで訪ねて行きました。セーラは泣きながら「私は先生がいらっしゃらないと、これからどうしていいのかわかりません」と言います。先生は「セーラ君、人生には辛く悲しい事がたくさんある。だがくじけてはダメじゃ、希望を持って一生懸命努力するんじゃ、努力をすれば報われる日がきっと来る、私は君のその勇気を信じておる。セーラ君、君なら持てる、その勇気を…」と言ってセーラを励ますのでした。セーラの事をいつまでも忘れないと言ってくれたデュファルジュ先生はそれから一週間後、故郷の南フランスへ旅立って行きました。見送る事もできなかったセーラは辛い悲しみの中で、ただじっと汽笛の音を聞いていたのです。
第28話 夏休みの大騒動
 ミンチン女子学院にも夏休みが来ました。生徒たちはみんな故郷に帰ってしまいます。生徒たちは迎えに来た両親に会えて大喜びでした。そんな様子を見ていたベッキーはセーラにその場を離れるように言います。ベッキーは迎えに来てくれる人のいないセーラにあのような光景を見せたくなかったのです。「私たまらなかったのです。お嬢様にあんな場面をお見せしている事が。どの生徒さんにだって、みなさんお父さんやお母さんがお迎えにみえてます。それなのにお嬢様が嬉しそうなみなさんの様子を見ているだけなんって、お嬢様がかわいそうすぎます」と言うベッキーに、セーラは手をとると「お父様がいない事には慣れてしまったの。私にお父様がいなくなった事は私の運命なの、運命は受け入れるしかないわ」と言うのでした。
 子供たちはみんなミンチン女子学院を離れて里帰りし、学校は急に寂しくなりました。セーラはこの学院以外行くところがなかったので、ここで頑張るしかないと考えていたのです。ミンチン院長は夏休みで生徒がいないのにメイドが2人いるのは不経済だと考えベッキーに夏休みの間だけ暇を与える事にしました。ベッキーは大喜びでしたがセーラは複雑な心境でした。そのセーラの心境を察したベッキーは「お嬢様を置いて私だけうちに帰るなんて、お嬢様に申し訳なくて」と言いますが、セーラは「心配しないで、大丈夫。私1人で何とかやれるわ」と言うのでした。明日からたった1人になってしまうセーラ。でもその寂しさを隠してベッキーの里帰りをできる限り応援してあげようとセーラは心に決めたのです。
第29話 ベッキーの里帰り
 ベッキーは里帰りする事になりました。セーラはベッキーを駅まで見送りに行く事になります。途中でピーターと出会った2人は駅でベッキーを見送るのでした。セーラはベッキーを見送ると「楽しいでしょうね、田舎って…」とつぶやきます。それを聞いたピーターは「残念ながら、こっちは生まれたこのロンドンの他に行くとこありませんけどね」とおどけて言うと、セーラは「私もよ、私にも行く所はないの…」と悲しそうにつぶやくのでした。ベッキーが田舎に帰ってしまったのでセーラは生徒たちのシーツの洗濯や部屋の大掃除で大忙しでした。一方のベッキーは久しぶりにアッシュフィールド村の実家に戻り、そしてお母さんとおばあさんに囲まれて楽しい一時を過ごします。ベッキーのお母さんはベッキーが突然帰ってきたので首になったのではないかと心配しましたが、事情を聞いて暖かく迎えてくれるのでした。そしてその頃帰る故郷も暖かく迎えてくれる肉親もないセーラを慰めてくれたのはメルの家族だったのです。
第30話 インドから来た紳士
 朝目覚めたセーラは屋根裏部屋からロンドンの町並みを眺めていました。セーラはお隣の空き家に大家族が引っ越して来てくれたらどんなに嬉しいかと思うのでした。セーラのところにベッキーから手紙が来ました。ベッキーは学校にも行っていなかったので字を読む事も書く事もできなかったのですが、セーラが少しずつ教えたおかげで間違いだらけではありましたがセーラに手紙を書けるまでになっていたのです。手紙にはベッキーは田舎に帰っても朝から晩まで働いていると書かれていました。手紙を読み終えたセーラは「ありがとう、ベッキー」とつぶやくのでした。
 次の日、ミンチン女子学院の隣の空き家に誰かが引っ越して来る事になりました。話しを立ち聞きしていたセーラはクリスフォードという名前の人が引っ越して来ると知ります。セーラは子供のたくさんいる人が引っ越して来てくれたら嬉しいと思っていました。隣の人の引っ越し荷物を見るとインドの美術品がたくさんあったのです。噂ではインドの大金持が引っ越して来るという事でした。しかし住む場所も家政婦を選ぶのも弁護士任せでそうとう変わり者らしいと、もっぱらの噂でした。セーラが表に出た時、ちょうどクリスフォードさんがやって来ました。クリスフォードさんは体が悪いらしく車椅子に乗ったまま家の中に運ばれていったのです。そしてセーラの期待していた子供は1人もいませんでした。セーラは誰かがお隣の屋根裏部屋に来て、自分達とお話ができたらどんなに楽しいだろうと考えていたのですが、それはどうやら実現しそうにないとわかるとちょっぴり残念な思いがするのでした。
第31話 屋根裏にきた怪物
 セーラが市場へ買物に行こうとした時、隣の家に馬車が止まりお医者様が屋敷に入っていきました。セーラは「隣の家のご主人はよほど御病気が悪いのかしら、早く良くなって下さるといいのに」と祈るのでした。隣のご主人には奥さんも子供もいる様子はなく、きっと1人で苦しんでいると考えると、セーラは独りぼっちで亡くなった自分のお父様の事を思わずにはいられないのでした。
 ベッキーがミンチン女子学院に帰って来ました。頂いたお休みはまだまだ先まであったのですがベッキーが田舎に帰っていると食費が余計にかかるので、その事を気にしたベッキーが早めに帰って来たのです。しかしモーリーはベッキーが早く帰ってきたと言ってカンカンです。ミンチン院長はベッキーが帰って来た事は許しましたが、今月の給料はタダで、なおかつ食費は来月の給料から差し引くと言うのです。それでもベッキーはセーラのそばにいられるだけで幸せでした。ベッキーが荷物を置きに屋根裏部屋に行くと化け物の悲鳴が聞こえてきて、ベッキーは恐怖のあまりに逃げ出してしまったのです。セーラと一緒に再び屋根裏部屋に戻るとそのは隣の家のサルだったのです。スーリャという名のサルは隣を家を抜け出すとセーラの屋根裏部屋に潜り込んでしまったのです。ラムダスという名のインド人の青年はセーラたちの許可を取ると屋根伝いにセーラの部屋にやって来てスーリャを捕まえるのでした。セーラやベッキーにはラムダスさんがとてもいい人に思えました。そしてセーラはいつかラムダスさんやクリスフォードさんと仲良しになってインドの話しを聞こうと考えていたのです。
