4時ちょうどに漁船のエンジン音で目が覚めた。携帯電話のアラームをセットしていたが、どうやらここでは目覚ましは必要ないようだ。シュラフとマットとジャージをたたみ、4時20分にテントを開けるとびっくりした。網走湖は見事な朝焼けに染まり、美しい日の出が見れそうな予感がする。私はすぐにテントを飛びだし、日の出前の朝焼けに染まった空を撮り、また湖岸に自転車を持ちだして自転車の写真を撮った。日の出までにはまだ時間があったので自転車を色々なアングルから撮影し続ける。こんなに自転車の写真を撮るのは洞爺湖の夕陽以来だ。
サイドバッグを預けて身軽になる。営業所でサイドバッグを預けると、袋に入れないと送る事はできないと言う。いつもはそんな事は言われた事がなかったのに今回に限り何で言われるのだろうと思っていたが、袋は営業所にも売っていたので、その分のお金も払って入れといてもらう。しかし宅急便の費用も含めて払った金額はいつもとほとんど変わらなかったので、今までも袋を買うと言われなかっただけで、実際には袋の代金も含まれていたのかもしれない。営業所を出てサイドバッグを外した自転車に乗ると、自転車は嘘のように軽くなっていた。
コンビニでアイスクリームとロックアイスとパンを購入し、店の前でアイスクリームを食べる。8時30分にコンビニを出発し、国道243号線で美幌峠を目指す。美幌から美幌峠へは最初のうち緩やかな登りが続く。サイドバッグを外した自転車なら、それこそ20km/hくらいで走れそうなものだが、なにぶん向かい風が強くてスピードが出ない。登り坂の場合は向かい風の方がありがたいが、それは急な登り坂の場合であり、緩やかな登りの場合は追い風の方がありがたい。自転車が軽い分だけ登りでも楽かと思っていたが、実際には軽くなって走りやすくなるよりも、向かい風で走りにくくなる方がはるかにきつかった。
向かい風の中、がんばって自転車を走らせ続け、9時30分には17km走ったところで今日初めての休憩をとる。しかしここまで登りは少なく、美幌峠頂上まであと8kmで360mも登らなければならない。軽量化された自転車でどれだけ登れるか。それでも今日はよく晴れて青空もきれいだったので、写真を撮りながら快調に自転車を走らせた。 ところが自転車の軽量化は逆風には無力だったが、坂を登るのには効果的だった。何と50分で250mも登ってしまったのだ。いつもだったら100mを20〜25分かけて登るのが精一杯なのに大きな違いだ。それに急な登りでの逆風は涼しくてありがたい。普通、急な登りではスピードが出ないので風が当たらず、暑くて汗が滴り落ちるものだ。しかしこれが逆風だと風が当たるので涼しくて汗をかきにくい。しかも今日は日が照っているとはいえ比較的涼しくて登りやすかった。
美幌峠の頂上に近づくと霧が出てきた。そういえば国道243号線に入った直後の道路状況の電光掲示板に「美幌峠キリのため通行注意」と表示されていた。その時には美幌峠の麓は快晴に近いほど晴れていたので霧になるなと信じられなかったが、美幌峠の頂上に近づくと、やがて辺りは霧に包まれ、視界は100mくらいに落ちてきた。これではせっかく美幌峠に登っても肝心の屈斜路湖が見えないのではないかと心配したが、もうあと1kmも走れば美幌峠頂上だったので、とりあえず頂上まで走る事にした。 10時35分にようやく美幌峠頂上に到着。一時は時間内に登り切れるかと心配したが、どうにか予定の5分遅れで登り切る事ができた。頂上の駐車場には先程抜いていったロードの人が自転車に乗ってウロウロとしていたが、私が到着するとすぐに屈斜路側に下っていった。
ちなみに自転車はスピード違反が適用されるかと言われると、法律上は自転車も車両なのでスピード違反が適用される。では何km/h以上で走ればスピード違反となるのか? 例えば最高速度が40km/hの標識のある道で出す事のできる最高速度は、車は40km/h、バイクも40km/h、原付きは30km/h。では自転車の最高速度は何km/hかと言うと、40km/hなのだ。では最高速度の標識がない道では車は60km/h、バイクは50km/h、原付きは30km/hだが、自転車は? 実は最高速度の標識がない道では自転車には法律上、最高速度の制限がないのだ。これは道路交通法第22条によると「車両は、道路標識等によりその最高速度が指定されている道路においてはその最高速度を、その他の道路においては政令で定める最高速度をこえる速度で進行してはならない。」