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若草物語
ナンとジョー先生  ストーリー詳細

第1話 プラムフィールドへようこそ
 若草物語の4姉妹、メグ、ジョー、ベス、エイミー。月日は流れ、夢見る少女たちもいつしか大人になりました。あの勝ち気なジョーも結婚し、希望に溢れる人生を歩みだしたのです。
 1892年のアメリカ合州国、マサチューセッツ州コンコードの郊外のプラムフィールドと呼ばれた学園をアニー・ハーディングという名の21歳になる1人の女性が訪れました。アニーはこのプラムフィールドの卒業生であり、ロンドンから数年ぶりにこのプラムフィールドにやって来たのです。アニーはプラムフィールドにやって来た時からまったく変わらない景色や建物を見て、プラムフィールドに初めてやって来てからの事を思い出すのでした。
 今から10年前の1882年、当時11歳のナンと呼ばれていたアニーはプラムフィールドへ入学する為、ボストンから1人でやって来ました。ナンはお母さんを亡くし、お父さんと2人で暮していました。お父さんはナンの為に家庭教師を何人も雇いましたが、ナンがあまりにおてんばだったので家庭教師は3日と持たずに逃げ出してしまい、手を焼いたお父さんは一人娘のナンをプラムフィールドに預ける事にしたのです。ナンはお父さんと一緒にプラムフィールドに来るはずでしたが、ナンがボストンの駅で探検ごっこをしているうちにはぐれてしまい、ナンは汽車に飛び乗って1人でコンコードの駅までやって来て、コンコードの駅からプラムフィールドまでのおよそ5キロの道のりを1人で歩き始めるのでした。
 プラムフィールドの学園はジョー先生と、その夫であるベア先生が理想の学園を目指して作った学校でした。ジョー先生はナンのお父さんからの手紙を読み、今度の新入生のナンが、とてつもなくおてんばだという事を知ってワクワクしてきました。ジョー先生も子供の頃は手の付けられないおてんばだったので、ナンの事がとても気に入りそうな気がしていたのです。ジョー先生とベア先生は馬車でコンコードの駅までナンを迎えに行きましたが、駅長からナンは予定の汽車よりも1時間も早い汽車に乗ってきて、既にプラムフィールドに向かっているところだと聞かされます。ジョー先生は嫌な予感がしました。プラムフィールドの子供たちがナンに手荒な歓迎をしているような気がしたのです。
 ナンは重い鞄を抱えて歩き続け、ようやくプラムフィールドに到着しました。プラムフィールドの子供たちはナンの事をとても恐れており、トミーはナンがプラムフィールドで暴れ回らないようにする為には最初が肝心だと考えました。そして来た早々に泣かせてやろうと、ジャックは木の上に登りバケツでナンに頭から水をかけたのです。ところが逆上したナンはトミーやジャック、スタッフィネッドを追い回し、学校はめちゃめちゃになってしまうのでした。
 ジョー先生がプラムフィールドに帰ってきた時に見たものは、荒れ果てた学校と服がボロボロになった泥だらけのナンの姿でした。ジョー先生はそんなナンの姿を見ると突然笑いだし、「素敵よ、あなたって何って素敵な子なの。うちのわんぱくたちと1人で戦った女の子なんって初めてだわ。それもどうやらあなたの勝ちみたいね」と言います。ナンはこれほど暴れ回ったのに怒ろうともしないジョー先生が不思議でなりません。しかしナンのそんな姿が自分の若い頃を見ているようで、ジョー先生はすっかりとナンの事が好きになってしまうのでした。
 その夜、双子の兄妹であるデミデーズィは2人で話し合いました。デーズィはこれまでプラムフィールドに女の子が自分1人しかおらず、寂しい思いをしていましたが、ナンがやって来ると聞いて、やっと女の子のお友達ができると楽しみにしていたのです。しかし、やって来たのは男の子よりも気が強くておてんばな娘で、おしとやかでおとなしいデーズィはナンとお友達になる自信をすっかりなくしてしまうのでした。
第2話 川と野原はステキな教室!!
 翌日、昨日の騒ぎの罰としてジャックとネッド、スタッフィ、トミーは3日間おやつ抜きにされてしまい、ナンには午後の特別授業で先生をしてもらう事になりました。ナンは悩みました。他の生徒たちだけでなくジョー先生やベア先生にも教えなければならないのです。授業の内容は一任されましたが、ナンが知っていて先生たちに知らない事などないように思われたのです。
 ジョー先生はナンに学ぶ喜びを教えたいと考えて罰を与えました。たくさんの事をただ暗記したりこなすだけが勉強ではありません。自分から何かに興味を持つ事、どんどん知りたくなって調べたり教えあったりする事が大切だと考えていたのです。ジョー先生はナンに先生になってもらう事によってその事に気付いてもらおうと考えたのでした。ナンはテディからヒントを得て、屋外で自分の11年間の生涯と自然の草花について絵を交えて説明し、ジョー先生や他の生徒たちからも認められるのでした。
第3話 イチゴつみと黒い森
 子供たちは牧場までイチゴ摘みに行く事になりました。ロブも一緒に行きたいと駄々をこねたので、ナンが面倒を見ると言って一緒に連れて行く事になりました。牧場でイチゴ摘みが始まりましたが、いつの間にか2人ずつペアとなってイチゴ摘み競走が始まり、負けず嫌いのナンはロブと一緒に、出てはいけないと言われている牧場の柵を越えてイチゴ摘みを始めました。ところが2人は森の奥深くに入って行くうちに迷子になってしまったのです。雷雨になったのでジョー先生とベア先生が迎えに来ましたが、ナンとロブの姿が見当たらず、柵を越えて迷子になったのだと気付いてみんなで探し回りましたが見つかりません。それでも何とか夜遅くになって2人が岩にもたれかかって寝ているところをジョー先生に発見され、無事にプラムフィールドに帰る事ができたのでした。
第4話 約束の小箱
 翌日、ナンは他の子供たちに迷子になった時の様子を話しました。あれほど先生にいけないと言われていたのに柵を越え、冒険に繰り出した時の様子を自慢げに話し、もう一度冒険に行こうと言いだすナンを見ていたジョー先生は、ナンを呼び出しました。そしてなぜ柵を越えたのかを問い詰めると、ナンはいけないと言われていた事をすると自由になった気がしてすごく楽しいと言うのです。ジョー先生はロープを取り出すとナンに腰紐を結び、反対側をテーブルに結んでしまいました。そして「自由というのは面白ければ何をしてもいいという事ではないわ。それがわかるまで、あなたの自由はこの部屋の中だけに限る事にします」と言うのでした。
 ジョー先生が部屋から出て行った後、ナンはロープを解いて部屋から出て行こうとしました。しかしジョー先生がトミーに、ナンは絶対に部屋から出て行かないと言っていた言葉を聞いてしまったナンは、再び部屋に戻ってしまいます。ナンは部屋の中でしきりに反省した後、ジョー先生に泣いて謝りました。ジョー先生は自分が子供の頃、ナンと同じような事をして、母から言いつけを破りたくなったらその気持ちをこれに閉じ込めなさいと言って渡された小箱を取り出すと、ナンに渡しました。そしてナンにもこの箱にわがままをいっぱい閉じ込めなさいと言うのです。ナンはすっかり嬉しくなり、もう2度と言いつけを破るまいと決心するのでした。
第5話 小さなバイオリン弾き
 ある雨の日、1人の少年がプラムフィールドにやって来ました。ナットという名のその少年は流しの音楽家をしていましたが両親が亡くなり、大好きなヴァイオリンまで取り上げられ、病気になっていたところをジョー先生の知り合いであるローリーさんに拾われ、ローリーさんの紹介でプラムフィールドにやって来たのです。ナットは咳がひどくて顔色も悪く、いかにも不健康そうでした。
 ナットの為に使っていない部屋をみんなで大掃除し、風呂上がりのナットを部屋に案内しました。さらに部屋にはベア先生の使っていたヴァイオリンが置いてあったのです。それはベア先生からのプレゼントでした。ナットは自分の部屋まで用意してもらえただけでなく、大好きなヴァイオリンまでプレゼントしてもらった幸せが信じられませんでした。そしてみんなにせがまれるままにヴァイオリンを弾いていると、辛かった過去の日々が思い出され、さらにこんなに親切にしてくれるプラムフィールドの人々に胸が一杯になって泣き出してしまうのでした。
第6話 トミーバンクス商会
 日曜日の朝、ナットはナンやトミーに庭を案内してもらいました。プラムフィールドの子供たちはベア先生の教育方針により、みんな動物を育てたり畑で好きな作物を作っていました。それを聞いたナットは自分も動物を飼いたいと思いましたが、ナットにはお金がまったくないので動物を買う事ができません。それを知ったトミーはトミー・バングズ商会を作り、自分が育てているニワトリの卵をナットが12個見つけてくれたら、そのうちの1つを謝礼としてナットに渡し、それが12個たまればジョー先生が25セントで買い取ってくれるという商談を持ちかけました。ナットも25セントあれば好きな動物が買えると考え、大喜びでトミーの提案を受けるのでした。
