第1話 マシュウ・カスバート驚く |
1897年のカナダ東部のプリンスエドワード島のアボンリー村にあるグリーンゲイブルズと呼ばれる家にマシュウ・カスバートとマリラ・カスバートの老兄妹が住んでいました。兄のマシュウは人前に出るのが大嫌いで、妹であるマリラ以外の女性とは満足に会話する事もできず、妹のマリラも口うるさくて堅苦しいところもあり、二人とも結婚する事なく年老いた今も二人でひっそりと暮らしていました。しかしマシュウは年老いた事もあって昔に比べて元気をなくし農作業が大変になってきました。そこでスペンサー夫人にお願いして、ホークタウンの孤児院から10〜11歳くらいの元気な男の子を貰い受け、ちゃんとした家庭と教育を与える事で、きっといい働き手になってくれるのではないかと考えたのです。 |
第2話 マリラ・カスバート驚く |
美しく輝くきらめきの湖を通り過ぎると、馬車はいよいよグリーンゲイブルズに近付きます。グリーンゲイブルズを見たアンは、その美しさにすっかりと惚れ込んでしまい、自分は夢を見ているのではないかとさえ思ってしまいます。アンにとってこんな美しい家に迎え入れられるのは、まるで夢のような事だったのです。 |
第3話 グリーン・ゲイブルズの朝 |
朝、アンが目を覚ますと、部屋の窓から見る景色に見とれてしまいます。桜の花やタンポポが咲き乱れ、森を流れる小川に野ウサギやリスが走り回る自然に、アンはすっかり嬉しくなってしまいました。アンにとってこんな朝には、ただもう世界が好きでたまらないという気がしてくるのです。アンはクリーンゲイブルズにいられない事は理解していましたが、グリーンゲイブルズの素晴らしい自然を見られただけで、昨夜までの絶望のどん底から抜け出したのです。アンはグリーンゲイブルズが欲しいのは自分で、いつまでも自分がここにいられる想像をしていました。しかし想像をしている間は楽しいけど、想像から現実に戻る時が一番辛かったのです。それを聞いたマリラは思わずアンに情けをかけてしまいそうになりますが、それでもグリーンゲイブルズに必要なのは男の子なのだと自分に言い聞かせます。 |
第4話 アン、生い立ちを語る |
ホワイトサンドのスペンサー夫人の家へ向かう馬車の上で、アンはマリラに自分はこのドライブを楽しむと言います。本当は嫌いな孤児院に連れ戻されるので、とても楽しむ事はできないのですが、それでもアンは孤児院に帰る事は考えず、沿道に咲く春咲の野バラを見て想像をふくらませます。そんなアンを見ていたマリラはアンに自分の身の上話を語らせようとします。アンは自分の過去を思い出すのも嫌で最初は乗り気ではありませんでしたが、ぽつりぽつりと語り始めました。 |
第5話 マリラ、決心する |
アンとマリラを乗せた馬車はホワイトサンドのスペンサー夫人の家に到着しました。スペンサー夫人はアンとマリラを暖かく出迎えましたが、マリラが女の子ではなく男の子が欲しかったと言うと、スペンサー夫人は話の行き違いにただ戸惑ってしまいます。どうやらマシュウがスペンサー夫人の弟であるロバートに男の子が欲しいとスペンサー夫人へ伝言を頼み、ロバートからさらに伝言を頼まれたお手伝いのナンシーがスペンサー夫人に女の子が欲しいと間違って言ってしまったようでした。マリラはアンを再び孤児院に返せるかどうかをスペンサー夫人に尋ねます。ところがスペンサー夫人はブルエット夫人が手伝いの女の子を欲しがっているから孤児院に送り返す必要はないと言います。ブルエット家は大家族なのでなかなか手伝いに来てくれる人がいなくて困っていたのです。それを聞いたマリラは顔をしかめました。マリラはブルエット夫人の意地の悪さを知っており、自分がアンを手放せば、アンは間違いなくあのブルエット夫人にこき使われてしまう事がかわいそうでならなかったのです。 |
第6話 グリーン・ゲイブルズのアン |
自分だけがよく承知している理由から、マリラはアンをグリーンゲイブルズに置く事に決めた事を翌日の午後までアンに打ち明けなかった。朝のうちずっとマリラはアンに次から次へと色々な用事を言い付け、アンが忙しく立ち働いている間、その仕事ぶりを注意深く見守っていた。昼頃までにアンは気が利いていて素直で働き者で物覚えが早い子だという事がよくわかった。もっともアンにしてみれば用事が多かった事と置いてもらえるかどうかが心配で、とてもお喋りや空想にふけるゆとりがなかった事が幸いしたと言えるかもしれない。 |
第7話 レイチェル夫人恐れをなす |
アンがグリーンゲイブルズに来て2週間がたちました。その間に手違いでマシュウとマリラの所に居着いたアンの噂はアボンリーの人々の間に波紋のように広がっていました。マリラはグリーンゲイブルズでレイチェル夫人と世間話をしていた時、アンを引き取った事が災難だったと言うレイチェル夫人に対しマリラはマシュウだけでなく自分も、明るくて気立てのいいアンが好きになってしまったと言います。それに対してレイチェルは、マリラたちが子供を育てた経験がないから、大変な責任を背負い込んだと言います。 |
第8話 アン、日曜学校へ行く |
