第1話 少年ネロ |
1870年代の初め、ベルギーのフランダース地方、アントワープに近い小さなブラッケン村に少年ネロとジェハンおじいさんが一緒に暮らしていました。おじいさんとネロは毎朝村でとれた牛乳をアントワープの牛乳店まで運び、細々ながらその運賃を貰って生計を立てていました。ネロはまだ小さくて、おじいさんの引く荷車を一人で引く事はできませんでしたが、荷車を後ろから押したり、牛乳缶を洗ったりしておじいさんの仕事を手伝います。おじいさんは自分が年老いて働けなくなる前に、ネロが一人前になってほしいと願っていました。 |
第2話 アロアと森へ |
ある日、ネロはおじいさんに頼まれ、おじいさんと一緒にアントワープには行かず、森へイチゴを摘みに行く事になりました。それを知ったアロアもネロと一緒に森に行きたいと言いだし、アロアのお母さんのエリーナにお弁当を作ってもらって一緒にイチゴ摘みに出かける事にしました。アロアは森に行くのが始めてだったので、楽しくて仕方ありません。二人で野イチゴを摘んだりお弁当を食べて鬼ごっこをしたりしていると、空模様が怪しくなってきました。ネロは今から村に戻っていたら雨に濡れてしまうと考え、森の中に住んでいる、木こりのミッシェルおじさんの山小屋で雨宿りをする事にしました。 |
第3話 アントワープの町で |
今日もネロはおじいさんの引く荷車を押して朝早くからアントワープまで歩きます。アントワープに続く運河沿いの道を歩きながら、おじいさんはネロに語りかけました。「おじいさんはな、ネロ。お前が早く大きくなって力の強いたくましい男になってほしい。わずかでもいい、自分の土地を持って一生懸命働くんじゃ。そうすればお前の事じゃ。きっと旦那と呼ばれるようになるよ」と言うと、ネロは「うん、僕早く大きくなっておじいさんに楽をさせてあげるよ」と言うのでした。 |
第4話 新しい友達 |
ネロは朝から考え事をしていました。それはあの金物屋にムチ打たれていた犬の事を考えていたのです。ネロは朝ご飯のパンを残すと、あの犬に出合った時にあげようと食べ残したパンをポケットに詰めるのでした。ネロはウナギを釣ろうと考え、ヌレットおばさんの庭の池でミミズを取ると、アントワープへの道沿いにある運河で釣りを始めます。ウナギを釣っていた時、ネロはジョルジュとその弟のポールと知り合いになりました。ジョルジュはネロの事が気に入り、ウナギのよく釣れる場所へ案内しました。するとそこへハンスの馬車が通りかかったのです。馬車にはアロアとハンスの一人息子のアンドレが乗っていました。ハンスはコゼツ旦那に少しでも取り入ろうと、アンドレとアロアを仲良くさせたかったのですが、内気なアンドレはアロアに少しも相手にされず、ネロを見かけたアロアは一緒に釣りをすると言って馬車を降りてしまいます。ハンスはネロに気を悪くしましたが、アロアに文句を言う事もできず、アンドレを少しでもアロアに近づけようと、アンドレもアロアと一緒に馬車を降ろすのでした。 |
第5話 パトラッシュ |
翌日、ネロがおじいさんと一緒にアントワープに向かっていた時、道端でジョルジュとポールが待っていました。2人はネロに逢いたかったのです。ジョルジュとポールはネロとおじいさんが牛乳缶を乗せた荷車を引いているのを見て、ジョルジュはおじいさんに代わって荷車を引くのを手伝います。今はネロとジョルジュとポールは、まるでずっと前からの友達のように、明るく心の通い合う友達になっていました。 |
第6話 がんばれパトラッシュ |