 ナットは月曜日からの授業に備えてジョー先生から教科書を渡されました。しかし、ナットはこれまで流しの音楽家をしており学校には通っていなかったので、算数ができないのはもちろんの事、アルファベットすら読み書きできなかったのです。ナットは教科書を見るのも嫌になってしまいました。そしてみんなが協力して百科事典を作る事になり、ナットはデミからヴァイオリンのページを書くように薦められますが、字を書く事ができないナットはその場を逃げ出してしまうのでした。
 ナットは庭でヴァイオリンを弾きながらすっかりと自信をなくしてしまいました。しかしベア先生はナットが字が読み書きできない事に気付き、ナットにこれから努力するように薦めました。ナットは小さい頃、お父さんから1冊だけ本を買ってもらいましたが、ナットはどうせ自分には読めないとあきらめてしまったのです。それを聞いたベア先生はナットにもっと自信を持つように言うと、おまじないを教えました。そのおまじないは「ナット・ブレイク、僕はやれる」と言いながら庭をまっすぐに歩くというものでした。ナットは半信半疑で「ナット・ブレイク、僕はやれる」と何度も言いながら庭を歩くと、ベア先生はナットが歩いた場所がナットの畑だから自分の力で作物を育てなさいと言うのです。ナットは自分の畑を持つ事ができた嬉しさでベア先生に泣きながら抱きつき、そして大喜びで自分の畑となった土地を駆け回るのでした。
第7話 僕はロビンソン・クルーソー
 月曜日から授業が始まりましたがナットには全然理解できず、フランツに特別教授をしてもらってアルファベットを覚える勉強から始めました。しかしナットはどうしてもみんなと一緒に勉強したくなり、それを知ったナンやトミー、デミもナットに協力しようと考え、ナンはナットの為にロビンソン・クルーソーの小説をプレゼントします。ナットはまだ字を読む事ができず、フランツにはまだ早いと言われましたが、ナットはどうしてもロビンソン・クルーソーの小説を読みたくなり、早く字を覚えて小説を読もうと決心しました。
 ナットは小説を読もうとしましたがナットはロビンソン・クルーソーと書かれた小説のタイトルすら読む事ができず、ナットは挫折しかかります。しかしナンが話してくれる小説の内容はナットにとってとてもおもしろそうだったので、ナットはどうしても自分の力で小説を読みたくなり、ナンやトミー、デミに協力してもらって1つ1つ字を覚えながら小説を読み始めました。それから毎日ナットは畑作りに精を出し、夜遅くまで小説を読み続けました。
 フランツはナットが不思議でなりませんでした。アルファベットさえ知らなかったナットがロクに勉強しているようには見えないのに自分の教えていないような単語まで知っているのです。数日が過ぎ、ナットの畑には実がなり、そしてとうとうナットはロビンソン・クルーソーの小説を読み終えたのです。ナットは本を閉じると小説の最後に書かれていた言葉を繰り返しました。「苦しい事も辛い事もたくさんありました。でもロビンソン・クルーソーは生きる事の素晴らしさをかみしめていました」ナットは感動にひたりながら夕陽に向かって「ナット・ブレイク、僕はやれる〜!」と叫ぶのでした。
 その夜、ナットは初めて手紙を書きました。その手紙をジョー先生の部屋のドアのすき間に挟んだのです。それに気付いたジョー先生が手紙を開くと、手紙にはこう書かれていました。
 「僕はとうとう本を読み終えました。あんまり嬉しくて、生まれて初めて手紙を書く事にしました。本を読んでいる間、僕の胸はどきどきしていました。早く次が読みたくて一生懸命字を覚えました。どうして僕にこんな素晴らしい事ができたのでしょう。ここに来る前の僕だったらとてもダメだったと思います。だって僕は弱虫だから1人では何もできなかったのです。みんながいてくれなかったらロビンソン・クルーソーも知らなかったでしょう。今、僕は心から思っています。世界中の弱虫君にみんなのような友達がいたらなって。先生ありがとう」それを読んだジョー先生は「こんなに嬉しい手紙をもらったのは初めてだわ」と言うのでした。
第8話 はじめてのパンプキンパイ
 ある日の事、デーズィは人形遊びをしていました。ナンはこれから男の子たちと野球をやるのでデーズィも誘いますが、おしとやかなデーズィは野球には興味がなく、ナンの誘いを断ってしまいます。逆にデーズィはナンに人形遊びを誘いますが、おてんばなナンには人形遊びなどにはまったく興味がありませんでした。デーズィはすっかりと寂しくなってしまいます。ナンが来るまではデーズィはデミと一緒に遊んでいましたが、最近ではデミは男の子たちと一緒に遊ぶ事が多くなり、せっかくやって来たナンも人形遊びなどには興味なく、いつも男の子たちばかりと遊ぶのです。デーズィの遊び相手は人形とロブとテディしかいませんでした。
 デーズィは自分がひとりぼっちだとジョー先生に訴えました。デーズィはナンと一緒に女の子らしい遊びがしたかったのです。ジョー先生は悩みましたがナンにデーズィと一緒に料理をさせる名案を思いつきました。翌日、早速にもナンとデーズィの部屋に台所が据えつけられたのです。ナンとデーズィは青カボチャのパイを作り始めました。ナンもデーズィもパイは作った事がなかったのですが、悪戦苦闘して2人は協力して仲良く作り始めたのです。男の子たちも青カボチャのパイが食べられると楽しみにしていましたが、せっかく作ったパイは見事なまでに焦げて食べられなくなってしまいました。しかしナンとデーズィはすっかりと仲良しになり、今度はデーズィが野球をやり、ナンが人形遊びをやろうと約束するのでした。
第9話 おもちゃの国の贈り物
 プラムフィールドの子供たちは町の子供たちが古くていらなくなったおもちゃを修理し、教会へ持っていって恵まれない子供たちにプレゼントする仕事をしていました。ナンは破れた熊のぬいぐるみを慣れない手つきで修理していると、トミーがすぐにちょっかいを出してくるので、ナンはすっかりと怒ってしまいました。トミーはナンの事が好きだったのですが、気持ちをうまく伝える事ができずにナンにいじわるばかりしてしまうのです。そんな時、メイドのメアリー・アンが男の人から贈り物をもらって悩んでいる姿を見たトミーは、ナンにプレゼントをしようと決心しました。
 それからというもの、トミーは毎日一生懸命、木彫りのウサギを作り、ネジを巻くとウサギのまわるオルゴールを完成させました。トミーはナンに手渡そうとした直前に、ナンが修理していた熊のぬいぐるみをロブとテディが取り合いをして熊の腕をもいでしまったのを目撃したのです。トミーはすぐにロブにぬいぐるみを隠させ、やって来たナンにオルゴールを見せましたが、ぬいぐるみの事が気になってナンにオルゴールを渡す事はできませんでした。
 コンコードにある孤児院が火事になり、プラムフィールドの子供たちはみんなで修理した物を持ちよる事になりましたが、その時トミーが持っていた壊れた熊のぬいぐるみをナンが見つけてしまったのです。ナンはトミーの事をたいそう怒りました。トミーはもうオルゴールをナンに渡すことはあきらめ、孤児院の子供たちにプレゼントする事にしましたが、それを悟ったジョー先生は孤児院には持って行かずにオルゴールをナンに手渡したのです。「トミーのごめんなさいがいっぱい詰まったオルゴールよ」と言って…
 ナンは自分が修理した熊のぬいぐるみを壊したトミーが許せませんでしたが、一方で自分の為にオルゴールをしてくれたトミーの事を考えると複雑な心境でした。その夜遅くにロブとテディはナンにぬいぐるみを壊したのはトミーではなく自分たちで、トミーは自分たちをかばってくれたのだと泣きながら謝ったのです。それを知ったナンが教室に行くと、トミーが一生懸命壊れた熊のぬいぐるみを修理していたのです。ナンはトミーに話しかけるとぬいぐるみの修理を一緒に手伝うのでした。
第10話 パジャマで大戦争
 プラムフィールドに来た時は病弱だったナットはすっかりと元気になり、ナンをはじめ他の子供たちもますますわんぱくになってきました。エーシアは子供たちを厳しくしつけるべきだと言いますが、ジョー先生は反対でした。ジョー先生の教育理念は子供たちを規則で縛るのではなく自由でのびのびと、でも自由をはき違える事なく自分の責任で行動できるようになってもらいたかったのです。
 しかし子供たちはジョー先生のそんな気も知らず、何度注意されても毎晩遅くまで騒ぎ周りました。とうとうジョー先生は怒りを爆発させ、今後どんなに夜遅くまで騒ごうとも一切叱らないと宣言したのです。子供たちは納屋で話し合いました。ジョー先生は本気で怒っているから、これからは早く寝ようとスタッフィは言いますが、ナンは先生が怒らないのをいい事に12時の時計の鐘を聞きたいと言って、いつもにも増して遅くまで起きている事にしました。
