HIRAO'S HOME PAGE > 世界名作劇場 > 赤毛のアン > 赤毛のアン ストーリー詳細

赤毛のアン  ストーリー詳細

第1話 マシュウ・カスバート驚く
 1897年のカナダ東部のプリンスエドワード島のアボンリー村にあるグリーンゲイブルズと呼ばれる家にマシュウ・カスバートマリラ・カスバートの老兄妹が住んでいました。兄のマシュウは人前に出るのが大嫌いで、妹であるマリラ以外の女性とは満足に会話する事もできず、妹のマリラも口うるさくて堅苦しいところもあり、二人とも結婚する事なく年老いた今も二人でひっそりと暮らしていました。しかしマシュウは年老いた事もあって昔に比べて元気をなくし農作業が大変になってきました。そこでスペンサー夫人にお願いして、ホークタウンの孤児院から10〜11歳くらいの元気な男の子を貰い受け、ちゃんとした家庭と教育を与える事で、きっといい働き手になってくれるのではないかと考えたのです。
 6月のある日の事、やせて赤い髪をした11歳の女の子アン・シャーリーとスペンサー夫人はカナダ本土から連絡船でプリンスエドワード島に向かい、そして汽車でアボンリー村のあるブライトリバーの停車場に来ました。しかし停車場で待ち合わせているはずのマシュウはまだ停車場には来ておらず、スペンサー夫人はアンを駅長さんに預けると、そのまま汽車で行ってしまいます。アンは一人で停車場で待ち続ける事になりました。その頃、マシュウはブライトリバーの停車場に向かってのんびりと馬車を走らせていました。マシュウは自分の懐中時計が遅れている事に気付いていなかったのです。マシュウは汽車の到着から30分も遅れてブライトリバーの停車場にやって来ましたが、お目当ての男の子はどこにもいません。それどころか停車場には赤い髪をしたそばかすだらけの女の子が待っていたのです。マシュウは自分が迎えに来たのは女の子ではなく男の子だと言いますが、駅長さんは聞く耳を持たず、アンをマシュウに渡すと帰ってしまいます。途方に暮れたマシュウはアンをグリーンゲイブルズの家に連れて帰るしかありませんでした。
 マシュウと出会ったアンは、自分がこれからマシュウの子供になって一緒に暮らせる事をとても喜びました。そしてアンはグリーンゲイブルズへ向かう馬車の上でマシュウに喋り続けました。そしてマシュウは自分でも驚いた事に苦手なはずの女の子のお喋りに耳を傾けながら、いつになく愉快な気分になっていました。アンは得意の想像力を発揮し、馬車の上から見える林檎並木には「喜びの白い道」、バリーの池には「きらめきの湖」など、次々と名前を付けていきます。アンは馬車でのドライブを楽しみながら、楽しい事の後はいつも悲しくなると言います。なぜならその後でもっと楽しい事が待っているかもしれないけど、自分の経験ではそうでない事が多いのです。それでもいよいよ自分が本当の家に行くのだと思うとアンは喜びを押さえる事ができませんでした。しかしマシュウの心はひどく痛んでいた。グリーンゲイブルズで必要としているのは男の子であり、女の子であるアンは引き取る事ができないのです。この赤い髪の少女に何もかもわかってしまう時が刻一刻と近付いているのかと思うと、マシュウはいてもたってもいられない気がした。アンはそんなマシュウの悩みを知るよしもなく、うっとりと燃える夕陽に見とれるのでした。
第2話 マリラ・カスバート驚く
 美しく輝くきらめきの湖を通り過ぎると、馬車はいよいよグリーンゲイブルズに近付きます。グリーンゲイブルズを見たアンは、その美しさにすっかりと惚れ込んでしまい、自分は夢を見ているのではないかとさえ思ってしまいます。アンにとってこんな美しい家に迎え入れられるのは、まるで夢のような事だったのです。
 馬車はグリーンゲイブルズに到着し、マシュウとアンは家に入りました。ところが家で待っていたマリラは、期待していた男の子ではなく女の子を連れてきた事に腹を立て、マシュウを叱責します。それを聞いていたアンは「私が男の子じゃないからいらないのね。こんな事じゃないかと思ってみるべきだったわ。今まで誰も私の事を欲しがる人なんっていなかったんだもの。何もかもあんまり素晴らしすぎて長続きするはずないって考えるべきだったわ。ああ、あたしどうしよう、泣き出したいちゃいわ」と言ってテーブルに伏せて胸も張り裂けんばかりに泣き出します。マリラとマシュウは途方に暮れて二人ともどうしていいかわからず、顔を見合わせるばかりでした。
 マリラはとりあえず一晩アンをグリーンゲイブルズに泊める事にしました。マリラもマシュウもアンに名前を聞いていなかったので名前を尋ねますが、アンはコーデリアと呼んでほしいと言います。アンはアンという名前がロマンチックではなく、コーデリアという名前が素晴らしくエレガントに聞こえたので、どうせ一晩の間だけなのだから、せめて名前だけでもコーデリアと呼ばれたかったのです。しかしアンの願いはマリラには聞き入れられず、アンと呼ばれる事になってしまいます。それでもアンはどうせアンと呼ばれるならAnnではなくAnneと呼んでほしいとお願いします。アンはAnneと呼ばれる方がずっと素敵に見えたのです。そこでマリラもアンをAnneと呼ぶ事にしました。
 グリーンゲイブルズではマシュウの野良仕事を手伝ってくれる男の子がほしかったので、アンは再びスペンサー夫人の元に送り返される事になりました。アンは喜びの白い道やきらめきの湖などの美しい景色を見て大喜びしていただけに、失望も大きく夕食も喉を通りません。アンは自分が絶望のどん底にいるから食事が喉を通らないと言います。長旅で疲れているだろうからと、アンは先に寝る事になりました。ベッドに入ったアンにマリラは「よくお休み」と言うと、アンは「どうしてよくお休みなんって言えるの? 私にとって今夜みたいなひどい晩は初めてだとわかってるのに」と言って泣き出してしまうのでした。
 マリラは明日ホワイトサンドのスペンサー夫人の家に行ってアンをスペンサー夫人に返そうと考えますが、マシュウはアンを気に入っており、どうにかグリーンゲイブルズに置いておけないかと提案します。しかしマリラはグリーンゲイブルズに必要なのは男の子だと言って、マシュウの望みは受け入れられませんでした。
第3話 グリーン・ゲイブルズの朝
 朝、アンが目を覚ますと、部屋の窓から見る景色に見とれてしまいます。桜の花やタンポポが咲き乱れ、森を流れる小川に野ウサギやリスが走り回る自然に、アンはすっかり嬉しくなってしまいました。アンにとってこんな朝には、ただもう世界が好きでたまらないという気がしてくるのです。アンはクリーンゲイブルズにいられない事は理解していましたが、グリーンゲイブルズの素晴らしい自然を見られただけで、昨夜までの絶望のどん底から抜け出したのです。アンはグリーンゲイブルズが欲しいのは自分で、いつまでも自分がここにいられる想像をしていました。しかし想像をしている間は楽しいけど、想像から現実に戻る時が一番辛かったのです。それを聞いたマリラは思わずアンに情けをかけてしまいそうになりますが、それでもグリーンゲイブルズに必要なのは男の子なのだと自分に言い聞かせます。
 アンはマシュウとマリラと共に朝食を食べ、皿洗いとベッドメイクを済ませると、マリラから昼まで外で遊んできていいと言われます。アンは美しいグリーンゲイブルズの庭を自由に歩き回れると思うと大喜びで外に行こうとしますが、玄関の扉を開けたとたん急に落ち込んで部屋に戻ってしまいます。外で遊ばないのを不思議に思ったマリラがアンに理由を尋ねると、アンは外に出る勇気がないと言います。アンは外へ行きたくて仕方がなかったのですが、もし外に出てグリーンゲイブルズの木や花や小川と知り合いになれば、好きにならずにはいられないでしょう。しかしアンはもうグリーンゲイブルズにはいられません。今でさえグリーンゲイブルズを去る事が辛いのに、これ以上グリーンゲイブルズとの別れを辛くしたくなかったのです。アンがグリーンゲイブルズで暮らすのだとわかった時、たまらなく嬉しく思いました。なぜならグリーンゲイブルズの自然をどれほど好きになってもそれを邪魔するものはないと思っていたからです。しかし知り合いとなった木や花や小川と引き離されるくらいなら、好きにならない方がいいと考えたのです。
 マリラとアンは早めの昼食を済ませると馬車でホワイトサンドのスペンサー夫人の家に向かいます。アンはグリーンゲーブルズを去る時、自分が名付けた様々な木や花に別れを告げ、泣きながら去っていきます。それを見ていたマシュウもアンとの別れをとても辛く感じるのでした。マシュウの耳には幸せを願うアンの心の叫びがいつまでもこだましていた。どうしてはっきりあの子をグリーンゲイブルズに置いてやろうとマリラに言わなかったのか自分の臆病さに腹が立って仕方がなかった。その日の午後、マシュウは残りの蕪の種をまきに出かけようとしなかった。そしてただひたすらマリラが気持ちを変えてアンを連れ帰ってくれる事だけを祈って二人が戻るのを待ち続けるのでした。
第4話 アン、生い立ちを語る
 ホワイトサンドのスペンサー夫人の家へ向かう馬車の上で、アンはマリラに自分はこのドライブを楽しむと言います。本当は嫌いな孤児院に連れ戻されるので、とても楽しむ事はできないのですが、それでもアンは孤児院に帰る事は考えず、沿道に咲く春咲の野バラを見て想像をふくらませます。そんなアンを見ていたマリラはアンに自分の身の上話を語らせようとします。アンは自分の過去を思い出すのも嫌で最初は乗り気ではありませんでしたが、ぽつりぽつりと語り始めました。
 ノバスコシア州の田舎町ボリーングブロークのボーリングブローク高校にウォルター・シャーリーとバーサという先生がいました。二人は結婚し、ボーリングブロークで小さな黄色い屋根をした世帯を構えます。しかし妻のバーサはアンを生んで3ヶ月後に熱病で亡くなり、お父さんのウォルターもその4日後に同じく熱病で亡くなってしまったのです。お父さんもお母さんも出身地が遠く、近くに親戚もいなかった事から、アンを誰に預けるかみんなは途方に暮れてしまいます。話しながらアンは「その時だって私を欲しがる人なんって誰もいなかったのよ。私はそういう運命にあるの」と言って溜息をつきます。結局赤ん坊だったアンはお手伝いに来ていたトマスのおばさんが引き取る事になりました。しかしトマスのおばさんの家はとても貧乏で、大酒飲みの旦那さんがいて、決して幸せとは言えない状態でした。アンが8歳になった時、トマス一家はボーリングブロークからメリスビルに引っ越しました。アンはそこでトマス家の子供の面倒を見て暮らします。トマスのおばさんはよその家にお手伝いとして働きに行くし、アンは自分より小さな4人の子供の面倒を見なければならないので大変でした。しかしトマスのおじさんは酔っぱらって線路に落ちて汽車にひかれて亡くなってしまい、トマスのおばさんがアンをどうしようか途方に暮れている時、川上からハモンド夫人がやって来て、アンが子供の世話に慣れている事からアンを引き取る事になりました。ハモンドさんの家は切り株だらけの狭い開墾地にありとても寂しい場所にありました。ハモンドさんの家は8人の子供がおり、そのうち双子が3組もあり、世話は大変でした。アンは2年ほどハモンドさんの家で暮らしましたが、旦那さんが亡くなりハモンド夫人は家をたたんで子供たちはみんなあちこちの親類に預けました。誰からももらい手のなかったアンは一人でホークタウンの孤児院を訪れます。孤児院も満員で本当はアンを引き取りたくなかったのですが、アンに引き取り手がない事から孤児院で仕方なくアンを引き取ります。そして半年ほど孤児院で暮らした後、スペンサー夫人に引き取られ、グリーンゲイブルズへ来たのです。
 そこまで話すとアンは大きな溜息をつきました。マリラはそれ以上何も聞かず、アンは一言も言わず目の前に広がる海に見とれ、マリラはうわの空で栗毛の馬を操りながら深い物思いに沈んでいました。やがてアンは海岸沿いの素晴らしい景色に感激しますが、スペンサー夫人の家に着くのだけは嫌でした。アンはスペンサー夫人の家に着くと何もかもがおしまいになるような気がしたのです。しかしそんなアンの願いをよそに、馬車はスペンサー夫人の家のあるホワイトサンドに向かって軽快に走り続けるのでした。
第5話 マリラ、決心する
 アンとマリラを乗せた馬車はホワイトサンドのスペンサー夫人の家に到着しました。スペンサー夫人はアンとマリラを暖かく出迎えましたが、マリラが女の子ではなく男の子が欲しかったと言うと、スペンサー夫人は話の行き違いにただ戸惑ってしまいます。どうやらマシュウがスペンサー夫人の弟であるロバートに男の子が欲しいとスペンサー夫人へ伝言を頼み、ロバートからさらに伝言を頼まれたお手伝いのナンシーがスペンサー夫人に女の子が欲しいと間違って言ってしまったようでした。マリラはアンを再び孤児院に返せるかどうかをスペンサー夫人に尋ねます。ところがスペンサー夫人はブルエット夫人が手伝いの女の子を欲しがっているから孤児院に送り返す必要はないと言います。ブルエット家は大家族なのでなかなか手伝いに来てくれる人がいなくて困っていたのです。それを聞いたマリラは顔をしかめました。マリラはブルエット夫人の意地の悪さを知っており、自分がアンを手放せば、アンは間違いなくあのブルエット夫人にこき使われてしまう事がかわいそうでならなかったのです。
 ちょうどその時ブルエット夫人がやって来ました。ブルエット夫人はアンを品定めするようにじろじろと見て年と名前を聞きますがアンは答えようとしません。アンは出会ったばかりのブルエット夫人をとても好きになれそうにありませんでした。ブルエット夫人はアンを見て「見てくれはよくないが芯は強そうだ、あたしゃこの強情さが気に入りましたよ」と言ってアンを引き取る事にしました。それを聞いたアンは絶望のどん底に落とされてしまいます。しかしそんなアンを見ていたマリラは「別にあたしたち、あの子を引き取らないとはっきり決めたわけじゃないんですよ。実のところマシュウはあの子を置いておく気があるらしいんです。で、行き違いの原因がわかった以上、もう一度連れて帰って兄に相談してみません事には。それであの子をブルエットさんにお願いするようでしたら、明日改めてお宅へ連れて参りますし、もし伺いませんでしたらあの子は私どもの家に置く事になったという事にご承知願いたいのです」と言います。ブルエット夫人はマリラの方がアンに関して先に権利があるのだから、それ以上は何も言えませんでした。それを聞いていたアンは心の中で倒れ込まんばかりに喜びました。
 アンはマリラにお礼を言おうとしますが、マリラは思わず自分が言ってしまった事の重大さに頭を抱えてしまいます。それでもアンの心はうれしさでいっぱいでした。再びグリーンゲイブルズへ戻る馬車の上で、アンはブルエット夫人に引き渡されず自分をグリーンゲイブルズに置いてもらえるかもしれないという事が嬉しくてたまりません。アンはこれが夢ではないか、自分の聞き間違いではないか、自分が想像しただけではないかと思い、マリラに尋ねます。マリラはまだ決まったわけではない、もしかしたらブルエット夫人に引き取ってもらうかもしれないと言いますが、アンはブルエット夫人に引き取られるくらいなら孤児院に戻った方がましだと言います。それほどまでにアンはブルエット夫人が嫌いでした。
 その日の午後、マシュウはマリラの帰りを待って何度も門まで行きました。もしかしたらマリラがアンを連れて帰ってくるかもしれないと期待していたのです。やがてマリラの乗った馬車が見えてきました。マシュウがその馬車をよく見ると、何とアンが乗っていたのです。マシュウはホッと胸をなで下ろし、慌てて隠れてしまいます。アンは再びグリーンゲイブルズに戻って来ました。アンはグリーンゲイブルズにただいまと言える事がとても嬉しく感じるのでした。
 マリラはマシュウに事の一部始終を説明しました。それを聞いたマシュウは「よりによってあんなブルエットのかみさんになんか犬だってくれてやるもんか」と思わず言ってしまいます。マリラはしだいにアンに魔法をかけられたようで、とうとうアンをグリーンゲイブルズに置いてやってもいいと言い出します。それを聞いたマシュウは「おまえがそう考えてくれるだろうと思っていたよ、あの子はまったく面白い子だからのう」と言って喜びます。しかしマリラもマシュウも子供を育てた事がなく、本当にアンを育てる事ができるか不安でした。アンはグリーンゲイブルズで暮らす事になりましたが、眠れなくなってはいけないとアンにはまだ伝えられませんでした。
 マリラはアンが寝る前にお祈りをしなさいと言うと、アンはお祈りをした事がないと言います。アンは双子の世話をさせられていたので、お祈りどころではなかったのです。そこでマリラはグリーンゲイブルズにいる間はお祈りをしなければならないと言います。アンは何をお祈りしていいかわからなかったのでマリラに尋ねると、神様のお恵みを感謝し、願いを叶えてくれるようお願いしなさいと言います。それを聞いたアンは「恵み深き天の父よ、喜びの白い道やきらめきの湖やボニーや雪の女王の事では厚くお礼を申し上げます。本当に感謝します。お願いの方はあんまりたくさんあって全部言うと時間がかかるので一番大事なもの2つだけにします。どうか私がグリーンゲイブルズにいられるようにして下さい。それから大きくなったら美人になれますように、お願いします。あなたを尊敬するアン・シャーリーより。かしこ」と言うのでした。
第6話 グリーン・ゲイブルズのアン
 自分だけがよく承知している理由から、マリラはアンをグリーンゲイブルズに置く事に決めた事を翌日の午後までアンに打ち明けなかった。朝のうちずっとマリラはアンに次から次へと色々な用事を言い付け、アンが忙しく立ち働いている間、その仕事ぶりを注意深く見守っていた。昼頃までにアンは気が利いていて素直で働き者で物覚えが早い子だという事がよくわかった。もっともアンにしてみれば用事が多かった事と置いてもらえるかどうかが心配で、とてもお喋りや空想にふけるゆとりがなかった事が幸いしたと言えるかもしれない。
 午前中はアンもずっと我慢していましたが、午後になってアンはたまらなくなり、とうとうアンはマリラに自分をグリーンゲイブルズに置くかどうかを尋ねます。マリラはアンがいい子になるように努めて感謝の気持ちを見せるなら、グリーンゲイブルズに置いておく事に決めたと言います。それを聞いたアンは嬉しくて泣き出してしまい、嬉しさのあまりに家を飛び出して、庭の木や花や小川に自分がここに置いてもらえる事になったのを報告に行ってしまいます。アンは庭中を駆け回った後、蕪の種まきをしているマシュウにも報告に行き、嬉しさのあまりマシュウの胸に飛び込んでしまいます。
 家に戻ったアンはお茶の時間に、これからマリラとマシュウの事をどう呼べばいいかと二人に尋ねます。マリラは単にマリラと呼ぶように言いますが、アンにはどうしても呼び捨てでマリラと言う事ができなかったのと、おばさんと呼べばまるで自分の親戚のような気がするのでマリラおばさんと呼んでいいかと尋ねますが、マリラはアンのおばさんでもないのにおばさんと呼ばれたくないと言います。仕方なくアンはマリラの事をマリラと呼ぶ事にしました。
 アンはこのアボンリーで心の友が持てるかどうかをマリラに尋ねます。アンは心の友に巡り会える日が来る事をずっと夢見ていたのです。グリーンゲイブルズに置いてもらえるという夢が叶ったので、もしかしたら心の友に巡り会える夢も叶えられるのではないかと思ったのです。マリラは向かいの丘にダイアナ・バリーという名の、アンと同い年くらいのとってもいい女の子がいると言います。それを聞いたアンはとても嬉しく思いますが、あまりにお喋りが過ぎた為、マリラに部屋を追い出されてしまいます。それでもアンはまだ見ぬダイアナに、自分の心の友になってくれるよう願うのでした。
第7話 レイチェル夫人恐れをなす
 アンがグリーンゲイブルズに来て2週間がたちました。その間に手違いでマシュウとマリラの所に居着いたアンの噂はアボンリーの人々の間に波紋のように広がっていました。マリラはグリーンゲイブルズでレイチェル夫人と世間話をしていた時、アンを引き取った事が災難だったと言うレイチェル夫人に対しマリラはマシュウだけでなく自分も、明るくて気立てのいいアンが好きになってしまったと言います。それに対してレイチェルは、マリラたちが子供を育てた経験がないから、大変な責任を背負い込んだと言います。
 そこへアンがやって来ました。レイチェル夫人はアンを見るなり「なるほどね、器量で拾われたんじゃない事は確かだね。ひどく痩せっぽちで器量が悪いんだねマリラ、それにひどいそばかす、おまけに髪の赤い事、まるでにんじんだね」と言います。それを聞いたアンは激怒し「あんたなんか大嫌いだわ。よくも私の事を痩せっぽちで器量が悪いなんって言ったわね。よくもそばすだらけで赤い髪だなんって言ったわね。あんたみたいな下品で失礼で心なしな人は見た事がないわ。よくも私の事をそんなにまで言ったわね。もしもあなたがそんな風に言われたらどんな気がする? デブで年取って不格好で、たぶん想像力なんってかけらもないんだろうなんって言われたらどんな気持ち? これであんたが気を悪くしたってあたしへっちゃらだわ。決してあんたなんか許してやらないから、許すもんか」と言って泣き出してしまうのでした。
 レイチェル夫人はこんな癇癪持ちを見るのは初めてだったのでびっくりしてしまいます。マリラは器量の事を言ったのはよくないとレイチェル夫人を責めますが、10人の子供を育てた経験のあるレイチェル夫人は、あの手の子供には生ぬるいお説教よりもビシッという鞭の方がよっぽど効き目があると忠告し、当分グリーンゲイブルズには来ないと言って怒って帰ってしまいました。マリラはレイチェル夫人が言いすぎたと思っていましたが、お客様に対して失礼な事を言ったアンに、レイチェル夫人の家まで行って謝らせようとします。自分は悪くないのだから絶対に謝らないと言うアンに対しマリラは罰としてこの部屋から出ないようにと言うと、アンは永久にこの部屋にいなければならないと言って悲観に暮れてしまうのでした。
 次の日もアンは部屋で過ごしました。マシュウはもちろんアンの肩を持ちますが、マリラはそんな事では考えを変えようとはしません。マリラはアンが食事をほとんど食べていないのを見て「そんな事で哀れに思ってあんたを許すと思ったら大間違いだからね」と言うと、アンは「もちろん許してもらえるなんって思っていないわ。一生この部屋で過ごす覚悟をしていたところなの」と言い、マリラを呆れさせるのでした。
 マリラが出かけた隙を見てマシュウはアンの部屋に行きました。そしてマリラは言い出したら聞かないから、早くレイチェル夫人に謝って丸く収めてしまった方がよいと提案します。アンは昨日はカンカンに怒っていましたが、今日は部屋から出られない事が悲しくてがっかりして気が抜けてしまったのです。でもレイチェル夫人に謝る気は起きなかったのですが、マシュウの為なら何でもすると言って、レイチェル夫人に謝る事にしました。アンはマリラにレイチェル夫人に謝りに行くと言い、マリラとアンはレイチェル夫人の家に行く事にしました。家に向かう途中、楽しそうな顔をしているアンを見たマリラは、アンがとても反省しているようには見えませんでした。