ブラッケン村に夏がやってきました。今日は月初めのセリ市なので、金物屋も屋台をパトラッシュに引かせてアントワープに向かいます。しかし重い屋台を引きムチで打たれ続けたパトラッシュは、もう体が思うように動きませんでした。というのも丸一日ほとんど食事も水も飲ませてもらえなかったのです。とうとうパトラッシュは力尽きて倒れてしまいました。金物屋は倒れたパトラッシュをむりやり起こして屋台を引かせようとしますが、パトラッシュは起き上がる事ができないまま意識を失ってしまいます。金物屋は「子供の時から面倒見てやったのに、俺様に何一つ恩返ししないで。何ってこったい。てめえのおかげで、とんだ俺様が荷物を引っ張らにゃならんのだぞ」と言い捨てると、倒れたパトラッシュを土手から突き落とし、自分で屋台を引いてその場を立ち去ってしまうのでした。 |
第7話 スープをおのみ |
翌朝、目を覚ましたネロはパトラッシュが生きている事を確認し安心します。しかしまだパトラッシュは意識を取り戻しませんでした。おじいさんは庭で栽培していた薬草を摘むと、それを少しだけネロに渡し、煎じてパトラッシュに飲ませるように言って、アントワープの町まで牛乳運びと、薬草を売りにでかけるのでした。 |
第8話 ほえたよおじいさん |
朝、目を覚ましたパトラッシュは優しいネロの家にいる事がまだ信じられませんでした。すぐにでもあの恐ろしい金物屋の主人が出て来そうで不安だったのです。パトラッシュはネロに看病してもらい、アロアが自分のお弁当に持ってきた干し肉を食べて少しずつ元気を取り戻していきますが、まだ起き上がる事はできませんでした。 |
第9話 おもいでの鈴 |
パトラッシュもすっかり元気になり、ネロやアロアと野原を駆け回れるようになりました。ネロとアロアは嬉しくて一日中パトラッシュと一緒に楽しく遊びます。翌日、おじいさんとネロがアントワープへ牛乳を運ぶ時にパトラッシュとアロアもついて行く事になりました。ところがパトラッシュは労働犬として働いていた頃の事を思い出し、荷車を自分で引こうとするのです。おじいさんはいいんだよと言って荷車を自分で引きます。ネロたちは途中でジョルジュとポールに出合い、みんなで花輪を作ってパトラッシュの首にかけるのでした。 |
第10話 アロアのブローチ |
ある日の事、おじいさんは荷車を引いて一人でアントワープに行き、ネロとパトラッシュは森へ薪を拾いに出かけます。それを知ったアロアもネロと一緒に森へ行く事にしました。アロアのお母さんは先日、ネロとアロアが森に出かけて雨に打たれて帰りが遅くなってしまった事を心配して早く帰るようにと言います。アロアはお父さんからもらったブローチを胸に付けていました。アロアはあまりそのブローチが似合わないと思い、外そうかと思っていたのですが、ネロによく似合うと言われ、そのまま付けていたのです。 |
第11話 エリーナの花畑 |
ある日の朝、おじいさんがアントワープまで荷車を引こうと庭に出るとパトラッシュが荷車を引こうとするのです。おじいさんは「神様はお前たち犬が人間みたいに働くようにはお作りにならなかったのだ。でも、そうまで言うのならそのうち引き布をこしらえる事にしよう。それまではおじいさんに引かせておくれ」と言って自分で荷車を引くのでした。 |
第12話 おじいさんの小さな壺 |
翌日アントワープまでおじいさんが荷車を引き、ネロが後ろから押していたの時、それを見ていたパトラッシュは労働犬としての自分を思い出し、荷車を引こうとして言う事を聞きません。仕方なくおじいさんは「そんなに引きたがっているんだ。引いてもらおうか。お前の思い通りに引いてもらうからな」と言うと、引き布を作ってやり、パトラッシュに荷車を引かせる事にしました。こうしてパトラッシュが荷車を引き、おじいさんとネロが後ろから荷車を押してアントワープまでの運河に沿った並木通りの長い道のりを、毎朝歩く事になるのでした。 |
第13話 ナポレオン時代の風車 |
ある夜、激しい嵐でした。金物屋の主人にいじめられていた頃のパトラッシュは吹き荒れる風や雨の音にも脅えていたに違いありません。でも今のパトラッシュには優しいネロとおじいさんがいます。例え雨もりのする家でも安らかに眠れる平和がありました。朝になって嵐はやみましたが、ネロやおじいさんは風で壊れた柵の修理で大忙しです。村に1つだけあった粉をひく為の大きな風車も風で羽根が壊れ、止まったままでした。 |