 その夜、子供たちはナンの言う12時の時計の鐘を聞く為に夜遅くまで起きていました。しかし10時を過ぎた頃からみんな眠くなり、11時にはもうみんなその場で眠ってしまいます。ナンとトミー、ナットの3人だけは玄関のホールで12時の鐘の音を聞きました。しかしその直後に3人は自分たちがバカな事をしていた事に気付き、ジョー先生が起きてきたら真っ先に謝ろうとベア夫妻の居間で寝る事にしました。夜中にジョー先生が気になって様子を見に行くと、居間で3人が眠っていたので自分の部屋で寝るように言うと、3人はこれからは早く寝るようにすると言うのです。それを聞いたジョー先生は「日曜日から金曜日まで早く寝る事ができたら、土曜日の夜に15分間だけ枕投げを許可します」と言ってくれるのでした。
第11話 街から来た無法者ダン
 ローリーさんはプラムフィールドの子供たちを毎月2人ずつボストンの音楽会に連れて行ってくれる事になっており、今月はナンとナットが音楽会に行く事になりました。ナンとナットは粧し込み、ローリーさんの馬車でボストンへ向かいます。ナンもナットも久しぶりに来たボストンの町に見とれていると、ナンは1軒の新しいお店で1人の少年がお金をもらって配達を頼まれたにもかかわらず、すぐに配達するべき荷物を捨ててお金だけもらって立ち去るのを目撃しました。ナンはすぐにその少年を追いかけ荷物を渡しましたが、その少年はお金を奪う事が目的で、真面目に配達する気などさらさらありません。ナンは怒って立ち去ろうとしましたが、そこへナットがやってきて、親しげに話し始めたのです。その少年はダンという名のボストンに暮す不良少年で、ナットの知り合いでした。ナットはダンにプラムフィールドに来ないかと誘いますが、ナンにとってはあんな不良少年とナットが知り合いなのが不思議でなりませんでした。
 ローリーさんとナン、ナットは音楽会に行きましたが、ナットにはうわのそらでした。ナットにとってダンは自分に唯一優しくしてくれた親切な人だったのです。自分がプラムフィールドに来て幸せになれたように、ダンにもプラムフィールドに来てもらって幸せになってもらおうと思わずにはいられなかったのです。
 その夜、ダンはボストンの不良グループに絡まれ、ボストンの町を追い出されてしまいます。行くあてのないダンは翌日、プラムフィールドに姿を現わしました。ダンが来た事を知ったナットは、すぐにジョー先生にダンを学校に置いてくれるように頼みます。ジョー先生はダンが普通の少年ではない事にすぐに気付きましたが、ナットがあまりに熱心に説得するので2〜3日プラムフィールドで暮してもらい、その間にうまくやっていけるか見る事にするのでした。
第12話 プラムフィールドの嵐
 ナンはダンがプラムフィールドに来た事が嫌でたまりませんでした。他の子供たちが納屋でサーカスごっこをしていた時、ナットの案内でダンがやって来たのです。トミーが宙返りを披露すると、ダンは宙返りをバカにしてトミーに喧嘩を売ってしまいます。しかしダンがトミーよりはるかにうまい宙返りを見せると、トミーはダンにすっかり感心してしまうのでした。ナットとトミーはダンがプラムフィールドで一緒に学ぶ事に賛成でしたが、他の子供たちはダンの態度が気に入らず、ダンが好きになれませんでした。
 その後もダンは他の子供たちと決して仲良くなろうとはしませんでした。ナットはダンに何度も仲良くするようにお願いしますが、ダンはボストンでもそうだったように1人でいるのが好きだったのです。ジョー先生は子供たちに秘められている素質や才能を見つけるのが好きでした。ダンにも素質や才能が埋もれているはずだから、それを見つけてみたいと思い始めます。しかしダンはベア先生から与えられた草刈りの仕事に嫌気がさし、草刈り鎌を叩き折って仕事を放棄してしまいます。ジョー先生はダンにナットがあんなにあなたの事が好きなのだから、あなたはきっといい人に違いないと優しく話しかけました。しかしダンはジョー先生に馬声を浴びせると走り去ってしまいます。それでもジョー先生はダンに理解を示すのでした。
第13話 決闘!エミルが怒った
 それからもダンはプラムフィールドの規則や割り当てられた仕事をすべて無視し、勝手気ままに暮しました。他の子供たちはダンの事が許せなかったのですがジョー先生とナットとトミーだけはダンに理解を示しました。ジョー先生がダンの為に教科書を選んでナットに持って行かせましたが、ダンはケチをつけるばかりです。ジョー先生の悪口を言われたエミルはダンに無理矢理教科書を受け取らせようとすると、ダンは教科書を破り捨ててしまったのです。怒りの爆発したエミルはダンにケンカを売り、2人は殴り合いのケンカを始めてしまいました。ダンは日頃からケンカ慣れしていたのでエミルには勝ち目はなく、エミルは殴られ続けます。しかしエミルは「ジョー先生が悲しい思いをして心が傷んでいる」と言った途端に、ダンはケンカに手を抜き始め、2人は互角の殴り合いになり、そこへフランツとベア先生がやって来てケンカは仲裁されました。
 ベア先生はダンを呼ぶとケンカの訳を聞きました。ダンはロクに話そうともせず、プラムフィールドを出て行こうとしましたが、ベア先生は「何か1つでも学んでから出て行っても遅くないのではないかね」と言ってダンを呼び止めると、今度このような騒ぎを起こしたら、その時は出ていってもらう事を条件に、ダンをプラムフィールドに置いてやる事に決めるのでした。
 ナンは2人がケンカした時に途中からダンが手を抜いた事に気付きました。ナンはダンの所に行くと「あなたの事を好きになれないけど、あなたには男らしいところがある」と言ったのです。ナンは相手の嫌いなところは嫌いだとはっきり言う代わりに、いいところを見つけたらはっきり言う事にしたのです。ダンはナンの事を変わった人間だと思わずにはいられず、1人になってから思わず笑いだしてしまいます。
 そしてジョー先生がダンのケガの治療にやって来ました。ジョー先生は自分の心は強いので何度裏切られても堪えないと言うと、罰としてダンの部屋の花瓶に一輪の花を生けました。そしてジョー先生はダンに「本当にここで暮したいと思ったら、この花を胸に差してちょうだい。それが仲直りのしるし。待ってるわ、あなたが私たちの家族になってくれる日を…」と言うのでした。
第14話 ダンとテディの秘密
 ナンはプラムフィールドの屋根に登ってジョー先生と一緒に日の出を眺めました。美しい光景を見ていると心が洗われるようで、もうダンの事を悪く言うのはやめようと決心しました。ダンはしだいに態度を軟化させ、朝食も食べないと宣言していたのですが、みんなと一緒にお祈りして朝食を食べるようになりました。そしてあれほど嫌がっていた授業にも出るようになったのです。
 ロブとトミーは屋根裏で見つけた凧を揚げて遊びますが、テディはまだ小さいので仲間に入れてもらえません。仲間外れにされたテディが泣き叫ぶので、仕方なくナンがテディの為に凧を作る事になりました。しかしナンは凧など作った事がなかったので、ダンに作るのを手伝ってもらおうとしましたが、ダンと口げんかになってしまい、ナンは慣れない手つきで1人で作り始めます。その間、退屈なテディはダンを見つけると話しかけ、ダンもテディのような小さな子供にあたる事もできずに仲良く遊び、それを見たジョー先生とベア先生はびっくりしてしまうのでした。
 ナンの作った凧は完成しましたが、風で飛ばされてしまい森の中に落ちてしまいます。森の木のてっぺんに引っかかっているのを発見しましたが、とてもテディには取れそうにはありません。凧をなくして泣き叫ぶテディを見ていたダンは、木に登って凧を取り、テディに渡すのでした。
第15話 バタカップ大騒動
 ある日の事。トミーとダンは授業中にお喋りをしていた罰として牧場の柵の修理を命じられました。しかしダンはトミーを誘って柵の修理を終わらせないまま遊びに出かけてしまいます。そしてデミが馬に乗って闘牛をするピカドールの話をした事から、トミーがロバのトビに乗って、老いぼれ雌牛のバタカップ相手に闘牛をする事になりました。ところがバタカップは何をしてもいっこうに怒る様子はないので、ダンが釣り竿でバタカップのお尻を突き刺したところ、突然バタカップは怒って走りだし、柵を突き破って森の中に駆け込んでしまったのです。ダンやトミーは慌てて森の中を探したところ、バタカップは柵を突き破った時にケガをして森の中に倒れてしまいました。
 柵の修理を途中でほりだし、あまつさえバタカップを傷つけた事を知ったベア先生は、たいそう怒って一言も口を聞きませんでした。しかしジョー先生はダンには優しいところがあるからと言って許してやるようにベア先生に提言します。ダンは責任をとって黙ってプラムフィールドを出ていこうとしましたが、納屋の陰でベア先生に呼び止められました。ベア先生もダンと話をする前に頭を冷やしておこうとしていたのです。
 ベア先生は動物を傷つけたことは許せない事だが、ジョー先生がどうしてもダンをプラムフィールドにおいてやりたいと言うので、ダンにはもう一度チャンスをやると言ってくれたのです。ダンももう一度プラムフィールドでやり直そうと決心し、2人は握手をしました。そしてダンはバタカップのケガが治るまで一生懸命看病を続けるのでした。
第16話 学校が燃える!