 アンはレイチェル夫人を見ると夫人の前に跪き「ああ、おばさん。私はこの上なく悪うございました。私がどのくらい悲しんでいるかとても言い表せません。おばさんには恐ろしく失礼をしてしまい、私が男の子でないのにグリーンゲイブルズに置いて下さるマシュウとマリラに恥をかかせました。まったく悪い恩知らずな子供です。おばさんが本当の事をおっしゃったのに怒ったりしてとても悪うございました。おばさんが言った事はみんな本当でした。私の髪は赤いし、そばかすだらけで痩せっぽちで不器量で。私がおばさんに言った事も本当だけれど、でも言ってはいけない事でした。ああ、おばさん。どうぞ許して下さい。もしも許して頂けなかったら私は一生悲しみ続けるでしょう。例え恐ろしい癇癪持ちでも可哀想な孤児に生涯の悲しみを与えようとはなさらないでしょう? ああ、きっとそうはなさらないとわかっています。どうか私を許すと言って下さいな、おばさん」と言ったのです。さすがにそれを聞いたレイチェル夫人はアンを許さないわけにはいかなくなり、アンを許してくれるのでした。
第8話 アン、日曜学校へ行く
 ここ数日、マリラは暇があると部屋にこもってミシンの音が聞こえてきたので、アンはマリラが自分の服を作ってくれているのだと思っていました。そしていよいよ教会の日曜学校に着ていくアンの服が完成しました。アンはきっと袖がふくらんで胸にレースのひだ飾りのある白いかわいらしい服だと思って大喜びです。しかしいざマリラから手渡された服を見ると、どれもかわいらしさとはほど遠い実用的な服だったのでアンはがっかりしてしまいます。アンは寝る前に袖のふくらんでフリルの付いた白いかわいらしい服をお与え下さるように神様にお祈りしていたのですが、神様は孤児の服の事を心配なさる暇なんかないのだと、あまりあてにしませんでした。
 そして日曜日。マリラは初めてアンを教会の日曜学校に行かせるので、一緒について行くつもりでいましたが、朝から頭痛がひどくて、仕方なくアン一人で日曜学校に行かせる事にしました。アンはマリラの作った真っ黒な服を着て一人で教会に向かいます。ところが途中で野に花が一面咲いているのを見たアンは、教会の事も忘れてその場で花輪を作りだしてしまいます。帽子を花で飾り立て、遅れて教会に着いたアンはみんなの噂の的になっていました。レイチェル夫人に食ってかかった事が尾ヒレを付けて町中に伝わっており、ゴテゴテと花飾りを付けた帽子の事もあって誰もがアンの事を異端児を見るような目つきで見ていたのです。遅れて教会に入ったアンは、ベル牧師のお言葉も耳に入らず、ひたすら外のきらめきの湖に見とれていました。そして日曜学校でもアンは女の子たちの仲間に入る事ができず、一人で寂しく過ごすのでした。
 グリーンゲイブルズに戻ってきたアンは日曜学校なんって大嫌いとマリラに言います。アンの念願だった友達を作る事もできませんでした。一部始終を見ていたレイチェル夫人からマリラは話を聞き、アンが帽子を花で飾り立てるのは自分が笑いものになるとアンをしかりました。アンは自分の為にマリラに迷惑がかかるのが耐えられず、孤児院に返してほしいと言って家を飛び出してしまいます。そんなアンにマリラは明日ダイアナが帰ってくる事を伝え、アンは機嫌を直すのでした。
第9話 おごそかな誓い
 寝る前にアンはダイアナが心の友になってくれますようにと神様に祈りました。翌日は雨。雨だとアンは外に出してもらえないので、がっかりしてしまいます。しかしお昼には雨が上がるというマシュウの天気予報に、アンはダイアナに会いに行けると大喜びです。マシュウの予報通り午後には雨が上がりました。マリラはバリー家に型紙を借りに行く用事があったので、アンも一緒について行く事にしました。
 アンはダイアナに会えると喜んでいましたが、次第にダイアナが自分を好きになってくれなかったらどうしようと怖くなって震えが止まりません。マリラはダイアナよりもダイアナのお母さんのバリー夫人に気に入られるようにしなさいと忠告します。アンは勇気を振り絞ってダイアナの家に向かって歩き始めました。そして薄暗い森の中を歩き、アンの不安をよそにとうとうダイアナの家に到着したのです。対応に出てきたバリー夫人はアンの噂も知っていましたが、バリー夫人は世間のゴシップにはには興味がなく、理解ある人だったので暖かく家に迎え入れられました。そして家の中にはダイアナが本を読んでいたのです。
 黒い髪に大きなリボンを付けた清楚なダイアナを見てアンは一目でダイアナを好きになってしまいました。バリー夫人はアンに庭を案内するようダイアナに言います。バリー夫人はダイアナが本ばかり読むので、外で遊ばせる為にダイアナの友達がほしいと思っていました。アンはダイアナのいい遊び相手になると思ってくれたのです。庭に出たダイアナとアンはお互い一言も喋らずにお花畑までやって来ました。そしてアンはこう切り出したのです。「ねえダイアナ、あなたは私を少しは好きになれると思う? 私の心の友になってもいいと思うくらいに」「ええ、なれると思うわ。私あなたがグリーンゲイブルズに住む事になって本当に嬉しいの。遊び相手ができたら楽しいに決まってるもの。他に一緒に遊ぶような女の子は一人もいないの」「あなた永久に私の友達になるって宣誓してくれる? 厳かに誓いを立てて宣誓するの」二人は花畑の中の通路を小川に見立て、手をつないで宣誓しました。「太陽と月のあらん限り我が心の友ダイアナ・バリーに忠実なる事を我厳かに誓います」「太陽と月のあらん限り我が心の友アン・シャーリーに忠実なる事を我厳かに誓います」
 ダイアナは噂には聞いていましたが、アンが変わっていると思わずにはいられません。それでもダイアナは本当にアンの事が好きになりそうでした。そして二人は野原を駆け回り楽しく遊ぶのでした。ダイアナの家に戻った二人はダイアナの部屋に行きます。ダイアナの部屋はどこにでもいる女の子の部屋でしたが、アンにとってそれは夢に見るような部屋でした。アンはその中で本棚に興味を覚えました。アンも本は好きだったのですが、一冊も持っていません。それを知ったダイアナはアンに本を貸してくれたのです。アンはダイアナが心の友になってくれた事を心から喜ぶのでした。
 ダイアナの部屋でアンはダイアナと楽しく遊んでいましたが、マリラが帰るのでアンも帰らなくてはならなくなりました。アンは残念に思いましたが、ダイアナは途中まで送って行くと言ってアンと一緒に行ってしまいます。バリー夫人はアンが明るくていい子だと言ってアンの事を気に入ってくれたようです。アンはダイアナと心の友になれた事で、自分がプリンスエドワード島で一番幸せな娘のように感じていました。しかしその日一日中アンはマリラにダイアナの事を話し続けた為、とうとうマリラは怒り出してしまいます。でも嬉しさでいっぱいのアンの耳には入りません。そこへマシュウがアンの為にチョコレートキャンディを買って帰ってきました。アンは大喜びでそれを受け取ると、ダイアナと半分こして食べるのだと言って胸がいっぱいになります。アンは今、生まれて一番幸せでした。
第10話 アン、心の友と遊ぶ
 翌日、アンはこれからダイアナと遊ぶ事ができると思うだけで胸がいっぱいになり、食事も喉を通らなくなってしまいます。樺の木立に二人だけのままごとの家を作る約束をダイアナとしており、アンはそこがどんな場所なのか想像して仕事も手に付きませんでした。アンとダイアナはままごとに使う為にお互い壊れた瀬戸物を用意します。アンは待ち合わせ場所である小川の橋の上で待ちますがダイアナはなかなかやって来ません。その頃ダイアナは妹のミニー・メイに一緒に連れて行ってほしいとせがまれ困っていたのです。待ちきれなくなったアンはダイアナの家まで行き一緒にベルサーの樺の木立に向かいます。途中で二人はキラキラと光るものが落ちているのに気付きました。拾い上げるとそれはスリランプのかけらでした。しかしそれを見たアンは、これが妖精の鏡だと言い、その鏡を元に妖精の物語を空想で作り上げてしまったのです。それを聞いたダイアナはアンの事をとっても面白い人だと思うのでした。
 樺の木立を見たアンは、そこがまるで緑の屋根を頂いた大きな東屋のように見えました。中央の広場は大理石の柱の大広間、そして天井には水晶張りの天窓。アンの想像力でこの樺の木立はアイドルワイルドと名付けられました。二人はそこでままごとを始めます。ままごとの中でアンは昨日マシュウにもらったチョコレートキャンディを出してダイアナと半分ずつ分けます。アンは昨日チョコレートキャンディをもらった時、ダイアナと分ければおいしさが2倍になると考えたのです。チョコレートキャンディは昨日アンが1つ食べてしまったので9つありましたが、そのうちアンが3つ、ダイアナが4つ、そして泣かせてしまったミニー・メイにも2つ持って帰ってもらおうと考えました。それを聞いたダイアナはアンがとてもいい人だと思うのでした。
 気絶にあこがれていたアンはダイアナと二人で気絶の真似をして、喉が渇いた二人は林の泉に行きます。アンはそこで林の泉にドライアドの泉と名付けました。二人は野原に行って横になると、ダイアナはアンの日曜学校での帽子の事を尋ねます。アンはあの帽子の為に日曜学校で友達ができなかったと思っていましたが、ダイアナは友達のテリーからアンはとても素敵な帽子を被っていて、自分でも被ってみたかったと言っていたと聞かされており、それを聞いたアンはそんな風に思ってくれていた人がいてとても嬉しく思います。そしてダイアナはみんながアンの事を知らないから勝手な噂をしてアンに近付かなかった、でもこれからは自分がアンの事をみんなに紹介すると言ってくれたのです。それを聞いたアンは今まで想像でしか友達を持った事がありませんでしたが、ダイアナが心の友になってくれた事でとても嬉しく思うのでした。
第11話 マリラ、ブローチをなくす
 ダイアナと共に過ごした幸せな夏もようやく終わりに近付いたある日の事、アンはアイドルワイルドに客間を作ったけど暖炉も戸棚も椅子もみんなあるのにテーブルがないので、マシュウに作ってもらおうとお願いします。マシュウは快く引き受け、テーブルを作る事になりました。アンは来週の水曜日に日曜学校でアンドリュースさんの原っぱでピクニックに行き、そこでアイスクリームが食べられると聞き、生まれて初めてのピクニックとアイスクリームにアンは大喜びです。アンはマリラから約束の時間に30分も遅れて帰ってきた事を叱られてしまいますが、ピクニックに持って行くバスケットの料理をマリラが作ってくれると聞いて、マリラに飛び付いて喜ぶのでした。
 アンとマリラが日曜学校に行った帰り、アンはマリラが胸元にいつも付けている紫水晶のブローチが美しい事に気が付き、それを褒め称えます。アンにとってそれは自分が想像していたダイヤモンドのように見えました。マリラが後援会で外出していた時、アンはふとした事からタンスの上の針山のにマリラの紫水晶のブローチが刺さっているのを見つけました。アンは思わずそれを手に取り自分の胸に付けて鏡でそれを見て楽しみました。翌日マリラは紫水晶のブローチがなくなったと言い出しました。アンは昨日針刺しに刺さっているのを見て手に取って胸に付けてみたと正直に言います。アンは確かに針山に返しましたが、マリラはアンがブローチを戻さなかったのではないかと疑われてしまいます。マリラは部屋中ブローチを探しますが、ブローチは見つかりませんでした。アンはブローチを部屋から持ち出さなかったと言いますが、マリラには信じてもらえず、アンは自分から持ち出したと白状するまで部屋から出るなと言われてしまいます。
 マリラはアンがブローチを盗んだとは思っていませんでしたが、きっとアン得意の想像の道具に使って外に持ち出してなくしてしまい、怖くなって言い出せないのだと思っていました。でもマリラは嘘が大嫌いだったので、アンが本当の事を言うまで許すつもりはありません。マリラにとってブローチをなくされた事より、アンが嘘をついた事の方がよほど嫌な思いをしたのです。マシュウにはアンが嘘をついているとはとても信じられませんでした。マリラは念の為にもう一度ブローチを探してみたがやはり見つかりませんでした。
 翌朝、明日はピクニックだと思うとアンは早く明日にならないかとウキウキします。しかしアンが何気なくマリラにブローチは見つかったかと尋ねると、マリラは「よくもそんな事が言えるもんだねアン、自分で持ち出しておいて」と捨て台詞を言って部屋から出て行ってしまいます。それを聞いたアンは怒りでいっぱいになるのでした。それからも食事のたびにマリラは深刻な顔をしてアンの部屋を訪れたが、出てくる時にはもっと深刻な顔をしていた。アンは白状する事を頑として拒んだからである。マリラはレイチェル夫人に意見を聞きたかったが、問題が問題だけにそうする勇気がなかった。そして夜になる頃にはマリラはもうへとへとになっていた。マリラはそれまでずっと泣いていたらしいアンの顔を見ると可哀想で胸がうずくのを覚えたが、心を鬼にしてぐっとそれをこらえた。
 アンは明日のピクニックの事が気がかりでした。このまま部屋に閉じ込められるとアンはあれだけ楽しみにしていたピクニックに行けなくなるのです。アンはせめて午後だけでも部屋を出してほしいとマリラに懇願しますが、マリラは「すっかりと本当の事を言うまではピクニックにもどこにも行かせないよ」と言って部屋を出て行ってしまいます。アンはベッドで泣き崩れてしまうのでした。
第12話 アン、告白する
 アンが白状しないまま一夜明けた水曜日の朝はピクニックにはおあつらえ向きのうららかな上天気であった。マリラは重い心を引きずってアンの部屋に行くと、深刻な顔をしたアンは「マリラ、私何もかも白状するわ。私紫水晶のブローチを盗りました。マリラの言った通り私が盗りました。胸にブローチを付けたらとてもきれいだったので、私誘惑に打ち勝てなかったの」そしてアンはアイドルワイルドに行く途中、きらめきの湖にかかる橋でもう一度ブローチをよく見ようとブローチを外した時に、きらめきの湖の中に落としてしまったと白状しました。アンは白状してお仕置きを受ければピクニックに行かせてもらえると思っていたのです。しかしそれを聞いたマリラは「アン、ひどいじゃないか。あんたみたいな悪い子がいるなんって聞いた事がないよ。今日はピクニックに行かせないよ。それがあんたへのお仕置きだよ」と言います。アンはピクニックに行かせてもらう為に、自分はやっていないのに嘘までついて白状したのに、ピクニックには行けなくなってしまい、アンは悔しさと悲しさでベッドに泣き伏してしまうのでした。
 マリラはアンがあまりに泣き叫ぶので、気が変になってしまったのではないかと思いました。しかし悪い事をしたら罰を与えなければならないと考えていたので、マリラはアンをピクニックに行かせるつもりはありませんでした。マリラにとって散々な朝であった。マリラは猛烈な勢いで働いた。何もする事がなくなってしまうとあちこちを磨きたてた。どこも磨かれる必要はなかったが、マリラにその必要があった。お昼になってマリラがアンを昼食に呼ぶと、アンは泣きながら「お昼なんってほしくないわ。何も食べられないの。胸が張り裂けそうなのよ。私をこんな目に遭わせていつか心から後悔する事があると思うわ。でも私許してあげるわ。その時が来たら私が許した事を忘れないでね」と言うと、再び部屋にこもってしまいます。
 昼食後もマリラは働き続けました。マリラは繕い物をしようとトランクを開けると、そこにはきらめきの湖に沈んでいるはずの紫水晶のブローチがあったのです。どうやらそれは日曜日の午後、マリラが後援会から帰ってショールを脱いだ時、ブローチがくっついてトランクに入ってしまった事に気付いたのです。マリラは手伝いのジェリー・ブートに馬車の用意をさせるとアンの部屋に入りました。そしてブローチが見つかった事をアンに言った後、どうして池に沈んだと嘘をついたのか問いただします。アンは本当の事を白状するまで私をこの部屋に閉じ込めておくと言われたので、どうしてもピクニックに行きたかったから告白する事にしたと言います。アンは夜中、告白の文句を考え出し、忘れないように何度も何度も練習したが、結局マリラはピクニックに行かせてもらえなかったので、せっかくの苦心も無駄になったと嘆きます。それを聞いたマリラは笑いだし、今まで嘘をついた事のないお前の言葉を信じるべきだったと、あっさり負けを認め、「もし私を許してくれるんだったら、私もあんたを許してあげるよ。そしてもう一度やり直そうじゃないか。さあ、ピクニックに行く支度をしなさい」と言います。アンは大喜びすると、慌てて馬車に乗って原っぱに向かうみんなと合流し、アンはダイアナと一緒にピクニックとアイスクリームを存分に楽しみました。そしてグリーンゲイブルズに戻ったアンは、その日の出来事を楽しそうにマリラとマシュウに延々と語って聞かせます。アンが寝た後、マリラはアンが不思議な子供で、あの子がいるところでは退屈はあり得ないと思うのでした。
第13話 アン、学校へ行く
 グリーンゲイブルズでは今日から麦の刈り入れが始まり、一方アンは今日から新学期で学校に行く事になりました。支度を済ませるとお弁当を持ってアンは元気に学校へ向かいます。そんなアンを見ていたマリラは、アンが学校で何かヘマをするのではないかと心配でなりませんでした。アンは恋人達の小道でダイアナと待ち合わせをして、走って学校に向かいます。アンは学校に行けるのが嬉しくて仕方ありませんでした。アンとダイアナは楽しく学校に向かいますが、学校が見えてくるとアンはだんだんと不安になってきました。それでもダイアナが案内してくれたおかげで無事教室に入り、そしてダイアナの隣の席に座りました。
 いよいよフィリップス先生がやって来て授業が始まりました。フィリップス先生はとても厳しそうな先生に見えました。アンは11歳だったので5学年ですが、孤児院では4学年の途中までしか習わなかったので、もう一度4学年をするよう言われます。最初の授業は分数の割り算でした。アンは分数の割り算を習っていなかったのでかけ算と間違えてしまいます。そんな時、下の学年の詩の朗読がとてもきれいだったので、アンは思わず石版に詩を書き出してしまい、フィリップス先生に見つかって石版を取り上げられてしまいます。そればかりか書き取った詩の綴りの間違いを指摘され、おまけに分数の割り算がまったくなっていないとみんなの前で恥をかかされてしまいます。他の生徒達はいつもの事だから気にしない方がいいとアンを慰めますが、算数が遅れていたアンは悔しさでいっぱいでした。
 昼休み、アンはダイアナの友達と一緒に昼食を食べます。アンはダイアナ以外にもティリーソフィアなどの友達ができた事を嬉しく思いました。みんなフィリップス先生が嫌いで、アンの味方をしてくれたのです。アンは生徒達の輪に加わってみんなで歌って踊ってとても楽しく過ごす事ができました。アンは家に帰るとマリラに学校がとっても楽しかったと報告しました。しかしフィリップス先生の悪口を言うと、マリラは学校は勉強する為に行くのであって先生のあら探しをする為に行くのではないと怒りだします。アンは算数が遅れている事を認め、頑張って遅れを取り返そうと決心するのでした。
第14話 教室騒動
 アンがアボンリーの学校に通うようになってから瞬く間に3週間が過ぎた。アンはフィリップス先生に辱めを受けた最初の日以来、一生懸命勉強に励んだ。そしてあたかも乾いた土に降る雨のように、アンはすべてを貪欲に吸収していった。今日はギルバート・ブライスが学校に来る日だった。ギルバートは夏中ずっといとこの牧場を手伝っていて昨日戻ってきていたのです。ギルバートはとてもハンサムで女の子をからかうのが好きでしたが、それでも女の子にはとても人気がありました。ギルバートはもう14歳になっていましたが、4年前に病気のお父さんと一緒にアルバータに行っており、学校にはほとんど行けなかったので、まだアンと同じ4学年でした。
 アンは学校で初めてギルバートを見ました。ギルバートは学校でも人気があり、みんなからも慕われていましたが、アンは気取ったギルバートがあまり好きにはなれませんでした。午後の授業の時、アンは授業に身が入らず窓の外の美しい景色に見とれて空想にふけっていました。そんな時、通路を挟んで隣に座っていたギルバートはアンの気を引こうと色々しますが、アンはまったく気が付きません。とうとうギルバートはアンの赤い髪を引っ張って「にんじん、にんじん」と言ったのです。空想から現実に戻されたアンは自分が一番言われたくない赤い髪の事を冷やかされた為、激怒してしまい、「卑怯者、大嫌い、あんたよくも」と言って石版で思いっきりギルバートの頭を殴り、石版は粉々に割れてしまったのです。
 あまりの音に教室の誰もがびっくりしました。一番驚いたのはギルバートだったでしょう。しかしアンに理由を尋ねるフィリップス先生に対しギルバートは「僕が悪かったんです先生、僕がからかったんです」とアンをかばいましたが、フィリップス先生はアンを黒板の前に立たせてしまいます。そしてアンの後ろの黒板に「アン・シャーリーは癇癪持ちです。アン・シャーリーは癇癪を押さえる事を学ばなければなりません」と書きます。アンは悔しさでいっぱいでした。アンは午後の授業の間ずっと黒板の前に立たされました。学校が終わってアンが学校から帰る時、ギルバートはアンに髪をからかった事をひたすら謝りました。しかしアンは絶対にギルバートを許す気にはなりませんでした。学校からの帰り、ダイアナはギルバートのからかいなんか気にしてはいけないと言いますが、ギルバートはアンを拷問にかけるほどアンの気持ちを傷つけたのです。もし他に何事も起きなかったならば拷問にかけるほどの苦しみをアンにこれ以上与える事もなく問題はおさまっていたであろう。しかし悪い事は重なるものである。
 次の日の昼休み、男の子たちと幾人かの女の子はいつものようにエゾマツの林に松ヤニのガムを噛みに行っていた。そしてアンは一人みんなから離れ、森に潜む妖精のようにひっそりと歌っていた。昼休みが終わり慌ててアンは学校に戻りますが、教室に入るのが遅れてしまい、罰としてギルバートの隣に座るように命じられてしまいます。アンは悔しくて涙を流しました。ギルバートは仲直りのつもりで、そんなアンにキャンディを渡しますが、アンはそれを床に落とすと足で踏んで粉々にしてしまいます。午後の授業が終わった時、ギルバートはアンに仲直りしてくれないかとお願いしますが、アンはそんなギルバートの願いを無視すると、自分の机の中のものをすべて取り出して学校を後にしてしまいます。