第14話 夜空に描いた絵 |
パトラッシュは毎日のように荷車を引きたがるので、おじいさんはありあわせの皮でパトラッシュの為に引き具を作りました。それを使ってパトラッシュは荷車を引いて村の牛乳を集めると、村人達は口々にパトラッシュはいい犬だと言ったり、おじいさんに楽をさせて長生きしてもらわなければと言います。おじいさんはもう若くありません。しかし自分が死んだ時のことを考えると、ネロが一人前になるまでは絶対に死ぬわけにはいかないと考えるのでした。おじいさんはネロを自分のように人の情けや親切に頼って生きるのではなく、誰にも迷惑をかけずにちゃんと自分の土地を持った立派な農夫か木こりにしたいと考えていました。ネロも大きくなった時、今のように村の人の情けや親切に頼って生きていくわけにはいきません。おじいさんの言うように立派な農夫か立派な木こりにならなければと思うのでした。 |
第15話 古い帳簿 |
ネロは暇さえあれば絵を描きました。紙を買えないネロは板に炭で絵を描くしかありません。しかし木の板に炭で絵を描くと、失敗しても消す事はできませんでした。今日もネロは朝から風車の絵を描いているとアロアが遊びにやって来ます。ネロが板に絵を描くのを見ていたアロアは、家からいらなくなった紙を持って来ると言って家に戻りました。家にはお母さんだけがおり、お母さんは仕事が終わったらいらなくなった帳簿を持ってきてあげると言ってくれましたが、アロアは待ち切れなくて勝手に帳簿を持ちだしネロにあげてしまったのです。そうとは知らないネロは紙の匂いがすると言って大喜びで帳簿の裏に絵を描くのでした。 |
第16話 10サンチームの写生帳 |
コゼツ旦那から貰った分厚い帳簿。ネロはその日からただ夢中で紙に絵を描き続けました。ネロはおじいさんと一緒にアントワープに牛乳缶を運ぶ時にも古い帳簿を持っていき、気に入った風景があると絵を描くのでした。しかし分厚い帳簿もあっという間に絵を描きつくしてしまい、また紙がなくなってしまいます。 |
第17話 丘の上の木の下で |
その夜、ネロは生まれて初めて手にした真っ白い画用紙を想い、ネロは嬉しくてなかなか寝つけませんでした。翌朝、ネロはさっそく真っ白い画用紙を片手に、おじいさんに付き添ってアントワープに行きます。ネロはアントワープの壊れかかった塔の上に登って絵を描こうとしました。はずむ心でネロは画用紙に向かいましたが、いざとなると何を描いたらいいのかわからなくなるのです。初めて握る鉛筆と真っ白な画用紙がネロを緊張させていました。何となく白い画用紙を鉛筆で汚すようで恐かったのです。結局その日は何も描かないまま村に戻ってきてしまうのでした。 |
第18話 いたずらっ子のクロ |
ある日、隣のヌレットおばさんのところに嫁に行った娘から手紙が届きました。ヌレットおばさんに手紙が届くなどめったになかったのでヌレットおばさんはびっくりしてしまいます。ヌレットおばさんは手紙が来るとロクな事がないと言い、娘から手紙が来たと知ると娘が死んだのかと早とちりしてしまうのでした。ジェハンじいさんが代わりに手紙を読むと、手紙には娘が今日里帰りすると書かれていたのです。 |
第19話 金物屋が村に |
パトラッシュがネロの家の家族になってから、もう1ヶ月以上もたっていました。今日はおじいさんがパトラッシュを譲り受けた金物屋にお金を払う日だったのです。金物屋との約束を果たす為に、おじいさんはネロには内緒でわずかずつお金を貯めていました。でも約束のお金には少し足りません。足りない分は薬草を売ったお金で払うしかありませんでした。おじいさんはアントワープへ行くとネロとパトラッシュを先に帰してしまいます。おじいさんはこれから会う金物屋にネロとパトラッシュを会わせたくなかったのでした。 |