 それ以来ダンは真面目に心を入れ替え、6日が経過しました。ダンが看病したおかげでバタカップのケガもすっかりと良くなり、柵の修理まで済ませたダンを見たジョー先生とエーシアはダンの変化にびっくりするばかりです。しかしダンはまだまだジョー先生に心を開くことはありませんでした。ダンは夜1人で野原に寝そべり、自由でスリルに溢れていた昔の事を思い出すと、久しぶりに息抜きがしたくなり、ナットとトミーを誘って屋根裏部屋に酒と葉巻を持ちこんでポーカーを始めるのでした。
 ところが11時を過ぎた頃、トイレに起きたデミは同室のトミーがいない事に気付き、ジョー先生を呼んで探しまわり、それに気付いたダンたちは慌てて自室に帰りました。その場は何とか切り抜けましたが、トミーが持っていた火の完全に消えていない葉巻をトミーはベッドの下に隠してベッドに潜り込んだところ、それからしばらくして葉巻の火がベッドに燃え移りはじめたのです。
 ナンがトイレに起きた時、トミーとデミの部屋のドアのすき間から明かりが漏れているのに気付きました。こんな時間に何で明かりが灯っているのだろうと不思議に思ったその時、ドアのすき間から煙が出てきたのです。ナンは慌ててドアを開けると、部屋の中はベッドが燃え上がり火の海になろうとしていました。
第17話 さよならダン
 ナンの悲鳴にみんなが駆けつけ、トミーとデミを助け出し、火を消そうとしましたがなかなか火は消えず、一部屋を完全に燃やしてしまって、ようやく火を消し止めることができました。
 翌日になってダンが息抜きをした為に火事になった事を知ったナンはダンを非難し、そしてベア先生にダンを弁護しました。しかしベア先生は酒とタバコと賭け事が大嫌いなのに、そのいずれもを行い、さらに火事まで起こしてしまったダンを許す事はできず、とうとうダンをプラムフィールドから追い出す事になってしまいました。ダンはベア先生の友人のページさんの家に預け、そこで様子を見る事にしたのです。
 ジョー先生はダンとの別れ際、「いつでも帰ってきてちょうだい、ここはあなたの家なんですからね」と言って涙を流しました。ダンはテディを抱きしめると素直になれなかった事を後悔し、馬車でプラムフィールドを去っていきます。ナンは馬車を追いかけ「あなたは私たちの友だちよ、絶対帰ってきてね」と叫ぶのでした。
第18話 ママがやって来た
 ダンがいなくなってプラムフィールドの子供たちは落ちこんだ日々を過ごしていました。そんなある日、ページさんからダンについて書かれた手紙が届き、ダンは農場の仕事をよくやっていると書かれていたので、みんなは大喜びでした。
 スタッフィにお母さんからお菓子が届きました。スタッフィはお母さんに甘やかされて育ち、おやつ抜きでは生きていけないほどにお菓子が大好きだったので大喜びです。しかし最近ますます太ってきたスタッフィを見た子供たちは、スタッフィにおやつを抜くよう勧め、さらにマラソンやサッカーなどスタッフィを運動させて痩せさせようとしますが、意志の弱いスタッフィは長続きしないばかりか、お母さんにおやつを食べさせてもらえないと手紙を書いたのです。
 手紙を読んだスタッフィのお母さんのコール夫人はすぐさまプラムフィールドまで押しかけ、生き物の生態に関する自由研究で池の中に入っていたスタッフィを連れ出し、「ろくでもない学校だからろくでもない生徒が育つのよ」と言ってプラムフィールドをやめさせようとしました。それを聞いたジョー先生は怒って「あなたがスタッフィを甘やかしてばかりいる事が本当にスタッフィの為になるとお思いですか? この学園の考え方は逆です。スタッフィには辛い事があったとしても自分で考えて立ち向かい、1人で乗り越えられるようなそんな子供になってほしいのです。辛い事から逃げ出さない事、自分で考えてやってみようとする事、今の弱虫のまま大人になってしまった事を考えると私はほっておけないんです」と言いますが、コール夫人は聞く耳を持たないままスタッフィを連れて駅まで行ってしまいました。
 駅で汽車に乗り込んだスタッフィは汽車が出発する直前に汽車から飛び降り「ジョー先生は辛い事があった時に1人で乗り越えられる子になってほしいって、そう言ったんだ。でも僕、自分が弱虫なのが一番辛いんだ。頑張らなきゃいけないんだ、僕。だから、ごめんね。ママ、頑張るよ、僕」と言ってお母さんと別れ、再びプラムフィールドで頑張ろうと決心するのでした。
第19話 舞踏会へようこそ
 ナンとデーズィはトミーとデミとナットを招待して舞踏会を開く事にしました。ところがトミーはダンスも踊らずに食べるだけ食べたら逃げようと悪巧みを計画します。そうとも知らないナンとデーズィは貴婦人を着飾って楽しみに待ちます。そしてトミーたちはぶかぶかのタキシードに厚紙で作ったシルクハットを被ってやって来ました。とりあえずダンスは踊ったものの、その後の食事でナンとデーズィがテディに気を取られている隙に、食事のお菓子をすべて隠してしまいました。トミーは怒ったナンから逃げ回っているうちにテーブルをひっくり返してしまい、せっかく楽しみにしていた舞踏会がメチャクチャになってデーズィは泣き出してしまいます。騒ぎを聞きつけたジョー先生はトミーたちがふざけて舞踏会をだいなしにした事を知ると、男の子と女の子を今後一切口を聞いたり遊んだりする事を禁止するのでした。
 女の子たちと口を聞かなくなってから2日が経過しました。トミーは強がりを言っていますが、ナットやデミはすっかりとしょげかえっています。特にジョー先生にまでほとんど口を聞いてもらえなくなった事がショックでした。そこで翌日、3人はベア先生にどうすればいいかを尋ねたところ、女の子たちをパーティーに呼べばいいと教えられたのです。それ以来3人は屋根裏部屋にこもってゴソゴソと何かを始めました。
 そして数日後、ナンとデーズィ、そしてジョー先生にまで3人からパーティーの招待状が届きました。パーティーでは男の子たちが女の子たちに凧をプレゼントし、凧あげをしてパーティーは大成功でした。とても楽しいパーティーだったと言う子供たちにジョー先生は「なぜだかわかりますか? それはお客様がマナーを守って立派だったからよ。そして何もかもがうまくいくように気をつけていたからなの。マナーというのは人の気持ちを大切にする事から始まるのですもの」と言うのでした。
第20話 大きくなったら何になる?
 ある日の事、子供たちは将来の夢について話し合っていました。デーズィは大人になったら素敵なお母さんになる事が夢。ナットはバイオリニスト。そしてトミーは億万長者になるのが夢でした。ナンは小さい頃、大きなクジラになって空を泳ぐのが夢でしたが、大きくなってからは消防士となって燃え盛る炎の中に飛び込んで行くのが夢でした。しかしそれも一昨日までの夢で、今のナンは機関車の助手となって機関車に石炭をくべるのが夢だったのです。
 ところがナンは機関車の助手になる練習をしようとストーブに石炭をくべすぎてストーブを壊してしまいました。男の子たちはナンの夢があまりにも突拍子もないので笑っていたところ、バカにされたナンは怒りだし、馬車に飛び乗ると駅に向かって走り出したのです。それを知ったジョー先生は大変な事が起きると予感して、ナンを追って馬車を猛スピードで駆って駅に向かいました。
 その頃ナンは駅で故障して蒸気圧が上がらずに立ち往生していた機関車に乗り込むと、釜に石炭をくべはじめたのです。ナンが石炭をくべたおかげで機関車は走れるようになり、機関士はナンの仕事ぶりがあまりに見事だったので、ナンに気付かぬまま機関車を走らせ始めました。しかし途中でナンに気付き、ナンは逃げようとして石炭車の上に登って地面に落ちそうになったところを駆けつけたジョー先生に助けられるのでした。
 ジョー先生はナンを叱らなければならない事は知っていたのですが、叱る気持ちにはなれませんでした。それはナンが今度はどんな事をしでかすかと思うとワクワクしてしまったからです。そしてジョー先生はナンに「ねえナン、約束して。今度から行動を起こす前に相談して。私は笑わないから。大人の考えが立派で、子供の夢がたいした事ないなんって、そんな事ないわ。大人になって夢や情熱を胸に抱くことができなくなったとしたら、その方が悲しい事だわ。いつかきっとナンの夢が現実になる時が来る。それは機関手かもしれないし、もっと別の夢かもしれない。世界中が笑ったっていいじゃない。私はナンの夢を支えるわ」と言うのでした。
第21話 先生をぶちなさい!
 ナットは一生懸命勉強したおかげで、今ではすっかりとみんなの学力に追いつくことができました。しかしナットはジョー先生に出された宿題をほりだしてみんなと野球を始めてしまったのです。それを見ていたベア先生は、ナットには小さな事だが嘘をつく癖があると感じ、そこでベア先生はこれからナットが嘘をつくと罰を与えることにしました。その罰とはナットが嘘をつくたびにナットがベア先生をものさしで叩くのです。ベア先生はナットが痛い目にあってもすぐに忘れてしまうだろうが、心の優しいナットがベア先生を痛い目にあわせれば決して忘れないと考えたのです。ナットにはベア先生を叩く事などできるはずがなく、これからは嘘をつくまいと考えました。
 ところが子供たちがかくれんぼをしていた時、ナットは誤ってエミルの育てたスイカを割ってしまったのです。ナットは正直に話そうとしましたが、エミルがあまりにも怒るので、恐くなって正直に話すことができなくなり、ナットは嘘をついてしまいました。それを知ったベア先生はナットを呼び出すとナットにものさしを手渡し、自分の手を打つように言います。ナットは泣きながらもベア先生をものさしで打ちますが、もう2度と嘘はつくまいと決心するのでした。
第22話 ページさんからの手紙
 ダンがページさんの農場に行ってから2週間あまりが経過したある日の事。ようやくページさんからダンの近況についての手紙がやって来ました。その手紙にはダンは相変わらず粗暴な性格は見え隠れするが、投げやりな態度はしだいになくなり、そして農場の仕事の合間に自然の動物や植物に興味を抱くようになり、森に入っては1人で時間を潰すようになりました。そしてページさんが何気なく置いておいた博物学の本に興味を持つようになり、ダンは時間を忘れて読みふけりました。以来、ダンは本を片手に身の回りや森の動物や植物を調べて周り、そしてその本のすべてのページにめくり跡がついた時、ダンはページさんにこの本はすべて読み終わったから新しい本を貸してほしいと頼んだのです。ページさんはダンに知識の扉を開いてやる事ができたと手紙には書かれていました。それを聞いたプラムフィールドのみんなはページさんに心から感謝するのでした。