第32話 壁の向こう側の秘密
 アメリアは隣のクリスフォードさんはインドで大鉱山を経営するイギリス人紳士でまだ30代で独身という情報を聞いて大喜びでお隣に挨拶に行こうとします。しかしミンチン院長はそれを聞くと「ここにもいますよ、ダイヤモンド鉱山とかで散々人をだまして揚げ句の果てに破産して死んだ厄介者の娘がね。病気ならけっこう、わざわざ付き合う必要など毛頭ありません」と言って怒りだすのでした。セーラは「お気の毒に… きっとクリスフォードさんはインドでお父様と同じようにひどい目にお会いになったのよ、そしてお父様と同じように御病気になったのだわ、そうよ、お父様と違うのはあの方は助かって帰って来られた事だけ」と心の中でつぶやくのでした。そしてセーラは買物の帰りに教会に立ち寄ると「神様、どうかあのお気の毒な方がお元気になられますように、お恵みをお与え下さい」と祈るのでした。教会からの帰りセーラは以前お金を貰ったドナルドという少年を見かけました。ドナルドもセーラの事を覚えていたのです。ドナルドはセーラに駆け寄ると「僕、君に謝らなくちゃ、君を可哀想な野菜売りと間違えた事を… お姉様もママも君がとても上品で賢そうだから本当は昔お嬢様だったかもしれないって… 本当なの?」と言うのです。セーラは「いいえ、そんな事ないわ」と答えるのでした。ドナルドはこれからお見舞いに行くと言って馬車に乗り込んでしまいました。
 ドナルドは父親のカーライル弁護士と共にクリスフォードさんのお見舞いに行きます。カーライルさんはクリスフォードさんの顧問弁護士でした。カーライル弁護士はクリスフォードさんに「あなたがインドでかかった熱病はとっくの昔に直っているはずだ、あなたの病気は心の病気ではないか」と言います。クリスフォードさんは「私はどんな事をしても親友ラルフの娘を探しださねばならないのだ。生きていれはどこかにいるはずだ。そしてその子が頼る者もなくお金にも恵まれていないとすれば、それは私のせいなのだよ。かわいそうに、その子は我々がここにこうしている今もどこかで辛く苦しい暮しを続けているかもしれないのだ。その子をそのような不幸に陥れた責任はすべて私にあるのだ。私は親友ラルフを破滅させてしまった。そして今、彼と共同で経営していた鉱山がうまくいって2人の夢がすべて実現したというのに、ラルフの一人娘は行方さえ知れないのだ。私はどうしても、どうしてもその子を探しださねばならないのだ」と言って泣き出すのでした。そしてクリスフォードさんはせめてもの罪滅ぼしの為、ラルフの財産だけでなく自分の全財産もラルフの一人娘に継がせようと考えていたのでした。クリスフォードさんはラルフの妻がフランス人だった事からラルフの一人娘はパリで留学しているものだと思い込んでおり、カーライル弁護士はパリ中の学校を探して来ると約束します。しかしクリスフォードさんはラルフの一人娘の名前を知らなかったのです。いえ、知らないのではなく忌まわしい熱病がクリスフォードさんの記憶を消し去ってしまったのでした。そしてクリスフォードさんの探し求めているラルフの一人娘が、隣の寄宿舎でメイドとしてこき使われている事など知るよしもありませんでした。
第33話 新学期のいじわる
 夏休みも終わり、今日は生徒たちが帰って来る日です。セーラやベッキーは食事の用意やら掃除やらで大忙し、ミンチン院長は親御さんが来るというのでいつもにましてぴりぴりしています。港に到着するラビニアをアメリアが迎えに行く事になっていましたが、アメリアは突然の腹痛の為に行けなくなってしまい、代わりにセーラが行く事になりました。港でセーラは再びドナルドに出会います。ドナルドは弁護士のお父さんを見送りに来ていたのです。お父さんは先日お見舞いに行った先のご主人から人捜しを頼まれパリまで出かけると言う事でした。ご主人のお友達が亡くなって、たった1人残されたお嬢さんを探しに行くと聞いたセーラは「大変なのねぇ」と言うのでした。
 港でラビニアを出迎えたセーラは馬車でミンチン女子学院まで案内します。新学期が始まると同時にセーラに対するラビニアの意地悪が始まりました。ラビニアは恐ろしい剣幕でセーラを呼びつけると石版が汚れていると言うのです。セーラは確かにきれいにしたはずなので言い返すと、それを横で聞いていたベッキーが、その石版は自分が字を覚える為に借りたものだと言ってラビニアに謝りました。しかしベッキーに謝ってもらってもおもしろくないラビニアは、セーラを謝らせようとしますがセーラはラビニアを睨み返してしまいます。とうとうラビニアは怒って石版を振りあげてセーラを叩こうとしましたが、セーラは石版を振り払ってしまい宙を舞った石版は窓ガラスを割ってしまったのです。ミンチン院長がやって来て、誰が割ったのですとの問いに、ラビニアはセーラが割ったのですと答えるのでした。ミンチン院長はセーラを呼びだすと「理由はともかくこの学院の代表生徒であるラビニアさんを怒らせたお前の方が悪いに決まっているんです」と頭ごなしに怒るのでした。セーラはこれ以上ラビニアと争いたくなかったのでミンチン院長にも言い返しません。セーラを見かねたベッキーは自分が石版を借りたのが悪いのだから自分の給料からガラス代を払うと申し出ました。そしてセーラは買物に出かけた時にピーターの紹介でガラス屋を呼んで来ました。セーラは屋根裏部屋に戻ると以前ドナルドから貰った6ペンス銀貨を取り出したのです。そしてガラス屋さんのところに行って修理代が6ペンスだと聞いてセーラは自分のお金で修理代を払い、ほっと胸をなで下ろします。そしてセーラはピーターとベッキーの親切を心から感謝するのでした。
第34話 嵐の中のつぐない
 その日は未明からずっと嵐でした。窓の掛け金が壊れてしまいセーラの部屋は机もベッドも衣類もすべて水びたしになっていました。嵐と戦っていたセーラは一晩中寝る事ができず雨に濡れたせいもあって明け方には寒気がするようになります。しかしセーラは休むどころか雨の中を石炭運びの重労働をさせられてしまうのでした。ラビニアから自分の部屋を温めておくように命じられたセーラはラビニアの部屋に石炭を運んで暖炉に火をともしますが、セーラは体調が悪い事もあって暖炉の火に暖まりながら猫のシーザーと一緒に思わず眠ってしまいます。ラビニアたちが部屋に戻って来て部屋でセーラが眠っているのを見つけるとラビニアはセーラを蹴飛ばして起します。そしてシーザーを追い出そうとラビニアたちはシーザーを追い回しますが、シーザーはインクビンを倒してしまい、インクがラビニアのパリ仕立ての高級ドレスにかかってしまったのです。ラビニアはそれをセーラのせいにすると、ドレスを元どおりにできたら許してあげると言うのです。