第20話 どこまでも |
ネロは夜も眠る事ができずにパトラッシュの事を想い続けました。翌日ネロとおじいさんはアントワープの酒場に行きますが金物屋はあれから来ていませんでした。ネロはアントワープの町をパトラッシュを探して歩き続けます。事情を知ったジョルジュとポールも一緒にパトラッシュを探してくれますが、それでもパトラッシュは見つかりませんでした。 |
第21話 船で来たお客さま |
ネロのもとに戻って来たパトラッシュ。そしておじいさんの病気もたいしたことなく、ネロにとっては楽しい日が続きました。そんなある日、エリーナがネロにアントワープでケーキの木型を買って来てほしいとお願いします。ネロはアントワープに行くとケーキの木型を持って帰って来ました。エリーナはその木型を使ってケーキを焼き、ネロとアロアはその様子を楽しそうに見ています。ネロはケーキをもらって家に戻りました。アロアも一緒に行きたかったのですが、お客さんが来ると言うのでアロアは家に残っていなければなりませんでした。 |
第22話 イギリスからの贈り物 |
ネロはアロアがイギリスに行こうとしていたのはイギリスの学校で勉強する為だとおじいさんから教えてもらいます。ネロは学校で字を教えてもらったり絵の描き方を習ったりすると聞いて、とてもうらやましく思いました。しかしおじいさんは複雑な心境でした。なぜならネロの家は貧しく、学校に行かせてやる余裕などまったくなかったからです。 |
第23話 アロアの誕生日 |
ネロはアロアの誕生日に招待されました。しかしネロにはプレゼントを買うお金がないので、自分の描いた絵をプレゼントしようと考えますが、パトラッシュの絵は既にプレゼントしてしまったので、去年と同じアロアの一番好きな花を贈る事にしました。それを知ったおじいさんは朝アントワープへ行く時、ネロにアントワープへは行かずにアロアのプレゼントを準備するよう言いますが、ちょうどその日、村の人から牛乳缶をいつもより2缶多く運ぶのを頼まれた為、おじいさんだけでは辛そうだったので、ネロも一緒にアントワープまで行く事になりました。 |
第24話 アロアの絵 |
秋風が音を立てて村を吹き抜けて行く頃になると、村人達は慌ただしく草刈り仕事に出始めます。フランダースの秋はとても短く、やがて来る厳しい冬に備えて牛にやる牧草を刈り取っておかねばならないからです。 |
第25話 アロアがいない |
ネロにはわかりませんでした。なぜアロアの絵を描いてはいけないのでしょう? どうしてコゼツ旦那はネロにあんなに怒ったのでしょう? アロアの絵を取り上げられたあの日からネロとアロアには逢えない辛い日が続いたのです。そしてそんな時、また1つ事件が起こったのです。それはアロアがいなくなってしまったのです。ハンスはネロがアロアを隠したのだと考え、ネロを捕まえると襟首を捕まえて殴りかかろうとしましたが、ちょうどそこへエリーナが通りかかってハンスを止めたおかげで、ネロは事なきを得ました。エリーナもネロに尋ねますが、ネロには思い当たる節はありませんでした。 |
第26話 さようならアロア |
アロアのイギリスへ行く日が近づきました。アントワープでの仕事を終えたネロはおじいさんを待つあいだ港へ行ってみました。ネロはイギリスが海のずっと向こうにあるという事しか知らず、イギリスがどこにあるのか知りませんでした。その日、アロアは両親と一緒にアントワープの洋服屋へイギリスで着る服を買いに来ていたのです。アロアは洋服屋から抜け出すとネロにこっそり逢いに行きました。アロアはネロがイギリスがどこにあるのか知らないと聞くと、店に置いてあるヨーロッパの地図を見せたのです。その地図ではイギリスとアントワープは手ではさめるくらいの距離しかなく、イギリスとアントワープの距離が想像したより近い事を知り、アロアは元気を取り戻します。 |