 学校からの帰り、ダイアナはアンになぜ石版やインクまで持って帰るのかを尋ねると、アンはもう学校には行かないと言います。ダイアナはマリラが許してくれないと思っていましたが、アンは許してもらうしかないと決心していました。ダイアナはアンが学校に来なくなったらフィリップス先生は自分を意地悪なガーティー・パイの隣に並ばせるから、アンには学校に戻ってほしいと懇願しますが、心の友の願いでも、これだけはアンにはできませんでした。グリーンゲイブルズに戻ったアンは事情をマリラに説明し明日から学校に行かないと言います。マリラにはバカバカしく思えましたが、アンの固い決意を読み取ったマリラはそれ以上アンを説き伏せようとはせず、レイチェル夫人に相談する事にした。10人も子供を学校にやったのだから、こんな時どうしたらよいか知っているはずだと考えたのです。レイチェル夫人は事の次第を子供達から聞いており、今日の問題はフィリップス先生が悪いと言います。しかしそんな事は子供には言えない事でした。そしてレイチェル夫人はアンが自分から学校に行きたいと言い出すまではアンの好きなようにさせてやった方がよいとアドバイスしたのです。レイチェル夫人は1週間もしないうちにアンが自ら学校に行くようになる、反対に今すぐ学校に行かせようとしたら、今度はどんな大騒動を起こすかわからないと言うのでした。
 その日の夜、マリラはアンに明日から学校に行かなくてもよいと言います。その代わりに家で勉強するのと、明日から家の仕事を少しでも手伝えるように料理を教えると言うのです。それを聞いてアンは嬉しくてマリラに抱きついて涙を流すのでした。
第15話 秋の訪れ
 夏が終わるとプリンスエドワード島の秋は急ぎ足でやってくる。マシュウとジェリー・ブートは夏の間に畑で育ったジャガイモや蕪の収穫に忙しく、果樹園の林檎は美しく色づいて日々の食卓をにぎあわせ始めた。アンは決められた仕事をきちんとやり、時間を区切って勉強した。そしてアンが学校に行かなくなってからもう1週間になろうとしていたが、マリラの心配をよそに、いっこうにアンは学校に戻るとは言わなかった。それほどフィリップス先生を憎みギルバートを・ブライスを憎んだのであった。しかしギルバートを憎めば憎むほど、同じ激しい情熱でダイアナを愛した。
 アンはダイアナが結婚する夢を見ました。アンは大きくなったらダイアナは自分を置いてきぼりにして結婚してしまうのではないかと思うと、いてもたってもいられなくなり、声を上げて泣き出してしまいます。そしてアンはダイアナの夫になる人が大嫌いに思っていました。しかしそれを聞いたマリラはおかしくて笑い転げてしまうのでした。
 アンはマリラからお菓子のブラウニー作りを学びます。アンは空想も忘れて一生懸命 学びました。そしてアンが心を込めて作ったブラウニーが3時のお茶の時間にマシュウやジェリー・ブートに振る舞われました。みんなはおいしそうに食べ、ブラウニー作りは大成功でした。アンはダイアナにもブラウニーを持って行き、学校の話を聞きます。ダイアナはみんな早くアンが学校に戻るようにと心配していると言うと、アンは学校には永遠に行かないと言ってダイアナを失望させるのでした。
 アンがダイアナと歩いてきらめきの湖にかかる橋にさしかかった時、前からギルバートがやって来ました。アンは無視して通り過ぎようとすると、ギルバートは「この間の事は僕が悪かったよ、悪気があった訳じゃないんだ。あんな事で君が学校に来なくなるなんって思いもしなかったんだよ」と言って謝りましたが、アンは耳を貸しませんでした。ダイアナは返事くらいしてもいいんじゃないと言いますが、アンはギルバートとは口も聞かないし会いたくもなかったのです。ダイアナはいたずらしたギルバートが謝る姿などこれまで見た事がなく、ギルバートは心から謝っているのだと言いますが、アンはギルバートを許す気にはなりませんでした。
 アンはギルバートの事で腹を立て、マリラから言われていたプディングソースに覆いをするのをすっかりと忘れてしまいます。朝になってアンはその事を思い出し、プディングソースに覆いをしに行きますが、時既に遅くプディングソースの中でハツカネズミが溺れ死んでおり、とても食べられそうにはありませんでした。アンはとりあえずプディングソースからハツカネズミを取り除くとマリラに報告に行こうとしますが、庭の木々が黄色く色付いてとてもきれいだったので、マリラにそれを言うのをすっかりと忘れてしまいます。その日の午後、チェスターロス夫妻が突然グリーンゲイブルズを訪れ、マリラは食事の用意をしなければならず大慌て。アンはきれいでなくても上品な女の子だと思ってもらおうと決心したおかげで、アンの非の打ち所のないお行儀はチェスターロス夫妻を痛く感動させた。そして食事が何事もなく終わりにさしかかったその時、あのプディングソースがテーブルに置かれたのです。アンは思わずそのプディングソースの中でハツカネズミが溺れ死んでいた事をチェスターロス夫妻の前でマリラに言ってしまい、マリラに恥をかかせてしまいます。チェスターロス夫妻が帰った後、アンはマリラにひどく怒られてしまうのでした。
第16話 ダイアナをお茶に招く
 木々の葉がすっかりと黄色くなった10月のある日の事、マリラは後援会で帰りが夜になってしまう為、アンが夕食を作る事になりました。しかし既にマリラがスープを作ってくれていたのでアンはそれを温めるだけでよかったのです。そしてマリラはお昼のお茶にダイアナを誘ってみてはと提案します。アンもダイアナを誘いたかっただけに大喜びでした。サクランボの砂糖漬けとフルーツケーキとクッキー、そしてイチゴ水を飲んでいいと聞かされ、ますますアンはダイアナとのお茶を楽しみにします。
 アンは早速ダイアナをお茶に招待に行きました。もちろんダイアナも大喜びで招待を受けます。その日の午後、マリラとすれ違いにダイアナは2番目に上等な晴れ着に身を包みグリーンゲイブルズへやって来ました。アンとダイアナはリンゴ畑に行って林檎を採り二人で食べます。そして家に戻ると二人は喉が渇いたので、お茶の前にイチゴ水を飲む事にしました。ところがアンが取り出したのはイチゴ水ではなくブドウ酒だったのです。ダイアナはコップに3杯もブドウ酒を飲み干してしまい酔っぱらって気分が悪くなってしまいました。ダイアナは家に帰ろうとしますが、アンはお茶も飲まずに帰るお客なんって聞いた事ないわと言いダイアナを引き留めます。しかし酔っぱらったダイアナはフラフラと千鳥足で泣いたり笑ったり怒ったりしながら帰ってしまうのでした。
 アンはなぜダイアナの気分が悪くなったのかわかりませんでしたが、せっかく楽しみにしていたお茶が台無しになった事でひどく悲しみました。翌日の日曜日は一日中雨が降り続いた。アンの心の中もその日の雨のように暗く陰鬱であった。そして次の日の午後、アンは使いに行ったレイチェル夫人の家から泣きながら戻ってきました。理由を聞くマリラに対しアンは、レイチェル夫人からバリー夫人がアンの事をカンカンになって怒っていたと聞かされたのです。バリー夫人はアンがダイアナを酔っぱらわせてみっともない姿で帰らせた事を怒っており、アンは心から悪い子だからもう二度とダイアナとは遊ばせないと言うのです。アンはイチゴ水で酔っぱらうなんって聞いた事がありませんでしたが、それを聞いたマリラが棚を確かめ、ダイアナが飲んだのはイチゴ水ではなくブドウ酒だった事がわかりました。しかしわかったところでアンはダイアナとの友情を引き裂かれてしまい、涙に暮れるのでした。
 紛らわしい場所にブドウ酒を置いてしまった事で責任の一端を感じたマリラはバリー夫人に事情を説明しに出かける事にしました。ところがマリラは日が沈んでしまっても戻ってきません。暗くなってようやくマリラは戻ってきましたが、バリー夫人はマリラの言う事さえ信じようとはしなかったのです。それを聞いたアンは自らバリー夫人に会いに行きました。アンはバリー夫人に謝り、ダイアナを酔わせる気はなかったと説明しましたが、バリー夫人は「あなたがダイアナと付き合うのにふさわしい女の子だとは思いませんよ、家に帰っておとなしくしている方がいいですよ」と冷たくあしらわれてしまいます。最後の望みも消え失せたアンは泣きながらグリーンゲイブルズに戻り涙に暮れるのでした。
第17話 アン、学校に戻る
 お茶に招待したダイアナを間違って酔っぱらわせた為にバリー夫人から絶交を言い渡された翌日、アンはまさに絶望のどん底に沈んだ人という風情で、勉強やパッチワークにさっぱり身が入らなかった。そんな時、窓の外にダイアナの姿が見えたので、アンは慌てて外に飛び出していきました。ダイアナはお母さんからもう二度とアンと遊んではいけないと言われたと言います。ダイアナはアンが悪いんじゃないと言いましたがお母さんには受け入れられませんでした。ダイアナは何とかお母さんの許しを得てアンにお別れを言いに来たのです。しかもお別れを言える時間は10分しかありませんでした。それでもアンはダイアナが自分の事を愛してくれていたと知り、生まれて初めて自分の事を愛してくれた人が現れた事にアンは喜びを感じます。アンはダイアナとの永の別れの前に形見としてダイアナの黒髪を欲しがり、アンはダイアナの髪を一房切るとそれをハンカチに包んでポケットにしまいます。そしてアンとダイアナは手を取り合って別れるのでした。
 グリーンゲイブルズに戻ったアンは、もう二度と友達は持たないと言います。そしてダイアナの形見の髪を小さな袋に入れて一生首にかけ、自分が死んだらダイアナの髪も一緒に埋めてほしいとお願いします。次の日、とうとうアンは学校に行くと言い出します。大切な親友と引き裂かれた今、アンに残されたものは学校しかなかったのです。それに学校でならダイアナの姿を見る事ができるし、過ぎ去った楽しい日々の思い出に浸る事ができるのです。アンが一月ぶりに学校に行くと、学校は以前と少しも変わっていなかった。他の生徒達はアンが学校に来たのを喜び迎え入れ、アンの不安はたちまち消え去った。しかしアンが教室に入ると、アンを見ていたダイアナがアンから目をそらしたのを見て、アンはフィリップス先生にお願いして模範生であるミニー・アンドリュースの隣に席を移動させてもらいます。フィリップス先生もアンが勉強にやる気を出したと喜んでくれました。アンはこちらを向いてくれないダイアナの事を思うと胸が痛んだが、それを忘れる為にも勉強に精を出す決意をますます固めるのでした。
 グリーンゲイブルズに戻ったアンはダイアナの事だけが気がかりでした。アンは窓の外に見えるバリー家の明かりを見つめていました。その頃、バリー家でもダイアナはアンの事を思ってグリーンゲイブルズの明かりを見つめていたのです。アンを喜んで迎え入れたのは女の子達だけではなかった。次の日の昼休み、アンが教室に戻ってくると机の上に見るからにおいしそうな大きなリンゴが置いてありました。アンはそれを食べようとしますが、そのリンゴはギルバートからの贈り物だと気が付いて、アンはリンゴを机の下に落としてしまいます。その日の午後の授業中、隣に座ったジェーンから小さな手紙を渡されました。アンがこっそりと中を見ると、それはダイアナからの手紙だったのです。その手紙にはダイアナが今でもアンを愛している事、そしてお母さんが学校でもアンと話してはいけないと言っている事が書かれていました。それを見たアンはとっても嬉しく思い、アンもこっそりとダイアナに返事を書きました。二人の心はまだ引き裂かれていなかったのです。
第18話 アン、ミニー・メイを救う
 アンが再び学校に行きだしてからというもの、マリラはまたゴタゴタが起こるのではないかと内心案じていた、しかし何も起こらなかった。模範生ミニー・アンドリュースの隣に座り、ダイアナと遊べず何事もギルバート・ブライスには負けたくないとなれば、アンはひたすら勉強に全力を注いだのもそれほど不思議な事ではなかった。おかげで12月の学期末にはアンとギルバートは共に優等生としてダイアナなどと同じ5学年に進級した。
 大事件というものはすべてありとあらゆるささやかな事件と関わりがあるものである。次の年の1月、カナダの総理大臣がその遊説先にプリンスエドワード島を加える事にしたという事が、一見したところグリーンゲイブルズの少女アン・シャーリーの運命にたいしたどころか少しでも関係があるとは思えないのである。しかしそれが大ありであった。マリラは政治好きのレイチェル夫人と連れだって30マイル離れたシャーロットタウンの町へ出発した。その夜、二人が大集会で大いに喜んでいる間、アンとマシュウは居心地のよい台所を二人で占領していた。アンは明日の試験でギルバートに負けまいと苦手の幾何に精を出し、マシュウは「農民の守り手」を手に船をこいでいた。
 アンは本当に幾何が苦手でした。その夜はマリラがいないので、アンはついついマシュウを相手にお喋りを始めてしまい、マシュウにプロポーズした事があるかなど尋ねてマシュウを慌てさせます。そんな時、突然ダイアナが飛び込んできました。ダイアナは妹のミニー・メイが喉頭炎にかかったと言うのです。バリー家ではお父さんもお母さんも町に行ってしまい、誰も医者を呼びに行ってくれる人がいなかったのです。それを聞いていたマシュウは黙って雪の中を馬車でカーモディまで医者を呼びに行きました。しかし今日は多くの大人達が総理大臣を見にシャーロットタウンに行っており、医者を見つける事はできないように思えました。アンは子供の世話の経験が豊富で、何度も喉頭炎にかかった子供の看病をしてきたので、喉頭炎にはイピカックが効くと知っていたのです。アンはミニー・メイの看病しにダイアナと一緒にバリー家へと向かいました。アンはミニー・メイを心からかわいそうだと思う反面、この事態がロマンスにあふれていてそれを長く引き離されていた心の友と再び共に分かち合える喜びを強く味わっていた。
 アンとダイアナがバリー家に到着すると、ミニー・メイは苦しみ、お手伝いのメアリー・ジョーはただうろたえるばかりでした。アンはミニー・メイを見て喉頭炎であるのを確かめると、すぐさまお湯を沸かして空気を乾燥させないようにします。次に服を脱がせて呼吸を楽にさせ、そしてミニー・メイにイピカックを飲ませました。予想した通りカーモディの医者はシャーロットタウンに行っており、マシュウがようやくスペンサーデールで医者を見つけてバリー家に送り届けた時には夜中の3時になっていました。ミニー・メイを診た医者はもう手当の必要はないと言います。必要な手当はアンがすべてしていたのです。医者はアンの処置をたいそう誉めました。まさにアンはミニー・メイの命の恩人だったのです。アンとダイアナは抱き合って喜びました。
 朝になってアンはマシュウの馬車でグリーンゲイブルズの家に戻ります。アンは馬車に揺られながら眠くて仕方ありませんでした。でも今日は幾何の試験があるのです。アンは自分が今日学校に行かないと幾何の試験はギルバートが一番になってしまうので、何としてもそれを阻止する為に学校に行くと言い張りますが、言ってるそばから寝てしまうのでした。
 バリー夫人が戻ってきた時、医者はアンが切れ者でアンが処置しなければ自分が着いた時には手遅れになっていたと言うのです。アンはあんな年頃の子供とは思えない腕前と冷静さを持っているとアンを褒め称えました。アンは夕方になって目を覚ましました。マリラは既にグリーンゲイブルズに帰っており、昨夜の事件の事は一部始終聞いていました。そればかりか昼過ぎにバリー夫人がグリーンゲイブルズにやって来て「アンはミニー・メイの命の恩人だ。ブドウ酒の事では大変申し訳ない事をした。アンがダイアナを酔わせるつもりじゃなかった事が今になってわかったから、どうかあれは水に流して、もう一度ダイアナと仲良くしてほしい」と言ったと言うのです。それを聞いたアンは飛び上がって喜び、一目散にバリー家へと向かいました。バリー家ではダイアナだけでなくバリー夫人までがアンを暖かく迎え入れてくれ、大切なお客をもてなすかのように豪勢な茶器でお茶をごちそうになります。そして二人は台所で一緒にタフィを作って夜まで楽しく過ごすのでした。
第19話 ダイアナの誕生日
 アンとダイアナが元通りの仲良しとなってまもなく、一年のうちでもっとも寒さの厳しい2月がやってきた。アンとダイアナはお互いの部屋の窓からローソクの光で合図をして、ダイアナはアンに来てほしいと伝えた。アンが急いでバリー家に行くと、明日はダイアナの誕生日なので、学校が終わったらそのままバリー家に行って一緒に誕生日を祝い、そして公会堂で行われる討論クラブ主催のコンサートに行き、そのままバリー家に泊まるように言われたのです。アンは大喜びで家に帰ってきました。ところがマリラはコンサートは子供にはまだ早いし、よその家に泊まり歩く事は許してくれませんでした。しかしマシュウはアンを行かせるべきだと珍しく自分の意見を主張します。あまりにマシュウが主張するのでマリラも根負けし、とうとうアンを行かせる事にしました。それを聞いたアンは大喜びでマリラに飛び付くのでした。
 コンサート当日の学校の授業はうわの空で、アンの魂は既にコンサート会場に飛んでいた。綴り字でギルバートに負かされ暗算でも大きく引き離されてしまったが、これからの楽しみを思えばそのために覚えた悔しさなどものの数ではなかった。だが、アンを興奮のるつぼへと巻き込んだのはむしろ授業が終わってからだった。バリー家のお茶はダイアナの誕生日にふさわしく申し分のない優雅なものだった。それから二人はヘアメークと着付けにかかり、髪型はそれぞれ6回もあれこれいじくり回したあげく、結局元の姿に落ち着いた。アンは何の飾りもない黒い大黒帽や手製の布地の外套をいささか引け目に感じないわけにはいかなかったが、あとは万事想像力で補う事に心を決めた。
 ダイアナとアンはダイアナのいとこ達と一緒に公会堂までの道のりを大いに楽しんだ。そしてその夜のプログラムは少なくとも聴衆の一人にとってはスリルの連続であった。アンはプリシーの朗読する詩「今宵の鐘は響く事なし」に共感の涙を流し、聖歌隊の歌声に天使のささやきを聞いた。何と言っても当夜の圧巻はフィリップス先生の熱演する「シーザーの遺体を前にして」のアントニーの熱演であった。先生は一区切り毎にプリシーに熱いまなざしを向け、アンは日頃の先生に対する軽蔑も忘れて熱烈な拍手を送った。プログラムの中でたった一つ、アンの関心を引かないものがあった。それはギルバートの詩の朗読だった。この一つを除けばアンにとって素晴らしく楽しい一夜であった。そしてコンサートが終わってからもそれをもう一度話し合うという楽しみが残されていた。
 アンとダイアナがバリー家へ帰り着いたのは夜の11時だった。もうみんな寝たらしく家の中は真っ暗でしんとしていた。アンとダイアナはどちらが先にベッドに着くか競争し、二人でベッドに飛び込むとベッドの中には先客がいて「助けてぇ〜」という声が聞こえてきたのです。二人はびっくりして他の部屋に逃げ込みました。しかしダイアナはベッドに入っていたのがジョセフィンおばさんだと気付いたので笑い出してしまいます。しかし来客用のベッドが使えないので、二人はミニー・メイのベッドで寝相の悪いミニー・メイと一緒に三人で眠るのでした。
 翌朝、ジョセフィンおばさんは朝食には起きてこず、ダイアナも昨夜の出来事を両親に話さなかったのでアンがグリーンゲイブルズへ帰っていくまで何事も起こらなかった。しかしアンが帰った後、ジョセフィンおばさんは昨夜の事をカンカンになって怒り、ダイアナに音楽を習わせる為の授業料を払わないと言い出す始末でした。アンはこのバリー家の大騒ぎの事を、その日の午後遅くマリラの使いでレイチェル夫人の所へ行って初めて知った。アンは自分が言い出したふざけっこで心の友が窮地に陥っているのをほっておくわけにはいかなかった。アンはレイチェル夫人の家を出ると、その足でバリー家へと向かった。ジョセフィンおばさんは確かにカンカンになって怒っていたが、ダイアナは平気だった。しかしアンはダイアナだけに責任を押しつける事ができず、ジョセフィンおばさんに謝りに行きます。アンは一生懸命謝りました。するとジョセフィンおばさんはアンにたいそう興味を持ち、もしアンが時々やって来て話を聞かせてくれるなら許すと言ってくれたのです。ジョセフィンおばさんは怒って帰るつもりでいましたが、「あのアンの話を聞きたくなったのでここにいる事にしたよ」と言い、予定の1ヶ月を越えてバリー家に泊まった。そしてアンのおかげでこれまでよりずっと扱いやすい客となった。そして別れにあたってジョセフィンおばさんは「いいかいアン、あんたが今度町に来る時はきっと家においで。とっておきの客用のベッドに寝かしてあげるよ」と言って去っていきます。アンにもう一人馬の合う人ができたようです。
第20話 再び春が来て
 春が再びグリーンゲイブルズを訪れた。恋人達の小道の楓は赤い芽を出し、ドライアドの泉の周りではワラビが勢いよく伸び始めた。森や林に緑のもやがたなびき、雪の消え残る荒れ地に春を告げる5月の花メイフラワーが可憐な姿を現したかと思うとスミレの谷が一面紫色に染まった。そして6月のある日の事、窓から見える雪の女王の花が見事に咲いていた事からアンは今日が大切な日である事を思い出します。それをみんなに知らせようとしますが、朝からマリラは頭痛に苦しんでいました。アンはマリラの役に立とうと学校まで休んでマリラの仕事をこなしマリラに休んでもらう事にします。マリラとマシュウはアンが来る前まで自分達がどんな生活をしていたか思い出せないようになっていました。それほどまでにアンはグリーンゲイブルズにはなくてはならない存在だったのです。
 昼食の時、アンはマシュウに今日が何の日かを尋ねましたが、マシュウにはわかりません。アンはそれからもマリラの仕事をこなし続け、パイをオーブンに入れたまま忘れてしまい真っ黒に焦がしてしまったり、マシュウのハンカチに糊を付けてアイロンがけしてしまったりと、いくつかの失敗はしましたが、それでもマリラの役に立とうとアンは一生懸命手伝いました。そしてアンが勉強の為自分の部屋に戻り、ちょうど1年前自分がグリーンゲイブルズに来た日の事を思い出していました。そこへマリラがやって来てマリラはアンから記念日の事を聞かされます。マリラは台所に戻るとマリラもまた1年前、アンがグリーンゲイブルズへやって来た日の事を思い出していました。
 マシュウもマリラから記念日の事を教えてもらいます。記念日なのにアンに何もしてやらないのかというマリラの言葉に、マシュウはアンにブライトリバーまで馬車でドライブしないかと誘います。そこはアンとマシュウが初めて出会い、一緒にグリーンゲイブルズまで走った道だったのです。それを聞いたアンはマシュウが自分がグリーンゲイブルズに来た日の事を忘れずにいてくれたと大喜びします。そして食事の後、マシュウとアンは1年前と同じようにリンゴの花が咲き誇る喜びの白い道を馬車でドライブするのでした。
第21話 新しい牧師夫妻
 ある日の学校のお昼休みの事、ルビー・ギリスが、重大ニュースを持ってきました。それはフィリップス先生がこの6月で学校をやめてしまうのです。フィリップス先生はプリシーがクィーン学院に行ってしまうので学校をやめるというのがもっぱらの噂でした。アンをはじめ女の子達は、次にどんな先生が来るか楽しみでたまりません。そしてフィリップス先生との別れをみんなは喜び、別れの時が来てもみんな口々に涙を流す事はないと言うのでした。アンにとってもフィリップス先生の印象は最初からいいものではなかった。だからアンもみんなと同様、先生が突然学校をやめると聞いても平気なはずだった。そして事実、ルビー・ギリスが新しく作ってもらった洋服の品定めに加わっているうちに先生の事などすっかりと忘れてしまった。ルビーの服はアンの憧れているふくらみ袖で、それも最新流行のスタイルだったのだ。そして6月の最後の日がやって来た。