 セーラは傘も役に立たないほどの嵐の中を買物のついでにドレスを持って町に出かけました。セーラが目指したのはエミリー人形を頂いた洋服屋でした。洋服屋のご主人はセーラの事を覚えてくれていました。でもセーラの身なりを見ると「一口では言えぬ事情がおありのようだね」と言うのでした。セーラはドレスのシミを取ってもらえないかとご主人に頼むとご主人は快く引き受けてくれたのです。ご主人はセーラが雨に濡れあまりにもみずぼらしい姿をしているのを見て気の毒に思ったのでした。前にこの店を訪れた時はプリンセスのような身なりだったのに… いったい彼女に何が? と思わずにはいられませんでした。セーラは嵐の中を市場に行きますが、市場は嵐の為どの店も閉まっています。遠くの市場まで出かけましたがどこも同じでした。セーラは体調が悪くなり倒れそうになりながらも探し続けるのですが開いている店はどこにもありません。あきらめたセーラは再び洋服屋に戻るとシミ抜きは終わっていました。セーラは洋服屋のご主人にお代が払えないと告げるとご主人はエミリーを大事にして下さっている方から1ペニーだってお金は取れませんよと言ってくれたのです。そしてご主人はセーラの身の上の変わった訳を尋ねました。セーラは父親が死んでしまい今はメイドとして働く身分になったと語ります。ご主人はセーラに「どんな嵐にも負けないように」と言って別れると「神様、あの子をお護り下さいませ」と祈るのでした。
 学院に戻って来たセーラは買物をして来なかった為モーリーからひどく怒られます。そしてミンチン院長の前に引きずり出されてなぜ帰りが遅くなったかを尋ねられました。セーラはラビニアのドレスのシミ抜きをしていたと答えると、それを聞いていたラビニアは「セーラは私を妬んでわざとインクをこぼしたんです。それを私達に見つかって仕方なくシミ抜きに行っていたのです」と言うのです。それを聞いたミンチン院長はセーラの言い分けも聞かずセーラを心のねじけているヤツと決め付けてモーリーにセーラをお仕置きするように命じるのでした。セーラはモーリーに腕を捕まれると、そのまま台所に投げ込まれました。そしてサボってた分だけ働かないうちは寝かさないからねと言って出て行きました。セーラはひどい熱の為、台所に倒れたまま起き上がることさえできなかったのです。セーラはずぶ濡れの体で這うようにして部屋に戻ると、お父様の写真に向かって「お父様…」とつぶやくのでした。
第35話 消えそうないのち
 翌日、ベッキーがセーラを起こしに行くとセーラの様子が変でした。セーラはベッドから起きあがれないほど高熱を出していたのです。ベッキーはモーリーに事情を話しますが信じようとしません。モーリーはセーラを仮病と決め付けてむりやり起こそうとしますが、セーラはまったく反応しないばかりか飛び上がるほど高い熱を出していたのです。それを知ったアメリアはセーラがただの病気ではないと思ってお医者さんを呼ぼうとしますがミンチン院長はメイドごときに医者を呼ぶ事を許しません。しかしアメリアは悪い病気が生徒に広まったら学院の評判が落ちると説得したので、ワイルド先生を呼ぶ事になりました。ワイルド先生はセーラを診察するとセーラは悪い伝染病にかかっており、もう手遅れだと言うのです。セーラの部屋には消毒薬がまかれ、できる限り人を遠ざけるようにしました。でもベッキーだけは1人看病を続けました。ベッキーは泣きながら「神様、どうかお嬢様をお助け下さいまし」と言って神に祈るのでした。心配したアーメンガードはこっそりとセーラを見舞いましたが、セーラは熱が下がらないばかりか意識すら戻らないのでした。アーメンガードはイライザおばさんに頼んで熱を下げる薬を作ってもらおうと考えました。でも夜中に生徒が外に出るのはまずいと考えたベッキーはアーメンガードにイライザおばさんの住所を教えてもらうと、夜中の町に飛び出して走り始めたのです。ベッキーはセーラの為に一生懸命走りました。途中でピーターに出会い馬車でイライザおばさんの家まで送ってもらいます。イライザおばさんに事情を話したベッキーは熱冷ましの薬を作ってもらってピーターの馬車を飛ばしてセーラのもとに急ぎます。学院の前に馬車を止めたピーターは中に入ろうとするベッキーに向かって「ベッキー、俺にできる事があったらいつでも声をかけてくれよ。すぐに飛んで来るからな」と言うのでした。ベッキーはイライザおばさんに作ってもらった薬をセーラに飲ませようとしますが、セーラは薬を飲もうとしません。でもベッキーはセーラの為を思って無理にでも薬を飲ませるのでした。
第36話 魔法のはじまり
 それから数日間、セーラは意識を失ったまま眠り続けていました。隣の家ではクリスフォードさんと召し使いのラムダスとが屋根裏部屋に住む女の子が最近姿を見せないと心配していました。ラムダスもクリスフォードさんもセーラの事がとても気に入っていたのです。ひどい扱いを受けていたようなので病気になったのではないかと思ったクリスフォードさんは、ラムダスに誰にも気付かれぬように様子を見て来るよう命じます。ラムダスは屋根伝いに屋根裏部屋の窓からセーラの様子を伺いました。ラムダスはセーラの部屋に入るとセーラの病気を確認し、消毒薬のまかれた部屋の様子、セーラの飲んでいる薬、ベッド、衣服を確認するとまた戻ってしまいました。そしてラムダスはクリスフォードさんに報告します。「あの少女に必要なのは暖かい部屋と暖かいベッド、暖かい食事、そして暖かい隣人からの愛の手だと…」それを聞いたクリスフォードさんは自分が気にかけていた少女の役に立つ事ができると知って大喜びし、ラムダスにさっそく実行するよう言うのでした。
