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名犬ラッシー  原作

原作本の紹介 名犬ラッシー
原本 Lassie Come-Home
発行年 1940年
原作者 エリック・モーブリ・ナイト
イギリス人(1897年〜1943年)
訳書名 名犬ラッシー
出版社 偕成社、講談社、旺文社、岩崎書店、ポプラ社、他
翻訳者 永坂令子、飯島淳秀、白木茂、高瀬嘉男、小室孝太郎、他

アニメとのストーリーの違い
 アニメと原作のストーリーは大きく異なります。アニメでは21話までジョンとラッシーを中心とした生活をほのぼのと描き、22話からいよいよ物語の本題に入り、ラッシーがジョンと離れ離れになってから戻ってくるまででわずか4話、テレビ未放送も考慮するとたった3話しかありません。しかし原作では物語の始まりからいきなりラッシーは売られてしまい、物語の全編を通してラッシーがスコットランドからヨークシャーまで1600kmの道のりを帰ってくるストーリーとなっています。おそらくアニメ化にあたって当初4クール52週の放送を予定しており、ラッシーの冒険だけでは話がもたないので、ジョンがラッシーと離れ離れになるのは物語の中盤とし、それまではジョンとラッシーのほのぼのした生活を描いて話をつないでいたが、あまりに視聴率が低くて途中で打ち切りが決定してしまい、途中から慌ててラッシーの冒険のストーリーに持ち込んだが、原作で全編を通して描かれていたラッシーの冒険は、アニメではたった2話しかなく、しかも最終話はテレビでは放送されないという事態にまで陥っている。
 以上の通り、アニメの名犬ラッシーはグリノールブリッジ村でのジョンとラッシーのほのぼのした生活を中心に物語の大半は進みますが、原作ではいきなりラッシーかが売り飛ばされてしまうので、グリノールブリッジ村でのジョンとラッシーのほのぼのとした生活は原作にはほとんど描かれていません。よってサンディやコリンなどのジョンのクラスメートも原作には登場せず、グリノールブリッジ村でのストーリーで登場するのはお父さんとお母さん、そしてラドリング公爵とプリシラ、ハインズくらいです。
 ラッシーがラドリング公爵に引き渡された理由もアニメと原作では大きく異なります。アニメでは石炭が出なくなったウェリントン炭坑を閉山しようとするラドリング公爵に対し、ジョンはラッシーを賭けてもいいからウェリントン炭坑を再調査してほしいとお願いします。つまりラッシーはウェリントン炭坑の再調査の担保としてジョン自らがラドリング公爵に渡してしまいます。しかし原作ではこれとは異なります。原作ではいきなり炭坑が閉山してしまい、お父さんは職を失って、わずかな失業保険で生活するようになり、餌をたくさん食べるラッシーを飼うどころが、家族のその日の食費にも困るようになって、ジョンに内緒でラドリング公爵にラッシーを売って生活費を得ます。
 アニメではジョンの意志でラッシーをラドリング公爵に渡しているので、ジョンはまだラッシーがいない寂しさを我慢できたでしょう。しかし原作ではジョンの意志とはまったく関係なしに、しかもジョンに内緒でお父さんとお母さんはラッシーをラドリング公爵に売ってしまった為、ジョンの哀しみは大変なものでした。そしてそれはラッシーも同様で、アニメではグリノールブリッジ村のラドリング公爵の屋敷から1回しか脱走していませんが、原作では3回も脱走し、しかもその度に家族間でケンカになっています。