ここ数日、マリラは暇があると部屋にこもってミシンの音が聞こえてきたので、アンはマリラが自分の服を作ってくれているのだと思っていました。そしていよいよ教会の日曜学校に着ていくアンの服が完成しました。アンはきっと袖がふくらんで胸にレースのひだ飾りのある白いかわいらしい服だと思って大喜びです。しかしいざマリラから手渡された服を見ると、どれもかわいらしさとはほど遠い実用的な服だったのでアンはがっかりしてしまいます。アンは寝る前に袖のふくらんでフリルの付いた白いかわいらしい服をお与え下さるように神様にお祈りしていたのですが、神様は孤児の服の事を心配なさる暇なんかないのだと、あまりあてにしませんでした。 |
第9話 おごそかな誓い |
寝る前にアンはダイアナが心の友になってくれますようにと神様に祈りました。翌日は雨。雨だとアンは外に出してもらえないので、がっかりしてしまいます。しかしお昼には雨が上がるというマシュウの天気予報に、アンはダイアナに会いに行けると大喜びです。マシュウの予報通り午後には雨が上がりました。マリラはバリー家に型紙を借りに行く用事があったので、アンも一緒について行く事にしました。 |
第10話 アン、心の友と遊ぶ |
翌日、アンはこれからダイアナと遊ぶ事ができると思うだけで胸がいっぱいになり、食事も喉を通らなくなってしまいます。樺の木立に二人だけのままごとの家を作る約束をダイアナとしており、アンはそこがどんな場所なのか想像して仕事も手に付きませんでした。アンとダイアナはままごとに使う為にお互い壊れた瀬戸物を用意します。アンは待ち合わせ場所である小川の橋の上で待ちますがダイアナはなかなかやって来ません。その頃ダイアナは妹のミニー・メイに一緒に連れて行ってほしいとせがまれ困っていたのです。待ちきれなくなったアンはダイアナの家まで行き一緒にベルサーの樺の木立に向かいます。途中で二人はキラキラと光るものが落ちているのに気付きました。拾い上げるとそれはスリランプのかけらでした。しかしそれを見たアンは、これが妖精の鏡だと言い、その鏡を元に妖精の物語を空想で作り上げてしまったのです。それを聞いたダイアナはアンの事をとっても面白い人だと思うのでした。 |
第11話 マリラ、ブローチをなくす |
ダイアナと共に過ごした幸せな夏もようやく終わりに近付いたある日の事、アンはアイドルワイルドに客間を作ったけど暖炉も戸棚も椅子もみんなあるのにテーブルがないので、マシュウに作ってもらおうとお願いします。マシュウは快く引き受け、テーブルを作る事になりました。アンは来週の水曜日に日曜学校でアンドリュースさんの原っぱでピクニックに行き、そこでアイスクリームが食べられると聞き、生まれて初めてのピクニックとアイスクリームにアンは大喜びです。アンはマリラから約束の時間に30分も遅れて帰ってきた事を叱られてしまいますが、ピクニックに持って行くバスケットの料理をマリラが作ってくれると聞いて、マリラに飛び付いて喜ぶのでした。 |
第12話 アン、告白する |
アンが白状しないまま一夜明けた水曜日の朝はピクニックにはおあつらえ向きのうららかな上天気であった。マリラは重い心を引きずってアンの部屋に行くと、深刻な顔をしたアンは「マリラ、私何もかも白状するわ。私紫水晶のブローチを盗りました。マリラの言った通り私が盗りました。胸にブローチを付けたらとてもきれいだったので、私誘惑に打ち勝てなかったの」そしてアンはアイドルワイルドに行く途中、きらめきの湖にかかる橋でもう一度ブローチをよく見ようとブローチを外した時に、きらめきの湖の中に落としてしまったと白状しました。アンは白状してお仕置きを受ければピクニックに行かせてもらえると思っていたのです。しかしそれを聞いたマリラは「アン、ひどいじゃないか。あんたみたいな悪い子がいるなんって聞いた事がないよ。今日はピクニックに行かせないよ。それがあんたへのお仕置きだよ」と言います。アンはピクニックに行かせてもらう為に、自分はやっていないのに嘘までついて白状したのに、ピクニックには行けなくなってしまい、アンは悔しさと悲しさでベッドに泣き伏してしまうのでした。 |
第13話 アン、学校へ行く |
グリーンゲイブルズでは今日から麦の刈り入れが始まり、一方アンは今日から新学期で学校に行く事になりました。支度を済ませるとお弁当を持ってアンは元気に学校へ向かいます。そんなアンを見ていたマリラは、アンが学校で何かヘマをするのではないかと心配でなりませんでした。アンは恋人達の小道でダイアナと待ち合わせをして、走って学校に向かいます。アンは学校に行けるのが嬉しくて仕方ありませんでした。アンとダイアナは楽しく学校に向かいますが、学校が見えてくるとアンはだんだんと不安になってきました。それでもダイアナが案内してくれたおかげで無事教室に入り、そしてダイアナの隣の席に座りました。 |
第14話 教室騒動 |
アンがアボンリーの学校に通うようになってから瞬く間に3週間が過ぎた。アンはフィリップス先生に辱めを受けた最初の日以来、一生懸命勉強に励んだ。そしてあたかも乾いた土に降る雨のように、アンはすべてを貪欲に吸収していった。今日はギルバート・ブライスが学校に来る日だった。ギルバートは夏中ずっといとこの牧場を手伝っていて昨日戻ってきていたのです。ギルバートはとてもハンサムで女の子をからかうのが好きでしたが、それでも女の子にはとても人気がありました。ギルバートはもう14歳になっていましたが、4年前に病気のお父さんと一緒にアルバータに行っており、学校にはほとんど行けなかったので、まだアンと同じ4学年でした。 |