 その夜ベッキーは仕事が終わった後、セーラの様子を見に行くとイライザおばさんに作ってもらった薬のおかげでだいぶ熱が下がっていました。安心したベッキーはセーラの額のタオルを取り替えると久しぶりに自分の部屋に戻って眠るのでした。ベッキーが眠ったのを見届けたラムダスはセーラの部屋に入り、部屋を掃除して床に絨毯を敷き、暖かい毛布に取り替え、暖炉に火をともし、テーブルの上には暖かい料理を用意して出て行きました。夜中にようやく目覚めたセーラは自分の目を疑います。輝く食器においしそうな料理、暖炉は明々と燃えており毛布はふかふかで暖かい。セーラは思わず「何って素敵な夢なの」と言ってしまいました。でも夢ではありません。セーラはベッキーを呼びに行くと、セーラもベッキーも魔法が起ったのだと言って大喜びでご馳走を食べるのでした。誰がこんな親切をしてくれたのかセーラやベッキーにはまったくわかりませんでした。でも誰かがそっとセーラを助けてくれようとしている事だけは夢でも幻でもないのです。そしてセーラはすっかりと体の調子も良くなっていたのでした。
第37話 屋根裏は大混乱
 セーラはその晩ベッキーと一緒にセーラの部屋でふかふかの毛布に包まれて寝ました。朝2人が起きると魔法は消えていませんでした。セーラとベッキーは一緒に台所に働きに部屋から出ていきます。それを見ていたラムダスたちはセーラの部屋に入ると魔法を片づけ始めたのです。セーラが一晩であまりに元気になっていた事を不審に思ったモーリーはセーラが仮病を使っていたのではないかと疑い、ミンチン院長に「きっと屋根裏部屋で盗み食いをしていた」と報告した為、ミンチン院長は屋根裏部屋に確認に行こうとします。セーラは魔法の事を知られてしまうと思って覚悟を決めますが、扉を開けると魔法は消えており、いつものセーラの部屋があるだけでした。ところがミンチン院長は「セーラ、お前は仮病を使ってまで仕事を休もうとする怠け者です。もう年少組でフランス語を教える必要はありません。台所で働くんです」とセーラに言い渡したのです。セーラは久しぶりに市場へ買物に行こうと外へ出た時、隣の家のご主人の病気が早く良くなればいいのにと隣の家を見つめました。しかし隣の家からもセーラを見つめるラムダスの目があった事をセーラは気付きませんでした。ピーターはセーラの事が心配で煙突掃除のジムに頼み込んで煙突掃除に扮してミンチン女子学院に潜入する事にしました。ところが屋根裏部屋に行ってもセーラはいません。仕方なく煙突掃除をすませ、帰ろうとしたピーターの前にセーラが現れたのです。ピーターの顔は煤で真っ黒だったのでセーラはピーターだと気づくのに長い時間かかってしまいました。
 セーラとベッキーは仕事が終わった後、屋根裏部屋に戻ります。2人は屋根裏部屋に戻る階段を登りながら「魔法が消えていなければいいのに」と願うのでした。扉を開けると魔法は消えていませんでした。暖炉には火がたかれテーブルにはおいしそうな料理が並んでいます。そればかりか暖かい毛布と枕はベッキーの分まで用意されていたのです。そしてテーブルの上のカードには「屋根裏の少女へ、友より」と書かれていました。セーラはその時、この魔法は隣人からの贈り物に違いないと確信したのでした。
第38話 こわされた魔法
 ベッキーは自分の分の毛布を持って自分の部屋で眠り、そして朝起きると毛布を持ってセーラの部屋に来るのでした。ベッキーは昼間、魔法使いが魔法を回収に来るので毛布をお返ししないといけないと考えていたのです。そしてベッキーは魔法使いにお礼を言わないと申し訳ないと言いますが、セーラはその魔法使いは私達が心から感謝している事を知っている、なぜならそこが魔法使いだからだと言うのです。その言葉を屋根の上でラムダスはしっかりと聞いていました。
 セーラやベッキーにロクな食事を与えていないはずなのに、いつも元気で顔色がいい事を不審に思ったミンチン院長はモーリーとジェームスを呼び出しセーラに必要以上に食事を与えていないか問い詰めます。しかしモーリーやジェームス自身も同じように考えており、台所でセーラたちが盗み食いしていないか確認したばかりだったのです。ミンチン院長はセーラの行動を監視する必要があると考え、セーラが市場へ買物に出かけた時にモーリーに後を尾行させます。セーラは市場でピーターに出会うと買物を済ませて立ち話した後、ピーターからリンゴを貰って学院に戻って来ました。モーリーは一部始終をミンチン院長に報告するとミンチン院長はセーラがピーターから食べ物を貰っていたのだと考えセーラの部屋を調べに行きます。ミンチン院長はセーラがピーターを使って屋根裏部屋で自分の知らない世界を作っていたのではないかと疑い、部屋中を探し回りますが怪しいものは見つかりませんでした。
 夜中、仕事を終わって屋根裏部屋へ向かったセーラとベッキーの後をミンチン院長とモーリー、ジェームスはこっそりとついて行きます。そんな事とは知らないセーラとベッキーは今日も魔法が消えていなかったので大喜びでした。そして2人が魔法使いに感謝して食事を食べようとしたその時、ミンチン院長が入って来たのです。ミンチン院長はセーラを怒鳴ると、この仕掛けはセーラがピーターを使って盗んで来させたものだと言って、食器や毛布、絨毯などすべてを取り上げてしまったのです。そしてミンチン院長は「セーラ、お前はもうこの屋根裏部屋に住まわせるわけにはいきません」と言うとセーラを馬小屋に連れて行ったのです。セーラの寝場所はかつてセーラ専用の馬車を引くジャンプの住んでいた馬小屋になってしまったのです。セーラは藁の上でエミリーを抱きしめ泣き続けるのでした。
第39話 馬小屋の寒い夜
 朝になりました。セーラはお父様の写真に向かって「ごめんなさいお父様、こんなところに連れて来てしまって。お母さま許して」と言って台所に向かうのでした。食堂で出会ったラビニアたちから、かつてのプリンセスも今では馬小屋で生活しているとバカにされ、ミンチン院長からは嫌われ、挨拶しても怒鳴られる始末。それでもセーラは一生懸命働き続けるのでした。そしてセーラは市場に買物に出る事すら許されなくなり、ひたすら台所で働かされるようになりました。