 アンは学校から泣きながら帰って来た。アンは別に先生が好きで泣いたわけではなく、他のみんなが泣いたからつられて泣いたのだと言い張ります。フィリップス先生が別れの口上を述べている間も、アンはひたすら泣くまいとしてフィリップス先生にいじめられた時の事を思い出していましたが、結局アンは余分に持って行ったハンカチを使い切るほど学校で泣いたのです。それを聞いたマリラは涙が出るほど笑い転げました。しかしマリラの興味を引いたのは、アンが学校からの帰り、新しい牧師夫妻を見たと言った事でした。牧師夫妻は牧師館が空くまでレイチェル夫人の家に泊まる事になっていました。その夜、マリラは牧師夫妻が見たくて、半年も前に借りた物を返しにレイチェル夫人の家に行きました。レイチェル夫人はこれまでもいろいろな物を人に貸していて、中には二度と戻るまいとあきらめていた物も少なくなかったのに、その晩になるとどうした事か借り主の手によって次々と戻されてきた。新任の牧師、それも妻を同行しているとあっては、刺激らしい物に乏しいこの静かな田舎で暮らしている人々が大いに好奇心を燃やすのも不思議ではなかったが、到着したばかりの牧師夫妻が表に姿を現すはずはなく、マリラや村人達の思惑は見事に外れたのであった。
 次の日、アンとダイアナが遊んでいた時、牧師夫妻が恋人達の小道を散歩しているのを見かけました。アンは興味津々に牧師夫妻の後を追うと、牧師夫妻は道に迷ったから教えてほしいとアン達の所にやって来ました。アンとダイアナが自己紹介するとアラン牧師アラン夫人も自己紹介しようとしますが、二人はアボンリーでは話題の人だったので、アンもダイアナもみんな知っていました。そしてアンとダイアナは牧師夫妻をレイチェル夫人の家まで送り届けます。アンはその時の様子をマリラに詳しく説明しました。牧師夫妻に興味のあったマリラは、頭痛をおしてまで教会の日曜学校に出かけないわけにはいかなかった。そしてそれはアボンリーの人々の全体の気持ちでもあったらしく、教会に姿を見せなかったのは病人を除くとマシュウくらいのものであった。超満員の観衆を前にアラン牧師は熱意と活気あふれる感動的な説教を行い、人々もこの率直で快活な若い牧師に大いに好感を抱いた。そして日曜学校ではアラン夫人のこれまた楽しいお話や歌が子供達の間にセンセーショナルを巻き起こした。アラン夫人のやり方は今までの無味乾燥な日曜学校とはまるで違っていたのです。アンは宗教がこんなに楽しいものだとは知りませんでした。マリラはアラン夫妻を今度の水曜日にお茶に招待しようと提案します。アンはもうすっかりアラン夫人の虜になっていました。
第22話 香料ちがい
 月曜日から火曜日にかけてはグリーンゲイブルズではお茶の支度に大あらわであった。牧師夫妻をお茶に招くというのは容易ならぬ大事件であった。それでマリラはアボンリーのどの家の主婦にも負けないように劣らないようにしたいと心を決め、アンはマリラを手伝いながら嬉しいのとワクワクするのとでもう無中だった。そして他ならぬ憧れの人アラン夫人をお茶にお招きできる幸せを思いっきり味わっていた。しかしこの招待はマリラとアンだけの秘密で、マシュウには何も知らせていなかった。マシュウが口実を設けて当日の水曜日に家を空ける事を心配したからである。火曜日までに雛鳥の肉を寒天で固めたものや牛の舌を冷やしたもの、2種類のゼリー、ホイップクリームをかけたレモンパイ、サクランボのパイとクッキーが3種類とフルーツケーキ、プラムの砂糖漬け、バウンドケーキの準備が整い、当日の朝にアンがレアケーキを作るだけとなった。アンは自分の作るレアケーキがうまくできるかとても心配でした。ケーキは特別においしく作りたい時に限って失敗するものだったのです。
 そして水曜日の朝が来た。ところがアンはひどい鼻風邪をひいてしまったのです。マリラは当日になってようやく牧師夫妻をお茶に招待した事をマシュウに報告しました。するとマシュウは蕪の間引きがあるからと言って出て行こうとします。マリラとアンはマシュウを引き留めようとしますが、結局マシュウは風邪をひいた事にしてくれと言い残して家を出て行ってしまうのでした。アンは朝から一生懸命レアチーズを作りました。アンはレアケーキが無事にふくらむかとても心配で、風邪はどこかに行ってしまいました。アンの心配をよそにレアケーキは見事にふくれた。そして金の泡のようにふわふわと軽やかな姿を竈から現した。アンは嬉しさのあまり頬を染め、そして真っ赤なゼリーを中に挟んだ。そうしながらアンはケーキに舌鼓をうってくれるであろうアラン夫人の事を心に描いた。そしてアンはテーブルには花が必要だと考え、花を摘みに行きます。アンはお茶を成功させる為にはマシュウの出席が絶対に必要だと考え、マシュウを説得し正装させてお茶に出席してもらう事にしました。
 やがてお昼になり、牧師夫妻がやってきました。マリラとアンは恭しく牧師夫妻を迎え、型どおりの挨拶が交わされた。牧師夫妻はテーブルの上の料理はもちろんの事、飾り付けられた花にも大いに感心し、大好きなアラン夫人に誉められたアンは天にも昇る思いでした。アンは幸せの絶頂にいた。そしてマシュウもマリラの心配をよそにアラン牧師と結構楽しげに語り合っていたが、アラン夫人には一言も話しかけようとはしなかった。それは望む方が無理というものであろう。こうして万事は婚礼の鐘のように順調に進んでいき、いよいよアンのレアケーキが回される事になった。アラン夫人はもうお腹がいっぱいだったが、アンが自分の為に作ったと聞いて無理して食べます。ところが一口食べてアラン夫人は怪訝そうな顔をしました。気になったマリラも一口食べてすぐに気付きました。アンはレアケーキにバニラの香料を入れるはずが、間違って痛み止めの塗り薬を入れていたのです。バニラの瓶に塗り薬を入れたのはマリラでしたが、アンは鼻風邪をひいていて、臭いがわからず違いに気付かなかったのです。アンは自分の失敗に悲しくなり、泣きながら部屋を飛び出してしまいます。アンはせっかく楽しみにしていたお茶を失敗してしまい、ベッドに伏せて泣いていました。アボンリーではすぐに噂が広まるので、アンは自分が牧師夫妻を塗り薬で毒殺しようとしたという噂が立つのが耐えられなかったのです。そこへアラン夫人がやって来ました。アンの悲しみを知ったアラン夫人はおいしかろうとなかろうと、あなたが親切に心づくしをしてくれた事を喜んでくれ、そしてアンの花壇を見せてほしいと言ってくれたのです。アンは嬉しくてアラン夫人の胸で泣きました。アンは元気を取り戻しアラン夫人を花壇に案内しました。牧師夫妻が帰った後、アンはあんな途方もない失敗をしたにしては思いがけないほど楽しい一日だと思った。それがなぜなのか、アン自身にもわからなかった。
第23話 アン、お茶によばれる
 8月のある日の事、アンが郵便局に新聞を取りに行くと、自分宛にアラン夫人から手紙が届いていました。手紙にはアンを牧師館のお茶に招待すると書かれていたのです。それを見たアンは大感激でした。マリラはアラン夫人が日曜学校の生徒を順番にお茶に招待すると言っていたから、その順番がアンに回ってきただけだと言いますが、アンは聞く耳を持ちません。ところがマシュウは明日は雨になると言うのです。それを聞いたアンは泣き出してしまいました。その晩、アンは悲観のあまり部屋に閉じこもってしまった。いつもは喜んで耳を傾けるポブラの葉ずれの音も、遠くから聞こえる海の鈍い波音も、今夜のアンにとって嵐や災害の前ぶれるように感じられるのであった。
 しかし幸いな事にマシュウの予報は外れお天気は上々で、アンはたちまち天にも昇る心地になった。今日アンはとてもよい子になっている気がした。毎日お茶にお呼ばれさえすれば、アンは自分が模範生になれると言います。アンは牧師館に持って行く木イチゴを採りに行きました。しかし崖に成っている木イチゴを摘もうとして足を滑らせてしまい川に落ちてしまうのでした。
 その日の午後、アンは木イチゴの籠を手に意気揚々と牧師館目指して出かけた。アンは牧師館の前で飛び出しそうな心臓を落ち着かせていると、アラン夫人が出迎えに来てくれました。アンはミス・アン・シャーリーと呼ばれ天にも昇る思いです。アンが牧師館に入ると先客がおり、ホワイトサンドの日曜学校から来たロレッタ・ブラッドリーというアンと同じくらい少女がいた。アラン夫人のほほえみにアンの緊張はたちまちほぐれ、心臓は口から飛び出す事もなく牧師館に初めて招かれたミス・アン・シャーリーの心は完全に満たされていた。アンの手土産の木イチゴもテーブルを飾り、問題のお茶の作法もほぼ間違いなく済ませる事ができたようであった。そしてアラン夫人のオルガンに合わせてアンは歌を歌うと、声がきれいだからと教会の聖歌隊に誘われ、アンは大喜びでした。
 アンは牧師館に飾ってあった「キリスト幼子達を祝福したもう」という絵に見とれてしまいます。その絵には一人だけみんなから離れて立っている女の子が描かれていたのです。アンはそれがグリーンゲイブルズに来る前の自分に思えて仕方がありません。それを知ったアラン夫人はアンの幼かった日の事を聞かせてもらえないかとお願いします。アラン夫人はアンの事がとても興味があったのです。アンはこれまでの自分の生い立ちを詳しくアラン夫人に説明するのでした。
 アンがグリーンゲイブルズに帰って来ると、レイチェル夫人がニュースを持ってやって来ました。それは評議会がアボンリーの学校の先生に女の先生を決めたというのです。これまでアボンリーでは女の先生など一度もなかったので、レイチェル夫人は心配しますが、アンは大喜びでした。その女の先生の名前はミス・ミュリエル・ステイシーといいました。
第24話 面目をかけた大事件
 アンが牧師館のお茶に招かれてから1週間目にダイアナがハーディーを催した。みんな愉快に過ごし、お茶が済むまでは何一つ面倒な事は起こらなかった。少なくとも当時アボンリーの子供達の間で流行の遊びだった命令ごっこを始めようと言うまでは。ソフィア・スローンはルビー・ギリスの命令で毛虫のいる木に登ります。次にジェーン・アンドリュースジョーシー・パイの命令で片足で決められた範囲を5周しようとして失敗します。今度はジョーシー・パイにアンが塀の上を歩くように命令しますが、ジョーシーは楽々とこなしてしまいます。アンは敗北宣言するのが悔しくて、屋根の棟木を歩けると言ってしまった為、アンはバリー家の棟木の上を歩く事になってしまいました。ダイアナや他の女の子はアンを引き留めましたが、アンは自分の名誉の為に挑戦したのです。しかしアンの挑戦は見事に失敗し、アンは屋根の上から落ちてしまいました。
 アンは踵をくじいてしまい、とても歩けそうにありません。アンはバリーさんに抱きかかえられてグリーンゲイブルズに戻ってきました。それを見たマリラはびっくりしてしまい、マシュウを呼びにやります。刈り入れ時の畑から大急ぎで呼び戻されたマシュウはまっすぐカーモディにスペンサー先生を迎えに行った。まもなく連れ帰った医者の診断は手間取り、マシュウは心配で階段の下から動けなかった。マシュウの不安は的中した。診察を終えた医者はアンが治るまでに少なくとも6〜7週間はかかると告げた。怪我は思ったより重く、足首をひどく痛めていた。マリラは今日の昼、夢中になって丘を駆け下りた時の事を思い出していた。バリー氏に抱かれたアンの姿を見た時、マリラの胸をその奥底までぐさりと突き刺した恐怖の中で、アンが自分にとって何を意味しているかをマリラは悟った。アンが好きだという事。アンが自分にとってこの世にかけがえのない存在である事を知ったのだった。
 アンはこれから1ヶ月半もの間、ベッドから動けない事が耐えられませんでした。せっかく楽しみにしていた新しい女の先生にも会えないのです。それに勉強が遅れてギルバートに追い抜かれてしまう事も不満でした。9月1日が来て新学期が始まった。しかしあれほどその日を待ちかねていたにもかかわらずアボンリー始まって以来という女の先生、ミス・ミューリエル・ステイシーの授業にアンが出席する事はもちろん不可能だった。アンは先生の姿をあれこれと想像してみるのだが、それはただ本当の先生を一目見たいという気持ちを強める事にしかならなかった。そしてマリラは1年前の今日、アンが初めて学校に行った日の事を思い出していた。
 ダイアナは毎日、アンをお見舞いに来てくれた。今日もダイアナがアンの元を訪れると、アンはステイシー先生がどんな人かをしきりに尋ねます。ステイシー先生はブロンドの巻き毛で目は青くてふくらみ袖の似合う先生と聞いて、アンは早くステイシー先生に会いたくて仕方がありません。そんな時クラスメイトの女の子達もお見舞いにやって来て、アンを喜ばせました。
 忙しい収穫の季節に入ってマシュウはアンを気遣いつつも、なかなか東の出窓を訪ねる事ができないままカラス麦の収穫に精を出していた。マリラはアンの世話をしなければならない分だけ例年より余計な仕事が増えたが、その事に関して一言もアンに愚痴をこぼさなかった。そしてカラス麦の取り入れが一段落して、鍛冶屋へ荷馬車の修理に出かけていったマシュウが突然意外な人を連れ帰って来た。それはステイシー先生でした。アンは初めて見るステイシー先生を大喜びで迎えました。すっかりとステイシー先生の虜になったアンは早く元気になって学校に行きたい一心から治療に専念した。そしてある日、アンの足を診察した医者が歩く練習を始めてもいいと言ってくれたのです。その夜、食事を運んできたマリラにアンはどうしても下で食事を取ると言って聞かなかった。歩ける姿を一目マシュウに見せたかった為だが、急な無理が効くわけもなく、結局マシュウに手助けしてもらう他なかった。久しぶりの楽しい食事を終えてもアンのお喋りはとどまるところを知らず、長い間ベッドにいたこの少女の貴重な体験が次々と口をついて出たのであった。マリラはバリーさんの家の屋根から落ちてもアンの舌は何ともなかったと言ってみんなの笑いを誘うのでした。
第25話 ダイアナへの手紙
 名誉と引き替えに足を怪我したアンは、新学期が始まって数週間たった今も学校へ行く事はおろか、庭先へ出る事もおぼつかない状態であった。アンの心は深く沈んでいた。なぜならダイアナがもう4日も見舞いに来てくれないのだ。毎日必ず学校の帰りに顔を見せていたダイアナが急に来なくなったので、アンは何か訳があるに違いないと心配になります。そんな時、マシュウはレイチェル夫人からダイアナがシャーロットタウンで病気になっていると聞いたのです。マリラはこの事はアンには秘密にしておくつもりでしたが、ふとした事からアンはそれを聞いてしまい、ショックのあまりアンは階段から落ちてしまいます。アンは病気で苦しんでいるであろうダイアナの元に今すぐにでも駆けつけたかったのですが、何十マイルも離れたシャーロットタウンに足の不自由なアンが行く事など無理な相談でした。
 アンはダイアナの事が心配でたまりませんでした。マリラはバリー夫人にダイアナの様子を聞きに行こうとしますが、アンはそれを止めてしまいます。その代わりにアンはダイアナに手紙を書く事にしました。しかしアンは手紙を書くうちにダイアナとの楽しかった事を思い出し、再び涙に暮れてしまいます。マリラはバリー家に行ってみましたが、戸を叩いても留守でした。それからもアンはダイアナの事を思い出しながらダイアナに手紙を書き続けました。そして、よりによって自分の足が不自由な時に何十マイルも離れたシャーロットタウンで病魔に冒されてしまい、永遠にダイアナと再会できないようになったらと思うとアンは再び泣いてしまいます。ところがそこへシャーロットタウンから帰ったばかりのダイアナが元気な姿を見せアンのお見舞いにやって来たのです。ダイアナはジョセフィンおばさんが病気だと聞いてシャーロットタウンまでお見舞いに行っていたのです。しかしおばさんの病気はたいしたことなかったので、帰って来たと言うのです。アンはダイアナに飛び付いて喜ぶと、ダイアナが帰って来るのがもう一日遅かったら自分はこの世にいなかったかもしれないと言います。でもダイアナが来てくれた喜びでアンも立って歩けるようになるのでした。
第26話 コンサートの計画
 足を怪我したアンが再び学校に行けるようになったのは、やっと10月もなかばになってからだった。もうすっかり並木道は黄色く色付いていました。アンは久しぶりに出会うクラスメートから温かく迎えられ、とても嬉しく感じました。ステイシー先生は授業の一環として、アボンリー小学校の旗を作ろうと提案します。カナダや、それぞれの州には、それを象徴する旗がありますが、アボンリー小学校には旗がありませんでした。そこでステイシー先生はアボンリーへの郷土愛を呼び起こすシンボルを生徒達に募集しました。ステイシー先生は生徒達の書いたシンボルの中から3つ候補を選び、それをみんなの前で発表しました。残念に事にアンの描いたシンボルは選ばれませんでしたが、アンはステイシー先生の公平さに感心してしまいます。
 生徒達にステイシー先生から宿題が出されました。それは「自分の将来を考える」というタイトルで作文を書くというものでした。アンは作文が得意だったので、ぜひともステイシー先生に認めてもらおうと、張り切って作文を書き始めました。ところが夕食の時間になってもまだ1行も作文は書けていません。なぜならアンは自分が将来何になるかを決めかねていたのです。アンはアラン夫人のように牧師の奥さんになりたかったのですが、器量も気立てもよくないので牧師さんが自分を奥さんにしてくれそうには思えませんでした。そこでアンは仕事を持とうと考えます。アンが考えたのは学校の先生でした。学校の先生になるにはうんと勉強ができて上の学校に行かなければなりませんが、アンの両親は二人とも学校の先生だったので、アンも自分が学校の先生になれるような気がしたのです。しかし学校の先生では平凡すぎるので、看護師になって赤十字に入って戦場に行ったり、宣教師となって外国に行くのもいいと言い始める始末で、アンは何を書いていいかわかりません。しかしそれを聞いていたマリラとマシュウは、そういう正直な気持ちをそのまま作文に書けばいいとアドバイスし、アンは喜び吹っ切れたようにペンを進めるのでした。
 アンが苦しんで書いた作文は果たしてステイシー先生の大いに認めるところになった。アンはおかげで面目をほどこし先生への信頼も増した。そうした信頼関係ができたのは一人アンだけではなかった。ステイシー先生は週に一度子供達を戸外に連れ出して、情操と科学の両面から自然に深く親しませた。そしてそれぞれの子供の個性を認めるこの若い先生によってアボンリーの子供達の心は花のように開いていった。
 ステイシー先生はクリスマスに公会堂を借りて自分達のコンサートを行い、そのコンサートの売り上げでアボンリーの旗を作ろうと提案します。それを聞いた子供達は大喜びでした。コンサートは歌や音楽だけではなく「陰口根絶協会」と「妖精の女王」というタイトルで劇が行われるのです。アンは妖精の女王の女王様の役になりたくて仕方ありませんでした。しかしダイアナはアンには無理だと言うのです。なぜなら赤い髪の女王様などいるはずがないからでした。そして配役の日、女王の役はアンの期待をよそにジェーンに決まりました。アンはお付きの妖精達に選ばれ、少し残念に思いましたが、アンは妖精の役を一生懸命やろうと考えます。アンは家に帰っても劇の練習に精を出してマリラを呆れさせ、ダイアナなど他の生徒達も同様でした。他の仲間達もステイシー先生の指導の元に、みな芸術家に生まれ変わったように夢中だった。しかしアン達のこうした熱中ぶりは現実主義者のマリラには当然気に入らなかった。アンはマリラに劇の練習の事で愚痴を言われて落ち込んでいましたが、マシュウのちょっとした誉め言葉でアンはすっかりと勇気付けられるのでした。
第27話 マシュウとふくらんだ袖
 クリスマスをあと2週間後に控え、アン達は今日もまた情熱のすべてを傾けてコンサートの練習に励んでいた。ひょんな事からアン達をのぞき見る事になってしまったマシュウはアンの様子が他の少女達と違う点がある事に気付いた。アンが他の誰よりも活き活きと輝く目を持ち華奢な目鼻立ちをしている事は明らかだったが、マシュウの心を騒がせた違いはそれではなかった。夕食の間もマシュウはアンと他の少女達の違いを見つけようとずっと考えていた。結局この問題を解く事はできなかった。夕食後マシュウはマリラに聞くわけにもいかなかったので、マリラに嫌がられながらもパイプに頼ってこの問題を解く事にした。長い時間を費やした末にようやくマシュウの見つけた答えはアンの服装が他の少女達と違うという点であった。流行などという代物にはまったく疎いマシュウではあったが、アンがグリーンゲイブルズに来て以来、いつも飾り気のない色の濃い同じ型の服しか着ていないのだ。他の子達のような袖のふくらんだ華やかな服は一度も着た事がない事実に気が付いたのであった。
 マシュウはマリラがアンに地味な格好ばかりさせておくのが理解できませんでした。次の日、マシュウはマリラの目を盗むようにして町へ出かけた。ダイアナ達がいつも身に付けているような服を一つアンに買ってやろう。それはクリスマスの絶好のプレゼントになるだろう。そう思うとマシュウの心は柄にもなく弾んだ。マシュウはカーモディまで馬車を走らせ行きつけのウィリアム・ブレアの店を素通りした。なぜならブレアの店では最近二人の娘が客の応対をする事が多かったが、今日のようにあれこれ説明して相談に乗ってもらわねばならない買い物の場合、女性相手ではマシュウにはとうてい無理だったからである。サミエル・ローソンの店ならサム自身か息子が相手をしてくれるはずだから、そう考えてマシュウはサミエルの店に行った。しかし応対してくれたのは女将さんの姪の魅惑的なハリスで、マシュウはサミエルがハリスを1年も前から雇っていた事を知らなかったのである。マシュウは舞い上がってしまい、アンのふくらんだ袖の服を買いに来たのに、必要もない熊手と黒砂糖を買ってしまいます。どうして必要もない熊手と黒砂糖を買い込む羽目になったのだろうかと、マシュウが我に返ったのは家路に向かって半ば以上も馬車を走らせてからであった。しかし行きつけない店で買い物をするという過ちを犯した以上、当然の報いとしてあきらめるよりなかった。アンに袖のふくらんだ服を買ってやるというマシュウの密やかな計画は、何とかマリラに感付かれずに済んだが、この計画の実行にあたってはどうしても女性の協力が必要である事をマシュウは痛感した。アボンリーの村でマシュウが助けを求めて行ける女性と言えばレイチェル夫人を置いて他には考えられなかった。マシュウはレイチェル夫人に相談に行くと、この親切な夫人は直ちに悩める男の手から悩みを取り去ってくれた。マシュウはレイチェル夫人にふくらみ袖の事を伝えるだけでたいそう苦労しましたが、何とかレイチェル夫人は理解してくれたようで、最新流行の服をアンに作ってやると大張り切りでした。