 スコットランドのラドリング公爵の屋敷でプリシラがラッシーを逃がしてしまうのも、アニメと原作では異なります。アニメではジョンを騙してラッシーを手に入れたラドリング公爵に腹を立てたプリシラは、ラッシーの檻の扉をわざわざ開けてラッシーを逃がしてやります。しかし原作ではハインズがお屋敷の中を散歩していた時、ふとした事から首輪が抜けてしまい、ラッシーは屋敷の中を逃げ惑います。その時、プリシラがラドリンク公爵と屋敷に戻ってきて屋敷の扉を開けてしまいました。プリシラはラッシーが走ってくるのが見えたので、扉を閉めればラッシーを敷地の中に閉じ込める事はできたのですが、プリシラはグリノールブリッジ村で見たジョンとラッシーの姿が忘れられす、わざと扉を開けたままにしてラッシーを逃がしてしまいます。つまりアニメの方がより積極的にラッシーを逃がしています。
 ラッシーが1600kmにも及ぶ旅に出てからのストーリーは、原作では本編の大半がラッシーの旅のストーリーなのに対し、アニメでは打ち切りの関係でラッシーの旅はたった2話しか描かれていない為、原作にあるストーリーはかなり省略されています。その中でもバッサリカットされたのはローリーとの旅です。アニメでは途中で看病されたりはしましたが、ラッシーはずっと一人で旅をしていました。しかし原作では終盤に陶器の行商人のローリーと一緒に旅をします。ラッシーは人間に対して警戒していましたが、ローリーはトゥーツという小さな犬を飼っており、ローリーも犬が好きだった事、そして何よりもお互い向かう方向が同じ南だった事から、一緒に旅するようになります。ローリーは何度か分かれ道で南ではなく東に行こうとしますが、ラッシーは南に行く事を頑として譲らず、仕方なくローリーも南に向かうありさまでした。しかし森の中で野宿していた時、ローリーたちは盗賊に襲われ、ラッシーの活躍もありどうにか盗賊は撃退しましたがトゥーツは殺されてしまいます。そしてローリーは陶器を仕入れに東に向かう事になりラッシーと別れる事になりました。ローリーはラッシーが何かの目的を持って南に向かっているのはわかっていましたが、いったい何の為に南に向かっているのかは最後までわかりませんでした。
 そしてラッシーが旅している間のジョンやプリシラの行動は、アニメと原作ではまったく異なります。アニメではラッシーが逃げ出した事をいち早くプリシラはジョンに手紙で伝え、そしてプリシラはラッシーの事を新聞広告に出したおかげで、ラッシーがどのあたりにいるかはおよそ推測する事ができました。だからジョンもそろそろラッシーが戻ってくる頃だという事はよくわかっていました。しかし原作ではプリシラはジョンに手紙も書かなかったし、新聞広告も出さなかったので、ジョンはラッシーの居場所はもちろんの事、ラッシーがスコットランドのラドリング公爵の屋敷を抜け出した事すら知りませんでした。だからラッシーが校門の前にいた時にはジョンは本当にびっくりしてしまいました。
 グリノールブリッジ村にラッシーが戻ってきてからのストーリーもアニメと原作では大きく異なります。アニメでは無事に石炭が出るようになり、ラッシーの看病の後、ラッシーとジョンは新聞に取り上げられて有名になり、ラドリング公爵のパーティーに呼ばれますが、そこを抜け出して子供達とラッシーで野原を駆け巡って遊びます。しかし原作ではラッシーの看病の途中にラドリング公爵がジョンの家に来てしまいます。ジョンはラドリング公爵がラッシーを連れ戻しに来たのだと考え、お父さんの策略でラッシーを汚い犬に変装させ、この犬は自分の犬ではないとラドリング公爵に言わせたのです。しかしラドリング公爵はこれがスコットランドから1600kmも旅してきたラッシーだという事はわかっていました。そしてラドリング公爵はラッシーを手に入れる為に失業中のお父さんを屋敷の犬の飼育係として雇い、屋敷に住まわせる事にしました。そうすれば自動的にラッシーも屋敷に住む事になるのです。これにはお父さんもお母さんも賛成でした。こうしてジョンはラッシーと一緒に再び幸せな生活を送る事ができるようになります。
アニメとのキャラクターの違い