 ダンはページさんの家で博物学を学んでいる時も、いつも心はプラムフィールドにありました。ダンはプラムフィールドでジョー先生に対しての行いや暴言を深く反省します。そしてダンはいつしかプラムフィールドに戻りたいと考えるのでした。
 そんなある日の事、ページさんが学会の発表でワシントンに出かけたのでダンが1人で留守番をしていた時、ボストンの不良グループ3人がダンの居所を突き止め、ページさんの家まで押しかけて来たのです。3人は昔、ボストンでダンの為に警察に捕まった事を逆恨みし、復讐の為にやって来ました。そして不良グループの1人のマーリーはピストルを取り出すとダンめがけて発砲したのです。その頃プラムフィールドではジョー先生がダンが自分の手の届かないところに去って行く夢を見ました。そしてジョー先生はダンに何かがあったに違いないと予感するのでした。
第23話 誰もいない庭
 翌日、ページさんが家に戻ると家は荒らされ、ダンの姿はどこにも見ありませんでした。その事はすぐにベア先生やジョー先生にも伝えられました。ジョー先生はとてもダンの事が心配でしたが、ダンを探すあてもないのでとりあえずダンを探すのはページさんに任せる事にします。しかしジョー先生はダンが必ずプラムフィールドに帰ってくると固く信じていました。
 それから数日後、ジョー先生が夜中に何気なく外に出た時、干し草の陰で足にケガをして疲れ切って倒れていたダンを発見したのです。ダンの手には花が一輪、握られていました。その花はダンが本当にプラムフィールドで暮したいと思った時の仲直りのしるしでした。そして意識を取り戻したダンはジョー先生を見て「ただいま、お母さん」と言ったのです。ジョー先生は嬉しさで胸が一杯になり、涙を流してダンを抱きしめるのでした。
 お医者さんのファース先生がすぐに呼ばれてダンを診察したところ、ダンの足のケガはピストルに撃たれたもので、弾は貫通していました。ダンはページさんから学んだ知識をもとに薬草を付けてケガを処置して何十マイルも歩き続け、2週間かけてプラムフィールドまでやって来たのです。ジョー先生はベア先生にダンを許して再びプラムフィールドにおいてやれないかとお願いし、ベア先生も了解してくれました。その様子を陰から聞いていたダンはジョー先生の優しさに胸を打たれ、再びプラムフィールドで暮せるようになった事を涙を流して喜ぶのでした。
第24話 素直になれなくて
 ダンはここでひどい事ばかりしてきたのでベア先生が許してくれないと思っていました。しかし、その事をジョー先生に話すとジョー先生は「もう忘れたわ」と言い、そればかりかダンが仲直りの約束を覚えていてくれた事に感謝しました。そしてジョー先生はその花が自分の宝物だと言うのです。ダンは嬉しさのあまりジョー先生に抱きつくと、先生の頬にキスをして、おやすみと言って布団を被って寝てしまいました。ジョー先生も嬉しくてダンの布団をめくると、ダンの頬にキスのお返しをするのでした。
 朝になってダンがプラムフィールドに帰って来た事が知れ渡り、みんな大喜びでした。ダンはこれまでの事をベア先生に謝ろうとしましたが、ダンはそれをなかなか口に出す事ができません。ジョー先生はそんなダンの気持ちを見抜きましたが、ダンが自分から謝るまでは待とうと決めます。ダンはプラムフィールドに帰って来て以来、薬草や動物、昆虫の事など自分がページさんの家で学んだ事を子供たちに語りました。ナンは薬草にとても興味を抱き、自分で薬草を調べて集めるようになります。子供たちもダンの変わりぶりに驚きますが、ナンはダンがまだベア先生に謝っていないと聞くと、ナンはダンに謝る勇気がないのは意気地なしだと言って非難します。それを聞いたジョー先生はナンにダンやナンのような意地っ張りは口に出して謝るのは難しい事だと言って理解を示します。
 ダンは意を決するとベア先生に会いに行き「先生、ご迷惑をおかけしました。俺は今まで恥ずかしい事ばかりをしてきました。撃たれても当然のような事を… でも、今は感謝で一杯です。みんなに会えた事も… プラムフィールドが好きなんです。俺をここにおいて下さいますか?」と言うと、ベア先生はダンを抱きしめ「ああ、もちろんだよ。お帰りダン、プラムフィールドは君を歓迎する」と言って2人は仲直りします。その夜、テディが寝る前に神様に祈るのを見たダンは、テディを真似て「神様、どうぞみんなをお恵み下さい。そして僕がいい人間になれるようお助け下さい」と祈るのでした。
第25話 博物館を作ろう
 ダンがプラムフィールドに帰ってきてから2週間が経過し、ダンはようやくファース先生から松葉杖を使って歩く事を許可されました。そればかりかローリーさんの提案でダンの歓迎会が開かれ、ずっと部屋で退屈していたであろうダンの為に、ボートで近くを旅する事になったのです。ローリーさんとダン、ナン、ナット、ロブとテディでボートに乗って近くを漕ぐうちにダンの博物学に対する知識が認められローリーさんは動物や植物の図鑑をダンにプレゼントしました。そしてプラムフィールドの馬小屋を改造して博物館を作ればいいと提案してくれたのです。
 さっそく計画は実行に移され、みんなは一生懸命ペンキを塗ったり改築して博物館作りを手伝いました。そしてデミはダチョウの卵、スタッフィはフグ、ジャックは蛇の抜け殻、ナンは薬草を用意しました。博物館の名前は提案者のローリーさんの名前をとってローレンス博物館と名付けられ、博物館の館長にダンが任命されました。博物館の完成を明日に控え、ベア先生はみんなを博物館に集め、博物館に珍しいものを並べるだけでなく、生き物や草花に関する本を読んで調べ、1週間に1度、みんなが調べた事を発表する事にするのでした。
第26話 泥棒は僕じゃない!
 トミー・バングズ商会の経営は順調に進み、トミーの貯金箱にはもうすぐ5ドルがたまろうとしていました。トミーはその5ドルで社員であるナットの為にナットが欲しがっていたモーツァルトの楽譜を買ってあげようと考えます。ところがそんな事は夢にも思わなかったナットは、どうしてもモーツァルトの楽譜を買う為の3ドルが欲しくてたまりません。そんなある時、トミーは貯金箱を納屋に置き忘れたまま寝てしまいます。翌日トミーが貯金箱を確認すると中のお金がなくなっていました。トミーが貯金箱を置き忘れた場所はナットしか知らなかった事と、ナットがトミーの貯金箱を手にしていたのをナンが目撃していた事からナットが犯人に疑われてしまいます。すぐにベア先生は子供たちを集め、お金を盗った者は名乗り出てほしいといいますが、誰も名乗り出ません。ベア先生に追求されたナットも自分は盗っていないと否定するばかりです。
 それ以来、子供たちはナットを疑いの目で見るようになり、プラムフィールドには気まずい雰囲気が漂いました。しかしナットはそれ以来、自分が疑われているのに、はっきりと否定もしないのです。トミーまでもがナットを疑い、トミーはナットに「僕がお金を持っていなければ友だちを1人なくさずに済んだんだ」と言って、とうとうトミー・バングズ商会を解散してしまいました。
第27話 ひび割れた友情
 それから1週間、ナットにとって辛い日々が続きました。大好きだったヴァイオリンすら弾く気にはなれないのです。ジョー先生はみんながお互いを疑い始め、みんなの気持ちがバラバラになるのではないかと心配します。
 唯一、デーズィだけはナットを信じていました。そのデーズィにナットは告白したのです。「デーズィ、僕、本当は盗ったんだ、トミーのお金。僕は心の中でトミーのお金を盗ったんだ。トミーはあんなに親切なのに、あの時これがトミーのものではなく僕のものになったらって…」「だから… だから何も言い訳しなかったの? 盗ってもいないのに」「だって、同じ事だもん。僕は先生やみんなに軽蔑されて当たり前なんだ」それを聞いたデーズィは思わず泣き出してしまいました。やっぱりナットはお金を盗っていなかったのです。でも1人で苦しむナットが可哀想でなりませんでした。ナットの様子を見ていたダンは、ナットを思ってローリーさんからもらった図鑑を持って町に出かけて行きます。ダンが出かけたきり戻ってこないので、みんなは心配しでダンを捜し回るのでした。
第28話 告白の置き手紙
 ダンは夜遅くになって戻ってきました。そして翌朝、納屋にトミー・バングスへと書かれた紙切れとともに4ドルが置かれていたのです。トミーはそれを見つけると、ナットの所に走っていき、やっぱりナットは犯人ではなかったと言って2人は抱き合って喜びました。そして仲直りした2人は再びトミー・バングズ商会を復活させる事にしたのです。
 ところがその直後、バートン夫人から小包が届きました。小包を開くと中にはローリーさんがダンにプレゼントした図鑑が入っており、ダンはバートン夫人の息子に図鑑を4ドルで売ったのだが、図鑑は4ドルという安い値段で売れるような物ではないので、何かの間違いだろうと言って送り返してきたのです。
 ベア先生はダンを問い詰めると、図鑑を売って納屋にお金を置いたのは自分だとダンは認めました。しかしそれ以上は何も話そうとはしません。ジョー先生はショックのあまり泣きながら部屋を飛び出してしまいました。ベア先生は反省の色すら見せないダンに怒りを覚えます。ナンも「親友に罪を被せてこっそりお金を返す卑怯者」と言ってダンを非難しました。
 ダンはそれから1週間、ほとんど誰とも話をしないまま過ごしました。ジョー先生にすらダンは避けているようで、ジョー先生はせっかくダンと打ち解けてきたばかりだっただけに、そのショックは大きなものでした。子供たちもダンがいないと面白くないので、ダンを呼びに行こうとしますが、ダンの方が避けているようです。
 そんな時、ジャックは納屋の屋根で足をケガしたハトを捕まえようとして屋根から落ちそうになってしまいます。それを見ていたダンは命がけでジャックを助けました。夕方になってジャックは置き手紙を残してプラムフィールドを去ってしまいます。手紙には自分がお金を取った事、それから犯人に疑われていたナットをかばう為にダンは自分が犯人だと言いだした事、そしてこれ以上黙っていられなくなり家に帰る事にしたと書かれていました。
 ベア先生はナットとダンの友情がジャックの心を動かしたと言いました。そしてベア先生はダンを疑っていた事について許しを乞うつもりだと言います。ジョー先生もダンの事を再び見直し、心配させた事を謝るダンに対し、本当に良かったと言って涙を流すのでした。
第29話 男の子には負けない!