 魔法を取り上げられた事を知ったラムダスは、その後セーラの姿が屋根裏部屋から消え市場に買物に行く姿も見えなくなった事から、セーラが自分達の魔法の為にひどく怒られたのではないかと心配します。セーラはふかふかの毛布を取り上げたモーリーから毛布を干しておくように言われ、隣の家から見える裏庭に干さざるをえませんでした。セーラは隣の家を見上げると「ごめんなさい、私、せっかくの御親切をめちゃめちゃにしてしまって…」と謝るのでした。そしてセーラのいた屋根裏部屋は窓がふさがれメルの一家の出入り口もふさがれてしまうのでした。そしてベッキーからセーラの境遇を聞いたピーターはこっそりとミンチン女子学院に潜り込み、セーラに「お嬢様、俺、お嬢様を迎えに来たのです。こんなひどい学院にお嬢様が閉じ込められているなんって、俺もう我慢できないんです。お嬢様、俺の家に来て下さい。そりゃあ狭くて汚いけど、食べて寝るくらい俺が何とかします。こんなところにいるよりよっぽどマシです」と言うのです。でもセーラは「ありがとうピーター。でもダメなの、ここを出るわけにはいかないの。私今負けそうになる自分に勝とうとしているの。今逃げたら自分の弱さに負けた事に…」と言って断るのでした。
 アーメンガードはラビニアになぜセーラをいじめるのか、セーラを憎むのかを問いました。ラビニアは「もう憎んでなんかいないわ、そりゃあセーラが初めて私の前に現れた時は憎んだかもしれないわ。だって私よりお金持ちで、私よりフランス語ができて、私より美人に見えたんですものね。でも今は違うわ、セーラは私よりお金持ちなはずはないし、フランス語どころか台所のメイド、服だってボロでとても私より美人に見えないでしょうね。教えてあげましょうか、それはねセーラが落ち目になったのに、ちっとも堪えたふりをしないからよ、それが許せないのよ」と答えるのでした。
 今夜は特に冷え込んでいました。ベッキーは馬小屋なんかで寝たらそれこそ死んでしまうと言ってセーラを心配します。そして「私と一緒に屋根裏部屋で寝ましょう、2人で寝れば暖炉の火がなくても寒くありません」と言ってセーラを誘います。セーラはベッキーの親切が嬉しくて泣きながら思わず抱きついてしまいました。ところがそれを見ていたモーリーはセーラとベッキーを引き離すとベッキーを屋根裏部屋に行かせ、セーラには馬小屋に行くように命じました。セーラは風の吹き抜ける馬小屋で毛布1枚ないまま寒さに震えて眠るのです。セーラはお父様の写真に向かって「お父様、私、本当はくじけそうなんです、ここで耐えていく事が…」と言って涙を流すのでした。
第40話 アメリア先生の涙
 セーラは藁の中で朝を迎えました。しかし朝の冷え込みは厳しくセーラは寒さに震えてしまいます。そして藁の中で寝ていた為、髪の毛や服も藁クズだらけになってしまうのでした。日曜日の礼拝の後、アメリア先生が生徒たちを連れてセントジェームズ公園へ散歩に行く事になりました。そして生徒たちの昼食をセーラとベッキーが届ける事になったのです。セーラとベッキーは公園へ行けると大喜びでした。ところが2人が昼食を持って公園に着くとアメリア先生は子犬に追い立てられ池の中に落ちてしまったのです。アメリア先生は腰を強く打っており立ち上がる事すらできません。セーラはピーターを探して荷馬車を借りてきてもらい、アメリア先生を学院まで無事にお届けしたのです。アメリア先生はあまりにも苦しむのでセーラはミンチン院長の了解をとってワイルド先生を呼びに行きます。しかしワイルド先生は相変わらず酔っぱらって診察するのでした。セーラは一晩中アメリアの腰をさすって看病しました。アメリアはそんなセーラを見て不憫に思い、セーラに話しかけます。「セーラさん、私、前からあなたにお詫びしなければならないと思っていたのよ。お姉様の事よ。本当を言うと私、あなたがお父様を亡くしてからのお姉様の扱いはとっても申し訳ないと思っていたのよ。いくら学院があなたの為に不利益になったからって今のような扱いをするのはあなたが可哀想。でもお姉様を憎まないでね、私にとってお姉様は母親と同じなんですもの。私たち姉妹は小さい時に両親を亡くしたの。ちょうどあなたくらいの年齢だったわ、お姉様は。まだ小さな私を連れておばの家で働きながら慈善学校を卒業したの。それから住み込みの家庭教師をしながら私を学校にやってくれて苦労を重ねて、やっと今のこの学院を経営できるまでになったのよ。だからお姉様はこの学院の経営の事しか頭にない人になってしまったの。だからあなたにあんなに辛くあたってしまうんだと思う、許してお姉様を… ねぇセーラさん、今夜この部屋にいて下さらない、そうすればあんな馬小屋に戻らなくてすむわ」ところがそこまで話したところで突然ミンチン院長が入って来てセーラに馬小屋に戻るように命令したのです。そうです、セーラの寝場所はこの馬小屋しかなかったのです。
第41話 妖精たちのパーティ
 明日はオールセントデー、そして今夜はハロウィンです。ミンチン女子学院でもハロウィンのパーティーが開かれる事になりました。パーティーの準備の為、セーラとベッキーは2人で買物に出かけました。「はぁ〜 あの子なら私もよく知っています」買物に出かけるセーラを隣の家から見ていた洋服屋のご主人は言いました。ご主人はセーラにエミリーを差し上げ、先日はシミ抜きをしてセーラの身の上を知っていたのです。ご主人はその事をラムダスやクリスフォードさんに話しました。クリスフォードさんはそれを知って喜びました。そしてあの不幸な女の子の為に私からだとわからないように服を仕立ててほしいと洋服屋のご主人にお願いしたのです。ご主人は以前セーラのドレスを仕立てた事があり、セーラのサイズはすべて頭に入っていたので、すぐに引き受けるのでした。そんな事とは知らないセーラとベッキーは生徒の数だけカボチャを購入するとさっそくパーティーの準備に取り掛かりました。セーラとベッキーはクルミの船を作ったりロッティにカボチャのランタンを作ったりします。その頃、隣の家のクリスフォードさんは「隣の少女も気の毒な運命の子らしい、私の探しているラルフの娘も同じような不幸な日を過ごしていなければいいのだが」と願い続けるのでした。ハロウィンパーティーは楽しく開催されました。生徒たちは大喜びです。カボチャのランプで暗いところにいる妖精たちを探していたロッティは馬小屋でお化けに扮したラビニアたちに脅かされ、カボチャのランプを落として逃げ出してしまいました。しかしロウソクの火は藁に燃え移り馬小屋は火事になってしまったのです。セーラとベッキーが気付いた時には手の付けられないほど燃え広がっていました。しかしそれでもセーラはエミリーとお父様の写真を取りに馬小屋に飛び込むと、エミリーと写真をつかむと命からがら逃げ出して来ました。しかし火の勢いは強く馬小屋は全焼してしまうのでした。
第42話 雪の日の追放