第15話 秋の訪れ |
夏が終わるとプリンスエドワード島の秋は急ぎ足でやってくる。マシュウとジェリー・ブートは夏の間に畑で育ったジャガイモや蕪の収穫に忙しく、果樹園の林檎は美しく色づいて日々の食卓をにぎあわせ始めた。アンは決められた仕事をきちんとやり、時間を区切って勉強した。そしてアンが学校に行かなくなってからもう1週間になろうとしていたが、マリラの心配をよそに、いっこうにアンは学校に戻るとは言わなかった。それほどフィリップス先生を憎みギルバートを・ブライスを憎んだのであった。しかしギルバートを憎めば憎むほど、同じ激しい情熱でダイアナを愛した。 |
第16話 ダイアナをお茶に招く |
木々の葉がすっかりと黄色くなった10月のある日の事、マリラは後援会で帰りが夜になってしまう為、アンが夕食を作る事になりました。しかし既にマリラがスープを作ってくれていたのでアンはそれを温めるだけでよかったのです。そしてマリラはお昼のお茶にダイアナを誘ってみてはと提案します。アンもダイアナを誘いたかっただけに大喜びでした。サクランボの砂糖漬けとフルーツケーキとクッキー、そしてイチゴ水を飲んでいいと聞かされ、ますますアンはダイアナとのお茶を楽しみにします。 |
第17話 アン、学校に戻る |
お茶に招待したダイアナを間違って酔っぱらわせた為にバリー夫人から絶交を言い渡された翌日、アンはまさに絶望のどん底に沈んだ人という風情で、勉強やパッチワークにさっぱり身が入らなかった。そんな時、窓の外にダイアナの姿が見えたので、アンは慌てて外に飛び出していきました。ダイアナはお母さんからもう二度とアンと遊んではいけないと言われたと言います。ダイアナはアンが悪いんじゃないと言いましたがお母さんには受け入れられませんでした。ダイアナは何とかお母さんの許しを得てアンにお別れを言いに来たのです。しかもお別れを言える時間は10分しかありませんでした。それでもアンはダイアナが自分の事を愛してくれていたと知り、生まれて初めて自分の事を愛してくれた人が現れた事にアンは喜びを感じます。アンはダイアナとの永の別れの前に形見としてダイアナの黒髪を欲しがり、アンはダイアナの髪を一房切るとそれをハンカチに包んでポケットにしまいます。そしてアンとダイアナは手を取り合って別れるのでした。 |
第18話 アン、ミニー・メイを救う |
アンが再び学校に行きだしてからというもの、マリラはまたゴタゴタが起こるのではないかと内心案じていた、しかし何も起こらなかった。模範生ミニー・アンドリュースの隣に座り、ダイアナと遊べず何事もギルバート・ブライスには負けたくないとなれば、アンはひたすら勉強に全力を注いだのもそれほど不思議な事ではなかった。おかげで12月の学期末にはアンとギルバートは共に優等生としてダイアナなどと同じ5学年に進級した。 |
第19話 ダイアナの誕生日 |
アンとダイアナが元通りの仲良しとなってまもなく、一年のうちでもっとも寒さの厳しい2月がやってきた。アンとダイアナはお互いの部屋の窓からローソクの光で合図をして、ダイアナはアンに来てほしいと伝えた。アンが急いでバリー家に行くと、明日はダイアナの誕生日なので、学校が終わったらそのままバリー家に行って一緒に誕生日を祝い、そして公会堂で行われる討論クラブ主催のコンサートに行き、そのままバリー家に泊まるように言われたのです。アンは大喜びで家に帰ってきました。ところがマリラはコンサートは子供にはまだ早いし、よその家に泊まり歩く事は許してくれませんでした。しかしマシュウはアンを行かせるべきだと珍しく自分の意見を主張します。あまりにマシュウが主張するのでマリラも根負けし、とうとうアンを行かせる事にしました。それを聞いたアンは大喜びでマリラに飛び付くのでした。 |
第20話 再び春が来て |
春が再びグリーンゲイブルズを訪れた。恋人達の小道の楓は赤い芽を出し、ドライアドの泉の周りではワラビが勢いよく伸び始めた。森や林に緑のもやがたなびき、雪の消え残る荒れ地に春を告げる5月の花メイフラワーが可憐な姿を現したかと思うとスミレの谷が一面紫色に染まった。そして6月のある日の事、窓から見える雪の女王の花が見事に咲いていた事からアンは今日が大切な日である事を思い出します。それをみんなに知らせようとしますが、朝からマリラは頭痛に苦しんでいました。アンはマリラの役に立とうと学校まで休んでマリラの仕事をこなしマリラに休んでもらう事にします。マリラとマシュウはアンが来る前まで自分達がどんな生活をしていたか思い出せないようになっていました。それほどまでにアンはグリーンゲイブルズにはなくてはならない存在だったのです。 |
第21話 新しい牧師夫妻 |
ある日の学校のお昼休みの事、ルビー・ギリスが、重大ニュースを持ってきました。それはフィリップス先生がこの6月で学校をやめてしまうのです。フィリップス先生はプリシーがクィーン学院に行ってしまうので学校をやめるというのがもっぱらの噂でした。アンをはじめ女の子達は、次にどんな先生が来るか楽しみでたまりません。そしてフィリップス先生との別れをみんなは喜び、別れの時が来てもみんな口々に涙を流す事はないと言うのでした。アンにとってもフィリップス先生の印象は最初からいいものではなかった。だからアンもみんなと同様、先生が突然学校をやめると聞いても平気なはずだった。そして事実、ルビー・ギリスが新しく作ってもらった洋服の品定めに加わっているうちに先生の事などすっかりと忘れてしまった。ルビーの服はアンの憧れているふくらみ袖で、それも最新流行のスタイルだったのだ。そして6月の最後の日がやって来た。 |
