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アルプスの少女ハイジ  原作

原作本の紹介 アルプスの少女ハイジ
原本 Heidi's Lehr-und Wanderjahre
Heidi kann brauchen, was es gelernt hat
発行年 1881年
原作者 ヨハンナ・ホーセル・スピリ
スイス人(1827年〜1901年)
訳書名 アルプスの少女ハイジ
出版社 角川書店 他
翻訳者 関泰祐・阿部賀隆 他

原作の補足説明
 アルプスの少女ハイジの日本語翻訳本は上記以外に岩波書店からも発売されているが、ここでは角川文庫版を紹介する。なお、角川文庫版も岩波文庫版も既に絶版となっており、入手は非常に困難である。
アニメとのストーリーの違い
 原作とアニメとはストーリーはほとんど同じだが、特に物語の後半で3ヶ所、意図的に変更されている。1つはアルムおんじと村人との和解。1つはペーターの嫉妬、もう1つはお医者さんとの同居である。
 アニメではハイジがフランクフルトから帰ってきた後もアルムおんじは村人にとって恐怖の象徴であり、アルムおんじがハイジを学校に行かせる為にデルフリ村で生活するようになっても、自分から村人と付き合うような事はなかった。しかし原作ではハイジがフランクフルトから帰ってきた数日後にはアルムおんじは過去を悔い改め、デルフリ村の教会を訪れて神様や牧師さんに過去の行いを謝罪し、村人たちに暖かく迎えられるという感動的なストーリーがあります。なぜこの部分がカットされたのかわかりませんが、個人的にはアニメに取り入れても良かったと思います。
 それとアニメでは後半、ハイジとペーターとクララが仲良く遊ぶシーンが数多く登場しますが、原作ではペーターはクララが来てからハイジは自分と一緒に牧場に行かなくなったのに嫉妬し、クララがアルムの山小屋にいられなくする為にクララの車椅子をわざと壊したりするほどペーターはクララを嫌っていました。このあたりはどちらかというと「わたしのアンネット」に近いような作風で、その後はペーターの精神的葛藤が続き、最後は自分が壊した事がバレてしまいますが、結果的にペーターが車椅子を壊した為にクララは車椅子に頼らなくなって歩けるようになります。
 それから原作では物語の最後にハイジとアルムおんじはクララのお医者さんと同居する事になります。お医者さんにはアニメでは取り上げられていないエピソードがあり、それゆえに最後はアルムおんじと共にハイジの保護者となるのですが、このあたりの詳細はお医者さんの項目で説明します。
 他にもアニメで取り上げられなかったエピソードはいくつかあり、アルムおんじの過去についても記載があります。アルムおんじは若い頃、ドムレッシェクという町で二人兄弟の兄として両親と一緒に暮らしていました。アルムおんじの家はドムレッシェク一番の畑の持ち主でしたが、アルムおんじが素性の知れない悪い人たちと一緒に付き合うようになり、酒や博打で身を滅ぼし、一文なしになってしまったのです。両親は悲しみのあまり次々と他界し、弟も怒って家を出て行き、アルムおんじも悪い評判が広まった為、家を出て行きます。その間アルムおんじは兵隊になってナポリに行っていたと噂されていましたが、実際には兵隊としてシシリーに行っていたようです。そこで負傷した隊長を世話していた事からクララの世話も上手かったというエピソードがあります。14〜15年後にアルムおんじはトビアスという名の息子を連れてドムレッシェクに戻ってきて、トビアスを親戚に預けようとしますが、誰も引き受けようとはせず、アルムおんじは怒ってドムレッシェクを離れデルフリ村でトビアスと暮らす事になります。アルムおんじはここでも村人たちとは付き合わず教会にも行かなかったが、トビアスは村人たちのうけがよく、デルフリ村で大工の見習いとして働き、アーデルハイドと結婚します。そしてハイジが生まれますが幸せは長く続かず、結婚2年後にトビアスは大工としての仕事中に亡くなってしまい、悲しみのあまりアーデルハイドもその2ヶ月後に亡くなります。村人たちはこんなに不幸が続くのはアルムおんじが神様をないがしろにしたから罰が当たったのだと噂し、牧師さんもアルムおんじを悔い改めさせようとしましたが、アルムおんじはますます怒りっぽくなって、とうとうデルフリ村を離れ一人で山小屋で暮らすようになってしまったのです。当時1歳のハイジはアーデルハイドの母親と妹のデーテに引き取られますが、ハイジが4歳の時にアーデルハイドの母が亡くなり、デーテはラガーツの温泉で働く為にハイジを耳の不自由なおばあさんに預けていましたが、フランクフルトで働く事になったのでアルムおんじにハイジを預ける事になったという事です。
 逆にアニメのみのオリジナルというのも多く、原作にはヨーゼフやピッチーやチーちゃんは登場しません。したがってピッチーに関する話や、チーちゃんを売ってしまう話、ユキちゃんが殺されかける話、ハイジが山羊飼いをめざす話しなどはオリジナルです。さらには原作ではクララが山小屋に来てからの記述が少なく、ほとんど苦労する事なく歩けるようになった為、アニメでのクララの歩く努力や子供たちだけで牧場へ行くというのはアニメオリジナルです。