 ミンチン院長はセーラが火をつけたと決めつけます。セーラがいくら違うと言ってもミンチン院長は聞く耳を持ちません。そればかりか屋根裏部屋から馬小屋に移された腹いせに火をつけた、セーラは前々から私を憎んでいたと言ってセーラを突き飛ばすのです。そして床に倒れているセーラに向かって「いったいお前はこれまで誰のおかげで生きてこられたと思っているのです。お前をこの家に置いてやった私の親切のおかげなんですよ」と言います。セーラは起き上がるとミンチン院長に向かって言いました。「先生は私に親切だったことはありませんでした。それにここが私にとって家だった事もありません」それを聞いたミンチン院長は怒りを爆発させ「出ておいきっ! お前のような恩知らずは顔も見たくない。勝手にどこででものたれ死にするがいい。さあ、とっとと出ておいき!」と言うのです。セーラは「わかりました、院長先生がそうお望みでしたらその通りに致します。ご機嫌よう院長先生、アメリア先生」そう言い残すと、セーラはロッティやアーメンガードに別れを告げエミリーとお父様の写真を抱きしめると学院を出ていこうとします。それを知ったベッキーは「お嬢様が火を出したわけではないのに追い出されるなんって、あんまりです」と言いますが、セーラは「ベッキー、仕方ないのよ。私もいつかはこうなるような気がしていたの。心配しないでベッキー、私きっと強く生きていくつもりよ」と言って学院を出ていったのです。風の強い寒い冬の日の事でした。
 セーラを追い出したミンチン院長に「お姉様、この学院を追い出した事がもし市長夫人の耳にでも入ったら…」とアメリアが言います。ミンチン院長はしばらく考えた後「私が本気でセーラを追い出したと思っているのですか? 見せしめに決まっているじゃありませんか。さあ、まだ遠くには行かないはずです。行って連れ戻して来るんです」と言うのでした。セーラは1人でロンドンの町を行くあてもなく歩き続きました。そして川べりで腰を下ろして川を眺めているとピーターが通りかかったのです。セーラは訳も話さずにピーターにすがりついて泣くのでした。事情を聞いたピーターはセーラを自分の家に招待します。ところがその途中でピーターの友達が何人も働いているのを見てセーラは心を打たれます。それはセーラの知らない世界でした。まだ自分よりも小さな子供達が一生懸命働いているのです。そしてピーターの家に案内されたセーラはケガをしているお父さんや病気のお母さんを見ると決心したのです。何とか働いて1人で生きていこうと… そしてピーターに働き口を教えてほしいと頼むのでした。ピーターの紹介でセーラはマッチを作っているマギーの作業場で働く事になりました。マギーはセーラをマッチ作りさせるにはもったいないと思い、町に出てマッチ売りをさせる事にしました。さっそく今日からセーラのマッチ売りとしての仕事が始まります。それは雪の降る寒い日の午後でした。セーラは今、勇気を出して新しい生活に飛び込もうとしています。
第43話 幸せの素敵な小包
 セーラは雪の中をマッチを売って歩き続けます。しかし雪が降り積もり足は凍えて手はかじかみます。セーラにとってマッチ売りは予想以上に大変な仕事でした。そこへドナルドが馬車に乗って通りかかったのです。ドナルドはあの女の子はマッチ売りの少女になったんだと言って馬車をとめるとマッチを買ってくれたのです。そこへピーターがやって来ました。ピーターはまずい事になったと言ってセーラを自分の家まで連れて帰ると、そこにはアメリア先生が来ていました。アメリア先生はミンチン院長がセーラを学院に戻るように言ってくれたと言ってセーラを連れ戻しに来たのです。セーラは1人で生きる決心をしていました。でもこれ以上ここに留まるとピーターの一家に迷惑がかかると考え、セーラはミンチン女子学院に戻るのでした。
 ミンチン女子学院に戻ったセーラにミンチン院長は「お前を連れ戻したのは別に私がお前を許したからではなく、この小包が来たからです」と言って小包を差し出したのです。その小包は誰かが玄関にそっと置いていったものでした。そして小包には差出人は書かれておらず、宛て名には「屋根裏の右側の部屋の少女へ」と書かれていたのです。右側の部屋はセーラが使っていた部屋でした。ミンチン院長から誰が送って来たのか問い詰められますがセーラは知らないと答えます。しかしセーラは誰が送ったものか薄々気付いていたのです。ミンチン院長はナイフを取り出すと自分の前で小包を開けるように命じました。セーラが小包を開けると中には素敵なドレスが何着も入っていたのです。セーラもミンチン院長もこれにはびっくりでした。ミンチン院長はこの小包が本当にセーラ宛に送られて来たかを確かめる為にドレスを着てみせなさいと命令します。もし寸法が合わなければそれはセーラに送られて来た物ではないと判断して処分すると脅したのですが、そんな心配は無用でした。ドレスはまるであつらえたようにセーラにぴったりだったのです。小包には手紙が入っていました。手紙には「これは普段着です。必要な服は後でまた送ります」と書かれていました。「こんな高価なドレスを普段着にするとは、送り主はそうとうお金持ちですわ。もしかするとセーラさんには今までわからなかった大金持の親類でもいたのでは」アメリアはミンチン院長に言いました。ミンチン院長はバカバカしいと言って話を聞こうとはしません。しかし誰かがセーラに高価なドレスを送った事だけは間違いないのです。それを知るとミンチン院長は急にセーラに優しくなり「セーラさん、どうやらあなたにはとても親切にして下さる方がいるようですね。とにかくあなたが今まで同様この学院で暮す事を許してあげましょう。それから今日からもう台所の仕事はしなくてもよいですからね」と言うのでした。セーラは再び屋根裏部屋で暮すようになりました。そしてミンチン院長はセーラの部屋から取り上げたふかふかの毛布や豪華な食器、絨毯をセーラに返すようにモーリーやジェームスに命じたのです。セーラはずっと考えていました、小包を送って下さった方と魔法を見せて下さった方は同じ人ではないかと… そしてセーラは何とかしてその人にお礼を言わなければと思うのでした。そこでセーラは小包に入っていた紙とペンでお礼の手紙を書きました。そしてその手紙をテーブルの上に置いておいたのです。セーラの考えが正しければその手紙は送り主に届くはずでした。そしてもし明日の朝この手紙がなくなっていたら… その事を心の中で念じながら手紙を置いたのでした。
第44話 おお、この子だ!