第22話 香料ちがい |
月曜日から火曜日にかけてはグリーンゲイブルズではお茶の支度に大あらわであった。牧師夫妻をお茶に招くというのは容易ならぬ大事件であった。それでマリラはアボンリーのどの家の主婦にも負けないように劣らないようにしたいと心を決め、アンはマリラを手伝いながら嬉しいのとワクワクするのとでもう無中だった。そして他ならぬ憧れの人アラン夫人をお茶にお招きできる幸せを思いっきり味わっていた。しかしこの招待はマリラとアンだけの秘密で、マシュウには何も知らせていなかった。マシュウが口実を設けて当日の水曜日に家を空ける事を心配したからである。火曜日までに雛鳥の肉を寒天で固めたものや牛の舌を冷やしたもの、2種類のゼリー、ホイップクリームをかけたレモンパイ、サクランボのパイとクッキーが3種類とフルーツケーキ、プラムの砂糖漬け、バウンドケーキの準備が整い、当日の朝にアンがレアケーキを作るだけとなった。アンは自分の作るレアケーキがうまくできるかとても心配でした。ケーキは特別においしく作りたい時に限って失敗するものだったのです。 |
第23話 アン、お茶によばれる |
8月のある日の事、アンが郵便局に新聞を取りに行くと、自分宛にアラン夫人から手紙が届いていました。手紙にはアンを牧師館のお茶に招待すると書かれていたのです。それを見たアンは大感激でした。マリラはアラン夫人が日曜学校の生徒を順番にお茶に招待すると言っていたから、その順番がアンに回ってきただけだと言いますが、アンは聞く耳を持ちません。ところがマシュウは明日は雨になると言うのです。それを聞いたアンは泣き出してしまいました。その晩、アンは悲観のあまり部屋に閉じこもってしまった。いつもは喜んで耳を傾けるポブラの葉ずれの音も、遠くから聞こえる海の鈍い波音も、今夜のアンにとって嵐や災害の前ぶれるように感じられるのであった。 |
第24話 面目をかけた大事件 |
アンが牧師館のお茶に招かれてから1週間目にダイアナがハーディーを催した。みんな愉快に過ごし、お茶が済むまでは何一つ面倒な事は起こらなかった。少なくとも当時アボンリーの子供達の間で流行の遊びだった命令ごっこを始めようと言うまでは。ソフィア・スローンはルビー・ギリスの命令で毛虫のいる木に登ります。次にジェーン・アンドリュースがジョーシー・パイの命令で片足で決められた範囲を5周しようとして失敗します。今度はジョーシー・パイにアンが塀の上を歩くように命令しますが、ジョーシーは楽々とこなしてしまいます。アンは敗北宣言するのが悔しくて、屋根の棟木を歩けると言ってしまった為、アンはバリー家の棟木の上を歩く事になってしまいました。ダイアナや他の女の子はアンを引き留めましたが、アンは自分の名誉の為に挑戦したのです。しかしアンの挑戦は見事に失敗し、アンは屋根の上から落ちてしまいました。 |
第25話 ダイアナへの手紙 |
名誉と引き替えに足を怪我したアンは、新学期が始まって数週間たった今も学校へ行く事はおろか、庭先へ出る事もおぼつかない状態であった。アンの心は深く沈んでいた。なぜならダイアナがもう4日も見舞いに来てくれないのだ。毎日必ず学校の帰りに顔を見せていたダイアナが急に来なくなったので、アンは何か訳があるに違いないと心配になります。そんな時、マシュウはレイチェル夫人からダイアナがシャーロットタウンで病気になっていると聞いたのです。マリラはこの事はアンには秘密にしておくつもりでしたが、ふとした事からアンはそれを聞いてしまい、ショックのあまりアンは階段から落ちてしまいます。アンは病気で苦しんでいるであろうダイアナの元に今すぐにでも駆けつけたかったのですが、何十マイルも離れたシャーロットタウンに足の不自由なアンが行く事など無理な相談でした。 |
第26話 コンサートの計画 |
足を怪我したアンが再び学校に行けるようになったのは、やっと10月もなかばになってからだった。もうすっかり並木道は黄色く色付いていました。アンは久しぶりに出会うクラスメートから温かく迎えられ、とても嬉しく感じました。ステイシー先生は授業の一環として、アボンリー小学校の旗を作ろうと提案します。カナダや、それぞれの州には、それを象徴する旗がありますが、アボンリー小学校には旗がありませんでした。そこでステイシー先生はアボンリーへの郷土愛を呼び起こすシンボルを生徒達に募集しました。ステイシー先生は生徒達の書いたシンボルの中から3つ候補を選び、それをみんなの前で発表しました。残念に事にアンの描いたシンボルは選ばれませんでしたが、アンはステイシー先生の公平さに感心してしまいます。 |
第27話 マシュウとふくらんだ袖 |