 翌日、レイチェル夫人はウィリアム・ブレアの店に生地を買いに出かけた。そして家に戻るとすぐに仕立てにかかり、その日のうちにあらかた目処を付けるという早業であった。一方アンは相変わらずコンサートの練習に忙しく、マシュウの企みに気付くどころではなかった。マリラはマシュウのそぶりから何かありそうだと思っていたが、その内容となると皆目見当が付かなかった。こうして2週間は瞬く間に過ぎた。マシュウの待ちに待ったクリスマスイブの日となった。レイチェル夫人は完成したばかりの袖のふくらんだ服をグリーンゲイブルズに持ち込んだが、それを見たマリラはアンの虚栄心を増長させるだけだと言って反対します。マリラは実用的でない袖のふくらんだ服が好きではありませんでした。しかしそこへアンが戻ってくると、マリラは率先してアンへのプレゼントを隠してしまいます。マリラもアンの喜ぶ顔を見るのは楽しみだったのです。静かなクリスマスイブだった。グリーンゲイブルズでは何のお祝いもしなかったが、台所は暖かい空気に包まれていた。アンはいつものように興奮して明日に迫ったコンサートの事を熱心に話し、マリラは口を挟まずいつになくよく聞いてくれた。そしてマシュウは服を渡した時のアンの喜びを思い描いて一人悦に入り、明日に備えて早めにアンが寝た後もソファでパイプを咥えていた。外は雪が降っており、明日はホワイトクリスマスになりそうでした。
第28話 クリスマスのコンサート
 一夜明けるとグリーンゲイブルズの周りは一面の美しい銀世界になっていた。マシュウは恥ずかしそうにクリスマスプレゼントとして、袖のふくらんで胸元にレースの縁取りのされた茶色の流行の服をアンに手渡します。それを見たアンは嬉しさでしばらく声も出ず、泣き出してしまいます。それを見たマシュウはアンが服を気に入らなかったのだと思いましたが、アンはマシュウの胸に飛び込んで喜びました。アンはまるで夢を見ているようだったのです。アンは袖の手を通す胸のときめく瞬間を考えると、とても朝食を食べる気にはなりませんでした。しかし今日はコンサートの日、お腹をすかしていては満足な演技ができないとマリラに諭され、アンは朝食を食べます。
 アンが朝食の皿洗いをしている時、ダイアナがやって来ました。ダイアナはアンにプレゼントを持って来ました。それはジョセフィンおばさんがダイアナにたくさんのクリスマスプレゼントを贈った中に、アンへのプレゼントも入っていたのです。アンが箱を開けると中にはかわいらしい靴が入っていました。アンはコンサートで履ける靴がなく、ルビー・ギリスからサイズの合わない靴を借りてハンカチを詰めて履いていたのです。それを知っていたダイアナはジョセフィンおばさんにおねだりしてアンにプレゼントしてもらったのです。アンはダイアナとジョセフィンおばさんの親切に大喜びでした。
 部屋に戻るとアンは恐る恐るふくらんだ袖の服を着ました。そして自信なさげにマリラとマシュウに似合うか見てもらいます。それはもうぴったりで、それを聞いたアンも大喜びで、自信を持ってコンサートの準備に出かけます。マリラはコンサートに反対していたのでコンサートには来ないとアンは思い込んでいましたが、マリラは校旗を作る為の大事なコンサートだから協力すると言うのです。そればかりか、あれだけ人前に出るのが嫌いなマシュウまでがコンサートに行くと言いだし、マリラをびっくりさせてしまいます。
 その日一日、アボンリー小学校の生徒達は熱っぽい興奮に包まれていた。公会堂の飾り付けと大詰めの総ざらえをしなければならなかったからである。公会堂は既に超満員となり、午後6時にいよいよアボンリー小学校主催によるクリスマスコンサートは華やかに開演した。2ヶ月に及ぶ練習の成果は実を結び、初めての試みにしてはいずれも素晴らしいできばえで、生徒達の熱演は村人達や近在からクリスマスを楽しみにやって来た人々の共感を呼んだ。前半のハイライトであるダイアナの独唱は満員の聴衆を魅了しアンコールとなった。そしてその事を誰よりも喜んだのは他ならぬアンであった。
 出番の直前、アンは会場にマシュウの姿を見つけびっくりしてしまいます。一番心待ちにしていた人が会場に現れた事を知ったアンは、その人の為に全身全霊を傾け声の限りを尽くして熱演した。アンのもの悲しい詩の暗唱は少なからぬご婦人達のハンカチを濡らし、割れるような拍手で応えられた。熱気は公会堂を包んだままクリスマスの夜は更けていった。この日いくつものグループによる会話劇が演じられたがアンとジョーシー・パイという、およそ妖精らしくない妖精が登場するという点において妖精の女王は他を圧倒した。こうしてアボンリー始まって以来の小学生によるクリスマスコンサートは信仰と希望と愛の活人画をもって大成功のうちに終わった。アンは今日の感激を一生忘れないと思いました。その夜、20年ぶりにコンサートに出かけたマリラとマシュウはアンが床についた後もしばらく寝付かれそうになかった。マリラとマシュウはアンが利口な事に気付き、アンの事を自慢に思います。そして将来、アンをクィーン学院へ進学させようと考えるのでした。
第29話 アン、物語クラブを作る
 クリスマスのコンサートが終わってからアボンリーの子供達が平穏な日常生活に落ち着くまでに暇がかかった。特にアンにとって何週間にも渡って興奮の杯を味わい続けた後、一切の事柄がすべて無味乾燥でつまらなく思われた。いったいあのコンサート以前の遠い日々の穏やかな喜びに戻れるのだろうか。最初のうちそんな事はとても無理のように思われた。しかし結局アボンリーの学校はいつの間にやら昔の軌道に戻り元のままの関心事が人々の心をとらえた。そして冬の日々は知らぬ間に過ぎていった。いつになく暖かい冬でろくに雪も降らなかったので、アンとダイアナはほとんど毎日、樺の道や恋人達の小道を通って通学する事ができた。3月、アンの誕生日に学校帰りのアンとダイアナは軽やかな足取りでお喋りの間もずっと周囲に目を向け聞き耳を立てながら歩いていた。ステイシー先生から「冬の野や森を行く」という題の作文を近いうちに書くようにと言われていた二人は観察眼を働かせる必要があったのだ。野や森についてはダイアナも書く事ができそうでした。しかし月曜日に提出する「自分の頭で考えた物語」にダイアナは困ってしまいます。アンにとって想像力で物語を作るのは何でもない事ですが、ダイアナにとっては難しい事でした。アンは既に物語を書き終えておりダイアナに物語を語って聞かせます。ダイアナはアンの物語にすっかりと引き込まれてしまうのでした。
 ダイアナはアンの想像力に感心し、自分もアンのように想像力があればいいのにと思います。するとアンは物語クラブを作って想像力を養えばいいと提案します。ダイアナも賛同し、物語クラブは誕生しました。最初はアンとダイアナの二人だけだったが、やがてジェーン・アンドリュースとルビー・ギリスの他、一人二人が加わるまでになった。ステイシー先生からの宿題を前に、みんな自分達の想像力を養う必要を感じたからである。男の子達は入れない事になった。そして会員は毎週一つずつ物語を書く事になった。そこでの作品は会員の両親だけでなく、アラン夫人やジョセフィンおばさんも読むところとなり、悲しい物語のはずでしたが、大いにみんなを笑わせるのでした。
第30話 虚栄と心痛
 春も近い4月末のある午後の事、マリラは夫人後援会に出かけ、アンが一人台所で物語を書いていた時、トランクをぶら下げた行商人がひょっこりと現れグリーンゲイブルズのドアをノックした。アンは言いつけを守り行商人を家の中に入れずポーチの踏み段のところで品物を見せてもらった。行商人の差し出す化粧水に、アンはマリラから、せっかく授かった顔に色んなものを塗りたくってうわべだけを繕う事は神に対する大きな冒涜と聞かされていましたが、アンはそう考えていませんでした。うわべを繕わなければならないような顔を授ける神様も不公平だと思っていたのです。アンは行商人の荷物の中にヘアカラーがあるのを見つけました。ヘアカラーがあればアンの赤い髪はたちまちカラスの濡れ羽色になるのです。行商人からそう聞かされたアンは全財産の50セントでヘアカラーを購入しました。
 アンは飛び上がらん勢いで大喜びし、早速ヘアカラーで自分の髪を黒く染める事にしました。ところがカラスの濡れ羽のように黒く染まるはずが、まだらな緑色に染まってしまい、アンはショックで悲鳴を上げてしまいます。その日、マリラはアンに家事をしておくように言いつけて夫人後援会に行っていましたが、マリラが帰ってきても家事がされていないばかりかアンの姿もありません。夕食の時間になってもアンは戻ってこないので、とうとうマリラは怒りだしてしまいました。ところが夕食後マリラがアンの部屋に行くとアンは部屋にいたのです。アンの様子がおかしいのでマリラはアンを問い詰めると、アンの髪の毛は緑色に染まっていたのです。アンは赤い色の髪ほど嫌な色はないと思っていました。しかし緑色の髪はその10倍も嫌な色だという事がわかったのです。アンはマリラに昼間あった事の一部始終を説明し、隠れてしまったマシュウは出て行く事もならず、ただ息を潜めてアンの悲劇に同情するばかりであった。マリラは虚栄心の結果がどういうものかアンが気付けばいいと言いながらも、お湯を使ってどうにか緑色の毛染めを落とそうとしますが、何度洗っても毛染めは落ちませんでした。
 その日からアンは家に閉じこもったきり虚栄心の結果である緑の髪を日に何度となく洗ったが、染料は落ちる気配はなかった。そして一週間たった時、マリラはきっぱりとアンに髪を切るよう言います。アンもそれしか方法はないと考え、自らハサミを持ってきました。マリラは緑色に染まったアンの髪を切りますが、髪を切る間もアンは悲劇の主人公である自分が悲しくてアンは泣き続けるのでした。ようやく髪を切り終わりアンはふと鏡を見ますが、鏡を見た瞬間、髪が伸びるまでもう二度と鏡を見ないと言います。しかしアンはこれから毎日鏡を見て自分のみっともなさをこの目で確かめる事にしました。アンが再び登校したその日、短く刈った髪型は学校中にセンセーションを巻き起こした。しかし幸いな事に誰一人本当の理由に気付く者はなかった。アンはホッと胸をなで下ろした。それというのも容赦なく徹底的に切ったマリラの腕前のおかげと、緑の髪の秘密を一言も漏らさなかったダイアナの友情のおかげであった。ただ一人ジョーシー・パイだけは「あなたの髪は最新流行かもしれないけど、どこから見てもかかしそっくりね」と言うのでした。
第31話 不運な白百合姫
 夏休みの8月、アンの髪もすっかり元通りになり、アン、ダイアナ、それにジェーン、ルビーと物語クラブの面々は毎日のようにこのきらめきの湖に現れ、彼女たちの楽しい思い出になるであろう満足すべき時間を過ごしていた。アンの想像により彼女たちは白百合姫を演じる事になった。ちょうど近くの桟橋にはボートが浮かんでいたので、そのボートに死んだふりをして一人で乗って湖の中程まで押し出されるのです。みんなは一人でボートに乗る勇気がなくて、白百合姫役を断ってしまい、仕方なくアンが白百合姫を演じる事になりました。そして死んだ白百合姫を演じるアンを載せたままボートは湖へと押し出されてしまいました。
 アン達の計画ではオールで漕がなくてもボートは自然に押し流されて下手の岬に流れ着くはずでした。ところがアンが死体としてボートに横たわっていると、水が漏れてきました。ボートの底には穴が開いていたのです。アンは一生懸命水を掻き出そうとしましたが、浸水するスピードの方が早く、ボートは沈没寸前です。アンはどうにかきらめきの湖にかかる橋の橋脚にしがみついてボートから脱出しました。一方ダイアナ達は先回りして岬でボートの到着を待っていました。やがてボートは遠くから流れてきましたが、ダイアナ達が見ている前でボートは沈んでしまったのです。ダイアナ達は慌てました。そして泣きながらダイアナ達は大人達を呼びに家に走って戻ったのです。橋脚にしがみついていたアンは走ってくるダイアナ達を見て叫びましたが、その声がダイアナ達に届く事はありませんでした。
 アンは湖でボートに乗って釣りをしている人を見かけました。アンは大声で助けを求めると、その釣りをしている人物はギルバート・ブライスだったのです。ギルバートはすぐに助けに行きました。アンは嫌な人物に出会った事で気分を悪くしてしまいますが、助けを断る事もできず、ギルバートのボートに飛び乗ると船着き場まで送ってもらいます。船着き場に到着しアンが帰ろうとする時、ギルバートはアンを引き留めると、アンの髪をからかった事を謝り、そして仲直りしようと提案します。その提案にアンは一瞬喜びましたが、すぐにアンは「いいえ、私あなたとは仲良しになれないわ、それにせっかくだけとなりたいとも思っていないの、ギルバート・ブライス」と言ってしまいます。それを聞いたギルバートも怒って「わかったよアン・シャーリー、もう二度と仲良しになろうと言い出さないよ、僕だってまっぴらさ」と言ってボートに乗って去ってしまうのでした。
この白百合姫事件はアボンリーの子供を持つ親たちを仰天させてしまった。特に物語クラブの親たちの驚きようは例えようもなく、子供達はもう二度と再び船遊びをしない事を何回も誓わされる羽目となった。
第32話 生涯の一大事
 ある日の事、ジョセフィンおばさんがアンとダイアナに博覧会を見に町へ泊まりに来るように手紙をよこしてきました。それを見たアンとダイアナは大喜びでしたが、アンはマリラが行かせてくれないのではと心配します。アンは博覧会に行く事は嬉しかったのですが、マリラが行かせてくれなかった時のショックを考え、博覧会の事は考えないようにしました。ところが意外な事にマリラはあっさりとアンが町に行く事を承知した。マリラはアンもそろそろ大きくなったのだし、少しは世の中を見て回るのも悪くないと言ってくれたのです。それを聞いたアンは大喜びでした。
 当日、火曜日の朝は上天気だった。アンは朝早くから起き出すと新しい服を着てバリー家に駆けつけ、ダイアナと一緒にバリー氏の馬車に乗って出発した。町までの道のりは長かったが、アンとダイアナは退屈するどころではなかった。どこを通っても二人には興味を引く話題に事欠く事はなかった。昼過ぎ、やっと一行はプリンスエドワード島第一の都市シャーロットタウンに入った。ジョセフィンおばさんの家はシャーロットタウンの郊外にあり、馬車はようやく到着した。豪華なジョセフィンおばさんの邸宅は田舎暮らしと孤児院しか知らないアンにとって驚きの連続であった。客間の天井には豪華なシャンデリア、壁には何枚もの絵画、床にはベルベットの敷物、窓には絹のカーテンがかかっており、アンはそこがまるで宮殿のように感じてしまいます。アンはこういったものをずっと夢に描いてきた。でも、いざそれらの物が現実になると、居心地がいいようには感じませんでした。そればかりかこの部屋には何もかもがそろっていて、それがみんなすばらしいの物だったので、アンは想像を働かせる余地がありません。アンは貧しくて想像する物がたくさんあるというのは幸せな事かもしれないと思ってしまうのでした。
 シャーロットタウンの博覧会は毎年秋のさわやかな9月下旬に行われる、プリンスエドワード島の人々の人気の的だった。会場では農産品や手工芸、美術品、そして新しい農機具などの展示、表彰が行われるのはもちろん、年に一度のお祭りとして様々なアトラクションが華やかに繰り広げられた。そしてダイアナは馬車競争で赤い馬に10セント賭け、見事勝利します。さらに二人はおみくじを引いて将来を占い、楽しい時を過ごすのでした。
 その夜、アンとダイアナは客用寝室で寝る事になりました。アンは客用寝室で寝るのが夢でしたが、いざ客用寝室で寝ると自分が考えていたほどの事ではありませんでした。小さい時に欲しかったものでも、大きくなっていざ手に入るとその半分も素敵に見えない。これが大きくなる事の一番困った点だとアンは思うのでした。
 木曜日、アンとダイアナは海辺の公園に馬車でドライブした。公園にはグリーンゲイブルズの周りには見られない大きな木々が立ち並び、人々は午後の散歩を楽しんでいた。そしてその日の夕方、ジョセフィンおばさんは二人を音楽学校のコンサートに連れて行った。アンにとってこの晩は夢のような喜びに輝いていた。初めて見聞きする有名なプリマドンナの歌に、アンはすっかり興奮し、うっとりと聞き惚れるばかりで、休憩時間もじっと押し黙っているほどだった。コンサートが終わってもアンの興奮は冷めなかった。そこでジョセフィンおばさんはアンとダイアナを誘ってレストランにアイスクリームを食べに行きます。アンはそれが無味乾燥な事だと思いましたが、ダイアナにはこうした都会の生活がぴったりでした。
 そして金曜日、帰宅の時が来て再びバリー氏が馬車で二人を迎えに来てくれた。アンとダイアナはとても楽しい時を過ごしました。しかしアンは自分が都会で生活するようには生まれついていないとジョセフィンおばさんに言います。アンにとって夜の11時に明るいレストランでアイスクリームを食べるのも時にはいいけど、普段は11時には自分の出窓の部屋でぐっすり眠っていたかったのです。眠りながらでも外では星がきらめき風が小川の向こうの樅の梢を渡っているのを感じる。アンはそんな生活の方が自分には合っていたのです。それを聞いたジョセフィンおばさんは笑いながら「本当に面白い事を言う子だねぇあんたは」と言います。ジョセフィンおばさんはマリラが孤児院から女の子を引き取ったと聞いた時は、何って馬鹿なんだろうと思いましたが、結局それは失敗でもなく、あんな子をいつも手元に置いておけるなら自分ももっと幸せな人間になれるだろうと思うのでした。
 馬車は走り続け、ようやくアボンリーの丘が見えてきました。それを見たアンは「ああ、でも家に帰れるって嬉しいものね」と感激します。アンはグリーンゲイブルズに帰って来ました。アンは帰ってきた事が本当に嬉しくてたまりませんでした。マリラはアンのいない4日間がとても長く感じており、アンの帰宅を待ちわびていました。アンの為に用意した七面鳥の丸焼きを食べ、そして夕食後、アンはマシュウとマリラの間に座って町での出来事を話し続けた。そしてアンは「本当に素晴らしかったわ、私の生涯の一大事だったんだって気がするの。でも一番よかったのはね、一番よかったのは家に帰ってくる事だったわ」と言うのでした。
第33話 クィーン組の呼びかけ
 11月のある日、ステイシー先生は13歳以上の女生徒だけを湖の畔に集めて人生の基礎や将来についてあれこれと注意した。そしてその日の帰り道、アンとダイアナは将来について語り合いました。アンは結婚はあきらめて、ダイアナとの永遠の友情に生きるつもりでいましたが、ダイアナは結婚すると言うのです。ダイアナは荒くれ者の悪党と結婚して改心させるのが夢でした。しかしアンはダイアナが男の子達と仲良く話しているのが気に入らず、とうとうダイアナは「あなたがつまらない意地を張ってギルと喋らないからって、私まで男の子と口をきくなって言うつもり?」と言って怒ってしまい、アンは「二人の友情ももうお終いだわ」と言って泣きながら走り去ってしまうのでした。
 アンは悲しい気持ちで家に帰ってきました。しかし家には誰もいません。納屋の樽の上にリンゴが置いてあったので、アンはそれを食べ始めました。ところがそれを見た手伝いのジェリーが、そのリンゴにはネズミを殺す為に女の子を12人殺せるだけの毒が盛ってあったと嘘を言ったのです。ところがそれを信じたアンは慌てて台所に行って震える手で水を飲むと、ダイアナと喧嘩したまま死ぬ事はできないと考え、慌ててダイアナと仲直りしに行こうとしますが、途中の林の中で死んでしまうのが怖くなり行く事はできませんでした。アンはカスバート家の恥知らずになってはいけないと決心し、ベッドの中で安らかに死のうと考えました。
 ジェリーはあっという間に毒が回って死ぬと言っていましたが、アンはなかなか死にそうにありません。そこでアンはマシュウとマリラ、そしてダイアナに遺書を書く事にしました。アンはどうせ死ぬのだったらグリーンゲイブルズの人間として恥ずかしくない死に方をしようと考えたのです。アンは一生懸命遺書を書くのでした。
 マリラが家に帰ってくると神妙な顔をしたアンは、自分はもうすく死ぬと言って遺書を差し出しました。アンから事情を聞いたマリラは毒入りのリンゴを食べてから1時間も経過しているなら、とっくに死んでいるか具合が悪くなっているはずだと言います。そしてジェリーから毒入りリンゴの話は冗談だったと聞かされ、アンは血相を変えてジェリーを追いかけて怒るのでした。
 マリラはその日ステイシー先生が家にやって来たと言いました。ステイシー先生はクィーン学院の受験準備のクラスを作るので、そのクラスにアンを入れる気があるかを尋ねに来たのです。マリラはアンに、クィーン学院に行って先生になるつもりがあるかを聞きました。もちろんアンは先生になりたかったのですが、クィーン学院に行くにはお金がかかるので、グリーンゲイブルズに置いてもらっている身分のアンには言い出せなかったのです。しかしマリラはアンを引き取って育てると決めた時、できるだけの事はしてやろう、教育もおろそかにすまいと決心していたのです。それを聞いたアンは大喜びでマリラとマシュウにお礼を言い、精一杯頑張って二人の誇りになるよう最善を尽くすと言います。クィーン学院の試験まであと1年半ありましたが、アンは人生に目標ができたから、試験までこれまで以上に勉強に身を入れようと決心するのでした。
第34話 ダイアナとクィーン組の仲間
 翌日、アンはダイアナに謝り、アンとダイアナは無事仲直りしました。そしてアンは自分がクィーン組に入るのをマリラが認めてくれたと言って大喜びでダイアナに報告します。アンはクィーン学院に行ってもダイアナと一緒に勉強できると思うととても嬉しかったのです。しかしダイアナは自分はクィーン学院には行かないと言うのです。アンにはなぜダイアナがクィーン学院に行かないのか理解できませんでした。ダイアナは両親がクィーン学院には行かせるつもりはないと決めたと言いますがアンは納得せず、しつこくダイアナにクィーン学院に行くよう誘い、ダイアナを怒らせてしまいます。アンは孤児の自分でさえクィーン学院に行こうとしているのに、ダイアナが行かないとは思ってもみませんでした。それを聞いたマリラは「あんたこそダイアナの気持ちがわかっているのかい? ダイアナは本当にあんたと同じように先生になりたいと思っているのかね。クィーン学院へはその為に行くんだろ? きっとあんたがあんまり責めるものだから、ダイアナは本当の気持ちを打ち明けられなくなってしまったのじゃないかと思うがね。あの子はあの子で自分に一番あった生き方を探しているんだろうよ」と言います。アンはダイアナと一緒に入試の準備ができたらどんなにすてきだろうと思っていました。そして今の今までダイアナもそう思っているのだと信じていたのです。マリラは「でもね、誰も自分の生き方を他人に強制する事はできないんだよ、アン」と言うのでした。