 朝起きたセーラはテーブルの上に置いたはずの手紙がなくなっているのに気付きました。やはり魔法使いさんが持って行ってくれたのです。その頃、隣の家ではラムダスがセーラの書いた手紙をクリスフォードさんに手渡していました。その手紙にはこう書かれていました。「このようなお手紙を差し上げることはご自身の深いお恵みを秘密になさって来られたあなた様にはきっとご迷惑な事かもしれません。でも今の私は心からお礼を申さずにはいられないのです。長い間いつも心傷つき寒さに震えお腹を空かせてきた私とベッキーに素晴らしい幸せを届けて下さったあなた様にせめて感謝の一言を申し上げる事をお許し下さい。ありがとうございました。そしてお体を大切にと… 屋根裏の少女より、まだ見ぬ親切な魔法のお友達へ」それを読んだクリスフォードさんはしばらく感激にひたっていました。素晴らしい手紙だと… しかしクリスフォードさんには悩み事がありました。カーマイケル弁護士に探してもらっているラルフの娘が、もし自分の心に描いているような優しい娘でなかったとしたら、それでも自分は親切な魔法使いでいられるだろうかと。そう考えるとクリスフォードさんはカーマイケル弁護士がパリから連れて来る娘に会うのが恐かったのでした。さらに心の一部ではその娘が見つからなかった方がいいとさえ思っているのかもしれないのでした。クリスフォードさんは屋根裏に住む優しく気の毒な少女にラルフの娘のイメージを勝手に重ねてしまっていたのです。そして2人が同じ1人の少女だったらどんなに嬉しい事だろうと馬鹿げた幻想を抱き続けてきたのです。しかしその幻想もまもなくカーマイケル弁護士が連れて来るラルフの娘が打ち壊してくれる事だろうと言って嘆くのでした。
 カーマイケル弁護士の奥さんと息子のドナルド、姉のジャネットがクリスフォードさんの家を訪れました。そして奥さんとラムダスが馬車で港までカーマイケル弁護士を迎えに行きます。ドナルドはクリスフォードさんにラルフの娘はどんな人かを尋ねます。しかしクリスフォードさんには答える事はできませんでした。するとドナルドは「あのマッチ売りの少女のような優しい人ならいいなぁ」と言うのでした。そしてドナルドは可哀想なマッチ売りの少女についてクリスフォードさんに語ります。お父さんもお母さんもいない事、昔は育ちが良かった事など。しかしドナルドはその少女が何という名前なのか、そしてどこに住んでいるのかも知らなかったのでした。
 セーラは屋根裏部屋で勉強しているとベッキーが暖炉に石炭を補充しにやって来ました。ベッキーは笑いながら「モーリーさんもジェームスさんも院長先生に言われたとかで、お嬢様のこのお部屋には石炭を十分に焚くようにですって。みんなお天気でも変わるみたいに急にお嬢様に対する態度が変わってしまって、きっとあの魔法使いさんからの小包のおかげですわ」と言います。その時セーラは屋根の上に何かいるのを見つけました。窓を開けるとそれはサルのスーリャでした。セーラは屋根裏部屋からお隣に声をかけますが誰も出て来る気配はありません。セーラとベッキーは暖炉の火でスーリャを温めると、セーラはスーリャをバスケットに入れて隣の家に返しに行く事にしました。
 隣の家にカーマイケル弁護士が来ました。ところがカーマイケル弁護士は見つけたはずのラルフの娘は実は人違いで、結局パリ中探しても見つからなかったと言うのです。それを聞いたクリスフォードさんはショックでがっくりしてしまいました。しかしカーマイケル弁護士はラルフの娘が母親の生まれ故郷のパリではなく父親の生まれ故郷であるこのロンドンにいるのではないかと提案します。そしてこの家の隣にも寄宿学院があるとクリスフォードさんを励まします。クリスフォードさんは「そうだ、隣には私の心を大きく占めている少女がいる。だがその少女は生徒ではない、貧しいかげりのあるメイドの少女だ。あのラルフの娘などではとうていあり得ない子なのだ、残念な事だがねぇ〜」と言うのでした。そこへセーラがスーリャを連れてクリスフォードさんを訪れたのです。応対に出たインド人の召し使いにセーラは説明しますが言葉が通じません。そこでセーラはインドの言葉で挨拶をします。そこへドナルドがやって来てマッチ売りの少女がやって来たと言います。ラムダスもやって来ると屋根裏の少女がやって来たと言います。セーラはラムダスにスーリャが逃げて来たと言ってスーリャを手渡すとクリスフォードさんにお礼が言いたいと言うのでした。ドナルドは自分の好きなマッチ売りの少女とクリスフォードさんの好きな屋根裏の少女が同一人物だったとクリスフォードさんに報告し、おまけにその少女はインド語を知っていると言うのです。ラムダスはクリスフォードさんに屋根裏の少女がぜひとも今までのお礼がしたいと言って面会に来ている事を報告すると、クリスフォードさんはすぐにお隣の少女を中に通します。そしてセーラが部屋の中に入って来ました。「はじめましてクリスフォード様。あれほど御親切を頂きながらこんな形で突然お伺いした事をお許し下さい」「私の方こそ丁寧な手紙を頂いたお礼を申さねばなるまい。ところで君はインドの言葉を知っているそうだが」「はい、挨拶だけは。ずっとインドに住んでおりましたから…」「い、インドに!」クリスフォードはセーラをそばに呼んで手を取るとセーラの顔を見つめ続けました。そしてこう言ったのです。「カーマイケル君、私には聞けん、君が聞いてくれたまえ、この子の名前をだ」「君の名前は?」「セーラ、セーラ・クルーです」「こ、この子だ! この子がラルフ・クルーの娘だったのだ!」
第45話 ミンチン院長の後悔
 その頃ミンチン女子学院ではミンチン院長がセーラを探していました。セーラがどこかに出かけて行ったのですが、どこに行ったのかわからなかったのです。ベッキーを問い詰めますがベッキーは口を割りませんでした。しかしラビニアもセーラがお隣に入っていくところを見ていたのです。ミンチン院長はセーラが隣の家に行ってある事ない事を言いふらし同情を買おうという魂胆だと思い込んでいました。ミンチン院長はセーラを引きずり戻す為、隣の家を訪ねて行きました。ミンチン院長はクリスフォードさんと面会しました。クリスフォードさんは言います。「実は今、カーマイケル君を私の代理人としてそちらに上がらせようと思っていたところです」「何の事です? 御冗談がお上手です事。わざわざ子供一人の事でわざわざ弁護士をおたてになるなんって大げさすぎますわ。うちの生徒… と申しましても私の思いやりで無料で置いてやっている孤児でございますけど、その子がのこのこ伺って御迷惑をかけたところで何も弁護士さんまで…」「あの子と言われるのは、ひょっとすると…」「もちろんセーラですわ、セーラ・クルー。