第27話 アロアのいないクリスマス |
アロアがイギリスに旅立って1ヶ月。村には厳しい冬がやって来ました。朝が早い牛乳運びは、年老いたジェハンじいさん、パトラッシュ、ネロにとっていっそう辛い仕事になりましたが、ネロにはそれ以上に気にかかる事がありました。それはもうすぐクリスマスだというのにイギリスに行ったアロアから何の便りもないからです。 |
第28話 親切な貴婦人 |
大雪の降ったある日、ネロとおじいさん、パトラッシュはいつものようにアントワープまで牛乳を運びに行きますが、雪の為、荷車は思うように前に進まず大変な重労働となってしまいます。子供たちにとっての楽しい雪も、ネロとおじいさんの牛乳運びの仕事には辛いものでしかありませんでした。次第に雪が深くなり、荷車は前に進まなくなってしまいます。ネロは必死で荷車の前の雪をかき、何とか再び進めるようになりました。しかし今度は荷車に車輪の留め具が外れ、車輪が外れそうになっています。ネロは近くで枯れ枝を見つけて来ると、それを車輪の留め具の代わりにして歩き始めるのでした。 |
第29話 ルーベンスの二枚の絵 |
翌日、ネロ朝から上機嫌でした。それは見知らぬ夫人から大聖堂に大好きなマリア様の絵を描いたルーベンスの絵が他にもある事を聞いており、今日はその絵が見られるからです。ネロはおじいさんの牛乳運びを手伝ってアントワープまで行って仕事を終わらせると、ネロは大聖堂まで走りました。その素晴らしい絵をこれから見るのだという喜びで胸がいっぱいだったのです。ネロが大聖堂に入るとルーベンスの2枚の絵はマリア様の絵の両側にありましたが、2枚の絵にはカーテンがかけられており、教会の堂守からこの絵を観賞するには1フラン必要だと言われてしまいます。ネロはガックリと肩を落として家に帰りました。 |
第30話 雪の中の約束 |
ルーベンスの2枚の絵を見る事ができなかったネロは、今日も雪道の牛乳運びにその事を忘れようとしていました。でもネロはあのカーテンで隠された絵の事がどうしても忘れる事ができなかったのです。 |
第31話 ネロの決意 |
長い冬が終わって、待ちに待った春がやって来ました。辛かった雪道の牛乳運びも雪が溶けるとずっと楽になり、ネロはますます元気に働き始めたのです。ネロは自分の力で仕事をしたかったので、ネロはおじいさんにも手伝わせずに牛乳運びをするようになるのでした。 |
第32話 大きなカシの木 |
ネロがケガをしたミッシェルおじさんの世話をする為に山の小屋に泊まり込んで何日かたちました。自分一人の力で樫の木を切り倒そうと決心したネロはミッシェルおじさんの看病の傍ら、ミッシェルおじさんに内緒で樫の木を切り始めたのです。けれどもなかなかはかどりません。固い樫の木を切る事は小さなネロにとっては思った以上に大変な仕事だったのです。 |
第33話 こころの手紙 |
また暑い夏がやってきました。年取ったおじいさんには暑さは堪えます。でもネロは張り切って仕事に精を出していました。木こりのミッシェルおじさんを助けて森で過ごした生活が、ネロの小さな体に自信を植えつけてくれたのです。 |
第34話 ヌレットおばさん |
いよいよヌレットおばさんの引っ越しの日がやってきました。ミレーヌやクロードもやってきて朝から引っ越しで大忙しです。ところが馬車に荷物を全部積んだところでアヒルのクロがどこかに行ってしまいました。クロは牛乳を運びにアントワープまで行ったネロとパトラッシュを迎えに行っていたのです。ヌレットおばさんは出発の時間だというのに戻って来ないクロの事がとても心配でした。するとネロがクロを連れて帰ってきたのです。ヌレットおばさんはクロが戻ってきた事と出発前にネロにお別れが言えた事で安心しました。そしてクロにもお別れを言ったのです。ヌレットおばさんはクロを連れていくつもりでしたが、クロを連れていくとネロやパトラッシュが寂しくなると思い、クロをネロに託す事にしました。ヌレットおばさんは「ネロまた逢おうね。クリスマスにはきっと来るからね」と言って馬車でミレーヌの住む家に引っ越していくのでした。 |
