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フランダースの犬  感想

 「アルプスの少女ハイジ」に続く作品ですが、日本アニメーション製作の世界名作劇場としては最初の作品となる。幼くして両親を亡くしおじいさんに引き取られおじいさんと一緒に貧しいながらも明るく正直に暮らしている設定などは、なんとなくほのぼのした気分で見れるのですが、保護者であるべきおじいさんが倒れてからは状況も一変します。おじいさんの看病をしながら食費を稼ぐ為にアントワープまで働きに出るという苦労の連続で、見てる方も辛くなって来ます。ネロにとっては辛く悲しい日々が続き、ついにはおじいさんも亡くなってしまいます。アロアの誕生日パーティーで村人達が喜び祝っている時におじいさんの棺を荷車で運び、一人で墓地に埋葬するところなんか本当に涙を誘います。そして風車小屋に火をつけたという無実の罪をきせられ、仕事をすべて失い村人達からも相手にされなくなるに至っては何って悲しい物語なんだろうと思わずにはいられません。そして収入がなくなり今日の食事にさえ困るようなネロが唯一の頼みにしていた絵のコンクールにも落選し、絶望したネロが吹雪の中をさまよい歩き、アントワープの大聖堂で息を引き取るシーンなどは、涙なしでは見られません。ああ、何って悲しい物語なんでしょう。
 ところでコンクールに落選した後のネロの行動に若干の疑問があるのですが、ネロは自殺するつもりだったのでしょうか? 少なくとも2000フランの大金を拾ってコゼツ家に届けたところで暖かいスープをご馳走になるか、家を引き払った後、ミシェルおじさんの山小屋に転がり込めば、あのような不幸な事にはならなかったと思うのですが… ただネロがおじいさんのお墓に最後の報告をした時、「おじいさんのところに行きます」ではなく「遠いところに行きます」と報告している事から、死ぬ気はなかったと思うのですが… でも吹雪の中を一人でさまよい歩けばどうなるかわからないような年齢ではないのになぜ? やはりネロはそこまで追いつめられていたということでしょうね。村人達から相手にされなくなり、家賃も払えなくなってハンスに出て行けと言われ、もうこの村にはいられなくなって吹雪の中をどこか遠くに新天地を求めて旅立って不幸に遭ってしまったのでしょう。それにしてもつくづく悲しいエンディングです。
 この物語はネロとおじいさんの正直な生き方が魅力の一つですが、それを支援した人達も忘れる事はできません。アロアやジョルジュ、ポールはもちろんの事、ネロのめんどうを見続けたエリーナおばさん、ヌレットおばさん、ミシェルおじさん、ノエルじいさん。この4人の親切にはたいそう心温まります。逆にネロに辛くあたった人々、金物屋とコゼツの旦那、ハンスの3人は見ていて腹が立って来ます。金物屋はネロに恨みがあるわけではなく、金に糸目がないのとパトラッシュを虐待していただけなのでまだマシでしょう。コゼツの旦那はネロの事を「ロクに仕事もせず絵ばかり描いている怠け者」と決めつけアロアがネロと仲良くするのを快く思っておらずネロに辛くあたりますが、これもまだわからなくもありません。一番許せないのはハンスでしょう。ハンスはネロが気に入らないので自分がしでかした失敗や村で起こった悪い事をすべてネロのせいにし、コゼツの旦那に告げ口するのです。コゼツの旦那がネロを嫌いになったのはハンスのせいとも言えるでしょう。
 ハンスのしでかした悪行を紹介しますと、例えばアロアがイギリスに旅立つ時の見送りに行く時に、ハンスはアロアの旅行カバンを3つ持って来るようにとコゼツ旦那から言われていたにもかかわらず、それをすっかりと忘れて2つしかもって来ませんでした。それをコゼツからとがめられた時、とっさの言い訳として「ネロにカバンを持って来るように頼んだのだがネロが忘れているに違いない」と言い、見送りに行く途中のネロに無理矢理カバンを取りに戻らせて、ネロをアロアの見送りに間に合わなくさせるような事をしました。
 また、ハンスがアロアの荷物を港に取りに行くようにとコゼツに言われていたのをすっかりと忘れて油を売っていたので、エリーナ(アロアのお母さん)が代わりにネロに取りに行ってもらったのです。ところがそれを逆恨みしたハンスは「俺の仕事を奪ったけしからんヤツだ、謝れ!」と言ってネロに八つ当たりします。自分が仕事をサボったのを棚に上げ、代わりに働いたネロを怒るのはあまりにも見ていて腹が立ちます。おかげでネロはハンストの押し問答で時間を食い、子供を亡くしたおばさんと一緒にアントワープの大聖堂のルーベンスの絵を見る約束の時間に間に合わず、おばさんはイギリスに帰ってしまったのでした。ハンスがもう少しネロに理解を示していればあのような悲劇は生まれなかったのにと残念でなりません。ネロが家を飛びだした後、村人総出でネロを捜し回った時にはさすがのハンスも心を入れ替えていたようでしたが…
 「フランダースの犬」のアニメと原作では若干異なるところがあります。例えばアニメではネロの亡くなった時の年齢は9才(推定)ですが、原作では15才です。またネロがパトラッシュと一緒に暮した期間もアニメではネロが8〜9才(推定)の1年間ですが、原作では2〜15才の13年間となっています。パトラッシュは生まれて1年後に金物屋に引き取られ、金物屋に2年間こき使われていましたから、原作でのパトラッシュの亡くなった時の年齢は16才という事になります。ジェハンじいさんにいたっては、亡くなった時の年齢は93才という高齢ですし、ジェハンじいさんが亡くなったのもアニメではコンクールの締め切りの1ヵ月ほど前ですが、原作ではコンクールの発表の1週間前です。さらにアニメでは金物屋にパトラッシュを奪い取られそうになりますが、原作では金物屋はパトラッシュを捨てた後、酔っぱらってケンカして殺されています。このようにアニメと原作とでは若干異なるところはありますが、大筋では同じなので安心して見ていられます。
 この「フランダースの犬」のアニメには設定が少しおかしいところがあります。それは第40話で初めてアロアはアントワープまで自分の足で歩き、その辛さを知ったような設定になっていますが、少なくとも第9話でアロアは自分の足でネロやパトラッシュと一緒に元気にアントワープに行っています。ただ、ネロやおじいさんに比べればアロアが歩いてアントワープまで行った回数がはるかに少ないのは間違いないです。
 この作品が訴えているものは「働く事の大切さ」でしょう。ネロも小さいながらも一人前に働き、一人でやり遂げる事の大切さを学びます。やはりどんな仕事でも一生懸命働く事が大切だと言いたいのでしょう。我々もネロやおじいさんを見習って、どんな仕事でも一生懸命やり遂げないといけませんね。それから差別やいじめをしてはいけないという事も挙げられるでしょう。コゼツは絵ばかり描いている貧しい子供が娘と親しくなるのが気に入らないと言ってネロを軽蔑し、さらにコゼツの一人娘を自分の息子の嫁にもらおうと企むハンスもネロに冷たく当たりました。そして村の実力者に睨まれたネロは村人からも相手にされなくなって、とうとう悲劇的事態に陥ります。やはり差別やいじめをしてはいけないという事も訴えているのでしょう。

評価
 項目 5段階評価 コメント
不幸度 ☆☆☆☆☆ おじいさんが倒れたあたりから不幸が始まり、最後には…
ほのぼの度 ☆☆ 最初はアロアと一緒に遊んだりしていたのですが…
お薦め度 ☆☆☆☆ ネロがもう少し明るかったら満点なのだが…
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