こちらに入り込んだのを目撃した者がいるのです」「君、どうやらこのご婦人はおかしな勘違いをされているようだ。冗談などではない事を説明してくれたまえ」カーマイケル弁護士が説明します。「ではご説明いたしましょう。まず第一にあなたが迎えに来られたセーラ・クルーさんはもうそちらへは戻らぬ事になったという事です」「何ですって、セーラにとって住む家は私どもの他にないはずですわ」「いや、あなたが家と呼んでおられるあの屋根裏には戻りません。これからはこのクリスフォードさんのお屋敷が彼女の家になります。実はこちらのクリスフォードさんは亡くなられたセーラさんの父親、ラルフ・クルーさんの親友でインドで共同経営してきた世界有数のダイヤモンド鉱山の持ち主なのです。そしてクリスフォードさんは預かってきたラルフ氏の莫大な財産、つまり鉱山の権利の半分をセーラさんに渡そうと、これまで行方不明だった彼女を必死に探してきたのです。いや、そればかりか後継ぎのないクリスフォードさんはセーラさんを自分の後継ぎとして残りの全財産を彼女に渡す決意をし、先程この私の手で法律的に決定したのですよ。彼女は今や本当のダイヤモンドプリンセスとなったのです」「私どもはお父様を亡くされたセーラさんを精一杯お世話してまいりましたわ。セーラさんもその恩は心得ているはず…」「でしょうかな? ではご自分でお確かめになられたらよいでしょう」そう言うとクリスフォードさんとカーマイケル弁護士はミンチン院長を連れて廊下へ出て行きました。すると階段から素晴らしいドレスを着たセーラが… ダイヤモンドプリンセスが降りてきたのです。ミンチン院長はその場にへたり込んでしまいました。
 その頃ミンチン女子学院に手紙が届きました。インドのボンベイ警察からセーラ宛の手紙でした。アメリア先生は警察から来た手紙がどんな緊急の内容か気になったので他の生徒たちの前で読む事にしました。その手紙はセーラがお父様の事をインドのボンベイ警察に問い合わせた返事でした。そして手紙にはラルフ・クルー氏の債権は共同経営者であるクリスフォード氏によって穴埋めされラルフ・クルー氏の破産宣告は取り消された。そして鉱山は目下素晴らしい功績をあげ、クリスフォード氏は現在イギリス本国に帰国中なりと書かれていたのです。それを聞いたベッキーは「お隣の方でございます、クリスフォード様というのはお隣のご主人様でございます」と言うのでした。
 お隣から帰ってきたミンチン院長はお隣に向かった時とは、もう別人のように老け込んでしまいました。口も満足にきけないほどのショックを受けていたのです。ミンチン院長は「私たちはせっかく手の中に掴んでいた宝石をそうとも知らずに手放してしまったのよ」と言って泣きました。アメリアは今までお姉様に逆らった事はありませんでした。しかしこの時ばかりはお姉様がセーラをいじめ続けてきた事を罵るのでした。それを聞いていたミンチン院長も自分がしでかした失敗にいつまでも泣き続けるのでした。仕事を終えたベッキーは1人屋根裏部屋へ向かいます。でももうお嬢様はこの学院には帰って来ないと思うとベッキーは泣きながら屋根裏部屋へ続く階段を上りました。ところが屋根裏部屋には魔法の食事が用意されており、ラムダスさんが「セーラお嬢様からのお心づかいです」と言ってくれたのです。そしてセーラからの手紙をベッキーに渡しました。ベッキーはセーラが自分の事を忘れていなかった事に心から感激するのでした。
第46話 また逢う日まで
 ミンチン女子学院ではクリスマスパーティーが開かれる事になりました。ミンチン院長はあの事件以来すっかりと元気をなくしていました。ところが突然クリスフォードさんとカーマイケル弁護士、それにセーラがミンチン女子学院に訪ねて来ました。セーラはこの学院に寄付をするというのです。イングランド銀行の小切手で10万ポンドの小切手を手渡されるとミンチン院長は驚きのあまりに倒れてしまうのでした。そしてセーラは2つばかりミンチン院長にお願いします。1つ目はベッキーを自分のメイドとして雇うこと。そして2つ目は再びこの学院の生徒として学ばせてほしいと言うのでした。他の生徒たちはそれを聞いて大喜びでした。そしてセーラにラビニアが近づいて行きます。「おめでとうセーラ」「ありがとうラビニア」「私、あなたさえよければ仲良しになってあげても良くてよ」「私、本当はこの学院に来た時からあなたと仲良しになりたいと思っていたのよ」そう言って2人は握手するのでした。
 楽しいクリスマスパーティーが開かれました。セーラは特大のケーキを生徒たちにプレゼントしたので生徒たちは大喜びです。ところがセーラにもクリスフォードさんからプレゼントがあったのです。表に出たセーラはポニーのジャンプとオウムのポナパルトを見つけたのです。クリスフォードさんに頼まれたカーマイケル弁護士がセーラの為に探し出して買い戻してくれたのでした。セーラは大喜びです。そしてセーラはピーターの御者のもとクリスフォードさんと共に雪のロンドンを馬車に乗って走ります。パン屋の前に馬車を止めたセーラはパン屋の女将さんにお礼を言いに行きます。セーラがひどくお腹を空かせていた時に女将さんは助けてくれたのです。女将さんはセーラの事を覚えていました。そして女将さんはアンヌを呼んだのです。アンヌはセーラがパンをあげた少女でした。アンヌはあの日以来このパン屋さんで働くようになったのです。セーラは女将さんにお礼をしようと考えていたのですが、逆にお礼を言われてしまい、セーラはどうやってお礼していいものか困ってしまいます。するとクリスフォードさんはこれから先お腹を空かせている子供達がいたら十分パンを食べさせてあげる、その代金は私が持とうと提案してくれたのでした。
 それからまもなくセーラはクリスフォードさんと共にベッキーを連れてインドに行く事になりました。それはお父様の遺産を正式に引き継ぐ為と、両親のお墓参りに行く為でした。4ヶ月ほどすればイギリスに戻って来るのですが、4ヶ月後にはラビニアはいません。ラビニアはその頃にはアメリカに帰ってしまうのです。ラビニアは「残念だけどあなたとは二度と会えなくなるわね」と言います。セーラは「そんな事はないわ、いつかきっと会えるわ」と言います。ラビニアは「きっと何十年もたって、あなたがダイヤモンドプリンセスからダイヤモンドクィーンになった頃ね。その頃はきっと私、アメリカ大統領夫人になってると思うけど」と言って笑うのでした。イライザおばさんはセーラの為に船酔いの薬を持って来てくれました。セーラとベッキー、そしてクリスフォードさんを乗せた船が汽笛と共にインドへ旅立って行きます。メイド時代の辛く苦しかった想い出を胸に秘めセーラは旅立って行くのでした。
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