と定められているが、政令では自動車やバイクの、最高速度が指定されていない道路での最高速度は定められているが、自転車の最高速度は定められていないのだ。よって最高速度が指定されていない道路では、例え100km/hのスピードで自転車で走ったとしてもスピード違反で捕まる事はない。ただし、ツーリング用の自転車に荷物を満載して100km/hのスピードで走る事ができるかどうかという問題と、例えスピード違反で捕まらなくても安全運転義務違反で捕まる可能性はあるので注意が必要だ。 やがて下り坂の傾斜が緩やかになりスピードが落ちてきた。しかし緩やかではあるが下り坂は続くし、何より強い追い風だったので、ペダルを回さなくてもどこまでも走り続ける。私はペダルを回さずにどこまで走る事ができるかを試してみる事にした。やがて下り坂は終り平地になったが、それでも強い追い風のおかげでどこまでも走り続けた。しかしやがてそれも限界を迎え、10.5km走ったところでとうとう自転車は止まった。 それから先も下り坂は続き、強い追い風にも助けられて国道243号線を30km/hで走り続けた。やがて12時ちょうどに美幌のヤマト運輸の営業所に到着。ここから美幌峠の頂上まで、登りは125分かかったが、下りは50分だった。追い風の影響もあって2.5倍のスピードで帰ってきた。 そのまま美幌の町を通過し、天然温泉びほろ後楽園をめざす。ここも女満別湖畔キャンプ場に続いて私の行きつけのコースだ。12時20分に天然温泉びほろ後楽園に到着。予定より20分遅れだが何とかなるだろう。毎年の事だがここの温泉は露天風呂がいい。この露天風呂の為に温泉に来るようなものだ。この露天風呂は囲いが少なく遠くまで見渡せる。しかも370円とリーズナブルなのに、シャンプーや石鹸だけでなくリンスまで置いてある。私のお気に入りの温泉だ。ただ、今回は残念な事に露天風呂があまり掃除されていないようで、露天風呂のお湯が藻で汚れていたのが残念だった。この天然温泉びほろ後楽園にはプールもあるそうなので、来年来る時には水着を持参し、プールで泳いでやろうかとも考えてしまう。 ゆっくりと温泉に浸かり、12時50分から休憩室で旅の日記を書き始める。13時から高校野球の決勝戦、駒大苫小牧対早稲田実業の昨日の再試合が開始された。私も見ていたかったが、飛行機のフライトの時刻が迫っていたのであまり遅くまでゆっくりしている事ができず、13時10分に温泉を出発する。 天然温泉びほろ後楽園から国道39号線を北上し、女満別空港へ向かって道道246号線に入る。国道39号線はアップダウンのない平地だが、この道道246号線は距離は短いが標高で30m程の登りがあり、せっかく温泉に浸かったのだから汗をかかないようにゆっくりと登るが、それでも再び汗をかいてしまうから嫌だ。
私は以前と同様、ハンマーで叩いて固着したステムを外そうとしたが、よく考えたらハンマーはもう必要ないと考え、朝に美幌のヤマト運輸の営業所で宅急便として送ったばかりだ。私はズボンを汚さないように慎重に作業していたが、今となってはそんな事に構っていられない。何せこのステムを外さない事には自転車が分解できないので飛行機に手荷物として持ち込む事ができない。しかもフライトの時刻は刻々と迫っている。私は思い切って前輪のタイヤを股に挟むとハンドルを両手で持って思いっきりハンドルを曲げた。リムが曲がってしまうのではないかと心配したが、何回か繰り返すうちにバキッという音と共にステムとフレームの固着が外れたようでハンドルは動くようになった。しかし股で挟んで前輪を押さえたおかげで、ズボンは案の定、汚れてしまった。 ハンドルを外すのに手間取ったおかげで、自転車を輪行袋に入れて荷物をまとめた時には14時10分になっていた。それから荷物を置いたまま土産物を買いに行き、買ったばかりの土産物をザックに積めて手荷物預かり所に行く。ザックにはいつものように傷スプレーを入れたままだったので、また注意されるかと思ったが、今回は何も言われなかった。