 アニメの名犬ラッシーはグリノールブリッジ村でのジョンとラッシーのほのぼのした生活を中心に物語の大半は進みますが、原作ではいきなりラッシーかが売り飛ばされてしまうので、グリノールブリッジ村でのジョンとラッシーのほのぼのとした生活は原作にはほとんど描かれていません。よってサンディやコリンなどのジョンのクラスメートも原作には登場せず、グリノールブリッジ村でのストーリーで登場するのはお父さんとお母さん、そしてラドリング公爵とプリシラ、ハインズくらいです。
 その中でもお父さんとお母さんはアニメと原作で大きく異なります。まずお父さんは、アニメでは炭坑で働いているといっても実際に掘っているわけではなく、事務方で少し頼りない感じのお父さんですが、原作では実際に炭坑で石炭を掘っており、無口で昔気質なお父さんで、正直さと犬の飼育に関してはグリノールブリッジ村では右に出る人がいないというような人でした。お母さんの方はと言うと、アニメのお母さんは世界名作劇場に登場するお母さんにしては少し口うるさいタイプで看護婦をしていますが、原作では少し小太りな専業主婦で、その小言の多さといったらアニメ以上です。アニメでも口うるさいと思っていましたが、原作はそれ以上でした。お父さんは「女どもの言う事はあまり気にしちゃいけない、ジョー。一日中家にいて掃除や洗濯や料理をするのは大変な事なんだ。だから小言を言って憂さ晴らしをする。俺たちは黙ってそうさせといて、鬱憤を晴らさせてやらなきゃならん。だけど女どもの小言には何の意味もないのはわかってるだろ。俺たち男にはその事がわかってる。男にはな!」とジョンに言って、お母さんの小言を半ばあきらめているようでした。
 他にはラドリング公爵の性格もアニメと原作では異なります。アニメでは少し頑固で意地悪なおじいさんといった感じの人でしたが、原作ではひたすら杖を振り回しながら怒鳴り散らすという、もう手の付けられないような人でした。しかしプリシラだけはそんなおじいさんにもなついていたようです。
まとめ
 原作ではラッシーがなぜ1600kmも旅してスコットランドのハイランドからヨークシャーのグリノールブリッジ村まで戻ってきたか何度も何度も明確に書かれています。それは動物の体の内部には時計よりも正確な何か、時間感覚といったものが備わっていて、毎日の生活の中で習慣になっている事を行う時間については厳密にきっかりと知っている。だからラッシーは4時きっかりにジョンが学校の校門から出てくるのを知っていたので、時計を見なくても4時ちょうどに校門の前で毎日毎日待っていた。このラッシーの時間感覚が、ラッシーが売られた後も消える事はなかったので、ラッシーは何度も脱走して校門の前に行っていたし、スコットランドからの旅の途中でも、何度もその感覚に襲われ、4時5分前になるとラッシーは「時間だ、どこかへ行く、どこかへ何かをしに行く。学校へ、ジョーに会いに行く時間だ。学校はあの方角だ。行かなければならない」と考え、ひたすら南に向かって歩き続けます。しかしアニメではラッシーはひたすらジョンに会いたい思いでスコットランドからグリノールブリッジ村まで旅するように描かれており、このあたりのストーリーや旅の動機が原作のようには描かれていません。
この名犬ラッシーの物語は、ひたすら4時に校門でジョンを出迎えなければならないというラッシーの時間感覚と忠実な本能が、ラッシーに1600kmにも及ぶ過酷な旅をさせたと言えるでしょう。そしてラッシーは確かに家庭に幸運をもって帰ってくれました。ラッシーがいない時は荒れてうまくいかなかった家庭が、ラッシーが戻ってきた事で何もかもうまくいくようになったのです。キャラクロー家にとってラッシーはまるで女神のような存在なのでしょう。

評価
 項目 5段階評価 コメント
アニメとの類似性 ☆☆ アニメと違って原作はほとんどがラッシーの一人旅です
入手の容易度 ☆☆☆☆ 有名な原作ゆえ、比較的入手容易です
お薦め度 ☆☆☆ 原作のようにほのぼのとしていないが、それなりには楽しめます
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