 翌日、アンはダイアナの家に行くと、これまでの事を謝りました。一昨日の結婚の事でも、そして昨日のクィーン学院の事でも、アンは心の友だったら何でも一緒でなきゃならないと思い込んでいました。それでいつもダイアナに自分の考えを押しつけてばかりだったのです。アンは別々の道を歩かなければならなくなった時こそお互いを支え合うのが本当の心の友だと気付き、もう一度ダイアナとやり直す事にしたのです。そして初めて友情の誓いを立てたこの花畑で泣きながらもう一度誓いを立て直すのでした。
 ミニー・メイが喉頭炎を起こしたあの夜以来、ダイアナとすべて行動を共にしてきたアンにとってダイアナがクィーンのクラスに入らないという事、すなわち二人が別々の人生を歩むのだという事実は大変な衝撃であった。やがてクィーン進学のクラスは編成され、ギルバート・ブライス、アン・シャーリー、ルビー・ギリス、ジェーン・アンドリュース、ジョーシー・パイ、チャーリー・スローン、ムーディ・スパージョン・マクファーソンの7名となった。アンが覚悟していた通りダイアナ・バリーの名前はその中にはなかった。
 授業が終わると、クィーン進学のクラスだけ毎日1時間の課外授業が行われます。先に帰るダイアナは、居残りのアンに手紙を渡しました。その手紙には、自分がクィーン学院に行かないのは、両親のせいばかりではなく、自分が勉強が好きではなかったり、教師になりたいわけではなかったが、それをアンに言う事ができなかったと書かれていました。そして手紙の最後に、私がクィーン学院に行かなくても今まで通り仲良しでいつまでも心の友でいて下さいと書かれていたのです。それを読んだアンはダイアナを思って涙を流しました。いよいよみんな別々の道を歩き始めたのです。アンはそれを大変寂しく感じるのでした。
 クィーン組の課外授業が始まって2ヶ月が経過しました。アンとギルバートの間にはあからさまな競争意識があった。これまではどちらかと言えばアンの一方的なものに過ぎなかったが、今ではギルバートの方もアンと同様、一番になろうと心を決めている事に疑問の余地はなかった。アンはギルバートにとってまったく文句なしの好敵手だった。湖の畔でかつての無礼をわび、それをアンが退けたあの日以来、ギルバート・ブライスは勉強における競争意識の他はアンの存在を一切無視する態度を取っていた。他の女の子達とは話しもするし冗談も言い、本や問題集を交換したり、時には家まで送って行く事もあったが、アンだけはまったく無視していた。アンは面白くなかった。今こそあの昔の怒りを胸に燃やして気持ちを支える必要があったにもかかわらず、揺れ動くアンの小さな女心の奥深くで、あの時あんなに傲慢な態度を取らなければよかったと後悔の念が広がるばかりであった。しかしアンはその思いを深い忘却の彼方へ押しやる決意をし、それを見事にやってのけたので、誰にもアンの本当の気持ちを悟られる事はなかった。
第35話 夏休み前の思わく
 グリーンゲイブルズに春が再び巡ってきて、世の中はもう一度花に包まれた。その頃になると勉強にもいささか倦怠の兆しが見えてきた。他の生徒達が緑の小道や葉の茂る森の細道や牧場を縫う道へと思い思いに散っていくのをあとに残されたクィーン組は窓から恨めしげに見送った。勉強に対して厳しい冬の間に抱いていた興味や熱意がどうやら薄れてくるのをどうする事もできなかった。アンやギルバートさえだれてきて、前より勉強に打ち込まなくなった。そしてその頃アンは驚くべき噂を耳にした。それはステイシー先生が実家の小学校に転勤するというものでした。そしてやっと学期の終わりの日がやってきた。ステイシー先生は来年の受験に向けて猛勉強が必要になるので、夏休みの間はしっかりと遊びなさいと言います。子供達は夏休みの事よりステイシー先生が来年も教えてくれるかどうかの方が心配だったので直接尋ねると、ステイシー先生は来年もアボンリーに残ると言うのです。それを聞いた子供達は大喜びでした。
 アンは学期最後の学校から帰ると、教科書を屋根裏部屋の長持ちの中に鍵をかけてしまってしまいます。アンは学期中精一杯勉強し頭を使う事は飽き飽きしたので、夏の間は教科書は一切見ず、想像力を伸ばす事にしたのです。アンはもう14歳になっており、自分が子供で通るのはこの夏が最後になるかもしれないから、思う存分愉快に遊ぶつもりでいました。
 翌朝アンは食事の後片付けが終わると早々にダイアナの所に出かけた。これから2ヶ月、どうやって楽しい休みを過ごそうかじっくり計画を練るつもりなのであった。そしてその日の午後、マリラが後援会に出かけようとしていた時、マシュウは胸を押さえて苦しみだしたのです。マシュウは以前から心臓が悪く今まで度々発作を起こしてきた。孤児院から子供をもらおうと考えたのも元はと言えば置いて心臓の弱ったマシュウに代わる働き手が欲しかったからであった。マシュウはスペンサー先生に診てもらい、力仕事や興奮する事のないようにと言われます。スペンサー先生は帰る時、アンについても所見を言いました。それはアンの顔色が以前に比べて悪くなっているので、この夏は外で伸び伸び過ごすように仕向け活発に飛び回らせるようにした方がいいと言うのでした。
 それを聞いたマリラはマシュウの事以上にアンの事を心配しました。そして帰ってきたアンがダイアナの家の中でダイアナと静かなお話をしていたと聞いて、表に出て遊ばなきゃと言って怒り、アンは不思議に思ってしまいます。次の日、アンとダイアナは海辺で楽しく走り回って遊びました。そして午後になって二人が海辺から帰途につく頃、グリーンゲイブルズにはレイチェル夫人が尋ねてきていた。マリラが昨日の後援会を休んだので様子を見に訪ねて来てくれたのである。レイチェル夫人とマリラが客間でくつろいでいる間にアンはお茶を入れビスケットを焼いたが、さすがのレイチェル夫人も文句の付けようがないほどビスケットは軽く真っ白にできていた。アンはマシュウの心臓発作の事も、マリラが自分の体の事を気遣っている事も知らず、ただ空に浮かぶ夏雲のように開放感に酔いしれていた。
第36話 物語クラブのゆくえ
 アンは思う存分、楽しい夏を過ごした。アンとダイアナはほとんどの時間を戸外で過ごし、心ゆくまで歩き回り、船をこぎ、イチゴを摘み、夢想にふけった。マリラはアンがあっちこっち飛び回る事に関して、医者の忠告に従って少しも反対しなかった。ある日の夕方、バリー氏はアンとダイアナをホワイトサンドのホテルへ連れて行った。ディナーをごちそうしてくれるというのである。ホテルはアメリカからやって来た避暑客で賑わい、ホールは新発明の電灯でまばゆく光り輝いておりアンを驚かせた。
 そして夏休みも終わりに近づいたある日の事。アンとダイアナは久しぶりにアイドルワイルドと名付けた樺の木立を訪れた。そこはアンとダイアナが初めて友達になった遠い日々に共に遊んだ場所でした。しかしその場所にあったはずの樺の木立はすべて切り倒され、変わり果てた姿に二人は呆然と立ち尽くすばかりであった。懐かしい思い出の品々は昔を思い起こさせ二人の心を締め付けた。アンとダイアナは切り株に座ってさめざめと涙を流した。しかしその涙は幼い日の感傷に彩られて甘かった。夏休みの最後の日、アンは鍵を持って意気揚々と屋根裏にのぼり、古いトランクから教科書を取り出すと「大切な級友たちよ、おまえたちの立派な顔を見れてうれしいわ」と懐かしそうに話しかけた。アンは夏の間に見違えるほど健康的になったのです。
 翌日、新学年最初の日、今日からミニー・メイも一年生となりアンやダイアナと一緒にアボンリー小学校に通います。ステイシー先生は新学年が始まって自分たちの生徒が再び 勉強に熱意を燃やしているのを知って嬉しかった。特にクィーン組は戦いに備えて気を引き締めて立ち向かおうとしていた。そしてアンとギルバートの主席争いは一段と激しさを増したようであった。アンは毎日夜遅くまで勉強した。マリラはしきりにアンの健康を気遣ったが自分の頭痛やマシュウの心臓の事はアンには一言もこぼさなかった。
 ある日の事、アンは自分だけがクィーン学院に不合格になる不吉な夢を見た。例え夢にせよアンにとってこれ以上の悪夢はなかった。物語クラブは1年半ほど前、作文の宿題がきっかけになって、アン達が始めたサークルであった。ダイアナもルビーもジェーンも今ではすっかり物語そのものに対する情熱を失ってしまってはいたが、昔からの仲間が楽しく語り合う場として細々ながら続いていた。特にアンにとってクィーン組が始まってから、他の三人とゆっくりおしゃべりができる時間がとりにくくなっていたので、ほぼ月に一度、それぞれの家で持ち回りで開かれるこのお茶の会を大いに楽しみにしていた。今日はアンの部屋で物語クラブが行われるはずが、なぜかダイアナが来ません。ルビーは歴史の勉強が忙しく、こんな場所でのんびりしている時間がないし、みんな物語を作ってこなくなったので物語りクラブをやめたいと言い出します。ジェーンは時々お茶を飲みながらお話しするのは楽しいけど、物語クラブはやめたいと思っていました。そこで二人はもう物語クラブを解散しようと言い出しますが、アンはダイアナがいない時に決めるのはよくないと考え、ダイアナを呼びに行こうとしました。ところがダイアナは扉の向こうでアン達の話を聞いていたのです。ダイアナは物語クラブをとても楽しみにしていました。しかし自分はクィーン組ではないので、みんなの邪魔はできない、形だけの物語クラブを続けるのは無理だと考え、泣きながらダイアナも物語クラブをやめる事にしました。
 アンはみんな昔のように想像で物語を作って楽しんでいた時代は終わり、一歩一歩大人になっていくのだと感じていた。そして目が見えにくくなったと言っていたマリラも今日初めて老眼鏡をしていたのです。アンは今日一日で何だかすっかり年を取ってしまったような気がするのでした。
第37話 十五歳の春
 雪に閉ざされた冬が過ぎ去り、再び春が訪れ、プリンスエドワード島の野や山を春風が駆け抜けていった。アンがブライトリバーの駅からマシュウの操る馬車に揺られてグリーンゲイブルズにやって来てから4年の歳月が流れ、アンは15歳になった。グリーンゲイブルズに来た時のアンはまだ小さかったが、今ではすっかり大きくなり、身長もマリラと変わらないほどになっていた。マリラはアンの古着をほどいてパッチワークの材料にしようとしますが、アンがグリーンゲイブルズに来た時に着ていた服は想い出がありすぎて、ほどく事ができませんでした。
 その晩、アンがダイアナと連れだって祈祷会に出かけた後、夕闇の中に一人座したマリラはアンの背が伸びた事に奇妙な落胆を感じていた。マリラがあれほど愛した小さな子はいつの間にやら消え失せ、その代わりに思慮深い顔をした背の高い真剣な眼差しの15歳の少女が姿を現したのだ。マリラはアンが初めてグリーンゲイブルズにやってきた時のアンの声を鮮やかに思い出していた。あの子供に注いだのと同じ愛を現在のアンにも与えてはいたものの、何かを失ったという言いしれぬ寂しさと深い悲しみを覚えずにはいられず、アンの想い出の古着を抱いて思わず泣いてしまいます。あと3ヶ月もすればアンはクィーン学院に行くのでグリーンゲイブルズを離れてしまいます。その時の事を考えると、マリラはとても寂しかったのです。マシュウは一週間もすればカーモディまで汽車の支線が開通するからシャーロットタウンも近くなり、アンもしょっちゅう帰ってくると言いますが、マリラはいつまでもアンを手元に置いておく事はできないだろうと考えていました。変わったのはアンだけではなかった。東の出窓のアンの部屋も、4年前のむき出しのがらんとした冷たさとは打って変わり、アンの成長に合わせて今ではすっかり乙女らしい雰囲気を漂わせていた。そしてアンの新しいベッドも届き部屋は見違えるようになった。
 新しくベッドが入りきれいに片付いたアンの部屋にマリラが入りますが、アンは勉強に熱中して必要以外の事は喋ろうとはしません。マリラは少し寂しく感じ、出窓に腰掛けるとアンに問いかけます。「アン、昔の半分もお喋りしなくなったねぇ、それに大げさな言葉もうんと数が減ったようだし。いったいどうしたというんだね」「自分でもわからないの。前ほど喋りたくないのよ。気持ちのよいすてきな考えが浮かんだら、そっと心の中にしまっておくの、宝石のように。その事で人から笑われたりかれこれ言われたくないの。それにどういうわけか大げさな言葉を使う気がしなくなったの。でも、ちょっと寂しい気がするわね。だって私こんなに大きくなったんだから、その気になればいくらでも使えるはずなんですもの。大人になるという事はある意味では面白いけど、私が思っていたのとは少し違うみたいねぇ、マリラ」とアンは答えるのでした。
 汽車がカーモディの駅まで開通し、近くの学校の子供達が一番列車を出迎える事になり、子供達は大喜びです。その一番列車に乗ってジョセフィンおばさんがやって来ました。アンはジョセフィンおばさんに出会えて大喜びです。その夜、マリラは明日ジョセフィンおばさんをグリーンゲイブルズにお茶に招待する事を提案します。早速、ジョセフィンおばさんの滞在しているバリー家に行くと、ジョセフィンおばさんは二つ返事で承諾した。アンは腕によりをかけた料理を作り始め、手伝おうというマリラの申し出を丁重に拒否した。 ジョセフィンおばさんに自力で作った料理を賞味してもらいたいという気持ちと同時に、受験勉強に明け暮れていたアンにとってこの事は格好の気晴らしになる事は確かであった。翌日、ジョセフィンおばさんはダイアナを伴ってグリーンゲイブルズを訪れた。マシュウはいつものようにこわばった表情でジョセフィンおばさんを迎えたが、マリラは密かにマシュウの心臓の事を心配するのだった。アンの見事な料理に堪能したジョセフィンおばさんはアンの入学試験の間、アンを自分の家でお世話させてもらえないかと満ち足りた気持ちでマリラに言うのです。マリラもアンもこの申し出には大喜びでした。ジョセフィンおばさんはクィーン学院にも自分の家から通えばいいと言いますが、そればかりは試験が終わらないとわからない事でした。アンは周りの人々の愛情に包まれて幸せをかみしめると同時に、一ヶ月先に迫った入学試験にどうしてもよい成績でパスしなければと決意を新たにするのであった。
第38話 受験番号は13番
 6月のなかば、クィーン組では目前に迫った入学試験に備え、最初で最後の模擬試験が行われた。模擬試験は本試験とまったく同じように、幾何、代数、ラテン語、国語など全科目が3日間に渡って行われ、その間中、アンは緊張のあまり食事も満足にできないようであった。そしてその成績発表の日、ステイシー先生はクィーン組の解散を宣言し、試験期間中は教科書を開かないように注意します。試験直前に勉強して徹夜するくらいなら、散歩でもして早く寝た方がいいと言うのです。そしてクィーン学院の受験票が配られました。ところがアンの受け取った受験番号は13番だったのです。アンはこの番号を見て不吉に感じずにはいられませんでした。
 6月が終わりを告げると、学期末の日がやって来た。そしてそれはステイシー先生の在職期限が切れる時でもあった。ステイシー先生は3年間このアボンリーの学校で教壇に立ち、そして今日この日にアボンリーを去っていくのです。ステイシー先生は生徒の一人一人に別れの手紙を書き、そして一人一人に声をかけながら手渡し、生徒達は涙に暮れるのでした。
 アンとダイアナは学校からの帰り道、何度も校舎を振り返りました。アンはもうこの懐かしい母校に永久に別れを告げるかもしれないと思うと、思わず涙が頬を伝います。しかしダイアナも新学期からアンやルビー、ジェーンだけでなくステイシー先生までがいない学校に通うのかと思うと、何もかも終わりのような気がしてしまい思わず泣いてしまうのでした。
 アンを馬車でシャーロットタウンまで送っていくつもりで張り切っていたマシュウは、アンの出発の前夜、持病の心臓発作を起こした。マシュウは大丈夫だと言い張ったが、マリラは大事を取ってアンを汽車で行かせる事にした。アンはカーモディの駅までマリラに馬車で送ってもらい、そこから汽車でシャーロットタウンに向かいます。シャーロットタウンの駅にはジョセフィンおばさんが迎えに来てくれていました。ジョセフィンおばさんは気を利かせて家に戻る前にアンをクィーン学院を連れて行きます。アンは初めて見る立派なクィーン学院に惚れ惚れとしてしまいます。
 月曜日の朝、予定通りステイシー先生は馬車で銘々の下宿を回って女生徒達をひろってクィーン学院に向かいます。そしてステイシー先生は教室に入る前に校庭で自分の教え子達に準備運動をさせ、それから受験会場である教室に向かわせました。試験は午前中に国語、昼食時間を挟んで午後に歴史が行われた。試験後、ルビーは国語の試験で間違いに気づき泣き出す始末。ステイシー先生は明日の試験に備えて英気を養う為、子供達と町に繰り出してアイスクリームをご馳走するのでした。水曜日は幾何の試験です。アンはその前夜、どうしても幾何の教科書を開きたくなり、その誘惑に打ち勝つ為にアンはダイアナに3枚も手紙を書きました。アンは幾何の試験を満足に解く事ができず、試験後落ち込んでしまいます。木曜日の3科目ですべての試験は終わり、受験生達はステイシー先生と今度こそ本当の別れの挨拶を交わし、心から感謝の気持ちを述べた。そして金曜日、アンはジョセフィンおばさんに別れを告げ、来た時と同様、カーモディまで汽車で向かった。カーモディにはマシュウが出迎えていた。二人がグリーンゲイブルズに着くとダイアナが待っていた。ダイアナは試験の様子を聞くと、アンは幾何以外はまあまあできたけど、幾何は自信がないと言います。アンにとってあと2週間後の発表を待つばかりであった。
第39話 合格発表
 入学試験が終わって待ち遠しい2週間が経った。受験生は合格発表が載っているはずのシャーロットタウン日報を取りに毎日郵便局へ足を運んだ。ところが2週間を過ぎてもシャーロットタウン日報に合格発表が載る事はなかった。そして3週間が過ぎても依然として合格発表はなかった。アン達はそれ以上緊張に耐えられないようであった。アンはアラン夫人に相談に行くと、アラン夫人は心配しても結果が変わるわけではないのだから、発表をいらいらしながら待つより、何かテーマを見つけて毎日を忙しく充実して過ごすようにとアドバイスします。それでもアンは試験結果が心配で郵便局に行く以外は家に閉じこもり食事も喉を通りません。そんなアンを見ていたマリラはアンに野良へ出てマシュウの干し草作りを手伝うように提案します。それを聞いたアンは大喜びでした。アンは一度干し草作りをやってみたかったのですが、マリラは女が男の仕事を手伝うのは上品な事じゃないと許してくれなかったのです。
 アンはマシュウの元に駆けつけ、早速干し草作りを手伝います。アンは時を忘れて一生懸命働きました。アンの心は久しぶりにほぐれた。急に体を動かした為であろう、合格発表の事を考える余裕もないほどお腹は空き、疲れ、眠かった。しかし着替えもせずにベッドに倒れ込んだアンの寝顔は、悩みから解放された安らかな寝顔であった。翌日もアンはマシュウの干し草作りを手伝った。アンが仕事を終えて部屋で休んでいた時、ダイアナが新聞を持って駆けてくるのが目に入った。アンはいよいよ自分の合否がわかるのだと思うと震えだしてしまいます。そして部屋にダイアナが飛び込んできてトップの成績で合格したと聞かされても半信半疑でした。しかしアンは震える手で新聞を見ると、確かに合格者の名前の一番上にアン・シャーリーの名前が書かれていたのです。それだけではありません、アボンリーのクィーン組の仲間全員が合格していたのです。その新聞はダイアナのお父さんがブライトリバーから持ってきたもので、アボンリーには明日到着する新聞でした。アンは自分がプリンスエドワード島で一番の成績で合格した事を喜び、早速新聞を手にマシュウの元に駆けつけ、その事を報告します。マシュウもマリラもそれを喜び、アンの事を誇りに思うのでした。
 合格発表のあった翌日、クィーン組のメンバーはそろって牧師館を訪れた。アラン夫妻が合格者を招待してくれたのである。クィーン組のメンバーは全員合格した事もあり、みんな大喜び。そしてステイシー先生からも祝電が届きました。クィーン組のメンバーは誰もがステイシー先生のおかげで合格したと思っていました。その夜アンもステイシー先生の写真に向かってお礼を言うと、すばらしい月光の差し込む開け放たれた窓辺に跪き、胸の底からあふれ出る感謝と希望の祈りを捧げた。それには過去に対する感謝と未来への敬虔な願いが込められていた。
第40話 ホテルのコンサート
 合格発表の後、アンは生涯でもっとも満ちた夏休みを心ゆくまで楽しんでいた。そしてある日の事、シャーロットタウンの大きな病院を援助する為にホワイトサンドのホテルでコンサートが開かれる事になり、そこでアンはアボンリーを代表して詩の朗読をする事になりました。マリラは落ち着き払ったその素振りにもかかわらず、実のところマリラもアンに与えられた名誉の誇らしさと喜びを大いに感じていたので、マシュウに早速その事を話した。マシュウはたちまち有頂天になり、いそいそとカーモディに出かけると、すっかり馴染みになった女店員のハリスにそそのかされて掘り出し物の真珠の首飾りを買ってきた。そして当日、着付け、髪型の一切をダイアナが受け持ってくれる事になった。ダイアナはこうした事に定評を得ていた。ダイアナの着付けは見事なもので、マリラもマシュウもアンを褒め称えるばかりでした。
 ホワイトサンドのホテルに到着したアンやダイアナは、周りの人々が自分たちでは考えられないような美しく着飾った服やアクセサリーを付けているのを見てびっくりしてしまいます。アンは出演者達の中で自分がすごく田舎者のように見えた。グリーンゲイブルズの部屋ではとても優美に見えた自分の服が今は見るからに粗末な物のように思えたのだ。
 ジョーシーはこのホテルに朗読の専門家であるミセス・エバンスが偶然宿泊しており、コンサートに出演する事になったとの情報を仕入れた来た。コンサートではシャーロットタウンからやって来た専門家に混じってカーモディやニューブリッジから選ばれた人達が次々と出演しよく健闘した。そしてミセス・エバンスの朗読が始まった。ミセス・エバンスの声は驚くほど緩急自在ですばらしい表現力を備えていた。聴衆は熱狂しアンはしばし自分の事も、今直面している困難も忘れうっとりと目を輝かせ聞き入っていた。しかし朗読が終わるとアンはこんなすばらしい朗読の後で自分が詩の朗読をする事はできないと嘆きますが、こうした運の悪い瞬間にアンの名前が呼ばれた。アンは恐怖でしばらく椅子から立ち上がる事もできなかった。そして真っ青な顔をして震えながら舞台に立ちます。アンは舞台の上で舞い上がってしまい、どうする事もできません。絶体絶命のピンチの中、アンは聴衆の中にギルバートの姿を見つけました。アンはギルバートに負けたくない一心で冷静さを取り戻し、朗読を始めたのです。アンの澄んだ美しい声は震えもせず途切れもせず部屋の隅々にまで鳴り響いた。すっかり落ち着きを取り戻し、先刻の恐ろしい反動でこれまでにないできばえだった。朗読が終わると聴衆は拍手喝采でアンコールまで出る始末。アンはマシュウの為にアンコールに応えた。ごく短いものだったが、気が利いて愛らしくこれはなおいっそう聴衆の心をとらえた。それから後アンにとって勝利の連続だった。コンサートが終わるとミセス・エバンスはアンの成功を祝福してくれた。誰もがアンに優しかった。