クリスマスをあと2週間後に控え、アン達は今日もまた情熱のすべてを傾けてコンサートの練習に励んでいた。ひょんな事からアン達をのぞき見る事になってしまったマシュウはアンの様子が他の少女達と違う点がある事に気付いた。アンが他の誰よりも活き活きと輝く目を持ち華奢な目鼻立ちをしている事は明らかだったが、マシュウの心を騒がせた違いはそれではなかった。夕食の間もマシュウはアンと他の少女達の違いを見つけようとずっと考えていた。結局この問題を解く事はできなかった。夕食後マシュウはマリラに聞くわけにもいかなかったので、マリラに嫌がられながらもパイプに頼ってこの問題を解く事にした。長い時間を費やした末にようやくマシュウの見つけた答えはアンの服装が他の少女達と違うという点であった。流行などという代物にはまったく疎いマシュウではあったが、アンがグリーンゲイブルズに来て以来、いつも飾り気のない色の濃い同じ型の服しか着ていないのだ。他の子達のような袖のふくらんだ華やかな服は一度も着た事がない事実に気が付いたのであった。 |
第28話 クリスマスのコンサート |
一夜明けるとグリーンゲイブルズの周りは一面の美しい銀世界になっていた。マシュウは恥ずかしそうにクリスマスプレゼントとして、袖のふくらんで胸元にレースの縁取りのされた茶色の流行の服をアンに手渡します。それを見たアンは嬉しさでしばらく声も出ず、泣き出してしまいます。それを見たマシュウはアンが服を気に入らなかったのだと思いましたが、アンはマシュウの胸に飛び込んで喜びました。アンはまるで夢を見ているようだったのです。アンは袖の手を通す胸のときめく瞬間を考えると、とても朝食を食べる気にはなりませんでした。しかし今日はコンサートの日、お腹をすかしていては満足な演技ができないとマリラに諭され、アンは朝食を食べます。 |
第29話 アン、物語クラブを作る |
クリスマスのコンサートが終わってからアボンリーの子供達が平穏な日常生活に落ち着くまでに暇がかかった。特にアンにとって何週間にも渡って興奮の杯を味わい続けた後、一切の事柄がすべて無味乾燥でつまらなく思われた。いったいあのコンサート以前の遠い日々の穏やかな喜びに戻れるのだろうか。最初のうちそんな事はとても無理のように思われた。しかし結局アボンリーの学校はいつの間にやら昔の軌道に戻り元のままの関心事が人々の心をとらえた。そして冬の日々は知らぬ間に過ぎていった。いつになく暖かい冬でろくに雪も降らなかったので、アンとダイアナはほとんど毎日、樺の道や恋人達の小道を通って通学する事ができた。3月、アンの誕生日に学校帰りのアンとダイアナは軽やかな足取りでお喋りの間もずっと周囲に目を向け聞き耳を立てながら歩いていた。ステイシー先生から「冬の野や森を行く」という題の作文を近いうちに書くようにと言われていた二人は観察眼を働かせる必要があったのだ。野や森についてはダイアナも書く事ができそうでした。しかし月曜日に提出する「自分の頭で考えた物語」にダイアナは困ってしまいます。アンにとって想像力で物語を作るのは何でもない事ですが、ダイアナにとっては難しい事でした。アンは既に物語を書き終えておりダイアナに物語を語って聞かせます。ダイアナはアンの物語にすっかりと引き込まれてしまうのでした。 |
第30話 虚栄と心痛 |
春も近い4月末のある午後の事、マリラは夫人後援会に出かけ、アンが一人台所で物語を書いていた時、トランクをぶら下げた行商人がひょっこりと現れグリーンゲイブルズのドアをノックした。アンは言いつけを守り行商人を家の中に入れずポーチの踏み段のところで品物を見せてもらった。行商人の差し出す化粧水に、アンはマリラから、せっかく授かった顔に色んなものを塗りたくってうわべだけを繕う事は神に対する大きな冒涜と聞かされていましたが、アンはそう考えていませんでした。うわべを繕わなければならないような顔を授ける神様も不公平だと思っていたのです。アンは行商人の荷物の中にヘアカラーがあるのを見つけました。ヘアカラーがあればアンの赤い髪はたちまちカラスの濡れ羽色になるのです。行商人からそう聞かされたアンは全財産の50セントでヘアカラーを購入しました。 |
第31話 不運な白百合姫 |
夏休みの8月、アンの髪もすっかり元通りになり、アン、ダイアナ、それにジェーン、ルビーと物語クラブの面々は毎日のようにこのきらめきの湖に現れ、彼女たちの楽しい思い出になるであろう満足すべき時間を過ごしていた。アンの想像により彼女たちは白百合姫を演じる事になった。ちょうど近くの桟橋にはボートが浮かんでいたので、そのボートに死んだふりをして一人で乗って湖の中程まで押し出されるのです。みんなは一人でボートに乗る勇気がなくて、白百合姫役を断ってしまい、仕方なくアンが白百合姫を演じる事になりました。そして死んだ白百合姫を演じるアンを載せたままボートは湖へと押し出されてしまいました。 |
第32話 生涯の一大事 |
ある日の事、ジョセフィンおばさんがアンとダイアナに博覧会を見に町へ泊まりに来るように手紙をよこしてきました。それを見たアンとダイアナは大喜びでしたが、アンはマリラが行かせてくれないのではと心配します。アンは博覧会に行く事は嬉しかったのですが、マリラが行かせてくれなかった時のショックを考え、博覧会の事は考えないようにしました。ところが意外な事にマリラはあっさりとアンが町に行く事を承知した。マリラはアンもそろそろ大きくなったのだし、少しは世の中を見て回るのも悪くないと言ってくれたのです。それを聞いたアンは大喜びでした。 |