第35話 お帰りアロア |
もうすぐアロアが帰って来る。そう思うとネロはとてもじっとしていられませんでした。でもアロアがどうして急にイギリスから帰って来る事になったのかネロにはわかりませんでした。アンドレからアロアが今日帰って来ると聞いたネロは、およそ1年ぶりの再会にネロは心弾ませてアントワープへ迎えに行きます。でもイギリスで勉強しているはずのアロアが今ごろ帰って来るのはおかしい、そう思うとネロは段々心配になってくるのでした。 |
第36話 アロアのくすり |
アロアがイギリスから帰ってきました。でもその喜びは一瞬のうちに暗い悲しみに代わってしまいました。アロアは病気の為に故郷に帰ってきたのです。アロアはひどい熱の為ネロやパトラッシュの夢を見てうなされていました。バートランド先生はアロアが両親から離れて一人でイギリスに来た為に、寂しさや心配事から病気になったと言います。そしてアロアの病気を治すにはアロアを村に帰すべきだと言うのです。病気を治す為には村の澄んだ空気と暖かい愛情が必要だったのです。バートランド先生もネロの描いた絵を見て一度村へ行ってみたいと思っていたのでした。 |
第37話 うれしい知らせ |
アロアはすっかり元気になりましたが、コゼツ旦那のネロに対する冷たい態度は以前とまったく変わりませんでした。それを知ったおじいさんは「気を落としてはダメだ。人間は誰でも他人の行いを誤解する事がある、それを恨みに思ってはいけない。お前が大きくなって立派な職を持った時にはコゼツ旦那もきっとわかってくださる」と言ってネロを諭すのでした。 |
第38話 ネロの大きな夢 |
クリスマスにアントワープで開かれるコンクールに自分の絵を出す事にしたネロはおじいさんの手伝いの合間に絵を描く事にしました。何を描こうかあれこれ迷ったネロは結局丘の上の大きな木の下に来てしまうのでした。ここが一番落ち着いて絵が描けそうな気がしたのです。 |
第39話 心をつなぐ二つの旗 |
アロアはアントワープの学校へ通い始めました。でも同じアントワープへ牛乳を運んでいるネロとはなかなか逢えませんでした。ネロとおじいさんは、まだ薄暗いうちにアントワープに出かけてしまいます。そしてアロアがまだ勉強しているうちに村へ帰ってしまいます。すれ違いの毎日を送るネロとアロアの心をつなぐのはアントワープに行く途中の並木道の白い旗でした。 |
第40話 おじいさんの口笛 |
コゼツ旦那からおじいさんが働いていると知らされたネロは信じられない思いでいっぱいでした。喜びも悲しみも一緒のはずのおじいさんが僕に黙って働いているなんって、そんなはずはない、嘘に決まっている。そう思いながらネロとパトラッシュはアントワープへの道を走るのでした。 |
第41話 なつかしい長い道 |
次の日、ネロは病気のおじいさんを残してパトラッシュと二人で牛乳運びに出かけます。ネロはヌレットおばさんがいれば、おじいさんを任せて安心して仕事ができるのにと思いましたが、そのヌレットおばさんは馬車で3日もかかる遠い町にいるのです。ネロはアントワープまで行っている間、おじいさんに何事もなければと祈りながら仕事に向かうのでした。 |
第42話 となりに来た人 |
