原作本の紹介
原本 |
Der Schweizerische Robinson |
発行年 |
1813年 |
原作者 |
ヨハン・ダビッド・ウィース
スイス人(1743年〜) |
訳書名 |
スイスのロビンソン |
出版社 |
岩波書店 |
翻訳者 |
宇多五郎 |
アニメとのストーリーの違い
アニメと原作は、船が難破して家族が無人島に取り残され、家族が協力しながら無人島で生活するという基本的な点は同じですが、登場人物の設定が大きく事なっていたり、細かいストーリーが事なっていたりします。これらを中心に紹介していきます。
アニメではロビンソン一家がスイスで生活するところから始まり、オーストラリアへ移住する事になったいきさつや、船の中での出来事などが細かく描かれていますが、原作ではいきなり嵐にもまれる船から始まります。そして船が座礁して、他の人たちがボートで脱出するのに、ロビンソン一家だけが船に取り残され、筏を作って脱出するところまでは同じですが、そこからも異なるところがいくつもあります。
まず原作では筏で船から旅立ってすぐに船は沈んでしまいますが、原作ではいつまでも船は座礁したままです。そこでそこでお父さんは何日も何週間もかけて船に何往復もして、移民船として新大陸に持ち込むはずだったあらゆる動物、植物、食べ物、道具、工具、材料、武器、火薬、そしてボートや4ポンド砲まで船から根こそぎ持ち出してしまいます。そしてとうとう船を木材として再利用する為、座礁した船を火薬で爆破して、流れ着いた木材を拾い集める事までしてしまいます。このように原作では船がいつまでも沈まなかったおかげで、より多くの文明品を持ち出す事ができ、住みよい生活ができたと言えるでしょう。
無人島にたどり着いて最初のテントの家は原作とアニメではほとんど同じようなイメージですが、その次に移り住んだ木の上の家は原作とアニメでは大きく異なります。アニメでは地面から4〜5mくらいのところで木が平べったく枝分かれしていて、その上に床を張り、さらに都合のいい事に木の中は空洞になっていたので、その木の中を物置や家畜小屋としていましたが、原作ではそこまで都合よくはありません。原作は木の上に家を造るところまでは同じですが、家は地上から12m、すなわち4階建ての建物と同じくらいの高さに作り、しかも木の上が平べったくなっていないので、枝と枝の上に板を渡して床にしています。木の中はアニメのように空洞になっていませんでしたが、これは木の上の家に住み始めて数ヶ月後に木の中が空洞だという事に気付き、アニメと同様に物置にしたり階段を付けたりしています。
アニメでは木の上の家の他に洞窟の家もありますが、原作にも洞窟の家はあります。ただアニメでは偶然に洞窟を見つけてそこを住処としますが、原作では岩場に洞窟を作ろうと掘っているうちに偶然洞窟を掘り当てるという強運さです。
アニメでは1年半ほどの短い期間で、しかも船からほとんど荷物を持ち出す事ができない状況だったので、できる事も限られていましたが、原作では10年もの長期間に渡って、船からは大量の材料や道具、動物などを持ち出し、しかも男手がお父さんを含めて5人もいたので、あっちこっちに家を作ったり設備を作ったりと、アニメよりもはるかに規模が大きくなっています。
そしてアニメと原作で最も大きく異なるところは終盤です。アニメではモートンさんやタムタムが登場しますが、原作にはそういった人はいません。その代わりにジェニーという少女とのドラマチックな出会いがあります。ある時フリッツが見つけたアホウドリの足に「煙の立つ岩角から不幸なイギリス娘を助けてください」と書かれた布が巻き付けられていたのです。一家は大騒ぎになり、「神様にだけ信頼しなさい、助けが近くにある事を望みます」と書いた布をそのアホウドリの足に巻き付けて放してやりますが、その時にはイギリス娘を捜し出す事はできませんでした。しかし後日、フリッツが一人で冒険に出かけた時、別の船で遭難して無人島に流れ着いて一人で2年も生活していたジェニーに偶然出会い、連れ帰って家族と一緒に生活するようになります。