第33話 クィーン組の呼びかけ |
11月のある日、ステイシー先生は13歳以上の女生徒だけを湖の畔に集めて人生の基礎や将来についてあれこれと注意した。そしてその日の帰り道、アンとダイアナは将来について語り合いました。アンは結婚はあきらめて、ダイアナとの永遠の友情に生きるつもりでいましたが、ダイアナは結婚すると言うのです。ダイアナは荒くれ者の悪党と結婚して改心させるのが夢でした。しかしアンはダイアナが男の子達と仲良く話しているのが気に入らず、とうとうダイアナは「あなたがつまらない意地を張ってギルと喋らないからって、私まで男の子と口をきくなって言うつもり?」と言って怒ってしまい、アンは「二人の友情ももうお終いだわ」と言って泣きながら走り去ってしまうのでした。 |
第34話 ダイアナとクィーン組の仲間 |
翌日、アンはダイアナに謝り、アンとダイアナは無事仲直りしました。そしてアンは自分がクィーン組に入るのをマリラが認めてくれたと言って大喜びでダイアナに報告します。アンはクィーン学院に行ってもダイアナと一緒に勉強できると思うととても嬉しかったのです。しかしダイアナは自分はクィーン学院には行かないと言うのです。アンにはなぜダイアナがクィーン学院に行かないのか理解できませんでした。ダイアナは両親がクィーン学院には行かせるつもりはないと決めたと言いますがアンは納得せず、しつこくダイアナにクィーン学院に行くよう誘い、ダイアナを怒らせてしまいます。アンは孤児の自分でさえクィーン学院に行こうとしているのに、ダイアナが行かないとは思ってもみませんでした。それを聞いたマリラは「あんたこそダイアナの気持ちがわかっているのかい? ダイアナは本当にあんたと同じように先生になりたいと思っているのかね。クィーン学院へはその為に行くんだろ? きっとあんたがあんまり責めるものだから、ダイアナは本当の気持ちを打ち明けられなくなってしまったのじゃないかと思うがね。あの子はあの子で自分に一番あった生き方を探しているんだろうよ」と言います。アンはダイアナと一緒に入試の準備ができたらどんなにすてきだろうと思っていました。そして今の今までダイアナもそう思っているのだと信じていたのです。マリラは「でもね、誰も自分の生き方を他人に強制する事はできないんだよ、アン」と言うのでした。 |
第35話 夏休み前の思わく |
グリーンゲイブルズに春が再び巡ってきて、世の中はもう一度花に包まれた。その頃になると勉強にもいささか倦怠の兆しが見えてきた。他の生徒達が緑の小道や葉の茂る森の細道や牧場を縫う道へと思い思いに散っていくのをあとに残されたクィーン組は窓から恨めしげに見送った。勉強に対して厳しい冬の間に抱いていた興味や熱意がどうやら薄れてくるのをどうする事もできなかった。アンやギルバートさえだれてきて、前より勉強に打ち込まなくなった。そしてその頃アンは驚くべき噂を耳にした。それはステイシー先生が実家の小学校に転勤するというものでした。そしてやっと学期の終わりの日がやってきた。ステイシー先生は来年の受験に向けて猛勉強が必要になるので、夏休みの間はしっかりと遊びなさいと言います。子供達は夏休みの事よりステイシー先生が来年も教えてくれるかどうかの方が心配だったので直接尋ねると、ステイシー先生は来年もアボンリーに残ると言うのです。それを聞いた子供達は大喜びでした。 |
第36話 物語クラブのゆくえ |
アンは思う存分、楽しい夏を過ごした。アンとダイアナはほとんどの時間を戸外で過ごし、心ゆくまで歩き回り、船をこぎ、イチゴを摘み、夢想にふけった。マリラはアンがあっちこっち飛び回る事に関して、医者の忠告に従って少しも反対しなかった。ある日の夕方、バリー氏はアンとダイアナをホワイトサンドのホテルへ連れて行った。ディナーをごちそうしてくれるというのである。ホテルはアメリカからやって来た避暑客で賑わい、ホールは新発明の電灯でまばゆく光り輝いておりアンを驚かせた。 |
第37話 十五歳の春 |
雪に閉ざされた冬が過ぎ去り、再び春が訪れ、プリンスエドワード島の野や山を春風が駆け抜けていった。アンがブライトリバーの駅からマシュウの操る馬車に揺られてグリーンゲイブルズにやって来てから4年の歳月が流れ、アンは15歳になった。グリーンゲイブルズに来た時のアンはまだ小さかったが、今ではすっかり大きくなり、身長もマリラと変わらないほどになっていた。マリラはアンの古着をほどいてパッチワークの材料にしようとしますが、アンがグリーンゲイブルズに来た時に着ていた服は想い出がありすぎて、ほどく事ができませんでした。 |
第38話 受験番号は13番 |
6月のなかば、クィーン組では目前に迫った入学試験に備え、最初で最後の模擬試験が行われた。模擬試験は本試験とまったく同じように、幾何、代数、ラテン語、国語など全科目が3日間に渡って行われ、その間中、アンは緊張のあまり食事も満足にできないようであった。そしてその成績発表の日、ステイシー先生はクィーン組の解散を宣言し、試験期間中は教科書を開かないように注意します。試験直前に勉強して徹夜するくらいなら、散歩でもして早く寝た方がいいと言うのです。そしてクィーン学院の受験票が配られました。ところがアンの受け取った受験番号は13番だったのです。アンはこの番号を見て不吉に感じずにはいられませんでした。 |