第41話 クィーン学院への旅立ち
 アンのクィーン学院への入学を控えてグリーンゲイブルズでは慌ただしい毎日が続いていた。その日の夜、スペンサー夫人からマシュウ宛に電報が届いた。翌日スペンサー夫人はグリーンゲイブルズを訪れた。一同は和やかに挨拶を交わしお茶の席に着いたが、マシュウはわざわざ出向いてきたスペンサー夫人の真意がわからず怪訝な気持ちを拭いきれずにいた。するとスペンサー夫人は、アメリカの大富豪がアンを養子にしたがっていると言い出したのです。そのアメリカ人は跡取りがおらず心を痛めていたところ、先日のホワイトサンドのホテルのコンサートでアンの朗読を聞いてたいそう感激し、アンの事を調べてスペンサー夫人に養子の話を進めてもらえるようお願いしに来たとの事でした。スペンサー夫人はアンと二人っきりになると、そのアメリカ人は銀行を5つも経営し、広大な敷地の屋敷では毎週のように舞踏会が開かれると言ってアンをその気にさせます。しかしアンの答えは決まっていました。アンはスペンサー夫人に養子の話をきっぱりと断ると、マシュウとマリラは嬉しくて笑い出してしまうのでした。
 アンは荷物をまとめてクィーン学院に向けて出発する準備を着々と進めます。マリラはルビーやジェーンがイブニングドレスを作ってもらったと聞き、そんな贅沢はアンにはさせられないと思っていましたが、アンの出発の日が近づくと、マリラはアンがクィーン学院で肩身の狭い思いをしないように、どうしてもアンにイブニングドレスを作ってやりたくなり、カーモディまで馬車で行く事にしました。翌日、カーモディに行く前にマリラは牧師館に寄ってイブニングドレスを作る生地を選んでくれるようアラン夫人に願い出た。大きくなったアンにどんな物を選んでいいのか迷った為とイブニングドレスなどという日頃のマリラには無縁の代物に戸惑った為だがアラン夫人はこの急な願いを快く引き受け、マリラと共にカーモディへ向かった。アラン夫人が選んだ生地はマリラを十分満足させる物であった。マリラは生地を買って帰ると、早速アンに見せました。アンはもちろん喜びましたが、こんなにまで優しくしてくれると、ここを立つのが日一日と辛くなるばかりでした。
 マリラはエミリー・ギリスに仕立てを頼み、エミリーは申し分ないドレスを仕立ててくれた。ドレスが届いたその晩、アンは感謝の意味を込めて真新しいドレスに身を包みホワイトサンドのホテルで朗読した物語をマリラとマシュウに聞かせようと提案した。アンは二人の前で心を込めて朗読しました。マリラはアンの朗読を聞いているとアンの子供の頃の事を想い出してしまい、思わず泣いてしまいます。マリラの目にはアンの背は伸び立派に見えてアボンリーの人間には見えない、そんな事を考えると寂しくなっていたのです。それを聞いたアンは「自分ははさみを入れたり枝を伸ばしただけで少しも変わっていない、どこへ行こうとどれほど外見が変わろうと心の中ではこれから先もずっとマリラの小さなアンなのよ、マリラとマシュウとこのグリーンゲイブルズのアンなのだわ」と言うのでした。
 9月になってアンがシャーロットタウンへ出発する日がとうとうやって来た。アンはマリラとダイアナに別れを告げるとマシュウの操る馬車でシャーロットタウンに向けてグリーンゲイブルズを出発します。アンは遠ざかっていくグリーンゲイブルズに向かって「さようなら、麗しのグリーンゲイブルズ。そしていざ行かん、希望の土地シャーロットタウンへ」と言うのでした。
第42話 新しい学園生活
 アンとマシュウは馬車でシャーロットタウンへ向かいました。マシュウはアンとこうして二人で馬車に乗っていると、それはまるでアンがブライトリバーの駅から初めてグリーンゲイブルズへ来た時のように感じてしまいます。シャーロットタウンに到着した二人は、まずジョセフィンおばさんの家に行き、アンの下宿先を案内してもらいます。ジョセフィンおばさんは自分の家にアンを置きたかったのですが、クィーン学院まで遠いので、アンの為にクィーン学院に近い場所に下宿を用意してくれていたのです。一方アンを送り出したマリラはじっとしていられず、猛烈に働く事で寂しさを紛らわそうとした。泣く事くらいではとうてい収まりそうにない胸の痛みに、しなくてもいい仕事にまで手を出し、一日中体を動かしたのである。
 アンとマシュウはジョセフィンおばさんの案内で下宿までやって来ました。下宿屋の主人下宿屋の女将はたいそう厳しそうな人で、アンは緊張してしまいます。部屋に荷物を置いたアンを見てマシュウは別れの時が近づいたと寂しく思いました。この日はジョセフィンおばさんの計らいでアンもマシュウもジョセフィンおばさんの家に泊まるように言いますが、マシュウは明日から刈り入れがあると言って帰る事にしました。ジョセフィンおばさんの家でアンに別れを告げたマシュウは一人馬車を走らせ夜遅くグリーンゲイブルズに帰ってきた。マリラの見たマシュウの表情は疲れよりも心のどこかにぽっかり穴が開いたような寂しさに虚ろだった。その夜マリラは初めて泣いた。廊下の向こうの小さな切妻の部屋にあの活発な若い娘はもはやなく、柔らかい息遣いが聞かれないのだという思いが痛いほどマリラの胸を締め付けたのだ。
 翌日からクィーン学院が始まった。トップの成績で合格したアンは上級クラスに編入された。上級クラス50人の中にアンの知っている顔はギルバートだけだった。それも今までのいきさつがある以上、知り合いと言ってもたいして力になりそうになく思えて、アンはがっかりした。しかしギルバートの目の輝きを見たアンは、突然心の中に激しい闘志が沸いてくるのを覚えた。ギルバートとの今までの競争をこれからも続けていけるのだ、それがきっと自分を支えてくれる。例え友達になれなくても二人が同じクラスで本当によかった。アンは改めてそう思うのだった。第一日目の学校は珍しさと興奮の渦の中で結構楽しく過ぎたものの、その日の夕方、下宿の自分の部屋に一人戻ったアンは無性に寂しさがこみ上げてきた。アンはダイアナやマリラの事を考えると涙がこみ上げてきます。アンは泣いたら弱虫の証拠だと考え、泣く事だけは避けようとしますが、それはできませんでした。そこへジョーシーがやって来ました。ジョーシーはお腹が空いたのでマリラがアンに持たせたであろう食べ物をもらいにアンの部屋に来て、泣いていたアンを散々からかい、クッキーを食べ始めました。そこへルビーやジェーンもやって来ました。ジェーンも寂しくて一人で部屋で泣いていたのですが、アンも泣いていたと知って自分だけではなかったと安心してしまいます。そこでアンはエイブリー奨学金の事を聞きました。エイブリー奨学金とは卒業時に国語学と国文学で最高の成績を納めた人に対して年間250ドルの奨学金を与え、4年間レドモンドカレッジに行く事ができるのです。それを聞いたアンの胸は高鳴り、野心の地平線がたちまちのうちに広がるのを覚えた。アンの最高の野心は1年の終わりに地方教員の一級免許と、できればトップの成績で卒業した生徒に与えられる金メダルを取る事だった。しかし今は一瞬のうちにアンの目標は変わった。アンは自分がレドモンドカレッジに行き文学士になったらマシュウはどんなに鼻を高くするだろう。そう考えるとアンは大望を持つ事が人生をとても張り合いを持つものにしてくれると思うのでした。
第43話 週末の休暇
 秋から冬にかけて気候の穏やかな間、クィーン学院の学生達は新しい支線を使って金曜日ごとにカーモディまで汽車で帰ってきた。そしてダイアナや他の数人の友達が駅ま出迎え、黄昏の道を笑いさざめきながらアボンリーまで歩いた。ルビーはギルバートと一緒に楽しく笑いながら歩き、それを見ていたアンもギルバートのような男の子の友達を持って冗談を言い合ったり、書物や勉強や将来について意見を交わしたりできたら、さぞ楽しくすばらしいだろうと思わないわけにはいかなかった。
 アンはエイブリー奨学金の事をダイアナに話した。ダイアナはもちろん賛成してくれましたが、レドモンドカレッジに通う4年間も、また逢えなくなると寂しさを感じずにはいられません。アンはグリーンゲイブルズに戻り、マリラとマシュウから温かくもてなされます。マリラもマシュウもアンがいなくなってとても寂しく感じており、アンの帰宅を心待ちにしていたのです。アンが成長した分だけマリラとマシュウは年老いてきた。週に一度グリーンゲイブルズに帰ってくる事はアンの楽しみである以上に、マシュウとマリラにとっては生きる支えと言っていいほどの楽しみな事だった。マリラもマシュウも1年後にはアンはクィーン学院を卒業し、アボンリーの学校で教師として働くようになるのでグリーンゲイブルズに帰ってくると思っていました。しかしそれを知ったアンはエイブリー奨学金の事を言い出す事はできませんでした。
 アンは週末の休暇の間はアボンリーの学校に行っていた頃のようにマリラの手伝いをして少しでも二人の手助けになりたいと考えていた。そしてまばゆいほどの日差しに溢れるここ果樹園では例年になくリンゴが大豊作で、アンはマリラに変わって大いに摘み取りに精を出した。その日の午後、マリラの提案で3人は冬支度の買い物がてらリンゴをジュースにしてもらいにブライトリバーまで出かけたが、3人で外出するのはグリーンゲイブルズ始まって以来の事であった。3人は喜びの白い道を馬車で走りながら、みんなアンがグリーンゲイブルズに来た日の事を考えていました。3人はブライトリバーでリンゴをジュースにして、買い物を済ませます。アンもマシュウもマリラもそれぞれの胸の中で共に生きている事の幸せをしみじみと噛みしめていた。
 翌日、アンは再びダイアナにカーモディまで送られて汽車でシャーロットタウンに帰っていきます。その頃、グリーンゲイブルズにレイチェル夫人がやって来て、マリラはアンがレドモンドカレッジへの進学を考えている事を聞かされます。それを聞いたマリラは複雑な心境でした。そしてマリラはレイチェル夫人にこう言ったのです。「今も私達があの子を養子にしていないのはなぜだかわかるかね? あの子は神から授かった子なんだよ。元々いなかった子だよ。あの子がそうしたいと言うなら自由にさせてやりたいんだよ。それにあの子がもしその奨学金を獲得したとしたら、それは自分の力でカレッジに入るという事だろ。大変名誉な事だし、向こうからお金を出して通わせてくれるというのに本当の親でもそれを止めさせるのは愚かな事ではないのかね。きっとあの子は私達の事を考えて言い出しにくかったんだろう。それにそんな奨学金、まだとれるかどうかもわからないじゃないか。私はあの子にその目標に向かって進んでいいって書いてやりますよ」と言うのでした。
第44話 クィーン学院の冬
 グリーンゲイブルズに冬がやって来ました。マリラとマシュウにアンから手紙が届き、卒業試験が終わるまではもう帰って来れないと書かれていました。クリスマスの休暇が終わるとアボンリー出身の学生達は金曜日毎の帰宅をあきらめ勉強に熱中しだした。卒業してからの準備に打ち込む為であったが雪のせいで交通が不便になるという理由もあった。アンは週末だけでもマリラとマシュウのお手伝いがしたかったのですが、できるだけ立派な成績で卒業する為にアンは週末もシャーロットタウンに残って勉強する事にしました。金曜日毎のアンの帰省を楽しみに暮らしてきたマリラとマシュウにとってアンが帰らないというその冬は途方もなく長いものに思われた。アンは着実に勉強に励んだ。周りの者にはあまり知られていなかったがギルバートに対する競争心もアボンリーの学校にいた頃と同じように激しかった。しかし昔のように刺々しい気持ちはなぜか消えていた。ギルバートを打ち負かす事より、よい競争相手として存分に戦いたいと思っていた。
 その冬、マシュウは再び心臓発作で倒れてしまいます。レイチェル夫人はアンを呼び戻した方がいいのではと提案しますが、マリラはアンが卒業を控えて猛勉強しているところだと言ってアンを呼ぼうとはしません。そればかりかマシュウまでがアンを呼ばないようにと言うのでした。日曜日になるとアンはたいていジョセフィンおばさんを訪ね、一緒に教会へ出かけた。それは勉強の追われているこの頃のささやかな楽しみの機会でもあった。アンはその時ジョセフィンおばさんからマシュウの心臓が悪く、先日も大きな発作で倒れた事を知らされました。アンはショックでした。マシュウの心臓が以前から悪かった事に気づかなかった自分を悔しく思った。同時にマシュウの具合がひどく悪いのに自分に心配をかけまいとして隠しているのではないかと疑った。そう思うといても立ってもいられなかった。アンはそのまま駅に向かいカーモディへの汽車に飛び乗るとグリーンゲイブルズまで雪の中を戻ってきたのです。
 マリラは突然のアンの帰宅に驚きました。アンは泣きながらマシュウの具合を尋ね、今まで気づかなかった事を悔やみました。アンはすぐにマシュウの元に駆けつけますが、その時はマシュウも元気にしておりアンは一安心します。アンは二人からマシュウの容体を尋ねました。マシュウは狭心症で、時々胸が苦しくなって倒れてしまうが、すぐによくなるとの事でした。アンの意外な帰宅は寂しかった二人だけのグリーンゲイブルズにささやかな幸せをもたらした。そしてマシュウとマリラは久しぶりの一家団欒を楽しんだ。シャーロットタウンに戻ったアンは今までにも増して勉強に打ち込み、やがてほとんど誰も気づかないうちに春がやって来た。
 卒業試験を控えた生徒達にとって、いつものように春の訪れを楽しんでいるわけにはいかなかった。しかしアンだけは卒業できるかどうかの瀬戸際であるルビーやジェーンを尻目に心はアボンリーへと飛び、グリーンゲイブルズや恋人達の小道の春の訪れを考えるのでした。そしてついに卒業試験の日が来た。アンは実力を出し切り、あとは天命を待つのみでした。アンは今、存分に戦った後の心地よい疲労感に浸りつつ、夕日の輝きの中で無限の可能性と未来の夢を追っていた。
第45話 栄光と夢
 今日は試験の最終結果が発表される日であった。あとほんのわずかで合格者の発表と同時に、あの名誉あるメダルの受賞者とエイブリー奨学金の獲得者の名前が掲示板に張り出されるはずであった。少なくとも合格は確実と思われる今、他にこれといって野心を持たなかったジェーンはそれにつきものの不安に悩まされる事もなく幸せそうだった。しかしアンは違った。野心は持つだけの値打ちはあっても手に入れるのは容易な事ではなく努力、自己否定、不安、失望といったそれなりの贅を厳しく取り立てられるものだからである。アンとジェーンはクィーン学院に行きますが、アンは掲示板を見る勇気がなくなり、ジェーンに掲示板を見てきてほしいと頼みます。アンは掲示板を見ずに足早に横を通り過ぎようとした時、ギルバートが金メダルを受賞したとの声が聞こえてきました。アンは自分がギルバートに負けた事がショックでその場を走り去ろうとします。するとそんなアンを見つけた生徒達はアンがエイブリー奨学金を獲得したと言って口々に喜んでくれたのです。それを聞いてアンは泣き出してしまいました。アンはみんなから祝福されました。
 その頃グリンゲイブルズではマリラとマシュウがアンの成績の結果を心待ちにしていました。マシュウはきっとアンが金メダルと奨学金を獲得してくると信じていました。マリラはアンが奨学金を獲得できなかったらどうするのかと聞きますが、マシュウはあれだけ勉強の好きな子供だから、奨学金がなくても何とか大学へ行かせようと言います。しかしカスバート家の財産を預けていたアベイ銀行が危ないという噂を聞いておりマリラは心配でした。アベイ銀行が潰れたらアンの進学どころの話ではなくなるのです。そこへアンからの手紙が届きました。その手紙にはアンが卒業試験に合格した事、そしてエイブリー奨学金の受賞者にも選ばれたと書かれていたのです。マリラとマシュウはそれを読んで涙を流して喜びました。そしてマリラはロウソクの明かりで合図してグリーンゲイブルズにダイアナを呼ぶと、ダイアナも自分の事のように喜ぶのでした。
 やがて卒業式のその日を迎えた。クィーン学院の大講堂で盛大な式が行われた。この日の為に一年間努力し続けてきたアン達には過酷で厳しかった卒業試験の辛さも遠い昔のように感じられ、晴れやかな顔で式に臨んでいた。式は何の支障もなく進行し告辞、祝辞が述べられ、卒業証書や賞状、メダルの授与が行われた。だがこの卒業式の出席者の中で一番晴れがましい顔つきを見せていたのは父兄席にいるマリラとマシュウだった。今、二人の目と耳は壇上のたった一人の学生に注がれていた。卒業式も終わりに近づき壇上では淡い緑色の服を着てかすかに赤らんだ頬ときらきら輝く瞳をした長身のアンがエイブリー奨学金受賞の対象となった最優秀の卒業論文を読み上げた。アンの声は大講堂の隅々にまで響き渡り、卒業式に出席した人々の胸をひどく打ったのである。卒業式が終わると屋敷に寄っていくよう勧めるジョセフィンおばさんの申し出を丁重に断わったアン達はアボンリーに向かって馬車を走らせた。アンはマシュウが倒れたと聞いて慌てて戻った4月以来帰っていなかったので、もう一日も待てそうにはなかったからだった。
 馬車はようやくアンの待ち焦がれたアボンリーに入り、きらめきの湖にかかる橋の上で馬車を止めると、アンは「ここまで帰ってくると本当にほっとするわ。ねぇマリラ、いろいろな夢を描いてその夢を実現させたいと思う時は、ふるさとを離れる事は何でもないと言うけど、時々たまらなく懐かしくなって夢なんかどうでもいいからすぐにでも飛んで帰りたいと思うのはどうしてかしら?」とマリラに尋ねます。マリラは「それは当たり前じゃないかねアン、それがふるさとってもんだよ。そしてアンのふるさとはこのアボンリーなんだよ」と言います。マシュウも「そうともアン、どんなに遠く離れていてもアンはアボンリーのアンだよ。グリーンゲイブルズのアンだよ。今までもこれからもな」と言うのでした。
 グリーンゲイブルズではダイアナがアンの到着を待っていました。アンは懐かしい自分の部屋に戻ってきたのがとても嬉しく感じてしまいます。アンはこの1年間エイブリー奨学金を取ろうなどという野心を持ったので勉強に息が抜けなかったので、今はダイアナの顔を見ているだけで十分幸せでした。二人はアンの部屋で楽しくお話をします。その話の中でギルバートは大学に行くだけのゆとりがないのでレドモンドカレッジには進学せず、アボンリーの学校で先生になると聞かされ、アンは少なからずショックを覚えた。アンはギルバートもまたレドモンドカレッジに行くものと思い込んでいたのである。長い間ギルバートとの競争に励まされてきたのに、その競争相手を失った今、勉強にも身が入らなくなりはしないか、その恐れが全身を貫き自分の夢が急速に萎んでいくのを感じて、アンはいつまでも暗い室内に座り続けていた。
第46話 マシュウの愛
 アンはクィーン学院を卒業してからレドモンドカレッジに入学するまでの3ヶ月間、アボンリーのグリーンゲイブルズで再び生活する事になりました。カスバート家では無理のできないマシュウに変わってマーチンを先月から雇っていました。マーチンは働き者で経験もあったのでマシュウは大変助かっていました。アンはマシュウの心臓の事をマリラに尋ねました。マシュウは冬に倒れてアンが駆けつけた後、再び倒れたが、それ以降は元気だと言います。しかしアンはマシュウの顔色が優れなかったのが心配でした。それにマリラも何だか疲れているように見えたのです。マリラの頭痛はますますひどくなり、今では目の奥の方が痛むようになっていたのです。それに目もよく見えないようになっていました。マリラは年のせいだと言いますが、アンは不安でした。眼科の名医が今月末にこのプリンスエドワード島に来ると聞いており、マリラは自分の目を診てもらおうと考えていました。アンは今日一日だけ暇をもらったら、明日からは家の事は自分が全部するから、マリラにはのんびりしてほしいと言うのでした。
 マリラはアンが1年で一級の教員免許を取ったり、エイブリー奨学金を受賞したりした事を立派だったと褒めました。マリラはアンの事で鼻が高かったのです。マリラはアンが大学に行くと言っても奨学金を出してもらえるし、自分たちも多少の蓄えはあるし、マーチンに主な仕事も任せれば何とかやっていけるから、大きな心配事はなくなったと言いますが、そこへレイチェル夫人が血相を変えて飛び込んできました。レイチェル夫人はアベイ銀行が危ないと言うのです。カスバート家は全財産をアベイ銀行に預けていました。しかしマシュウは自分のお父さんがアベイさんと親しい友達だったのでお金を引き出す気にはなりませんでした。しかし新しい事業への融資に失敗して銀行が傾きかかっていると聞いてマリラは心配でなりません。そこでマシュウはラッセルさんに銀行の話を聞いてくる事にしました。ラッセルさんはアベイ銀行が大口の融資に失敗して傾きかかったのは事実だが、今では再建の目処も立ち、大手の銀行が全面的な支援を約束してくれていると言うのです。それを聞いてマシュウは安心しました。
 アンはその日一日、自分が名付けた恋人達の小道やドライアドの泉、スミレの谷、樺の小道、きらめきの湖、そしてアボンリーの学校や教会など昔なじみの想い出の場所を一人で訪ねて想い出に浸りました。その帰り、アンはアラン夫人を訪ねました。アラン夫人はアンのエイブリー奨学金受賞を褒め称え「あなたにとって今が一番いい時ね。進学も決まって未来の事を色々夢見ながら楽しい時を過ごせるんですもの」と言います。アンはマリラやマシュウには言えない悩みをアラン夫人に打ち明けました。それは今回グリーンゲイブルズに帰ってアンはマリラやマシュウがすっかり老け込んでいるのに気づいた事だった。これからまた二人を残して4年間もレドモンドカレッジに行くより、グリーンゲイブルズに残って二人を助けるのが本来の道じゃないかという気がしていたのです。アンは二人の事は気がかりだけど、せっかく開けた未来に希望は捨てたくはないし、もっと積極的に自分の道を進みたかったのです。それを聞いたアラン夫人はレドモンドカレッジに行くべきだと言います。アンがここで大学をあきらめて先生になってグリーンゲイブルズに残ればマリラやマシュウは喜ぶかもしれないし楽にもなるかもしれないけど、でもアンの希望は実現しなくなって一生悔いを残す。人間は苦しいからと言って悩みを切り捨てる事はできない、少なくともアンが大学に進む事を二人が喜んでいる限り、その事に感謝の気持ちを忘れず、悩みを抱えたまま立派に大学を卒業する事がアンの取るべき道だし、二人の期待に応える事になるとアラン夫人はアンに語るのでした。
 帰り道、アンはマシュウに出会いました。アンはマシュウが働きすぎると言ってとがめると、マシュウはこれまでずっと結構働いてきたんだから、このままポックリ逝きたいねと言います。アンは「もし私がマシュウの欲しがっていた男の子だったら、今頃は大いに役立っていろんな面で楽をさせてあげられたのにねぇ。それを思うと、男の子だったらよかったのにって、どうしても思っちゃうの」と言うと、マシュウは「そうさのぉ〜 わしゃあなあアン、1ダースの男の子よりもお前にいてもらう方がいい。いいかい、1ダースの男の子よりもだよ。そうさのぉ、エイブリー奨学金を取ったのは男の子じゃなかったろう。女の子さ。わしの女の子だよ。わしの自慢の女の子じゃよ。アンはわしの娘じゃ」と言うのでした。