そしてアニメでは筏を作って無人島を脱出し、無事オーストラリアに到着しますが、原作では脱出しようなどとは考えておらず、イギリスの船と出会った時も交流こそしますが、結局家族6人のうち、ヨーロッパに戻ったのは子供2人だけで、お父さんとお母さんと子供2人は無人島に残るところは大きく異なります。
アニメとのキャラクターの違い
アニメと原作ではお父さんとお母さんは同じですが子供たちが全く異なります。アニメでは15歳のフランツを筆頭に10歳のフローネ、3歳のジャックと続きますが、原作では16歳のフリッツを筆頭に14歳のエルンスト、12歳のジャック、10歳のフランツと続き、いずれも男ばかりの4人兄弟なのです。よってアニメでの主人公であるフローネは原作には存在しません。フローネはアニメで作られたキャラクターであり、原作ではお父さんが主人公なのです。ただ、原作ではアニメほど兄弟に明確な性格付けがされていないようで、4人兄弟のそれぞれの個性があまり見えてきません。そういった意味ではアニメで兄弟のうち1人を女の子にして個性を引き立たせたのは正解と言えるでしょう。
人物だけでなく登場する動物や家畜も大きく違います。まずアニメでは無人島に上陸直後、プチクスクスの子供を拾い「メルクル」と名付けて育てますが、原作ではそれに該当するのが小猿のチビ助となります。他にもアニメではわずかばかりの家畜や動物しか上陸させる事はできませんでしたが、原作では難破船に何ヶ月もかけて何往復もしているので、ありったけの家畜や動物を上陸させており、彼らの面倒を見きれなくなって、放し飼いにして自分たちでえさを確保させようとしてしまうような状態です。
そして原作では多くの動物と出会ったり捕獲したりしていました。アニメでは山羊やダチョウを捕獲して飼い慣らしていましたが、原作ではその他にも鷲ややまいぬ、水牛、豚、ロバなども捕獲し、飼い慣らしています。男手が多かったのと、無人島で生活していた期間が長かったからもあるのでしょう。
まとめ
初めてアニメを見た時、都合よくサトウキビやゴムの木や、ワックスの木があったり、ダチョウや山羊がいたりとずいぶん都合がいいなと思っていたが、原作の都合のよさはそれ以上だった。まず大蛇や虎、ライオン、オオカミ、ゾウ、オランウータン、カバ、イノシシ、セイウチが登場するし、アニメで登場するサトウキビやゴムの木、ロウの出る草の他に綿で糸を紡いだり、パンを作ったりします。さらにニシンが押し寄せてきて大量に捕ったり、鳩が大量に飛んでくるのでいくらでも捕まえ放題だったりと、都合のいい事が続きます。吉村昭氏の作品「漂流」を読むと、いかにこの「スイスのロビンソン」の都合がいいかわかるでしょう。
アニメではお父さんは「人間が生きていくという事は単に生命を維持する事ではない。他人との交流を持って人類の歴史が築いてきた文化の恩恵を受け、そしてまた新たな文化を我々が付け加えていくという、それが本当に生きるという事だ。この無人島に留まっていてはそういう生き方はできない」と考えていて、いつか無人島を脱出して文明社会に戻ろうとし、ボートを作ってオーストラリアにたどり着きます。しかし原作では無人島から脱出しようなどとは誰も考えないし、脱出の為のボートは作りませんでした。そしてとうとう無人島でイギリス船と出会った時にも、一家そろってスイスに戻るのではなく、子供たち4人のうちフランツとフリッツだけをスイスに戻し、残りの子供2人とお父さんお母さんは無人島に残ってしまいます。無人島でも彼らは何不自由なく生活しており、お母さんは「ここで平和にこの世を終わる」と決心しており、ヨーロッパの世界の落ち着きのないざわめきには憧れず、文明社会に戻ろうとは考えなかったようです。
なお、原作は1950年の発行で旧漢字が多く、また本文も長いので非常に読みにくいのと読みごたえがあります。ただ現在は絶版となっており、入手はかなり難しそうです。
評価
項目 |
5段階評価 |
コメント |
アニメとの類似性 |
☆☆☆ |
子供たちは全く違うし、ストーリーも後半はずいぶん違います |
入手の容易度 |
☆☆ |
2002年に再版されましたが、今は絶版です |
お薦め度 |
☆☆☆ |
旧漢字が多くかなり読みにくいので、誰でもと言うわけには… |
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