第39話 合格発表 |
入学試験が終わって待ち遠しい2週間が経った。受験生は合格発表が載っているはずのシャーロットタウン日報を取りに毎日郵便局へ足を運んだ。ところが2週間を過ぎてもシャーロットタウン日報に合格発表が載る事はなかった。そして3週間が過ぎても依然として合格発表はなかった。アン達はそれ以上緊張に耐えられないようであった。アンはアラン夫人に相談に行くと、アラン夫人は心配しても結果が変わるわけではないのだから、発表をいらいらしながら待つより、何かテーマを見つけて毎日を忙しく充実して過ごすようにとアドバイスします。それでもアンは試験結果が心配で郵便局に行く以外は家に閉じこもり食事も喉を通りません。そんなアンを見ていたマリラはアンに野良へ出てマシュウの干し草作りを手伝うように提案します。それを聞いたアンは大喜びでした。アンは一度干し草作りをやってみたかったのですが、マリラは女が男の仕事を手伝うのは上品な事じゃないと許してくれなかったのです。 |
第40話 ホテルのコンサート |
合格発表の後、アンは生涯でもっとも満ちた夏休みを心ゆくまで楽しんでいた。そしてある日の事、シャーロットタウンの大きな病院を援助する為にホワイトサンドのホテルでコンサートが開かれる事になり、そこでアンはアボンリーを代表して詩の朗読をする事になりました。マリラは落ち着き払ったその素振りにもかかわらず、実のところマリラもアンに与えられた名誉の誇らしさと喜びを大いに感じていたので、マシュウに早速その事を話した。マシュウはたちまち有頂天になり、いそいそとカーモディに出かけると、すっかり馴染みになった女店員のハリスにそそのかされて掘り出し物の真珠の首飾りを買ってきた。そして当日、着付け、髪型の一切をダイアナが受け持ってくれる事になった。ダイアナはこうした事に定評を得ていた。ダイアナの着付けは見事なもので、マリラもマシュウもアンを褒め称えるばかりでした。 |
第41話 クィーン学院への旅立ち |
アンのクィーン学院への入学を控えてグリーンゲイブルズでは慌ただしい毎日が続いていた。その日の夜、スペンサー夫人からマシュウ宛に電報が届いた。翌日スペンサー夫人はグリーンゲイブルズを訪れた。一同は和やかに挨拶を交わしお茶の席に着いたが、マシュウはわざわざ出向いてきたスペンサー夫人の真意がわからず怪訝な気持ちを拭いきれずにいた。するとスペンサー夫人は、アメリカの大富豪がアンを養子にしたがっていると言い出したのです。そのアメリカ人は跡取りがおらず心を痛めていたところ、先日のホワイトサンドのホテルのコンサートでアンの朗読を聞いてたいそう感激し、アンの事を調べてスペンサー夫人に養子の話を進めてもらえるようお願いしに来たとの事でした。スペンサー夫人はアンと二人っきりになると、そのアメリカ人は銀行を5つも経営し、広大な敷地の屋敷では毎週のように舞踏会が開かれると言ってアンをその気にさせます。しかしアンの答えは決まっていました。アンはスペンサー夫人に養子の話をきっぱりと断ると、マシュウとマリラは嬉しくて笑い出してしまうのでした。 |
第42話 新しい学園生活 |
アンとマシュウは馬車でシャーロットタウンへ向かいました。マシュウはアンとこうして二人で馬車に乗っていると、それはまるでアンがブライトリバーの駅から初めてグリーンゲイブルズへ来た時のように感じてしまいます。シャーロットタウンに到着した二人は、まずジョセフィンおばさんの家に行き、アンの下宿先を案内してもらいます。ジョセフィンおばさんは自分の家にアンを置きたかったのですが、クィーン学院まで遠いので、アンの為にクィーン学院に近い場所に下宿を用意してくれていたのです。一方アンを送り出したマリラはじっとしていられず、猛烈に働く事で寂しさを紛らわそうとした。泣く事くらいではとうてい収まりそうにない胸の痛みに、しなくてもいい仕事にまで手を出し、一日中体を動かしたのである。 |
第43話 週末の休暇 |
秋から冬にかけて気候の穏やかな間、クィーン学院の学生達は新しい支線を使って金曜日ごとにカーモディまで汽車で帰ってきた。そしてダイアナや他の数人の友達が駅ま出迎え、黄昏の道を笑いさざめきながらアボンリーまで歩いた。ルビーはギルバートと一緒に楽しく笑いながら歩き、それを見ていたアンもギルバートのような男の子の友達を持って冗談を言い合ったり、書物や勉強や将来について意見を交わしたりできたら、さぞ楽しくすばらしいだろうと思わないわけにはいかなかった。 |
第44話 クィーン学院の冬 |
グリーンゲイブルズに冬がやって来ました。マリラとマシュウにアンから手紙が届き、卒業試験が終わるまではもう帰って来れないと書かれていました。クリスマスの休暇が終わるとアボンリー出身の学生達は金曜日毎の帰宅をあきらめ勉強に熱中しだした。卒業してからの準備に打ち込む為であったが雪のせいで交通が不便になるという理由もあった。アンは週末だけでもマリラとマシュウのお手伝いがしたかったのですが、できるだけ立派な成績で卒業する為にアンは週末もシャーロットタウンに残って勉強する事にしました。金曜日毎のアンの帰省を楽しみに暮らしてきたマリラとマシュウにとってアンが帰らないというその冬は途方もなく長いものに思われた。アンは着実に勉強に励んだ。周りの者にはあまり知られていなかったがギルバートに対する競争心もアボンリーの学校にいた頃と同じように激しかった。しかし昔のように刺々しい気持ちはなぜか消えていた。ギルバートを打ち負かす事より、よい競争相手として存分に戦いたいと思っていた。 |