一時は良くなったように見えたおじいさんの病気も思ったより長引いてしまいました。そしてネロは牛乳運びと、寝込んだおじいさんの看病に追われるようになりました。そんなある日、ヌレットおばさんの住んでいた隣の家に新しい人が引っ越して来ました。ネロもおじいさんも隣に来た人がヌレットおばさんのようにいい人だといいなと思わずにはいられません。そこでネロは隣に引っ越して来たセルジオに挨拶に行きました。セルジオは野菜売りを仕事としており、悪い人ではありませんでしたが、仕事に忙しく、あまりネロに構ってくれるような人ではありませんでした。隣の家にヌレットおばさんのような人が引っ越して来る事を期待していたネロは、その期待が大きかっただけに、新しく引っ越して来たセルジオを見てがっかりしてしまうのでした。 |
第43話 アロアのお手伝い |
翌日からネロは牛乳運びの仕事に加えて波止場で働く事になりましたが、その事は寝込んでいるおじいさんに言わず、帰りが遅くなるとだけ言いました。するとおじいさんは、てっきりネロが絵を描く為に遅くなるのだと思い込み、絵の道具を持たずに出かけようとするネロに絵の道具を忘れているぞと言います。ネロは絵の事など頭になかったのですが、おじいさんをごまかす為に、絵の道具を持って家を出、「ごめんなさいおじいさん、本当の事を言わないで」と心の中でつぶやくのでした。しかも牛乳缶は1缶だけ運べばいいのですが、残りを家に置いておくと牛乳運びの仕事が減った事をおじいさんに知られてしまう為、ネロは荷車に空の牛乳缶3缶も積み「パトラッシュごめんよ、本当は一缶だけでいいんだけど。今おじいさんに知られたら病気にさわるかもしれないんだ。わざわざ重たい思いをさせてしまうけれど許しておくれ」と言うのでした。 |
第44話 おじいさんのおみやげ |
波止場で働きはじめて1週間。ネロは張り切っていました。おじいさんは元気になったようだし、今日は波止場で賃金がもらえるのです。ネロはそのお金でおじいさんにおいしいものを食べさせてあげようと考えていました。朝出かける時、ネロはおじいさんに何が食べたいかを聞きます。おじいさんはネロの作ったスープが食べられるだけで幸せだと言うので、ネロはおじいさんの為に、とびきりおいしい肉入りのスープを作ろうと考えました。 |
第45話 ひとりぼっちのネロ |
おじいさんはいないのです。もう二度と帰ってこないのです。おじいさんの事を思い出すとネロには新たな悲しみが込み上げて来るのでした。翌日の朝、ネロは悲しみのあまりに惚けているとパトラッシュは納屋から荷車を持ちだし、ネロに牛乳運びに行くよう催促するのです。わずか1缶の牛乳缶を運んでアントワープへ進むネロ。でもネロは、この道ももうおじいさんと歩けないのだと考えると、さらなる悲しみが込み上げて来るのでした。アントワープでネロはジョルジュとポールに出合います。ジョルジュとポールはおじいさんが亡くなったと知り、おじいさんの事が大好きだっただけに悲しくて泣き出してしまいます。ジョルジュとポールはネロを何とか励まそうとしますが、ネロは元気を取り戻す事ができませんでした。 |
第46話 おじいさんの顔 |
それから数日、パトラッシュはネロが少しずつ元気になってきたので安心しました。でも一つだけ心配な事があったのです。それはネロがいつまでたってもコンクールに出す絵を描かないからです。それはアロアも同じ気持ちでした。早く描き始めないとコンクールに間に合わなくなってしまうのです。ネロはアントワープへ牛乳運びに行った時、ポールからジョルジュがちゃんと仕事をしている事を知りました。ポールはネロの元気な姿を見て安心しました。なぜならポールはジョルジュからネロがいつまでもくよくよしていたらぶん殴れと言われていたのです。それを聞いたネロはジョルジュとポールの優しさに心から感謝するのでした。 |
第47話 風車小屋の火事 |
おじいさんの買ってくれた大事なパネルにネロは夢中で絵を描き始めました。コンクールに出すのはこれしかないと決めたネロの絵は優しいおじいさんとパトラッシュの姿でした。そしてネロは夜の更けるのも忘れて描き続けるのでした。ネロの心の中でおじいさんは生き返ったのです。本当のおじいさんが家で待ってくれているかのように久しぶりでネロの気持ちは弾んでいました。そうして一つ一つおじいさんの事を想い出して描くネロの絵は、まるでおじいさんが生きているかのようでした。 |