羽田空港でセキュリティーチェックを受けた時にもセキュリティーゲートが反応したが、この女満別空港でもセキュリティーゲートが反応した。金属物は持っていませんかと言われたが何も持っていない。靴を脱いで再びセキュリティーゲートをくぐるが、それでもブザーが鳴る。羽田空港では靴だけ調べて解放してくれたが、ここ女満別空港はそんなに甘くない。ハンディタイプの金属探知機で体中を調べられた。するとどうやらベルトのバックルが反応しているらしい事が判明。私はバックルでしょと言うが、それでもベルトまわりに何か隠していないか手で丹念に調べられ、何もないとわかるとようやく解放してくれた。いつもの事だが女満別空港はセキュリティーが厳しいので、テロの犯人が乗り込むなら女満別空港は避けるべきだろう。 搭乗ゲートに入ると高校野球の決勝戦、駒大苫小牧対早稲田実業の昨日の再試合が放映されていた。8回裏で4−1で駒大苫小牧が負けているではないか。私は別にどちらを応援しているというわけではないが、さすがにこの北海道の地ではみんな駒大苫小牧を応援しているので、私も自然と駒大苫小牧を応援してしまう。しかしさすがに8回裏で4−1だと、ちょっと逆転するのは厳しそうに思えた。搭乗ゲートで5分ほど高校野球を見ていると、やがて機内への案内が始まった。最後まで見れなくて残念ではあるが仕方ない。私は後ろ髪をひかれる思いでボーディングブリッジへと入っていった。 私の乗る飛行機は女満別15時発の羽田行き日本航空1186便だ。14時50分に飛行機に乗り込み、しばらく待つと15時ちょうどに出発した。今日は滑走路を北に向かってタキシングしていく。しまった、今日は南に向かっての離陸だ。南に向かって離陸するのなら左側の座席に座っていれば摩周湖や屈斜路湖が見えたのに… とても残念だったが、今回のフライトでは羽田空港への着陸時にレインボーブリッジや東京タワーが見たくて右側の座席を選らんだのだから仕方がない。 やがて滑走路の北の端に到着すると、南に向かって一気に加速し、そして飛行機はふわりと浮いた。離陸するとすぐに美幌の町が見えてきたが、すぐに雲に隠れてしまった。この様子だと、例え左側の席に座っていたとしても摩周湖や屈斜路湖は見えなかったと思われた。左側の窓際に座る乗客の様子をしばらくうかがっていたが、摩周湖や屈斜路湖が見えたような反応は示していなかった。 離陸してすぐに雲で地表が見えなくなってきたので、飛行機の中で旅の日記を書く事にした。今日は美幌峠で時間を潰し過ぎて、温泉への到着時刻が遅れたので、温泉の休憩室で旅の日記をほとんど書く事ができなかった。さらに自転車のハンドルを外すのに手間取り、レストランで食事をしていたら搭乗ゲートで旅の日記を書く事ができなかった。今日は飛び立って以来、ずっと雲の上を飛んでいるので、外の景色を見ても意味がないので、おかげで飛行機の中ではずっと旅の日記を書いて過ごした。
幕張上空で一度東京湾上空に出た飛行機は、しばらく東京湾上空を飛んでいたが、やがて再び陸地に近付いた。しかも今日の羽田空港へのアプローチは南からの侵入ではなく北からの侵入、すなわち自分の座っている右側の席からレインボーブリッジや東京タワーが見えるコースだ。会社の窓からはレインボーブリッジ上空を飛ぶ飛行機を頻繁に見かけるが、逆に飛行機からレインボーブリッジを見た事がなかったので、一度見てみたいと思っていたのだ。
やがて飛行機は左に大きく旋回し、羽田空港に向かってアプローチを開始した。私が羽田空港へ飛行機を撮影に行く城南大橋や京浜島海浜公園も飛行機からだとよく見え、自分の撮影ポイントは上空からだとこんな風に見えるのだと観察する。やがて飛行機は羽田空港上空に入りランウェイ16Lに滑るように着陸した。 飛行機から降りると手荷物受取場まで、とてつもないほどの距離を歩かされたのでびっくりした。大阪空港や関西空港でもここまては歩かなかったのに、さすが日本の玄関口だと感心してしまう。手荷物受取場でしばらく待っているとベルトコンベアでザックが運ばれてくると同時に、係員が自転車を持って来てくれた。日本の航空会社は自転車はすべて手渡しだし、自転車の取り扱いも丁寧なのがありがたい。これまで6回も飛行機で輪行しているが、今まで輸送中のトラブルは一度たりともない。 自転車が戻ったところでこの先どうしようか考える。行きと同様に自転車を輪行袋に詰めたまま、京急かモノレールで家まで戻ろうかとも考えたが、これは重い自転車を担いで長い距離を歩かなければならない。それにどうせどこかで自転車を組み立てるのだったら、空港で組み立ててしまっても同じではないかと考えた。私はあらかじめ空港から自転車で外に脱出できるルートがある事を調べていたので、今回は羽田空港で自転車を組み立ててしまい、自転車に乗って家まで戻る事にした。ちなみに羽田空港は辛うじて自転車で空港から脱出できるルートがあるが、同じ埋立空港でも関西国際空港は本土への橋が鉄道か有料道路しかないので空港からは自転車で脱出できない。