 アンはその夜、いつものように窓辺に座って、窓から見える景色を見ていた。アンの前には広大な地平線が広がり、そこには夢と希望に向かって一本のまっすぐな道がしかれていたのです。この夜の平和な美しさ、香りに満ちた穏やかさはアンの後々の想い出になった。それはアンの人生に悲しみが降りかかる前の最後の夜だったから。
第47話 死と呼ばれる刈り入れ人
 翌日は朝からいい天気でした。アンは朝からマリラとマシュウの手伝いをします。アンが帰ってきた事でマシュウは元気になり、マリラも一安心でした。ところがマシュウはマーチンが持ち帰った新聞を見たとたんに心臓発作で倒れてしまったのです。アンは初めて見るマシュウの発作に呆然と立ち尽くすばかりでした。すぐにマーチンはレイチェル夫人に声をかけるとスペンサー先生を呼びにカーモディまで馬車を走らせます。レイチェル夫人が慌ててカスバート家に行くとマリラが意識を取り戻さないマシュウの心臓マッサージをしていました。マリラに代わってレイチェル夫人がマシュウの容体を診ますが、マシュウの心臓は止まったままで、既にマシュウは亡くなっていたのです。マリラはマシュウの亡骸にしがみついて泣きました。マシュウは死に、アンはそのじっと動かない顔の上に偉大なる者の印を診た。スペンサー先生が来ると死はほとんど瞬間的なもので、おそらく苦痛はまったくなかっただろうと、あらゆる点から見て何か急激なショックによるものに違いないという診断が下された。ショックの原因はマシュウの手にしていた新聞にある事がわかった。そこにはアベイ銀行が破産した事が書かれていたのです。
 マシュウ・カスバートの死は急速にアボンリー中に知れ渡った。そして一日中、友人や知人がグリーンゲイブルズに押しかけ、死者と遺族の為、何くれとなく親身になって尽くしてくれた。無口ではにかみやのマシュウ・カスバートがこんなにもみんなの注目を集めたのは後にも先にもこれが初めてだった。死の白い厳かな手がマシュウの上に置かれ、彼を特別に取り立てたのだった。アンは忙しい合間を縫って庭に出た。この美しい古風なバラの花々はマシュウとマリラの母親が嫁いだ時に庭に植えたもので、マシュウは口には出さなくても、密かに愛情を注ぎ続けてきたのだった。アンは青ざめ苦しみのあまり涙も枯れ果てたような目を燃やして、これらの花を一つ一つ丁寧に摘んでマシュウに供えた。アンがマシュウの為にできる事と言えばもはやこれしか残されていないのだった。
 夜になってダイアナはアンの部屋を訪れました。ダイアナはアンが悲しいだろうと思い今夜はここで一緒に寝ようと提案します。しかしアンは初めて一人になった事でマシュウの死を考えていました。アンにはどうしてもマシュウの死を理解できないと思ってみたり、それはずっと昔の事で、それ以来鈍い痛みに悩まされてきたように思えたりすると言うのです。ダイアナにはアンの言う事が理解できませんでした。マリラの方は生来の慎みや長年の習慣に逆らって堰を切ったように激しい悲しみに身を任せていたが、アンのように涙の跡も見せずにひたすら苦しんでいるのより、この方がはるかに理解できるようにダイアナには思えた。しかし優しいダイアナは何も言わずその場を立ち去った。アンが悲しみの第一夜を一人で過ごせるように。
 アンは一人になれたら泣けるに違いないと思った。あんなにも愛し、あんなにも自分に尽くしてくれたマシュウの為に一滴の涙も流す事ができないとは、まったく途方もない事だった。前の日の夕方アンと一緒に歩いたマシュウは、今や厳として犯しがたい安らぎの色を額に浮かべながら下のほの暗い部屋に横たわっているのだ。しかし涙は出てこなかった。涙の代わりにあの前と同じ何とも言いようのない鈍い痛みのような切なさがこみ上げてきてアンを苛み続けた。
 夜中になってアンは昨日の夕方マシュウが言っていた言葉を思い出し、アンは堰を切ったように声を上げて泣きました。その泣き声を聞いたマリラはアンの部屋に行き、そんなに泣くもんじゃないと声をかけます。アンはマリラにしばらくここにいて自分を抱いていてほしいとお願いしました。アンはダイアナにそばにいてもらうわけにはいかないと考えていた。ダイアナは親切な人だけど、自分の心の中まで入って慰めてもらう事はできなかったのです。アンはマシュウがいなくなって、これからどうすればいいかわかりませんでしたが、マリラは二人で力を合わせていこうと言います。マリラは「これまであんたには少しきつく当たりすぎていた事もあったかもしれないけど、だからといってマシュウほどあんたをかわいがっていなかったなんって思わないでおくれ。私はねぇ、こんな時でもない限り思った事を口に出して言えないんだよ。今ならそれができるから言うけど、あんたの事は自分の腹を痛めた子のように愛しいと思ってるんだよ。グリーンゲイブルズに来てからあんただけが私の喜びだった」そういって二人で抱き合いながら涙を流すのでした。
第48話 マシュウ我家を去る
 二日が過ぎ、アンとマリラは深い悲しみのうちにマシュウの死の実感を噛みしめていた。そして今日マシュウ・カスバートはその生活のほとんど過ごしてきた、この住み慣れたグリーンゲイブルズから永遠に去っていかなければならないのだった。祈りを捧げた後、花に包まれたマシュウの棺は蓋を閉じられた。そしてマシュウは懐かしい我が家を出て自ら植えた木々や、手塩に育てた果樹園や、これまで耕してきた畑を後にして静かに運ばれていった。教会で賛美歌を歌い祈りを捧げた後、マシュウは教会裏手の墓地に運ばれ、そしてマシュウの棺は参列者の投げる花と一緒に墓穴に埋められるのでした。
 やがてアボンリーは何事もなかったかのように平静を取り戻し、グリーンゲイブルズでさえ見慣れた物すべてに何かが欠けているという辛い思いこそどうする事もできないにせよ、前と同じような日課が規則正しく行われるようになった。アンはマシュウが大切にしていたバラの木をマシュウのお墓にも植えようと考え、庭のバラの木を切りマシュウのお墓の横に植えました。そのバラの木はマシュウのお母さんがずっと昔にスコットランドから持ってきた物で、それをマシュウは今までずっと大切に育てていたのです。毎年このバラが咲けば、マシュウはグリーンゲイブルズに帰ったような気がするのではないか、アンはそう思っていました。
 アンはダイアナの家に来た新しいミシンを見せてもらう為、恋人達の小道をダイアナと他愛もない話をしながら歩いていました。しかしアンは突然ダイアナに別れを告げ、走り去ってしまいます。人の死というものをまったく知らなかったアンにとって、ここ数日の出来事は意外だった。マシュウがいなくてもその気になれば昔と同じようにやっていけるという事がうら悲しく思えた。自然や花、愛や友情がこれまでと少しも変わらずアンの空想を刺激しアンの胸をときめきかす力を失っていない事、そして人生が依然として様々な声音で強くアンに呼びかけているのだという事に気づいた時、アンは恥ずかしさと後悔に似たものを感じたのである。アンはマシュウが亡くなったというのに、樅の木の後ろから太陽が昇ったり、庭の淡いピンクの蕾がふくらむのを見ると、マシュウが生きていた時と同じように嬉しくて胸をわくわくさせてしまう自分が何だかマシュウに悪いような気がしました。アンはマシュウが亡くなった事で、もう一生笑う事なんかできないと考えていました。それなのに今日もアンはダイアナの他愛もない話に思わず笑いそうになってしまったのです。マシュウがいなくなってとても寂しいのに、この世界も人生もとても美しくて興味あるものに思えて仕方がなかったのです。
 アンはその事をアラン夫人に相談に行きました。アラン夫人はマシュウが生前、アンが楽しんでいるのを喜んでいたのだから、これからもアンが楽しむ姿を見たいに違いないと言います。自然が心の痛手を癒すように仕向けてくれるなら、私達はそれに対して心を閉ざすべきではない。誰か愛する人がこの世を去って私達と一緒に喜びを分かつ事ができなくなると自分が何かに心を引かれるという事が許せなくなるような気になり、人生に対する関心が再び戻ってくると悲しみに忠実でないような気がしてくると言うのでした。
 アンがグリーンゲイブルズに戻ると夕陽の中、マリラがポーチの踏み段に座り込んでいました。二人はそこで昔の他愛もない話をしました。そしてアンのクラスメイトの話になった時、ギルバートの話題が出ました。マリラはギルバートが立派な青年になったと褒め称え、それはまるでギルバートの父親のジョン・ブライスのようだと言うのです。マリラとジョンは昔、とても仲良しで恋人だと噂された事もありましたが、ふとした事から二人はけんかし、ジョンが謝ってきたけどマリラは思い知らしてやろうと考え、うんとは言わなかった。マリラは後になって許してやろうと考えたが、結局二度とジョンはマリラの元に来る事はなかった。マリラはせっかく許してあげるチャンスがあったのにそれを逃がしてしまい、ジョンに悪い事をしたと今でも思っていたのです。それを聞いたアンはまるで自分とギルバートの事を言われているように感じました。そしてマリラにも若い頃にはロマンスがあったのだと思うのでした。
第49話 曲り角
 次の日、マリラはアンに家事の一切を任せ朝早くからグリーンゲイブルズを立つとスペンサー先生の紹介状を手にマーチンの御す馬車でシャーロットタウンに向かった。当地を訪れている本土の高名な眼科医の診察を受ける為である。そして昼過ぎ、馬車は病院に到着した。しかし病院は患者で溢れており、先生に診てもらうにはまだまだ時間がかかりそうでした。
 その頃グリーンゲイブルズではマリラに言われてパンを焼いていたアンの元にダイアナがやって来ました。ダイアナは悲しんでいるアンを励まそうと昨日の事には懲りずに、またアンを誘いに来たのです。ダイアナの未来に向かって生きなくてはという言葉に、アンもその通りだと思いました。アンはダイアナに洗濯物の取り込みとアイロンがけを手伝ってもらうと、今日こそはダイアナの家に新しく来たミシンを見に行きます。今日は昨日までと違ってアンも元気を取り戻していました。アンがダイアナの家を出ようとした時、バリーさんに呼び止められました。そこでバリーさんはアンに来年はカスバート家の畑を貸してもらえないだろうかと提案したのです。バリーさんは新しい機械を導入しジャガイモの収穫を増やそうと考えていたのです。グリーンゲイブルズもマシュウが亡くなりアベイ銀行が破産した事で何かと大変だろうからとバリーさんなりに考えてくれたのです。
 高名な眼科医に診てもらったマリラは肩を落とし溜息をつきながら馬車に揺られてアボンリーまで帰ってきました。マリラの目はそれほどまでに悪化していたのです。マリラはグリーンゲイブルズに帰る前にレイチェル夫人の家に寄りました。するとレイチェル夫人はマリラにグリーンゲイブルズを売って下宿したらどうかと提案するのです。どうせ9月になればアンはレドモンドカレッジに行っていなくなるし、マリラ一人でグリーンゲイブルズは広すぎるのだし、グリーンゲイブルズを売れば生活に困らないくらいのお金もできるのです。しかしさすがにマリラはグリーンゲイブルズを売る事だけはできませんでした。
 マリラがグリーンゲイブルズに戻ると、アンはマリラの目の診断結果を尋ねました。するとマリラは読書や裁縫はもちろん、目に負担をかけるような事は一切止めて、泣いたりもせず、そして先生からもらった眼鏡をかけたら症状が食い止められるかもしれない。その通りにしなければ半年以内に完全に失明するだろうと言われたと言うのです。それを聞いたアンは血が凍る思いでした。アンはマリラを励まそうとしますが、マリラにとって読書や裁縫は大きな楽しみだったのです。その楽しみを奪われるくらいなら失明するか、死んでしまった方がマシでした。泣いてはいけないと言われていたマリラでしたが、寂しい時にはどうしようもなく泣けてくるのでした。
 マリラは悲しみのあまり先に寝てしまい、その夜アンは暗い部屋の出窓に座って一人で考えていた。アンの心は鉛のように重かった。エイブリー奨学金受賞という栄光に包まれてグリーンゲイブルズに帰ってきたわずか1週間前と比べると、なんという悲しい変わり方をした事だろう。あの時は希望と喜びに溢れていて未来はバラ色に輝いていたというのに。アンにはあの時からもう何年も経ってしまったように思えた。アンは夜中に一人で庭に出ると、小川にかかる橋で涙を流してじっと考えた。やがてアンの口元には微笑みが浮かび心も平静に伏していた。アンは自分のなすべき事をしっかりと真正面から見据え、何をしなければならないかを悟ったのだ。
 翌日からしばしばアンは外出するようになった。時には馬車を借りてどこか遠くまで出かけていく事もあった。一方マリラの元にはレイチェル夫人が足繁く訪れた。マリラはそんなアンの行動を気にかけるゆとりもない様子であった。浜辺で考え事をしていたアンがグリーンゲイブルズに戻るとマリラは一人のお客を庭に案内していた。そのお客はレイチェル夫人の紹介でやって来たジョン・サドラーというカーモディの人であったが、アンはその来訪の目的がグリーンゲイブルズの運命に関わるものであるとは知るよしもなかった。
 サドラーさんが帰った後、アンは何の気なしにマリラにサドラーさんが何をしに来たのかを尋ねると、マリラはサドラーさんがグリーンゲイブルズを買いたくてやって来たと言うのです。アンはグリーンゲイブルズを売ってしまうのかとマリラを問い詰めますが、マシュウは亡くなりアベイ銀行は破産し、マリラも目が見えなくなるのではグリーンゲイブルズを売るしかなかったのです。マリラの目が見えていればまだグリーンゲイブルズは手放さずにいられたかもしれませんが、目が見えなくては一人前に働く事もできず食べていく事もできなかったのです。グリーンゲイブルズは地所は少ないし建物も古いので売ってもいくらにもならないけど、それでもマリラ一人が食べていくくらいは何とかなるとマリラは考えたのです。マリラはグリーンゲイブルズを売ってレイチェル夫人の家に下宿するつもりでした。そして休みの時に帰ってくる家がなくなってしまって申し訳ないとアンに謝ります。しかしアンは「一人でここにいる必要はないのよマリラ、私がいるわ。レドモンドには行かない事にしたの。奨学金は辞退するの。マリラが困っている時にどうして私がほっておけるかしら。どのくらい私に尽くしてくれたかしれないのに」と言うのです。アンはその事をマリラの目が見えなくなるかもしれないと聞いた晩に決めていました。そしてアボンリーとカーモディの理事会に教職の願書を出していたのです。アボンリーの学校はギルバートが先生になる事が決まっていたので、カーモディであれば先生になれそうだったのです。カーモディはアボンリーからは少し遠いですが、部屋を借りて馬車で往復するつもりでした。そうすればマリラの為に本を読んであげたり励ましたりして、二人でここで楽しく幸せに暮らす事ができるのです。マリラは自分の為にアンが犠牲になる事は許しませんでしたが、アンはグリーンゲイブルズを守る方を優先しました。アンの野心はレドモンドカレッジに行って文学士になる事ではなく、よい先生になる事を目指す方に変わっていたのです。それにアンは家で勉強して大学の課程を一人でやってみるつもりでした。アンはクィーン学院を卒業した時は未来が一本のまっすぐな道のように思えた。でも今はそこに曲がり角がある。角を曲がるとそこにどんな事が待っているのかわからない。その先の道は緑の輝きと柔らかい色とりどりの光と影に包まれたものかもしれないし、見た事もない美しいカーブや丘や谷が待っているのかもしれない、だから全力を尽くしてやってみようと考えたのです。それでもマリラはアンに大学進学の夢をあきらめてもらうのは気が引けました。しかしアンは自分はもう16歳になるのだし、ラバのように頑固だから自分を止める事はできないと言います。アンは大事なグリーンゲイブルズにいられると思うだけで嬉しかったのです。それを聞いたマリラは今までの塞ぎ込んでいた気持ちが一気に吹き飛び、生き返ったような気がするのでした。
第50話 神は天にいましすべて世は事もなし
 アンが大学行きをあきらめ先生をするという噂がアボンリー全体に知れ渡った時、様々な議論がわき起こった。善良な人々の多くはマリラの目の事を知らないので、アンの事を愚かだとかかわいそうだとか言った。しかしアラン夫人は別だった。彼女は自分も賛成だという事を伝えたのでアンの目には喜びの涙が溢れた。
 ある晩、アンとマリラは暖かくかぐわしい夏の黄昏に包まれて玄関に腰を下ろしていた。二人は夕闇が迫り庭に白い蛾が舞い、ハッカの香りが湿った大気の中で漂う頃、そこに腰を下ろすのが習慣となっていた。そこへレイチェル夫人がやって来てアンが大学に行くのを止めてよかったと言います。レイチェル夫人には女が男と同じように大学に行ってラテン語やギリシャ語を学ぶのは理解できない事でした。しかしアンは大学に行かなくてもグリーンゲイブルズでラテン語やギリシャ語を学ぶつもりでおり、それを聞いたレイチェル夫人は呆れてしまいます。
 アンはカーモディで先生になるつもりでいました。ところがレイチェル夫人はアンがアボンリーで先生になると言うのです。アボンリーの学校はギルバートが先生になるはずでしたが、ギルバートはアンが理事会に申し込んだと知ると、すぐに理事会へ駆けつけて自分は申し込みを取り消すからアンのを受け付けてくれと頼んだのです。ギルバートはアンがマリラと一緒に暮らしたいのをよく知っていたので、アボンリーの先生の座をアンに譲り、自分は下宿しながらホワイトサンドで先生になろうと考えたのです。しかし先生になりながら大学の費用を稼ぎ、将来大学進学を目指していたギルバートにとって下宿代の負担は小さなものではありませんでした。そしてアンは自分の為にギルバートに犠牲を払わせる事はできないと考えていました。
 ダイアナからロウソクの合図があったので、アンはすぐにバリー家に向かいました。するとバリー家にジョセフィンおばさんが来ていました。ジョセフィンおばさんはダイアナから話を聞いて、すぐにアンを呼んだのです。ジョセフィンおばさんはアンが苦労して奨学金を手にしたのに、それをみすみすドブに捨てるのが理解できませんでした。この恵まれたチャンスを棒に振ると一生後悔するし、ジョセフィンおばさんに比べるとまだまだ若いマリラが養子でもないアンに付き添ってもらうのは欲張り過ぎとまで言いだします。しかしアンは自分が奨学金を辞退する決心を話した時マリラは「とんでもない、私を犠牲にはできない」と言って反対したと説明します。それをアンが押し切ってこの道を選んだのです。それを聞いたジョセフィンおばさんは事情は飲み込めませんでしたが拍子抜けしてしまいました。そして自分の事を心配してくれたジョセフィンおばさんに「なんってご親切なんでしょう、私の事をそんなに心配してくださるなんって。私今度くらい人の親切が身にしみた事はありません。そして傍目から見れば不幸や不運に見えるかもしれない事が普段わからなかった人の心の奥い暖かさ強さに触れたり自分の心を試すまたとない機会なんだという事をつくづく思い知らされました。」と言うのでした。ジョセフィンおばさんはアンのような子供をそばに置けるマリラがうらやましくて仕方ありませんでした。
 翌日アンはマシュウの墓参りに行く途中、ステラとステイシー先生からの手紙を受け取りました。ステラからの手紙には自分もレドモンドカレッジに合格したので、またアンと一緒に勉強できるのが嬉しい、いつレドモンドに行くのかなどと書かれていたのです。アンは心の中でステラに謝りました。アンはマシュウのお墓に行くと、ギルバートのおかげでアボンリーの小学校で先生になる事をマシュウに報告します。ステイシー先生からの手紙はエイブリー奨学金受賞を祝福するお祝い状だった。アンは手紙を読みながら黒板に書かれたステイシー先生の筆跡を懐かしく想い出すのでした。
 その日の夕方、アンはギルバートに会いに行った。ちょうどギルバートとすれ違いざま、アンはギルバートに手をさしのべ「ギルバート、私の為に学校を譲って下さってどうもありがとう、本当にご親切に。とても感謝している事をお伝えしたいと思って」と言うと、ギルバートはアンの手を握り言います。「別にたいした事をしたわけじゃないよ、アン。少しでも君の役に立てて嬉しいんだ。これで仲直りできるかな? 僕の昔の過ちを本当に許してくれたの?」アンは笑って手を引っ込めようとしたが、ギルバートはアンの手を握ったまま離さなかった。「あの日、船着き場の所で許してたわ。自分では気がつかなかっただけ。本当に何って頑固なお馬鹿さんだったんでしょう。あの時から… 何もかも言わせてね。私あの時からずっと後悔していたの」「僕たち、すばらしい友達になろうね。二人ともいい友達になるように生まれついているんだよ、アン。君はこれまでその運命に逆らってたんだ。君もずっと勉強を続けるんだろ。僕もそうだよ。お互いにずいぶん助け合えるはずだね」「きっとそうね」「そうだよ。君を家まで送っていこう」
 マリラはアンが男の人と一緒に家に帰ってくるのを見ました。アンが男の人と一緒に帰ってくる事など今まで一度もなかった事でした。そしてアンはその男の人と門の前で30分も話し込んでいたのです。目の悪いマリラにはそれが誰だかわかりませんでした。アンが家に戻った後、マリラはそれとなくアンに聞くと、その人物がギルバートだと言うのです。アンとギルバートはこれまでは敵でしたが、これからは仲良しになった方がずっと意味があるように思えたのです。
 その夜アンはマリラを寝室に送った後、一人窓辺に座りステイシー先生とステラに返事を書いた。一通り事情を説明し終えてアンはしばし筆を休めて思いにふけった。風が桜の大枝を静かにまたぎ、ハッカの香りが漂ってきた。尖った樅の林の上に星がきらめき、昔ながらの木々の隙間からダイアナの明かりが見えた。そしてアンは返事にこう書き記すのでした。「私の地平線はクィーン学院からこのグリーンゲイブルズに帰って来た夜から見れば極端に狭まってしまったのかもしれません。しかし例え私の足下に敷かれた道がどんなに狭くても、その道にはきっと静かな幸せの花が咲いているに違いないと思います。真剣な仕事と立派な抱負と好ましい友情を手に入れる喜びが私を待っています。本当に道にはいつでも曲がり角があるものですね。新たな角を曲がった時、その先に何を見いだすか。私はそこに希望と夢を託してこの決断をしたつもりでした。でも狭いように見えるこの道を曲がりくねりながらゆっくりと歩み始めた時、広い地平線に向かってひたすら走り続けていた頃に比べ、周りの美しいものや人の情けに触れる事が多くなったような気がするのです。無論、広い地平線の彼方にそびえ立つ高い山を忘れてしまったわけではありませんし、何者も持って生まれた空想の力や夢の理想世界を私から奪い取る事はできません。でも私は今、何の後悔もなく安らぎに満ちてこの世のすばらしさを褒め称える事ができます。ブラウニングのあの一説のように。神は天にいましすべて世は事もなし」
戻る
inserted by FC2 system