第48話 なくなった仕事 |
風車小屋の火事の明くる日、ネロがいつものように牛乳運びに通ったのを見てアロアはほっとしました。村人たちの前で放火の疑いをかけられたネロの事がとっても心配だったのです。そして何事もないのを見てアロアも安心して学校に向かうのでした。でもネロとアロアが出かけた後、火事の噂はたちまち村中に広まりネロの上にさらに辛い火の粉が降りかかって来たのです。風車小屋の被害は村人にとっても小さなものではなく、小屋に置いていた収穫されたばかりの小麦をすべて失った人もいました。村人たちはネロが夜、出歩いていた事からネロが放火犯人だと思っており、例えネロが火をつけたのではないと思っていても、ネロをかばう事はコゼツ旦那に逆らう事になってしまい、自分まで肩身が狭くなってしまうのです。唯一ネロに牛乳運びを依頼していたジェスタスさんにも村人たちは辛い言葉を投げつけ、ジェスタスさんもネロに牛乳運びを断らなければならない状況に追い込まれてしまうのでした。 |
第49話 描けたよおじいさん |
ついにネロの絵ができあがりました。じっと見つめているとおじいさんがやさしい声で語りかけて来るような、そんな絵だったのです。ネロはさっそくおじいさんに絵を見せに教会の墓地へ行きました。ネロはおじいさんに絵を見せた後、パトラッシュと一緒にアントワープに行こうとしますが、パトラッシュは納屋から荷車を出して引こうとします。パトラッシュはおじいさんの絵を自分で運びたかったのです。クロもアントワープに行きたがった為、ネロとパトラッシュとクロの3人で初雪の降る中をアントワープへ向かうのでした。 |
第50話 発表の日 |
初雪が降ったというのに春を思わせるような朝でした。ネロがこんなすがすがしい気持ちで朝を迎えるのは何日ぶりの事でしょう。暖かいのは天気のせいばかりではありませんでした。寂しいネロの気持ちを慰めようと木こりのミッシェルおじさんが泊まっていってくれたのです。ネロは死んだおじいさんが帰って来たような気持ちでミッシェルおじさんの広い背中を見つめていました。ミッシェルおじさんがネロの為に薪や食べ物を置いて森に帰ってからしばらくすると、村には激しく雪が降り始めました。そしてコゼツ旦那の怒りもあって、アロアと逢う機会もなく、ネロはパトラッシュと過ごす数日が過ぎました。 |
第51話 二千フランの金貨 |
あれほど心を込め、あれほど力を振り絞って描きあげたおじいさんの絵。もしコンクールで一等がとれたら画家になる道も開けるし、200フランのお金でパトラッシュと暮らしていける。ネロが最後の希望を賭けて出品したおじいさんの絵は落選してしまったのです。ネロの目の前は真っ暗になり心の中を北風よりも冷たい風が吹き抜けていくようでした。ネロは一人になりたいと言ってポールと別れると「パトラッシュ、もう何もかも終わったんだよ、みんなおしまいになっちゃったんだ」そう言ってネロはパトラッシュを抱きしめるのでした。家までの遠い道のり、パトラッシュはお腹が空いて何度となく倒れそうになります。しかしネロには食べ物を買うお金もありません。ネロはパトラッシュの為に近くの家に食べ物をもらいに行きますが、誰も相手にしてくれませんでした。 |
第52話 天使たちの絵 |
パトラッシュには、なぜネロが自分の側から姿を消したのかわかりませんでした。でも何か大変な事が起こりつつある事は鋭く肌で感じとっていました。コゼツ家の暖かい暖炉もおいしそうなスープの臭いもパトラッシュを引き止める事はできませんでした。ただネロを探す事だけが疲れ果て年取ったパトラッシュの頭の中でいっぱいだったのです。 |