 プラムフィールドの男の子たちは紳士クラブを作り、将来立派な紳士になれるようにみんなで集まって話し合いをするようになりました。しかし紳士クラブに女の子は入れてもらえず、仲間外れにされたナンとデーズィは、紳士クラブの集まりが行われている木の上に押しかけ、仲間に入れろと要求します。男の子たちは話し合いの末、ナンだけは紳士クラブへの入会を認めました。しかし、デーズィの入会は認めなかったので理由を聞くと、ネッドはデーズィが女の子だからと答えてしまい、ナンは「じゃあ、あたしは何だって言うのよ」とカンカンに怒ってしまいます。
 仲間外れにされたナンとデーズィは紳士クラブに対抗して淑女クラブを作る事にしました。そしてジョー先生にも淑女クラブへ入ってくれるように頼むのです。事情を知ったジョー先生は男の子たちに女の子が紳士クラブに入れない理由を聞くと、男の子にはできて女の子にはできない事があると言うので、来週の日曜日に紳士クラブと淑女クラブで野球の試合が行われる事になり、淑女クラブが勝てば紳士クラブに女の子の入会を認める事になったのです。
 淑女クラブにとって悩みの種は人数が足りない事でした。ナンとデーズィ、ジョー先生、エーシア、メアリー・アンの5人しかいないのです。仕方なくロブとテディ、そして庭師のサイラスもメンバーに加え、さらにパンプキンパイを報酬に紳士クラブからスタッフィを引き抜いてメンバーを揃えました。
 日曜日に野球は行われました。しかし淑女クラブのメンバーはロブとテディは小さすぎて役に立たず、おまけにデーズィとエーシア、メアリー・アン、サイラスの4人は野球をやった事すらなかったので、試合は紳士クラブの一方的なペースで進み、終わってみると17対1の大差で紳士クラブの大勝でした。しかし、紳士クラブのメンバーは淑女クラブの健闘を称え、紳士クラブに女も男も大人も子供も関係なく誰でも入れるようにして、ジョー先生の発案で名前も楽しいクラブにするのでした。
第30話 小さなウェディングベル
 ある日の事、ジョー先生とベア先生の結婚式の写真を見た子供たちは、結婚の事が話題になります。そしてトミーはナンが自分の事を好きなのではないかと言いだし、ナットへデーズィに好きだと言ったのかを問います。ナットもデーズィもお互いの事が好きだったのですが、お互いに打ち明ける事ができずに今日まできていました。ナンはおせっかいにもナットがデーズィの事を好きだと打ち明けたかどうかをデーズィに聞いてしまったので、デーズィは「ナンのいじわる」と言って部屋を飛び出してしまいました。
 ナットもデーズィに告白しようと考えていたのですが、ナットには勇気がありません。ナットはデーズィの為にヴァイオリンの曲を作り、それをデーズィに聞いてもらおうと考え、デーズィと2人っきりで座りました。デーズィはナットが自分に告白してくれるのではないかと期待していたのですが、ナットがあまりにもヴァイオリンの話しばかりするので、デーズィは怒って「ナットなんか嫌い… 大嫌い」と言って走り去ってしまうのでした。
 デーズィはナットにひどい事を言ってしまった事を後悔し、ベッドに入って泣き続けました。ナンやトミーは自分たちが余計な事をナットとデーズィに吹き込んだ為に2人がケンカしたのではないかと考え、2人を仲直りさせる為に、ナットとデーズィの結婚式を行う事を考え、招待状を出しました。しかしナットはトミーに結婚おめでとうとはやされた為、逃げ出してしまったのです。それを聞いたデーズィは泣き出してしまいました。
 ジョー先生は2人を仲直りさせる為にヴァイオリンを持ちだしてナットに会いに行きました。そしてジョー先生はヴァイオリンが好きだというナットに対し、「ヴァイオリンが好きだと言うのと同じようにデーズィが好きだと言えるようになればいいのに… デーズィの所に行きなさい、あの子に言わなきゃならない事があるでしょ」と言いました。そしてナットはデーズィの所に行くと「デーズィ、僕は君が… 君が大好きだよ」と言うのです。デーズィは嬉しさのあまりに泣き出してしまいました。そしてプラムフィールドの子供たちによってナットとデーズィの結婚式ごっこが行われるのでした。
第31話 ステキな5ドルの使い方
 それからしばらくして、ジャックがプラムフィールドに戻ってきました。ジャックはベア先生にこっそり会うと、プラムフィールドに戻りたいが他の子供たちがこれまで通り仲良くしてくれるかどうかを問います。ベア先生は「トミーはお金を盗まれたのだし、ナットとダンは罪もないのに苦しんだのだから3人からは許してもらえないかもしれない。だがジャックのこれからの努力しだいで、この不名誉を挽回する事ができる」と言うのでした。
 ジャックはベア先生によって子供たちに紹介されました。しかしナンやトミー、ナットはジャックと仲良くできる自信がありません。それにダンは自分の怒りを押さえるのに必死でした。ジャックにとってしばらく辛い日々が続きました。子供たちはジャックに対してぎこちなく、これまでのように仲間に入れてもらえないのです。しかしジョー先生がナンにジャックと仲良くできるように努力しようという言葉を聞いていた子供たちは、考えをあらためました。
 翌日の生物に関する研究発表の日、授業の後に贈呈式が行われました。先日の事件の時にダンがおおいいに苦しむ事になったので、その埋め合わせとして子供たちみんながお金を出しあってダンに顕微鏡を送ったのです。それはダンが欲しくて欲しくてたまらない物でした。子供たちは顕微鏡をしきりに覗きたがりましたが、ダンは1人でしょんぼりしているジャックを呼ぶと、一番最初に顕微鏡を覗かせ、ジャックはみんなと仲直りを果たすのでした。
第32話 私、お医者さんになる!
 ナンは機関車の助手になるのが夢でしたが、ダンから薬草について教わるうちに薬草に興味を持ち、薬や包帯をいっぱい積んだ二輪馬車に乗って次から次へと病人を治してまわるお医者さんになるのが夢になりました。そしてロブが転んで擦りむいたケガを薬草で治療したナンはギディ・ギャディ先生と名乗るのです。そんなナンを見ていたジョー先生はナンが人や生き物たちの為に役立ちたいと思っており、生きる目的がほしいのだと悟りました。だからナンのじっとしていられない性質を押さえつけるのをやめて、好きな事をやらせてみようと思います。そうすれば素敵なお医者さんになるような気がするのでした。
 ジョー先生はナンに家庭の医学の本を渡します。そしてジョー先生はエーシアから包帯の巻き方を教わるようにナンに言います。さらにむやみやたらに治療するのではなく、正しい知識を付けてから治療するように言いました。ナンはこれまでの自分の行いが否定されたような気がしてガッカリです。そして気を取り直すと再び薬草作りを始めました。しかしそこへジョー先生がやって来て、ナンを注意しました。注意されたナンは薬草を煮ていた鍋を火から降ろしますが、鍋を不安定に置いた為、ナンは煮えたぎる薬を被りそうになり、助けようとしたジョー先生の足にかかって大火傷をしてしまいました。
 ナンの悲鳴でみんなが駆けつけ、ファース先生が呼ばれました。ナンは自分のせいでジョー先生が火傷をしてしまった事がショックで泣き出してしまいます。ナンはジョー先生に会わせる顔がありませんでしたが、ダンに説得されてジョー先生を見舞いに行きました。ナンはジョー先生の姿を見ると泣きながら抱きついて謝りました。ジョー先生は「お医者さんという仕事がどれだけ責任のある仕事か知ってほしい」と言います。そしてナンの額に自分の額をくっつけて「忘れないで、心をこめて努力すれば夢は必ず近づいてくる」と言うのでした。
第33話 お父さんとの約束
 デミとデーズィの11歳の誕生日パーティーがブルック家で行われる事になり、ジョー先生とナンとナットとダンが招待されました。本当はプラムフィールドの子供たちを全員招待するつもりだったのですが、お父さんのブルックさんが体を壊していたので、新しく入って来た人だけが招待されたのです。しかし馬車でブルック家に向かう途中、トミーも一緒について来てしまいました。
 ブルック家に着いた時、ファース先生がブルック家から出てくるのが見えました。デミやデーズィはお父さんの具合が悪いのではないかと心配しますが、ファース先生はブルック家の次女のジョーズィの定期検診に来ただけで、お父さんの病気は大丈夫と言うのでした。
 ブルック家ではお父さんのジョンとお母さんのメグを加えて楽しい誕生日パーティーが開かれました。デミは誕生日プレゼントにお父さんのお古の万年筆をもらい、デーズィはお母さんから糸巻きスタンドをもらいました。その糸巻きスタンドはメグが11才の誕生日にメグのお母さん、すなわちデーズィのおばあさんからプレゼントされた物でした。2人とも素敵なプレゼントをもらって大喜びです。
 パーティもたけなわの頃、みんなで将来の夢について語り合いました。ナンはお医者さんになりたいと言うと、ブルックさんは夢を叶える為に毎日少しずつ努力する事だと励ましてくれます。トミーは億万長者、ナットはヴァイオリニストになる事が夢で、デーズィはお母さんのような優しい女の人になる事が夢だと言うと、メグは感激してデーズィを抱きしめるのでした。
 話を聞いていたデミはいたたまれない思いでした。デミには将来の明確な夢がなかったのです。デミは自分に何ができるか全然わかりませんでした。そんなデミの思いを知ったお父さんはデミに「今のまま心の優しい男の子でいてほしい」と言い、1つだけ注文をつけました。それはお母さんと妹たちを守ってほしいと言うのでした。楽しかった誕生日パーティーも終わり、デミやデーズィたちはクリスマスに再び会う事を約束してプラムフィールドへ帰っていきます。ところがその日の夜中、お父さんが発作を起こし倒れてしまったのです。それは雪の降り積もる寒い日の夜の事でした。
第34話 雪の日の使者
 プラムフィールドに馬車で使いがよこされ、ジョー先生とベア先生、そしてデミとデーズィがブルック家に向かいました。朝になってもジョー先生やベア先生は戻ってこないので、プラムフィールドの子供たちは心配します。お昼前になっても戻ってこないので子供たちはじっとしていられなくなり、フランツが先生となって授業を行う事になりました。しばらくしてベア先生だけが戻ってきました。悪い知らせをもって… ブルックさんは具合が悪くなってから2〜3時間であの世に旅立ったが、デミとデーズィはブルックさんの最期を見とる事ができたというものでした。それを聞いた子供たちはみんな涙にくれるのでした。