アニメとのキャラクターの違い
 原作とアニメでキャラクターが完全に違うのがペーター。他に少しキャラクター設定が違うというのがアルムおんじとお医者さんの二人です。この3人を中心に紹介しましょう。
 アルムおんじはハイジよりも60歳年上、そしてアルムおんじとデーテは7親等の血縁があるそうです。アルムおんじはハイジの父親方のおじいさんで、デーテはハイジの母親の妹なのだから普通は血縁はないはずなのですが、スイスの山の小さな村の中の事なので、村人たちみんなは何らかの血縁があるのが当たり前という事情があったようです。という事はハイジの両親の間には8親等の血縁がある事に… さて、原作とアニメでアルムおんじが異なるのは村人との和解でしょう。実は「アルプスの少女ハイジ」の原作は「わたしのアンネット」なみに宗教色が濃いいのです。アルムおんじは神様を信じなくなっており、当然アルムおんじに育てられたハイジも、神様に祈った事すらありませんでした。しかしハイジはフランクフルトでおばあさまに神様について教えられたのです。ハイジは神様に「山に帰りたい」と祈り続けますが、長く願いが叶う事はありませんでした。ハイジは願いが叶わないので神様を信じるのをやめてしまいますがおばあさまに説得され、ハイジは神様を忘れてしまった事を後悔し、再び神様に祈るようになったのです。そして願いが叶いハイジがアルムの山に帰った時にはハイジはすっかりとキリスト教信者になってしまったのです。ハイジは神様を忘れてしまえば神様も自分の事を忘れてしまい、何もかも悪くなってしまうと思っていました。しかしアルムおんじは神様を忘れていたのです。アルムおんじは一度神様に忘れられたらもうそれっきりで、二度と元には戻れないと考えていました。しかしハイジは神様を忘れても再び神様のところに戻って行けると言います。ハイジはアルムおんじの過去などまったく知りませんから無邪気に自分の思った事を言っただけなのですが、神様を忘れて息子を失い何もかも悪くなってしまったアルムおんじにとっては、まるで自分の事を言われているようでした。その夜、アルムおんじは神様に罪をわび、翌日デルフリ村の教会に行って牧師さんに許しを請い、神様と仲直りしたのです。それを見ていた村人たちはアルムおんじを大歓迎し、アルムおんじは冬の間デルフリ村で村人たちと一緒に生活するようになったのです。アニメではデルフリ村で暮らすようになっても村人たちとはあまり付き合わなかったようですが、原作ではアルムおんじはペーターのおばあさんの家を自分から訪れ、おばあさんやブリギッテに気さくに話しかけたりしています。このあたりは原作の方が良かったような気がします。
 クララのお医者さんはアニメでは幽霊騒動の時とクララがアルムの山に来れるかどうかを確認しに来たくらいですが、原作ではもう少し活躍します。幽霊騒動の時は原作とアニメは同じですが、お医者さんがアルムの山に来た時は少し違います。アニメではお医者さんは休暇がてらにアルムの山に来ていましたが、原作では傷心旅行で来ていたのです。というのはお医者さんは奥さんを亡くし、たった一人の愛娘が心の慰めだったのですが、ハイジがフランクフルトを去ってからその愛娘も亡くなり、すっかり意気消沈していたのでゼーゼマンさんが気晴らしにとむりやりお医者さんにアルムの山まで旅行に行かせたのです。お医者さんはアルムの山の美しさには感激しましたが心の悲しみは消えません。しかしお医者さんはアルムの山でハイジに色々な所を案内してもらい、時には慰められているうちにハイジが自分の娘だったらと思うようになってしまいます。ハイジやアルムおんじもお医者さんの事が大好きでした。やがてお医者さんはフランクフルトに戻って行きますが、帰る時には来た時には考えられないほど幸せな気持ちになっており、とうとうフランクフルトの家を引き払ってデルフリ村で暮らそうと考えます。そしてクララがアルムの山に来て歩けるようになったお礼に、ゼーゼマンさんはアルムおんじに何かできる事はないかと尋ねると、アルムおんじは自分はもう長くは生きられないから、自分が死んでもハイジをデーテの手には渡さず、ハイジが苦労しないようにしてほしいとお願いすると、ゼーゼマンさんはお医者さんがデルフリ村に来てハイジの身寄りになりたがっていると言って取り持ってくれたのです。やがてお医者さんもデルフリ村にやってきてハイジ達が冬の間使っていた荒屋を買い取って改修し、そこでお医者さんとアルムおんじとハイジの3人で暮らすようになるのです。アニメではお医者さんはこれほどまでに活躍しないので、ちょっと残念だったりします。