第45話 栄光と夢 |
今日は試験の最終結果が発表される日であった。あとほんのわずかで合格者の発表と同時に、あの名誉あるメダルの受賞者とエイブリー奨学金の獲得者の名前が掲示板に張り出されるはずであった。少なくとも合格は確実と思われる今、他にこれといって野心を持たなかったジェーンはそれにつきものの不安に悩まされる事もなく幸せそうだった。しかしアンは違った。野心は持つだけの値打ちはあっても手に入れるのは容易な事ではなく努力、自己否定、不安、失望といったそれなりの贅を厳しく取り立てられるものだからである。アンとジェーンはクィーン学院に行きますが、アンは掲示板を見る勇気がなくなり、ジェーンに掲示板を見てきてほしいと頼みます。アンは掲示板を見ずに足早に横を通り過ぎようとした時、ギルバートが金メダルを受賞したとの声が聞こえてきました。アンは自分がギルバートに負けた事がショックでその場を走り去ろうとします。するとそんなアンを見つけた生徒達はアンがエイブリー奨学金を獲得したと言って口々に喜んでくれたのです。それを聞いてアンは泣き出してしまいました。アンはみんなから祝福されました。 |
第46話 マシュウの愛 |
アンはクィーン学院を卒業してからレドモンドカレッジに入学するまでの3ヶ月間、アボンリーのグリーンゲイブルズで再び生活する事になりました。カスバート家では無理のできないマシュウに変わってマーチンを先月から雇っていました。マーチンは働き者で経験もあったのでマシュウは大変助かっていました。アンはマシュウの心臓の事をマリラに尋ねました。マシュウは冬に倒れてアンが駆けつけた後、再び倒れたが、それ以降は元気だと言います。しかしアンはマシュウの顔色が優れなかったのが心配でした。それにマリラも何だか疲れているように見えたのです。マリラの頭痛はますますひどくなり、今では目の奥の方が痛むようになっていたのです。それに目もよく見えないようになっていました。マリラは年のせいだと言いますが、アンは不安でした。眼科の名医が今月末にこのプリンスエドワード島に来ると聞いており、マリラは自分の目を診てもらおうと考えていました。アンは今日一日だけ暇をもらったら、明日からは家の事は自分が全部するから、マリラにはのんびりしてほしいと言うのでした。 |
第47話 死と呼ばれる刈り入れ人 |
翌日は朝からいい天気でした。アンは朝からマリラとマシュウの手伝いをします。アンが帰ってきた事でマシュウは元気になり、マリラも一安心でした。ところがマシュウはマーチンが持ち帰った新聞を見たとたんに心臓発作で倒れてしまったのです。アンは初めて見るマシュウの発作に呆然と立ち尽くすばかりでした。すぐにマーチンはレイチェル夫人に声をかけるとスペンサー先生を呼びにカーモディまで馬車を走らせます。レイチェル夫人が慌ててカスバート家に行くとマリラが意識を取り戻さないマシュウの心臓マッサージをしていました。マリラに代わってレイチェル夫人がマシュウの容体を診ますが、マシュウの心臓は止まったままで、既にマシュウは亡くなっていたのです。マリラはマシュウの亡骸にしがみついて泣きました。マシュウは死に、アンはそのじっと動かない顔の上に偉大なる者の印を診た。スペンサー先生が来ると死はほとんど瞬間的なもので、おそらく苦痛はまったくなかっただろうと、あらゆる点から見て何か急激なショックによるものに違いないという診断が下された。ショックの原因はマシュウの手にしていた新聞にある事がわかった。そこにはアベイ銀行が破産した事が書かれていたのです。 |
第48話 マシュウ我家を去る |
二日が過ぎ、アンとマリラは深い悲しみのうちにマシュウの死の実感を噛みしめていた。そして今日マシュウ・カスバートはその生活のほとんど過ごしてきた、この住み慣れたグリーンゲイブルズから永遠に去っていかなければならないのだった。祈りを捧げた後、花に包まれたマシュウの棺は蓋を閉じられた。そしてマシュウは懐かしい我が家を出て自ら植えた木々や、手塩に育てた果樹園や、これまで耕してきた畑を後にして静かに運ばれていった。教会で賛美歌を歌い祈りを捧げた後、マシュウは教会裏手の墓地に運ばれ、そしてマシュウの棺は参列者の投げる花と一緒に墓穴に埋められるのでした。 |
第49話 曲り角 |
次の日、マリラはアンに家事の一切を任せ朝早くからグリーンゲイブルズを立つとスペンサー先生の紹介状を手にマーチンの御す馬車でシャーロットタウンに向かった。当地を訪れている本土の高名な眼科医の診察を受ける為である。そして昼過ぎ、馬車は病院に到着した。しかし病院は患者で溢れており、先生に診てもらうにはまだまだ時間がかかりそうでした。 |
第50話 神は天にいましすべて世は事もなし |
アンが大学行きをあきらめ先生をするという噂がアボンリー全体に知れ渡った時、様々な議論がわき起こった。善良な人々の多くはマリラの目の事を知らないので、アンの事を愚かだとかかわいそうだとか言った。しかしアラン夫人は別だった。彼女は自分も賛成だという事を伝えたのでアンの目には喜びの涙が溢れた。 |