 ベア先生はしばらくブルック家と行ったり来たりする事になるので2〜3日、学校をお休みにしようかと考えましたが子供たちは自分から進んで自分たちで勉強するから、少しでもデミとデーズィのそばにいてあげてほしいと言います。それを聞いたベア先生は安心して再びブルック家へと向かうのでした。
 夜になってジョー先生が戻って来ました。ジョー先生は昨日から一睡もしておらず、フラフラで戻って来たのです。プラムフィールドの子供たちは大喜びで熱いお茶が欲しいと言うジョー先生の為にお茶を沸かし、ジャックの提案で気付け薬としてサイラス秘蔵のブランデーをたっぷりと入れてジョー先生に持っていきました。ジョー先生は匂いでブランデーが入っていることに気付きましたが、予想しない味だったので一口飲んでむせてしまいます。しかしその後、ジョー先生はブランデーをおいしそうに一気に飲み干すと、そのままみんなのいる前で眠りについてしまうのでした。
 翌朝になってベア先生が帰って来ました。ベア先生は今日、ブルックさんの葬儀が行われ、メグからのお願いでみんなにも参加してほしいと告げました。そしてナットにはブルックさんの為にヴァイオリンを弾いてほしいと言うのです。そしてブルックさんのお葬式は悲しみの中で行われるのでした。
 葬式の後、プラムフィールドに戻った子供たちはブルックさんについて語り合いました。ベア先生は一番賢く、ローリーさんは一番楽しく、ブルックさんは一番いい人でした。ブルックさんは正直で忠実で誰からも信頼される人でした。ある時ブルックさんの会社の人が不正をやって、ブルックさんに高い給料を出すから手伝わせようとしたけど、ブルックさんは悪い事をしてまで出世しようとは思いませんと言ってきっぱりと断り、もっと安い給料の会社に代わってしまったのです。ブルックさんはお金持ちでもなく、世間をあっと言わせるような事もしませんでした。ただ、いい人だったのです。それを陰から聞いていたベア先生は「いい人だった、それがすべてだ。だからこそ私はジョン・ブルックを誇りに思う」と言うのでした。
第35話 吹雪の中で
 ブルックさんが亡くなってから1週間が経過しましたが、ナンはそれ以来落ち込んだままでした。ナンは夜ごと「お医者さんなんかいらない」と言ってはうなされていたのです。ナンはファース先生がブルックさんの病気が大丈夫だといって保証してくれたのに、ブルックさんはその日のうちに亡くなってしまった為、お医者さんが不信になっていたのです。
 ナンはその日、体調を崩し授業を抜けて部屋で寝ていました。ところがジョー先生が様子を見に行くと、部屋はもぬけの殻だったのです。全員が手分けしてナンを探しましたがナンはどこにも見つかりませんでした。クリストファー・コロンバスに道案内をしてもらって吹雪の中を馬そりで探しに出かけると、クリストファー・コロンバスは雪に埋もれて倒れていたナンを発見しました。ジョー先生はナンを抱き起こしますが、ナンはひどい熱を出していました。
 ナンを乗せてプラムフィールドに向かう馬そりで、ナンはファース先生の家まで行ったのですがファース先生は往診に出かけていて留守だったと語りました。そしてファース先生がどうしてブルックさんの病気を治してあげられなかったのかを問うのです。ナンは「お医者さんなんかいらない。ブルックさんは心臓の病気だった。私のお母さんも同じ病気で死んじゃった。ファース先生、大丈夫って言ったのに… ブルックさんもお母さんもいなくなっちゃった。お医者さんなんか…」と言ったきり意識を失ってしまうのでした。
 ナンはプラムフィールドに戻りファース先生に診察してもらいました。ナンは熱が高く肺炎を起こしかけていたのです。ファース先生はブルックさんを助けられなかっただけにナンの気持ちをよく理解していました。そして自分自身もナンと同じようにお医者さん不信になっていた事があったのです。そんな時ブルックさんがファース先生に言ったのです。
 ブルックさんは自分の病気が今の医学では治せない事を知っていました。でもデミやデーズィが大きくなった頃には少しでも自分のような病気を克服できる時代になっていてほしいと望んでいたのです。そしてその為に医者を目指して勉強する若者が、お金がないから勉強を続けられない学生の為に、ブルックさんが少しずつ積み立てたお金をファース先生に差し出して、これで奨学金制度を作ってほしいと言ったのでした。
 朝になってナンの熱は下がりました。それを知ったプラムフィールドの子供たちは大喜びです。ジョー先生はナンに言いました。「私はナンがお医者さんになったら、誰も打ち負かした事のない病気に挑戦するだろうって思ってたわ。でもそれは間違いだったわ。あなたがお医者さんをどう思うかは勝手だけど、ジョンがファース先生に言った事を聞いてほしい」そう言って奨学金制度の話をしたのです。ジョー先生は「寄付を集めて医者を目指す若者を援助する制度よ。その制度を作ろうとしてファース先生は一生懸命努力なさってるわ。ジョンの願いが叶えられるようにって… フリッツも私もできるだけ応援したいと思っている。だからあなたにお医者さんなんかいらないって言われたらとても悲しくなるわ。ねぇナン、あきらめたらダメ。ジョンの為にも… ジョンは未来へ希望の掛け橋を渡してくれたのよ」と言うのです。それを聞いたナンは「ブルックさん。私、きっとお医者さんになります」と誓うのでした。
第36話 ダンの荒馬ならし
 プラムフィールドにも春がやって来ました。ある日の事、ベア先生はダンとジャックが取っ組み合いのケンカをしているのを発見しました。ベア先生は2人をとめますが、2人はケンカをしているのではなくレスリングをしていたのです。ダンは最近、力をもてあまし気味にしていました。ベア先生はダンのエネルギーの発散先として切り株に案内し、ダンは切り株に向かって斧を振り上げ続けましたが、切り株が粉々になるのは時間の問題でした。
 そんなダンを見ていたジョー先生は、ダンにとってプラムフィールドが狭すぎるように思えました。そしてジョー先生はダンがプラムフィールドから再び去って行くような気がしました。それを聞いたダンは「当分、俺はここを出て行きません。もしここを飛び出して行きたくなったら、その時は… 必ず前もってお知らせします。約束です」と言うのでした。
 そんなある日の事、ローリーさんがプラムフィールドにプリンス・チャーリーという名前の黒い馬を連れて来ました。とてもきれいな馬でしたが、気性が激しく調教していなかったので誰も乗る事はできません。ナンは自分がチャーリーを調教しようと、翌日の朝早くに馬小屋に行きますが、既にダンが調教を始めていました。それ以来ダンは何とかしてチャーリーに乗ろうとしますが、チャーリーは嫌がって暴れるばかりです。ある時ダンがチャーリーから振り落とされ足をくじいて歩けなくなってしまいました。ところが逃げ回っていたチャーリーはダンを心配してダンの元に戻って来たのです。それ以来ダンとチャーリーは気持ちが通じあうようになり、チャーリーはダンを背中に乗せるようになるのでした。
第37話 旅立ちへの予感
 フランツは夏からボストンの大学に行く事になりました。フランツはこの学園で先生になる為に大学で自分を磨こうと考えたのです。デミも早く大きくなって自分でお給料をもらえるようになってお母さんを助けてあげたいと言います。そしてフランツは「この学園にいるととても楽しいけど、僕たちはいつまでもジョー先生やベア先生に甘えてちゃいけないよな」と言うのです。それを聞いていたダンは身につまされる思いでした。ダンは将来の事はあまり考えず、いつまでもこの学園にいたいと思っていたのです。
 ナンは馬の尻尾の毛で指輪を作りました。ナンはそれをダンにあげようとダンのそばに行って話をするうちに、ダンは自分たちはやがて大人になってプラムフィールドを出て行く事になると言うのです。ナンは指輪をダンの指にはめると、ナンは「ダン、この指輪に誓って。どこにも行かないって約束をして。約束しないんなら死ぬまでダンと口を聞かないわ」と言います。しかしダンは約束をする事なくチャーリーに乗って走り去ってしまうのでした。
 ナンはその事をトミーに相談しました。するとトミーは「ナンもお医者さんになる勉強はここではできないよ。だからダンの言う通り、ナンだっていつかはプラムフィールドを出て行く日が来るんじゃないかなぁ」と言うのです。ナンには自分がプラムフィールドを出て行く日が来るなんって信じられない事でした。でもトミーは「僕はプラムフィールドが好きだからずっといるつもりだけどね」と言ったので、ナンは少し安心するのでした。
 トミーはジョー先生とベア先生に呼び出され、トミーのお父さんがこの夏からトミーをボストンの学校に通わせると言うのです。それを聞いたトミーは風邪気味だった事もあってショックで倒れてしまいました。トミーはプラムフィールドを離れたくありませんでした。しかしお父さんは将来は会社をトミーに継いでもらいたいと考え、トミーに経営の勉強をしてもらいたかったのです。しかしトミーにはプラムフィールドを離れる事など考えられない事でした。それにトミーはナンの事が好きだったので、ナンと離れてボストンの学校には行きたくなかったのです。
 ページさんからダンに手紙が届きました。その手紙にはページさんが昆虫に関する研究の為、ブラジルに行くのでダンにも一緒に来てほしいと書かれていたのです。ダンは手紙を読んだ時、迷わずページさんと一緒に行こうと考えました。しかしその直後にジョー先生とかわした約束や、ナンがはめてくれた指輪の事、そしてトミーのボストンの学校に行きたくないという気持ちを考えると、ダンはとっても複雑な心境でした。
第38話 それぞれの決心
 複雑な心境はトミーも同じでした。そんなトミーを見ていたベア先生はトミーに話しかけます。「いいかねトミー、お父さんの望んでおられるのはこれからの自分に何が必要なのか君自身が真剣に考えてほしいという事なんだ。だがね、私が君に教えられる事はあと1つだけしかない。それは自分の未来を自分で切り開いていこうとする勇気だ。君の勇気を示すのは今しかないんじゃないのかね」と言うのでした。
 チャーリーは明日ローリーさんが引き取る事になりました。ローリーさんはチャーリーがダンのおかげで予想以上に早く調教されたので、正式に調教して競走馬としてデビューさせようと考えたのです。ダンにはいずれチャーリーと別れの時が来るとわかっていましたが、こんなに早く来るとは思っていなかったのでショックでした。