出発しようとして困った。さすがに北海道の地図は持っていても東京の地図は持っていなかったので、どっちに行っていいかわからないのだ。ちょうどその時、おまわりさんが通りかかったので、自転車で羽田空港から脱出できる道を聞く。おまわりさんはずいぶん遠回りになりますよと断った上で、道順を教えてくれた。しかしいきなり車道を逆走する道を教えられたので、それって逆走になりませんかと言うと、自転車を押して歩道を歩いて下さいと言われた。まあ当然だろう。おまわりさんに道順は教えてもらったが、いまいちよくわからないまま適当に走っていたら、とうとう迷子になってしまった。ちょうどその時、夕焼け空をバックに飛行機が離陸していったので写真を撮る。 どっちに行けばいいかわからないまま辺りをうろうろしていると、このあたりには人がたくさん歩いているのに気付いた。この人達はどう見ても羽田空港を利用している客ではなく、羽田空港で働く人達が17時を過ぎたので家に帰る雰囲気だ。しかし彼らが歩いてや自転車で空港から出るとは思えなかったので、どうにか自力で脱出できる道を探す。 空港から自転車で抜ける道は天空橋を経由するしかないと聞いていたので、天空橋のある西を目指して走ると、どうにか滑走路の下をくぐるトンネルを発見する事ができ、天空橋に続く都道311号線に入る事ができた。ところがこの都道311号線が恐ろしく走りにくいのだ。歩道はあるにはあるが、とてつもなく狭くて自転車が1台ギリギリ通り抜ける幅しかない。かと言って車道側は路肩がまったく存在せず、その車道を大型トラックがびゅんびゅんと行き交っており、とても自転車で走れる状況ではない。仕方なく私は狭い歩道を走り続けたが、昨年、狭い歩道を不用意に走って事故で自転車を大破させてしまった事が頭にあったので、用心しながら慎重に走り続けた。
国道131号線はやがて国道15号線に合流する。この国道15号線は家の近くを通るので、ここまで来れば地図がなくても、もう迷う事はない。国道15号線を走る時、歩道を走ろうか車道を走ろうかと悩んだ。この手の幹線道路は歩道を走った方が安全といえば安全なのだが、都心では自転車で荷物を運ぶメッセンジャーバイクが多数走っており、彼らはみんな車道を車の流れに沿って走っているので、私も彼らの真似をして車道を車の流れに沿って走る事にした。車道を車と同様に自転車を走らせるのは恐いかと思っていたが、予想以上に走りやすかったのでびっくりしてしまった。 国道15号線を走っている時、いきなりペダルからトークリップが外れた。びっくりして自転車を止めて確認すると、トークリップを止めるネジが2000km近くの自転車旅行に堪え切れなかったのかネジが根元からふっ飛び、トーストラップだけでぶら下がっている状態となり、役目を果たさなくなった。まあトークリップがなくても自転車を走らせる事はできるから問題ないだろう。問題と言えばトーストラップに宙づりとなったトークリップが地面を擦って音を立てるのがうるさいだけだ。しかしそれにしても北海道自転車ツーリングの間だけでも持ちこたえてくれたのはありがたかった。 国道15号線を北に走り続け、品川に着いた時には18時30分近くになっており、あたりは薄暗くなってきた。ライトは宅急便で送ってしまったので今はないが、東京の都心では街灯が明るいのでライトの必要性は感じない。もちろん法律でライトを灯火するように定められているが… 品川を過ぎ、さらに走って田町の手前で国道15号線を離れ国道1号線に入る。ここまで来ればもう東京タワーは目の前だ。国道1号線を東京タワー目指して走り、赤羽橋の手前で東京タワーをバックに自転車の写真を撮る。東京タワーは毎日眠る時に窓越しに間近に見えるので珍しくもないが、自転車と共に撮影する機会は少ないので、今日はしっかりと東京タワーをバックに自転車を撮影しておく。 そして18時40分にようやく18日ぶりの我が家に到着。羽田空港から近いだろうと思っていたが、実際には20kmほどの道のりで1時間30分もかかってしまった。北海道自転車ツーリングの後、自転車で自宅に戻るのは初めてだったが、それはそれでおもしろいかもしれない。今度は飛行機ではなく自走で北海道に行きたくなってしまった。
|