 アニメと原作とでキャラクター設定が全く違うのはペーターです。アニメのペーターは口下手で何も考えていないような無邪気な少年に描かれていますが、原作ではずいぶん嫉妬深い少年に描かれています。お医者さんやクララがアルムの山に来た時、ハイジはペーターに構わずお医者さんやクララの相手ばかりしているのに腹を立てて後ろから頭を殴る真似をして見たり、揚げ句の果てにクララの車椅子がなくなればクララは外に出る事ができないのだからフランクフルトに帰ってしまうだろうと考えて車椅子を谷間に転がし、車椅子は坂を転げ落ちてバラバラに壊れてしまいます。それを見ていたペーターは大喜びしますが、結果はペーターの思い通りにはならず、車椅子がないのでクララは歩く練習を始め、ペーターはその練習を手伝う羽目になってしまいます。その後ペーターはクララの大切な物を壊してしまった事を気に病んで良心がうずき、いつか警察に捕まってしまうのではないかとビクビクしどおしでした。やがてクララが歩けるようになった時、ふとした事から車椅子を壊したのがペーターだという事がバレてしまいますが、結果的にペーターが車椅子を壊したおかげでクララが車椅子を頼らなくなり一人で歩けるようになったという事でペーターは怒られるどころかクララのおばあさまとゼーゼマンさんから毎週10ペニヒというペーターにとっては大金、ゼーゼマンさんにとっては些細なお金をもらえる事になるのです。このあたりのペーターの精神的葛藤は細かく描かれており、アニメの「アルプスの少女ハイジ」には似つかわしくなく、どちらかというと「わたしのアンネット」のような作風になっています。この部分はアニメでは完全にカットされていますが、これは正解でしょう。
 その他、ハイジやおばあさん、ブリギッテ、そしてゼーゼマンさんやおばあさま、さらにはセバスチャンやチネッテのイメージは原作とアニメではまったく同じです。クララはというとよくわかりません。なぜならアニメではクララの登場以来、クララはハイジと同じくらいに喜怒哀楽が細かに描かれていますが、原作にはクララについての記述はあまり多くないのです。おそらく同じようなイメージだろうとしかわかりませんでした。
まとめ
 原作を読んで予想外だったのは、ペーターの性格もさることながら、クララの立てるようになる場面です。アニメでは苦労に苦労を重ね、ついに立てるようになる所などは感動の名場面となっていますが、原作ではあっけないほど簡単に歩けるようになっているのです。これはちょっと以外でした。
 「アルプスの少女ハイジ」の原作はずいぶんと宗教色が濃く、フランクフルトでハイジが悲しんでいた時におばあさまが神様のお話をした事に始まり、ハイジがアルムおんじにその話をしてアルムおんじは神様に許しを請い村人たちと和解したり、クララが歩けるようになったのも神様のおかげだと語っています。さらにクララの車椅子を壊したのがペーターだという事が発覚した時にもおばあさまは神様を持ちだしてペーターを諭しています。少し長くなりますが最後にその時のおばあさんのセリフを紹介しましょう。
 「あんたは車椅子を山から落としてめちゃめちゃにしてしまいましたね。それはあんたもよく知っている通り大変悪い事で、そんな事をしたらその罰を受けなければならないという事もあんたの知っている通りですよ。あんたはその罰を逃れる為に、誰にも隠しておこうとしたのですね。でもねえ、ペーター。悪い事をして誰にもわからないと思ったら大きな間違いなんですよ。神様は何もかも知っていらっしゃるのです。だから人が悪い事をして、それを隠そうとすると、神様は小さな番人を起こすのです。それは私達の生まれた時から神様が私達の心の中に入れておいた人で、私達が何か悪い事をするまでは、静かに眠っているのです。そして目を覚ますと、小さな突棒で絶えず私達をつつくのです。それにその番人は『今にわかってしまうぞ。今に引っ張り出されてひどい目にあわされるぞ』と言ってますますひどく私達を苦しめるのです。だからそんなふうになると、私達は心配したり苦しんだりして一瞬間も幸福な安らいだ気持ちのする時がないのです。ペーター、あんたも近頃そんな気がしていたのでしょう。それからもう一つ、あんたが思い違いになった事がありますよ。あんたがやっつけてしまおうと思ってした事が、かえってありがたい事になってしまったのです。クララは車椅子がなくなったのに、それでも花が見たくてたまらなかったので、歩いてみようという気になったのです。そしてそれからは毎日毎日上手に歩けるようになったのです。もし少しここにいれば山へ登れるようになるでしょうが、そんな事は車椅子に乗ってばかりいたらとてもできない事でした。ですからね、ペーター、神様は悪い事をされた人には、悪い事でも良い事に変えて下さるのですよ。そして悪い事をした当人だけがいつも苦しんでいるのですよ。わかりましたか、ペーター。よく覚えておおき。そしてもし何か悪い事をしたくなった時には、心の中の番人がちくちくつつきながら、嫌な声を出すのだという事を思い出しなさい。いいですね。もう忘れませんね。」

評価
 項目 5段階評価 コメント
アニメとの類似性 ☆☆☆☆ ストーリーはおおむね共通です
入手の容易度 古本屋をこまめに探さない限り入手は不可能
お薦め度 ☆☆☆☆ アニメを見た事がなくても楽しめます
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