 ジョー先生はページさんから手紙が来て以来、ダンの様子がおかしいことに気付いていました。ジョー先生はダンがプラムフィールドから出ていこうとしている事を悟っていたのです。ダンはジョー先生に話します。「ジョー先生、俺、プラムフィールドを離れたくない。なのに俺、押さえられないんだ。何か大きなものに賭けてみたくて…」「ダン、考えなさい、あなたの未来を。そしてこれからどんな生き方をするべきなのか自分で選びなさい。あなたはプラムフィールドに来た頃のダンじゃない。もう子供じゃないんだから」と言うのでした。
 プラムフィールドにページさんがやって来ました。ナンはページさんにダンがどうしてプラムフィールドから出ていこうとするのかを尋ねます。するとページさんは「確かにプラムフィールドは素敵な所だがダンにとっては狭すぎる。ダンは広くて大きな世界で自分の可能性を確かめようとしている」と言うのです。ナンにとってその言葉はよく理解できませんでした。でもページさんは「どんなに遠くへ行こうともダンはプラムフィールドで過ごした日々を忘れたりしない。あいつの懐かしい故郷の家はここなんじゃからのぉ」と言うのでした。
 ページさんはあらためてベア先生とジョー先生にダンを連れて行かせてほしいとお願いします。ベア先生もジョー先生もその方がダンの為になると考え賛成しましたが、ジョー先生はダンが迷っているから、ダンが本当に行きたいと自分で決心するまで待ってほしいと言うのでした。
 トミーはベア先生とジョー先生に会うと「先生。僕、決めました。来月この学園を出ます。僕、もう甘ったれは卒業したんです。大きな未来へ向かって突っ走る事にしたんですから」と言って泣きながらベア先生に抱きつきました。ベア先生は「トミー、人には誰にも旅立ちの時がある。新しい世界に目を向けるという事はとても勇気が必要だ。私は君の勇気を、旅立ちを祝福しよう」と言うのでした。
 ダンはチャーリーと最後の夜を過ごし、とうとう決心しました。そしてダンはナンの部屋を訪れると、ナンにプラムフィールドを離れてページさんと一緒にブラジルに行く事にしたと告白したのです。ダンは「ごめんな、約束守れなくて。だからこの指輪返すよ」と言って去っていきます。ナンにとってそれはとてもショックな事でした。
第39話 おてんばジョー自転車に乗る
 翌日チャーリーはローリーさんに連れられてプラムフィールドを去っていきました。しかしナンはダンがチャーリーを笑顔で見送っていた事が不思議でなりません。あれほどダンはチャーリーを可愛がっていたのにどうして悲しくないんだろうと思わずにはいられませんでした。ナンの気持ちを知ったページさんは「友だからこそ笑顔で見送るんじゃないのかな。確かに友だちとの別れは悲しい事じゃ。しかしそれは新しい出発でもある。問題はな、その人にとってどちらが大切かという事じゃ。ダンはこれからのチャーリーの幸せを、未来を大切だと考えたのだ。だからこそ笑顔で見送ったんじゃろ」と言うのです。その言葉を聞いたナンはようやくダンの気持ちを理解するのでした。
 プラムフィールドではダンやトミーの門出をみんなで祝っていました。しかしナンはなんだか悲しげな様子です。しかしナンはロブとテディにプラカードを掲げさせました。そのプラカードには「Congratulation!」と書かれており、ナンは「しょうがないから応援してあげる事にしたの。おめでとう、ダン、トミー」と言うのです。ナンはようやく友人の出発を心から祝う事ができました。そしてナンはまだだれも治した事のない病気をどんどんやっつける世界一のお医者さんになると言います。するとトミーは病院を寄付すると言い、ネッドは病院を建てる、ジャックは包帯を納める、ナットは患者にヴァイオリンを聴かせる、スタッフィは食堂は任せてと言うのでした。
 デミとデーズィが嬉しいニュースを持って来ました。それはブルックさんが提案していた奨学金制度の話しがいよいよ実現する事になったのです。これがあればナンもお医者さんになる事ができる。そう考えるとナンはいてもたってもいられなくなり、ジョー先生と一緒にファース先生に話を聞きに行きました。ファース先生は奨学金制度の話しは本当だが、奨学金を受けられるのはたった1人なので、試験をすると言うのです。ナンは試験を受けると意気込みますが、試験を受けられるのは20歳以上の人と決まっており、おまけに市長の決定により試験は男の子にしか受けられないと言うのです。
 それを聞いたナンは1人で町に飛び出し、市長に直訴しました。しかし市長はナンがどんなに頑張っても医者にはなれないと言って笑うばかりです。それをそばで聞いていたジョー先生は市長の言葉に腹を立て、なぜ女の子が医者になってはいけないのかを問いました。市長はそっけもなく「政治家、弁護士、医者は男の仕事で、船を動かすのも自転車に乗るのも男だ」と言うのです。市長にとって夫人が自転車に乗るのはみっともない事だと考えていました。
 プラムフィールドへの帰りの馬車の中で、ナンは「先生、私、お医者さんになれるって信じていたのにダメになっちゃった。私、どうして男の子に生まれなかったのかしら」とジョー先生に話しかけます。もともと負けん気が強く、ナンとほとんど同じ性格のジョー先生は市長の話しに腹を立ていた事もあり、ファース先生のお友達から自転車を借りてきました。ジョー先生は女性にも自転車に乗れる事を実証し、市長に女の子にも奨学金を受けられるようにしようと考えたのです。そしてジョー先生は「たとえ今この町で認められなくてもあきらめてはダメ、泣いたりしちゃダメ。立ち止まってたら何にも変わらないわ。いつか夢がかなう、自分にはできる、信じるの。ねぇナン、まずはやってみる事。それが大切なの。この自転車だって2人で協力すればきっと乗れるわ。女性だって自転車に乗れるって事を証明しましょ」と言うのでした。
 それからジョー先生とナンの2人は一生懸命自転車に乗る練習をしました。しかし自転車に乗るのは簡単な事ではなく、ジョー先生は何度も転んで地面に叩きつけられましたが、どうにかこうにかジョー先生は自転車に乗る事ができるようになるのでした。
 ジョー先生はナンに話しかけます。「ねぇナン、これからプラムフィールドのみんなにどんな事が待ち受けているんでしょうねぇ。ナンだけじゃないのよ、ダンもトミーもみんなも、プラムフィールドを出てやっていこうとする時、思うようにならない事がたくさん出てくるでしょう。精一杯やってもうまくいかなかったり、乗り越えられそうもない壁が目の前に立ちふさがったり。そんな時、覚えておいてほしいの。生きていく事は前を向く事。生きていく事は自分の努力で明日を変えていく事だって」「先生、私もいつかプラムフィールドを出ていく事があるんですね。私やってみる。私の夢にぶつかってみる。こんなに大きな壁が目の前にあっても…」そう言ったナンの眼はとても輝いていました。
第40話 さよならプラムフィールド
 いよいよダンがプラムフィールドから巣立つ日がやってきました。ベア先生が午前中にいつも通り授業をしていた時、アスラウダの勇者の話しをしていたベア先生は子供たちに勇者とはどういう人だと思うかを問います。トミーは勇者とは世の中の役に立つ人だと言います。ナンはどんな困難に出会っても力一杯突進する人の事だと言います。そしてダンは思いやりを持てる人が勇者だと言います。それを聞いたベア先生は3人とも素晴らしい答えだと誉め称えます。そしてこれからの人生をアスラウダのように勇気を持って生きてほしいと言うのでした。
 ジョー先生はみんなを表に集めると語りました。「私は別れが好きです。小鳥たちが精一杯の力をこめて大空高く羽ばたく姿を見るのはとても嬉しい事です。だからあなた達も未来に向かって元気良く飛んでいきなさい。でももし疲れて梢にとまりたくなったら、このプラムフィールドの小川や木や赤い葉や、そしてここで出会った仲間たちの笑顔を思い出しなさい。きっとあなた達の疲れた羽根を癒してくれるでしょう。私たちがその梢にいて、あなた達を愛し信じ祈っているという事を忘れないでね。ありがとう、あなた達に出会えて本当に良かった。さあ、飛び立ちなさい、私の小鳥たち」と言うのでした。
 ナンは荷物をまとめているダンの部屋を訪れました。そしてナンとダンがボストンの町で始めて出会った時の事を語り合いました。ナンはダンの事を乱暴者だと思い、ダンはナンの事を気の強い女の子だと思っていました。お互いあの時と同じままだと言って笑いあいます。ナンはお別れの時、ダンが泣いたら困るから見送りには行かないと言って部屋を出て行ってしまいました。
 ダンはみんなとお別れを済ませると、ジョー先生に「しっかりおやりなさい、あなたの思う通りに」と励まされ馬車に乗って旅立っていきました。その頃ナンは自分の部屋でダンから返された指輪を探していました。しかしナンが指輪を発見した時、馬車が出発してしまったのです。ナンは走って馬車を追いかけますが馬車には追いつきそうもありません。しかしナンは決してあきらめる事なくトミーと一緒に馬車を追いかけ続け、近道してようやく馬車に追いつく事ができました。
 ナンはチャーリーの尻尾の毛で作った指輪をダンに手渡します。ナンは「一言さよならって言いたかったの、さらなら」と言うと笑顔でダンと別れ、そのままダンに背を向けて歩き出してしまいます。しかしダンの乗った馬車が走り出すと、ナンは泣きながら振り返って「さようなら、さようならダン」と言うと、ダンは「ナン、また逢おう、きっと」と言って手を振ります。その手にはナンからもらった指輪がしっかりとはめられていました。
 それから10年後、トミーは会社の経営者、ナットはヴァイオリニストになり、デーズィはナットの奥さんに、デミは学者、スタッフィはレストラン経営者、ネッドは家具職人、ジャックはお店の店長、フランツは教師、エミルは船員になりました。そしてナンは大きな病院のお医者さんとなったのです。
 大人になったナンは「大人になると誰もが忘れてしまう、自分がかつては子供だった事を… 子供時代にどんな想い出を持ったかで大人の人生が決まるのだ。私はそう思う。懐かしいプラムフィールド。子供の頃ここで描いた夢。泥んこの匂いに愛すべき仲間たち、そんな魔法のような想い出がなければ私は今とは別の人生を歩んでいたに違いない。そしてあれから10年。プラムフィールドは今も子供たちを温かく導き続けている。私たちはもう2度とあの懐かしい子供時代には戻れない。けれど、先生が与え続けて下さった愛と夢は今も私たちの胸に生き続けている」そう考えていました。数年ぶりにロンドンからプラムフィールドに戻って来たナンは、懐かしいプラムフィールドでジョー先生の姿を見つけると、「ジョー先生」と叫びながら抱き合ってお互いの再会を喜びあうのでした。
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